13.聖地ニオン渓谷
ロティ領地を出て数日。日に日に聖地に近付いていることに肌で感じていた。濃くなる瘴気もそうだけど、不自然なほど強い風がここ数日ずっと吹いている。目的地であるニオン峡谷は高い高い崖に挟まれた大きな谷で、その間を絶え間ない風が吹き続ける場所らしい。あまりの強い風に、谷の周辺にはほとんど草木は生えず、動物が通るのも困難なほどという話だ。もちろん人も。その谷を越えて暫く行けば隣国に入れるらしいのだが、誰も通ることがなどできないので国境を護る人すら配備されていないらしい。
自然でできた頑丈な門みたいなものだよね。しかも、見た目は何もないやつ。風で進めないとか……あれ? 逆はどうなんだろう。向こうの国からこっちの国には風が追い風になるんじゃないの?
「いいえ、無理ですよ。確かに、吸い込まれるようにしてこちら側に来られますけど、その瞬間命はありませんよ」
こ、こっわー!
でも、大精霊がいるような谷だもんね。吸い込まれてこちらに来た時には風圧とかで体がもたないか。たとえ無事でもこっちの国に入った瞬間どこかにぶつかって……これ以上考えるのはやめよう。
「風がすごいってことは、今回は風の大精霊様がいるんだよね?」
「……じゃあ、今回はテオの出番だな」
「おう! 風を操って和らげるぜ!」
……え、無理じゃない?
なんて、思ったけど、空気を読んで必死に口を噤んだ。土魔法で道を作るのはともかく、人が死ぬほどの豪風を魔法で操作するのって無茶にも程があると思う。だけど、どうにか対策を取らないと聖地を完全に浄化するのも難しい、か。
徐々に強くなる風を体に受けながら、私は必死に頭を働かせた。
そうしてたどり着いた聖地は、絶句するほどにすごかった。風が強いとは思っていたけど、私達が通った道は谷から動線が外れた道で、ほんの数十メートル横にいけば、そこは木々もないまっさらな空間が数キロも続くような場所だったらしい。そうなる理由はもちろん、渓谷から流れる強風の影響だ。谷からは数キロも離れているのに、風が強すぎて動物が通るような道じゃない。横に逸れた道を通っているにも関わらず、風が強いなって思っていたのに、直接影響のある場所じゃなかったなんて、あまりの強さに辟易としてしまう。
「すっげ、口開けてるとどんどん乾いていくわ」
「その感想どうかと思いますよ、テオドール君」
「でも、どうするの? 途中から馬車も厳しくなって比較的風が緩い場所に置いてきたけど、私達もこの谷の中に行くのは無理じゃない?」
「……魔法使っても、流石に厳しいだろうな」
私達が立っているのは渓谷から少し横に逸れた場所。少し、と言っても百メートルくらいは離れている。それなのに渓谷からはゴウゴウと轟音を立てながら砂や埃とおまけに瘴気を巻き込んだ濁った風が吹き荒れているのがわかる。これ以上近付くのも危ないと思って立ち止まって話はしているんだけど、通常の十倍は声を張り上げないとお互いに聞こえない。
「セイリム様、これ、浄化作業したとして、風は緩くなるんですかね?」
「確かに、疑問ではありますね。ただ、風の大精霊様がこちらの味方になってくだされば、しばらくは風を止めることも可能なのではないかなと思います」
ああ、確かに。きっとここは元々風が絶えない場所だからこそ、大精霊が城にしているんだろうけど、常にすごい風なのは、半分はその大精霊の影響って可能性が高いもんね。それに、確かに土……地の大精霊様は風の大精霊様は自由で我が強いって言ってたし。自分が好む風をどんどん強くしていても不思議ではない。
「これが逆に向こうの国に向かって風が吹いているなら単純に浄化の力を風に乗せればあっという間に終わりそうなのにな」
「……確かに!」
「え、頭いいテオ先輩!」
「でも、実際そうじゃねーし」
本当ね……。
それに、最初はその方法で上手くいくかもだけど、浄化していると、どうしても苦しいのか大精霊様は襲ってくるしなあ……。
「とりあえずやってみなきゃわかんねーし、風魔法でいっちょ操ってみるか!」
まあ、物は試しってやつだね。でも、属性違いならまだしも、同じ属性の大精霊様に対して喧嘩売っているようなもんなのは、気のせいかな? そう思いつつも、ここで立ち往生していても仕方ないのは確かだから、一度テオに任せてみる。
「うおおおおお!」
全身の魔力を絞り出すように力を込めて、テオは必死に魔法を展開した。フッと、私達の周辺の風は緩くなったけど、目の前で吹き荒れる風の壁は健在のままだ。それでも、僅かに速度が落ちたような気もするけど……そもそも最初の勢いが凄すぎて、あまり効果はなさそうだ。
「ぐっ、うぅ、だ、っめだぁあああ!」
「お疲れ、テオ」
「まあ、無理ですよねえ」
セイリム様のしみじみとした言葉に、テオ以外が頷いた。そもそも、風を操作するって土で道を作るより範囲が大きいんだから、いくら魔力が多いテオでも難しい。それに、風魔法は他と比べてイメージがしにくい属性でもあり、操作自体が難しいとされている。できなくても仕方ない。
「じゃあ、やっぱりこれ使ってみよっか」
「うわ、お前またそんな普通に魔道具出すなよ」
「そういえば少し前に何か作ってましたね? それですか?」
人が通ることもできない渓谷と聞いてからどうにかできないかって頭を捻らせた私は、魔道具を使う方法を思いついた。と言っても、テオのように風を止ませるなんてことができる魔道具は難しいことはわかっている。そんなのどんな魔石を使っても威力負けするに違いない。
だから、風を無くすんじゃなくて、風を反らすことはできないか考えた。それも最初は見えない壁を作って風から身を護る方向だったのを、軌道修正した上での発想だ。そうしないと魔道具でも無理だったんだよね。
「テオ、この盾持って起動させてみて」
「盾かー、そういうの持つの苦手なんだよな」
「いいから!」
そもそもこの盾は本来の戦闘用に作った物じゃないんだから、今は我慢して使ってほしい。風属性の魔道具なので、風属性が得意なテオが使うと威力が倍増するように作ってある。もちろん、風属性を持たない人でも扱える代物ではあるけど。だけど、ここは聖地。少しでも威力を上げて使用しないとこの先に進めない。
「えっと、前に構えて、魔力を流せばいいんだな?」
「そ! やってみて!」
魔道具を使い慣れていないテオはぎこちない動きで盾を構えて、言われた通り風属性の魔力を流し込んだ。
途端、谷から出た勢いでこっちに向かってビシバシ体を叩いていた風が、テオのところを中心に左右に分かれる。息苦しさが明らかに減って、思わず息をついた。
「おお! すげーじゃん!」
「……なるほど、風を避けるように設計されているってことか」
「これならどうにか先に進めると思う。でも、あまりにも風の威力が強いから、広範囲を護るようにはできてないの。身を寄せ合いながら進むことになるけど」
「進めるだけいいでしょう。この地ではどのようなことが起きるのか想像もつきません。戦力は分担しない方がいいと思います。それに、今回もティーナさんが大精霊様自身に攻撃される可能性が高いですし、私達は貴女を護ります」
まあ、そうですよね。考えてみたら皆さん私の護衛役でしたわ。若干遠い目をしてしまったけど、それに文句はない。というか、だからこそ、私も最初から半分ここに残ってなんて言えなかったし。
てか、私大精霊に狙われるかも問題あったね、そういえば。どうしよ、先に進む事ばかり考えてて、自分の身の護りについては全く考えてなかったや。
…………もう、いいや。どっちにしても浄化はしなきゃだし、何とかなるでしょ。
「じゃあ、行きましょう! テオ、よろしく」
「りょーかい! これなら魔力消費も少なくて済むし、任せとけ!」
魔道具は基本魔石の魔力でどうにかなるような仕組みだしね。威力上げのためにテオの魔力を借りているだけだから、負担は魔法を使うよりずっと楽だろう。魔法操作も必要ないし。だから、盾を構えてさっさと移動し始めるテオに、私達は一列になって進む。風がビュウビュウ言ってるこの場所では、歌での浄化範囲拡大方法は使えないのが残念だな。でも、瘴気の濃さは、この渓谷内が著しく強いだけだから、どうにか渓谷を渡り切りながら浄化できれば問題ないはずだ。
(でもなあ、きっと風でドンドン後ろに流されるんだろうなあ、浄化の力)
何ていったって歌で広がる力だ。多少は影響出てしまうだろう。ちゃんと浄化しきれるのか心配だ。
だけど、ここで嬉しい誤算が生じた。
「これって、やっぱり苦しんでんのか?」
「そうだと思う」
ゴウゴウと唸りを上げる風は、谷の入り口に入ったところから発動した浄化の力に反応して、ただ谷を通り抜ける動きから竜巻のような動きに変化した。魔道具は盾の形をしていると言っても、テオが持っている前方にだけに影響しているわけじゃない。逸れた風が跳ね返って自分達に向かってきても困るから、四方に曲線を描くようにシールドが張られているイメージで防御している。風や水といったものなら、その曲線で流れを変えられて別の方向に擦り抜ける。そういう感じだ。
だから、風の向きが変わってもこの周辺はどうにか影響が受けない。私達を追いやろうと渦を巻く風に、チャンスだと思って浄化の力を強める。風の動きが直線から円に変わったお蔭で、浄化の力も一方向ではなく、周囲に徐々に広がっていく。グンと効率がよくなった。
同時に、風の勢いはドンドン増していったけど……。
「うっ、すげー重い!」
「いよいよ佳境ってところですか」
どのくらい進んだだろうか。風のせいでほとんど前が見えない状態で徐々に徐々に前進していく。微かに聞こえる悲鳴のようなものは、地の大精霊様の時にも聞こえた――おそらく大精霊様の声。ちゃんとした言葉は聞こえないし、声としても認識はできないけど、微かに何かが聞こえる。他の皆に聞こえてる様子はないから、おそらく聖女だけが感じ取れるものなんだろう。
苦しんでいるのがわかる。だから、なるべく早く助けてあげたいけれど、本人がその邪魔をする。なかなかに厳しい状態だ。盾もそろそろ限界に近い。テオが持っている魔道具は、風の勢いに押されて軋み始めている。それどころか、中央に設置している魔石が、魔力を失うより先にひび割れて壊れる寸前だ。
だけど、大分瘴気が薄れてきたのがわかる。きっと、あと少しだ。それまで、どうにか持ちこたえてくれれば。
だから、ここが踏ん張りどころ!
そう思って、思いっきり力を介抱した。カッと強い光が周囲に満ちて、その衝撃か、風が一瞬でかき消えた。耳が麻痺するくらいの轟音だったのに、今度は耳が痛いくらいの静寂がその地に満ちた。モワモワと周囲を漂う砂埃だけが残り、それがなければ時が止まったと勘違いしそうになっただろう。
「終わった、のかな?」
「おそ、らく」
これには他の皆も確信が持てず、周囲を見渡す。あれだけあった瘴気は既に見えない。風が止み、僅かに聞こえていた悲鳴のようなものも聞こえなくなったのなら、おそらく浄化が終わったはずだ。そう理解した途端、全員で息をついた。
肩の力を抜いたその瞬間、パリンと音がして、テオの持っている盾から魔石が割れ落ちた。本当にギリギリのタイミングだ。
「うわー! 魔石壊れた! え、これ、たっかいよな!?」
「魔石は聖地浄化のために必要だって言って支給してもらったものだから大丈夫だよ、テオ」
そう、魔石は経費で支給されます!
それを聞いてテオはホッと胸を撫で下ろした。そもそも、そんな大きな魔石、私が個人的に持っていたと思っているんだろうか? テオの中で私の存在がどうなっているのか、ちょっと気になる。
『んんんんんいやっっっったあああああああ!』
「「「「「!!!!!」」」」」
突然の大声が渓谷中に響くように流れて、私達はすぐに身を寄せ合った。ふわりと優しい風が空中に小さな渦を巻いて、その中心に小柄な……子供のような存在が浮かび上がった。青のような、緑のような不思議な色の……ふわふわとしたわたあめ髪をし、透明に近い瞳をした少年のような姿だ。地の大精霊様と同じく、整い過ぎたその顔は、あまりにも綺麗で恐怖を覚えるほどだ。綺麗だけど、無邪気に笑みを浮かべるその表情は人懐っこい。
『わぁー! ひっさしぶりの人間だ! ここは人が来てもすぐに風に巻き込まれて命を散らしちゃうから本当に久しぶりだな~! ああ、いや、でもたまに例外がいるか』
キラキラと、色味がないのに煌めかせる不思議な瞳を私達に向けて、彼は嬉しそうに声を弾ませる。思ったより友好そうな態度に、僅かに緊張が解けた。
だけど、やっぱりそう上手くいはいくはずもなく――
『んんん? え、なに、ソレ! うっわ、人じゃない変なのいるじゃん! きもちわるぅっ!!』
固まる私達の中心に私がいるのを見たのだろう。いきなり顔を歪めた彼は、か細い悲鳴を上げながら手を振り回した。あまりの態度に結構傷付く。気持ち悪い、確かに、私も地の大精霊様から聞いた時同じこと言ったけど、ここまで露骨に言われるとまるで私が不潔な存在というか、そんな感じに扱われているようですっごい傷付く。
とにかく今は落ち着いてもらおうと思い、セイリム様が代表して声を掛けようと一歩前に出たその時だった。
全身が壁に叩きつけられたかのような衝撃を受けて吹き飛ばされた。
「ティナ!」
「きゃあ!」
テオとマリーの声が遠くに聞こえた気がする。けれど、衝撃でそれを確認する余裕もない。天地がどちらか把握できず、気付けば地面に叩きつけられていた。浄化で一気に魔力を消費し、いつも以上に疲労を感じていた後の不意打ち。これは私でも対応ができず、ただただ全身に感じる痛みに身を震わせる。
「ティナ!」
『ヒィ! 遠くから見ても気持ち悪い! なんなのソレ! 人でもないし動物でもない! ましてや植物でもなければ、純粋な人工物でもない。そんなのこの世のモノじゃないでしょ! ここは神聖なボクの城。そんな得体の知れないモノ、持ち込まないで――よ!』
ゴォっとまた風が迫る音が聞こえる。けれど、体どころか顔を持ち上げるのもままならない。痛みに喘いでいれば、ヒュンと甲高い音が耳に届いた。それから微かな風が頬を撫でる。
「本当大精霊ってのは、オレに喧嘩を売るのが好きだな!」
テオの怒鳴り声が聞こえた。ああ、彼の風を、きっとテオがどうにか相殺したのか。全身を襲う痛みが徐々に麻痺していくのを感じて、どうにか思考を働かせる。痛みが麻痺しても、同時に体も麻痺しているので動かせない。今は少しでも回復すべきだと、水の治療魔法を全身に展開する。ジンジンと痺れていた体が若干マシになった。それでも、動けないことと、麻痺によって魔法も上手く扱えないみたいで、なかなか治らない。
「ティーナさん、大丈夫ですか!」
「セイリム、さま、ちょっと全身を、打ち付けて、しまいました」
「わかりました。痣は見えませんが、痣を直す要領で全身に魔法を掛けましょう! 効き目がないようでしたらおっしゃってください」
駆けつけてきてくれたセイリム様が私に代わって治療魔法を掛けてくれる。私以外の人はイメージで治療魔法を使う。魔力を巡らせる、という方法とは違う魔法は、効率が悪い。それでも今の私よりよっぽど効き目があって、痺れも痛みも徐々に消えていく感覚がした。
『お前らが変なモノをここに連れ込んだんだろ! 責任取れよ! バーカ!』
「ざけんな! 瘴気から解放されて喜んでたくせに! 救ってくれたティナに何てことしやがる!」
『はあ? そんな気持ち悪いヤツが愛し子なわけないだろ! バカはお前だろ! 愛し子がどんな存在かもわかってねーんだろ! これだから人間は!』
「はあ?! 人間って括りでバカにするのかよ! その愛し子っていうのも人間だってーの! マジ頭わりーな!」
『な、な、なんだとおおお!』
えっと、聞こえてくる会話が、すごく子供臭い。いや、風の大精霊様の姿が子供っぽいから、ってのもあるのかな? いや、ないな。普通に性格が子供。我が強いって言ってたけど、我が強いんじゃなくて、自由で無邪気で正直な子供なんじゃないの?
まあ、それを同レベルで言い合っているテオも、あんまり変わらないんだろうけど……。
『こいつはああああ!』
「げっ!」
一際大きな声で叫んだ風の大精霊は、おそらく広範囲の風を操作したんだろう。ゴウゴウと風が唸りを上げる。ようやく少し身を起こせるようになった私はチラリとテオを見たけど、助太刀はできそうにない。
「テオ!」
無力に叫べば、テオの前に地面から巨大な土壁が突き出て、風を相殺した。衝撃でただの土塊になって崩れ落ちた壁は、おそらくロイド先輩の土魔法だろう。
『あー! ズリー!』
「ありがとうロイド!」
「……テオ、少し落ち着け」
「そうですよ! こうなることは予想してたんですから、一緒になって熱くならないでくださいテオ先輩! 大精霊様の力は私達にどうこうできる威力じゃないんですよ!」
テオを叱りつつもちゃんと私を庇うように二人はテオと並び立ってくれる。頼もしい仲間に嬉しくなった。大精霊の力は強い。同種の力を持つならその威力の違いがよくわかるだろう。そもそも、大精霊自身、自分の力を使うのに限界はほとんどないように思う。だって、私達が使う魔法も、元をたどれば精霊がもたらしてくれるのだから。大精霊は自分の魔力を代償に……、なんて使い方ではないはずだ。
だから、いくらテオが強くても、大精霊には絶対に勝てはしない。
「わ、悪かったよ。でも、それでも許せねーんだからしょうがねーだろ!」
二人が来てくれたことでテオも少し落ち着きを取り戻したようだ。体に入っていた力が抜けるのがわかった。
『こんの! 人間のクセに、大精霊であるこのボクを無視するんじゃねーよ!』
三人が仲良く話していたら構ってくれなくて癇癪を起すような子供のような言葉が聞こえた。やっぱり、この大精霊見た目通り子供なのかも。なんて、本当は呑気に考えている場合じゃない。周囲を巻き込むほどの風を起こそうとしているのか、両手を空に掲げて自身に風を纏わせ始めた風の大精霊様にギョッとする。流石にアレはヤバイ!
「回避回避!」
「わわわわ、え、これどうすればいいの!?」
「……流石に、土では無理だ!」
「風も無理って!」
「えええー! てか、風相手にどうすれば!」
対策を思い浮かばないまま三人が慌てていれば、突然周囲に何本かナイフが突き刺さった。魔石がついたそれは、同時に暗い赤色の光りを放つ。
「――――ッ!」
途端、ゾワリと体が悪寒に襲われる。力を失っていくような感覚に陥って、折角起き上がりかけていた体勢が、また地面に伏せる形になる。
力が入らないだけじゃない。
(なに、これ、気持ち悪い……)
体の中が掻き回されているような、そんな不快感と共に、魔力が体から奪われているようだった。魔法が使えないとかそういう問題じゃない。
このままだと、私は消えてしまう――
そんな恐怖が、片隅に過ぎった。




