三
何度目になるだろうか……金網に囲まれ不良達の野次と声援を受け喧嘩無双と呼ばれた田沢の前に立つのは、何十回と挑んでも勝てない、力の差がありすぎる。過去を振り返るようにテツはリングに視線を落とし燃え上がるような闘志を消していく。
「冷静になれ」
今までは炎のように心と体を燃え上がらせ勢いのまま挑んできたが勝ちには繋がらない。今回は透き通り水のように沈め冷静に――
「ぶはぁ!!」
冷静に視線を落とし精神統一してた所に田沢の鋭い前蹴りが突き刺さる。
「どうしたよテツ!! 余所見なんてして」
「うるせぇ!!」
田沢に煽られ熱くなった感情を抑えこむように下がり構え直す。テツは寝技を学んだがどうにも合わなく立ち技主体のボクシングで戦う。田沢も空手主体で相性も悪くなかったが二人の体格差で差が出てしまう。
攻撃力に差がある以上一撃はもらえない。テツは削るように速いジャブを繰り出し田沢の顔を切り刻んでいく。速さなら分があり、足を使う分機動性にも長けていた。
「相変わらずチマチマした攻撃だな。そんなんじゃ皮膚しか切れないぞ」
田沢はテツの変則的な動きに加え速いジャブに対応できなくガードを固めるが、ジリジリと間合を詰めていく。
「今に片目を晴れ上がらせ塞いでやる!! 喧嘩無双、今日こそ負けてもらうぞ」
両手で固めた隙間に拳を滑り込ませ田沢の顔を徹底的に削る。グローブと違い素手ではガードの隙間を通り抜けていく。だんだんとリズムに乗っていきガードの上からでもわかるほどに田沢の顔は変わっていく。
「そら!!」
左右のワンツーがガードを弾き一瞬でた顔をショートアッパーで跳ね上げると田沢の体がグラつく。観客は勝機だと盛り上がるがテツの足は止まる。前に出ず遠間から再びジャブを繰り出す。
「お前の心が折れるまで徹底的に削ってやる。リーチと速さならこっちに――っ」
リーチと速さの差が埋められてしまう。今まで防戦一方だった田沢から蹴りが放たれテツの腹を捕らえる。
「あ……が」
鍛えられた爪先はまるで槍。予備動作を極限まで消し最速で前蹴りを走らせテツを悶絶させてしまう。一気に田沢の間合まで詰め寄られテツが離脱しようと瞬間に足に痛みを通り越した衝撃が伝わってきた。
太ももに深く叩き込まれた田沢の下段蹴りで紫色に腫れ上がり止まってしまう。たった一瞬で足も動かなくなり呼吸が止まり酸素を求め口を閉じ開きしていると巨大な拳が見える。
「そんな女の平手打ちのような攻撃じゃ倒せないぞ」
正拳突き再びテツの腹に入り完全に体力を奪い倒れていく。何十というジャブを入れようともたった一撃で崩れてしまう。白いリングが血で汚れた床を見ながら倒れていくと、巨大な足が現れ次の瞬間にテツの意識はなくなる。
倒れ際のテツに追い討ちをかけるように下から蹴り上げ血しぶきが舞い、テツは顔面からリングに倒れ土下座するような形で決着はつく。
「やれやれ困ったものだねぇ」
田沢のあまりの強さに悩まされ正子が愚痴を溢し、観客からは諦めの溜息と田沢の強さに興奮した声援が交じり合う声の中闘技場の夜は終わる。
翌日、ボコボコにされたテツは通学路を歩く。体中が悲鳴を上げ引きずるように歩き周囲の生徒を脅かす。校門を通る時には女性教師にも道を開けられ教室に向かう。
「痛てぇええええええ!! おはよう!!」
元気よく挨拶するとクラスメイトが肩を一瞬震わせ誰も目を合わせようとしない。
「聞いてくれ皆!! 俺裏番長になったんだ!!」
テツが何を言おうが雑談する女子、無視を決め込む男子。先日から続く変態じみた行動の結果だろうと思う席に座り込む。
「ちょっといいですか鉄君!!」
そこに女性生徒が一人。




