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2.私にできることを

 ゆっくりと北上すること約一か月と少し。私達は中間地点であるロイド先輩の領地へと入った。ロイド先輩のお父さん……タッサ伯爵が治めるここタッサ領は一番小麦の生産が多いことで知られている。安定した気候と比較的平坦で柔らかく耕しやすい土をしていることから、元々農業が盛んな地域が多くあるらしく、その中でも小麦に力を入れている村があるのだとか。驚いたのは一番品質のいい小麦をどこよりも多い量で収穫しているのは村だということだ。昔はもっと小規模だったらしいが、気が付けばこの国の八割の小麦はその村の小麦らしい。

 そのことをいつもは口数が少ないロイド先輩が珍しく饒舌に教えてくれた。


「その村って道沿いにあったりします?」


「……道沿いにはない。が、少し回れば立ち寄れる距離にはある」


「それじゃあ寄っていきましょう!」


「そうだね! ほとんどの小麦を卸している場所に問題が起きてたら国の一大事だもんね」


 私の意図をいち早く察してくれたマリーが言葉を補足してくれる。こういう細かい所に気付いてくれるんだよねマリーって。自分の領地のことであるからこそ、贔屓になるようで躊躇っているのか、ロイド先輩は迷うようにセイリム様に視線を向けた。このチームの全体指揮権は権力を持っているセイリム様なので当然だろう。彼がいいと言えば寄るし、駄目と言えば諦めるしかない。


「そうですね。私も賛成です。村というのが気がかりですし」


「何が? 村の何が悪いんだ?」


 セイリム様の懸念に皆が頷くなか、テオは不思議そうに首を傾げる。


「もし何か問題が起きていても、領主に何の連絡をしていない可能性があるので」


 そう説明を足すけれども、それでもテオは理解できずに首を捻っていた。




 そうして辿りついた村は案の定ピンチだった。というか、あまりにもタイミングがよすぎた。一歩遅ければ手遅れだったかもしれない。

 一か月と少し旅をしている間にもちろん私達は何度も魔物とエンカウントしている。だから、この程度の魔物はもうどうってことない。それに、まだ日が暮れる前だったのも関係している。完全に陽が落ちた後の魔物は、昼間より数段手強く狂暴だ。だから、今回はタイミング的に幸運だったと言うべきだろう。

 それでも魔物に苦戦していたこともあり、軽傷者は多数いたし、畑は魔物に荒らされていた。せっかくもう少しで収穫という時期だっただろうに。その惨状にやるせなさを覚えた私は、魔物からつけられた傷を癒すついでに浄化の力を広範囲に広げて展開した。その結果、思った通りまき散らされた瘴気は消えて、村人の怪我も荒らされた畑も浄化(・・)された。


(畑が元の状態に戻るってことは、聖女の力は万能薬みたいな扱いなのかな)


 この世界では魔法という便利な力があるせいか、以前の世界のように科学という考えがほとんどない。魔法だって自然と結び付けて考えるなら現象や傾向を突き詰めて考察、結論を出した方がきっともっと発展するだろうに。そう思うから、そういう研究をしている人がほとんどいないことに残念に思う。

 だから私は自分なりに考察して、自分の中で納得できる結論を出すしかないんだけど……。今回の結果を踏まえると瘴気はおそらく空気感染に近い何かな気がする。空気に近い、だけど違うものを汚染している。そんな感覚だ。つまり、瘴気が濃いところは汚染する〝何か〟も結果的に多いということで、つまり……。


「――聖女様だ」


 考えに耽っていれば囁くような声が届いた。顔を上げるとたった今、聖女の力で怪我を治した人達が熱のこもった目で私を見つめていた。


「聖女様!」


「ありがとうございます、聖女様!」


「うっ」


 そうだよね、こうなるよね。

 今まで何だかんだ戦力が揃った大きめの街ばかり回っていたから聖女としての身分を大っぴらにしたことはなかった。ピンチの時にかけつけたのが聖女一行で、普通の魔法でも一人ひとり治すので精一杯なのに、一瞬で全員の怪我と畑まで治したんだ、こうなるのも無理はない。

 この人達はきっとこの村の戦力なのだろう。村の中で若手が集まっているように見えた。その中で一番高齢に思える五十代くらいの男性数人は拝むように手を合わせて、他の人達はまるで騎士のように片膝をついて頭を下げてきた。あまりの居た堪れなさに思わず遠い目をする。

 彼等の心境は理解ができるけど、受け入れられるかと言えば話は別だ。


「おい、聖女様が戸惑ってるじゃねーか! みんなやめろって」


 そんな私に気付いてくれたのはこの中で唯一鳥型の魔物を相手にしていた人だった。見た感じだとこのメンバーの中で一番若そうに見える。テオとそう変わらない年齢だ。てことは、もしかしたらまだ十代かな? だけど、その人の言葉を素直に聞いて頭を上げる人達を見ると、その人はこの人達の中でリーダー的存在に思える。

 落ち着いた濃い茶髪は短く切られ、爽やかスポーツ刈りだ。黒い瞳は前世の感覚的に安心できるし、キリっとした顔は誠実そうだった。


「聖女様、みんなと畑を浄化していただきありがとうございます。オレはディーノ。一応この村の衛兵長みたいな立場に今はいます」


 元々この村に衛兵なんてものは存在しないらしく、魔物が活性化している今だからこそ、そういう守衛という存在を急遽増やしたそうだ。そのまとめ役にいるのがこの人らしい。それにしてもディーノってどっかで聞いたような気がする。

 そんなことを思いながらも今は優先しないといけないことを思い出す。


「私はティーナです。他のメンバーも後で改めて紹介します。だけど、その前に……もし他に怪我人がいるのなら私でよければ治療させていただきます。案内をお願いできますか?」


 そう切り出せば、彼は少しだけ目を見開いた後、少しだけ顔を歪めて笑った。泣き笑いのようなその顔のまま、是非お願いしますと改めて頭を下げたのだった。




「まさかディーノ先輩がこの村にいるなんてな! すげー偶然!」


「まさかお前に助けられるなんてなー。今でも信じられねーぜ。元気にしてたか?」


「見ての通り! 元気元気!」


「何だ、ディーノの知り合いか? あれ、でも聖女様達と一緒ってことは……まさか、貴族様か?」


「いやいや、オレは平民っすよ! 実家は食事屋っす!」


「なぁんだ! ディーノの後輩か! にしてもさっきのすごかったな! 丁度見えてたんだけど、魔物を風でバーンって吹き飛ばしてただろ! すっげーよなあ、魔法って!」


 和気あいあいと語らう若者集団(とは言え三十前後)を私は物理的にも心理的にも遠い目で見つめる。というのも、私とテオの間には多くの村人がいて身動きが取れないからだ。しかも、そのほとんどの人が涙を流しながら私に感謝を伝えていて、無視できる状態じゃない。

  見える範囲にいるのにテオ達(あっち)(こっち)でかなりの温度差だ。まあ、悪い意味での温度差ではないんだけど、でも居心地はよろしくない。


「あ、あの、もう顔を上げてください」


 流石に居た堪れないのでどうにかお願いすれば、ようやく涙を止めて顔を上げてくれた。この人達にとってはずっと苦しんでいた魔物の傷が一瞬で治ったんだから、この反応も仕方ない。わかってはいるけど、これもやっぱり受け止めるには少し重い。


「聖女様、ワシがここの村長です。村を代表して改めてお礼を言わせてください。魔物が活発化してから、この村は日に日に人が減るばかりで、傷の治りも遅く、困っていたのです。ここは領地の端にある小さな村で、魔物に困っているのはそれこそ世界中どこも同じでしょう。だから、領主さまに援助をお願いする度胸もなく、怪我人も自然と治るのを待つしかなかったのです。薬も少なく、神官さまもいるような場所ではなかったので、とても助かりました」


 白髪混じりの赤茶髪の男性が深く頭を下げてくる。何となく予想はしていたけど、やっぱりどこにも援助を頼んでいないみたいだ。観光地でもないこんな辺鄙な村だ。その判断も仕方ないのかもしれない。

 だから、今はそれを言及はせず、まずは素直にその感謝の言葉を受け取った。


「苦しんでいた人を救えて本当によかったです。私達がここに立ち寄ったのは本当に偶然に近いようなものでしたが、この村のことが話題に上がった時、一度は立ち寄らないと、と思っていたんです」


「それは……なぜ?」


 こんな村に何か用でもあったのだろうかと本気で不思議そうな村長さんに私は苦笑する。きちんと説明する前に後ろにいたセイリム様とロイド先輩に視線を向ける。


「紹介しますね。この人が、この村を含む領地を治めるタッサ伯爵様のご子息、ロイド・タッサ様です」


「はっ!?」


「あと、こちらは王都の神官様の、セイリム・ローバート様です」


「初めまして」


 私の紹介に合わせて頭を下げるロイド先輩と朗らかに笑うセイリム様の紹介に村長はポカンと口を開けて固まってしまう。話を聞いているのか不明だけど、話が進まないので敢えて無視する。

 とりあえず、この話は村長にだけ話しても仕方ないので、今ちょうどこの場にほとんどの人が集まっていることを利用して、話を広めてしまおう。大きく手を打ち鳴らせば、テオの方で盛り上がっていた人達も私の方に注目した。


「さて、皆さん、確かにここは領地の端にある村ですけど、ここにある麦はこの国の食事事情をかなり支えている重要な場所です。それを踏まえた上で、私はこの村の救援要請を国に出すことを提案します」


「……は?」


「……俺の父親じゃなくていいのか?」


「もっと前段階だったらそれでよかったんだけど、多分どっちにしてもロイドのお父さんも今は援助をこの村に出す余裕がないと思う。今は重要な場所に余ってる手は全部出した後じゃないかな?」


「そうですね。報告は必要かと思いますけど、国に直接お願いしたほうが結果早くなるでしょう。おそらく、タッサ伯爵に救援届けを出しても、タッサ伯爵の方で国に要請する形になりますから」


「それなら、私の方でお願いしちゃった方が手間も省けるし、多分すぐに認可が下りるんじゃない? 伯爵様もその分仕事は省けるし、スピードも段違いじゃないかな」


 元々この状況はセイリム様含めて私も予想していた。確かにここは人口もあまりないし、観光者も来ることもない小さな村だ。でも、広大な麦畑を護る重要な場所には違いない。村人達は畑に誇りを持ってはいるけど、村だからという固定観念を持っているから自分達がどれほど国にとって重要な存在か理解できていない。だから、きっと自分達でどうにかしているんだろうなって思っていた。


「ま、待ってください、そんな、図々しいことを本当にお願いできるんでしょうか?」


「ば、罰せられませんか?」


 普段権力者とは無縁の生活をしている人達だ。お願いをするだけで罰せられるはずもないのに、それすらも知らないのなら、救援なんて出せるはずもないだろう。まあ、今回は領主すっ飛ばして国……つまり国王にお願いしようって言ってんだから怖がるのも無理はないか。


「大丈夫、きっと明日にはいい返事がきますよ」


 ニッコリと聖女スマイルを意識して言い聞かせれば、村人達はホッとしたように笑って頷いてくれた。さてさて、私は国王様じゃなくて、お義父様……つまりは宰相閣下に泣きつきますかね。

 ついでに試してみたいこともあるから、その許可ももらっちゃおうかな。


「ティーナちゃん、何か企んでない?」


「わ、ビックリした! ……よくわかったね、マリー」


「へへ、これでもずっとティーナちゃんの傍にいたからね? 私、結構人のことよく見てるんだよ? ね、それってどうせこの村のためになることだよね? 私も手伝っていい?」


 どうせってどういうことだろう。一瞬本気で悩んだけど、マリーの言葉は嬉しいから、私は素直に頷いた。どちらにしても今日はここに一泊させてもらう形になるし、夜遅くまで一緒にいられるのは同性のマリーだけだ。手伝ってもらえるなら有り難い。


「じゃあ、ちょっとした工作頼んじゃおうかな?」


「……工作?」


 何をするのか見当もついていないマリーは小首をかしげて瞬きをした。






 そして迎えた翌日。私達は空き家を使わせてもらってゆっくりと休ませてもらった。小さな農村に宿なんてあるわけもないから場所さえ借りられればと思っていたけど、空いている家があると言われて言葉に甘えた。とはいえ、この空いている経緯を聞くと喜ぶばかりではいられないけど。


「あれ、ティナ、妙にはえーな。いつもはもう少しゆっくりしてんじゃん」


 本来ならとっくに夜明けを迎えている時間だけど、魔王の影響のせいで未だに薄暗い。寒いのと朝が苦手な私は、理由がない限りはあまり早起きはしない。だけど、今日はやりたいことがあったからどうにか起きてきた。それに、この時間なら既にテオが起きていると思ったからもある。


「実はちょっと試したいことがあってね。で、テオ、ちょっと手伝って」


「ん? まあ、いいけど」


 何をするのかまだ何にも言ってないのにあっさり頷くテオに私は苦笑も漏らす。まあ、きっと断らないと思ってたけど。


「じゃあ、これ! 今から言う場所に設置してきてほしいの」


「これって……え、魔道具じゃんか! どうしたんだよこんなにいっぱい!」


 拳大くらいの水晶で作ったいくつかの魔道具を袋から取り出して見せれば、テオはギョッとしたように目を丸くする。それもそうだ、私達が魔道具を使う機会なんてほとんどない。扱ったことがない物を設置するのは誰であっても緊張するし、不安だろう。でも、一つだけ心を軽くする情報があるので、それを早速口にする。


「実はね、昨夜作ったの!」


 購入したわけじゃないから気軽に扱って! という気持ちで胸を張れば、だけどテオは眉を寄せて何故か「はあ?」っと大きな声で叫んでいた。




 人の治療をする際、私は人の魔力の循環を見ながら、滞っている箇所を修正するように治療する。もちろん、自分の怪我を治す際もそうだ。

 基本魔法はイメージで成り立っているものだけど、治療魔法だけは勝手が違う。イメージでもどうにかなるけど、より正確に、早く、効率的に治療する方法は魔力循環を直すことだった。

 それはつまり、生物には魔力が宿り、血液のように循環しているからだ。

 その事実から人に魔力が宿るのはわかっているけど、その他はどうだろうか。そんなことをふと思った。動物はもちろんだけど、植物や空気中。それらにも実は魔力は宿っているんじゃないだろうか。だけど、人と同じく生物である動物はまだしも、植物等の魔力までは流石に目に見えない。本来見えないはずの他人の魔力を見えることができる私でさえできないから、それを証明する手立てはなかった。

 だけど、この世界には魔石が存在する。元々魔力を込めることが可能な石、というだけなら話は違うけど、最初に見つかったのは魔力がこもった状態の石だ。自然の中に、無機物な石に魔力がこもっている。つまり、それは自然界に魔力が存在していると考えてもおかしくないということだ。

 そして、瘴気。瘴気が溜まりやすいのは光の少ない場所というのは一貫しているけど、瘴気が発生する原因は生物が発する負の感情だと言われている。それならば、人が集まる街や村の、薄暗い場所に瘴気が発生してもおかしくはない。それなのに、決まって瘴気が溜まるのは森や山といった自然の中だ。もしかしたらそれも〝魔力〟が関係しているんじゃないだろうか。私はいつしかそう思うようになった。


 そして今、魔王が復活した影響で太陽は隠れ、昼でも薄暗くなった。その影響で瘴気は濃くなり、魔物は堂々と人里に降りてくる。つまり、自然のないところでも瘴気が漂っているんだろう。だから、この機会にこの瘴気に魔力が込められているという証明を得るためにもこの魔道具を作った。もし私の仮説通りなら、この村の畑は息を吹き返すかもしれない。


 そうして今、設置した魔道具は私の考えを肯定するかのように眩い光を放っていた。光だけじゃない。僅かに熱も魔道具から発している。そう、まるで小さな太陽のように。

 この魔道具は周囲にある魔力を集めて作動する、半永久的に動く魔道具だ。中にはタイマーが内蔵してあって、朝から半日、こうして光と熱を放つように設計してある。つまりは疑似太陽だ。紫外線とかそういうのは流石に考慮できなかったけど、熱と光があるだけで植物は育ちやすくなるだろう。今のまま放置するよりよほどいいと思う。

 とはいえ、ある一定の魔力がないと作動しないので、おそらく魔力濃度が濃いと思われる瘴気が薄くなれば自然と魔道具は停止するだろう。でも、それはつまり魔王が倒された時だから、どちらにしてもこれがお役御免になる時だ。何も問題はない。


「お前、本当に魔道具作れるようになったんだな……。前に興味持っているようなこと言ってたけど、マジで作るなんて」


「だって、自分で作れるようになったら便利じゃない? 魔法は自分しか使えないけど、魔道具なら他人にも貸すことができるんだし」


「そうだけど、本来ならこういうのって特許? とかなんか申請が必要なんじゃねーか?」


 え、テオがすごいまともなこと言ってる。驚いて思わず凝視しちゃったけど、魔道具を呆れたように見つめていたテオはそんな私に気付いていなかった。突っ込まれる前にどうにか視線を戻す。危ない危ない。


「本来ならね。だけど、今回は特別許可をもらったから。それに、商品として売るなら必要なだけで、個人的に作って使うだけなら、規制されていない部類の魔道具じゃない限りは申請は必要ないんだよ」


「なるほど。確かに個人的に作って使うなんて基本自由だもんな。これも売りつけるわけじゃないからセーフってことか?」


「まあそうなるけど、でも村で使うものだから規模が大きいんだよね。だから、念のために昨日救援申請と共に制作許可をもらっておいたんだよ」


「……ん? 作ったってことはそれについての返事がもう来てるってことか?」


「そうだよ。まあ、来る前から作り始めてはいたけど。魔道具も救援も了解ってきたから大丈夫!」


 エヘンと胸を張って宣言すれば、テオは無邪気に笑って流石! と褒めてくれた。まあ、私が行動しなくてもセイリム様が率先して動いてくれただろうけどね。というか、おそらく調整はセイリム様と勝手にしていた気もする。簡単な説明と要請だけした手紙を送っただけなのに何の追加説明も求められなかったんだし。


「にしても驚いたなー、あの人ってテオの知り合いだったなんて」


「一年の時に組んでたバディな。農村とは聞いてたけどまさかここだとはなー。オレもびっくり」


「そっか。……よかったね、申請が通って」


「……ん、そうだな」


 ここにテオの知り合いがいたのは本当に偶然だ。そして、その村が国にとって重要だったのも偶然。もし、この村が本当に何でもない小さな村だったら国どころか領主にも救援など出せなかっただろう。いくら勇者や聖女の知り合いがいるといっても、私情を優先させるわけにはいかないのだし。

 だから、偶然でも助けることができて本当によかった。




 設置した魔道具の存在に戸惑う様子の村人に説明をすれば、皆とても喜んでくれた。麦をまるで我が子のように育てているこの村の人達は、本当にこの仕事が誇りなのだろう。こんなご時世でも絶望せずに生きているその姿はとても格好いい。

 王都から騎士団がこの村に来るには半月ほどかかるだろう。だけどそれまで私達がいるわけにもいかない。ここでのんびりしてしまえば、その分魔王討伐にも遠ざかってしまうのだから。


「援助が来るだけでも本当に助かります。それに、こんな魔道具まで作ってもらって。本当にありがとうございました、聖女様」


 最後に見送りに来てくれた村人達はキラキラした目でずっと私を見ていた。聖女をやるのも大変だ。だけど、駄目元でも一応お願いしてみる。


「どうか、皆さん私のことはティーナと。今代の聖女は二人いますから」


「あ、でもティナって言っていいのはオレだけだからな!」


「……」


 何か余計な合いの手が入った気がするけど気にしない。微妙そうな顔をする村人達に、テオの先輩……確かディーノさんが苦笑する。


「テオ、お前全然勇者に見えねーな」


「ディーノ先輩、勇者は見た目でなるもんじゃないです」


 そうだけど、少しは取り繕うのも必要だと思うよ、テオ。



 

本来この話はオープニング的な扱いで、一話か多くて二話くらいだろうと考えていたのですが、思ったより全然書きたいシーンが書き切れなかったので、読んでわかる通りいろいろ端折っています。余裕があったら幕間扱いでテオ等の別視点として書ければいいなと思います。せっかくディーノを出したのに、全く主役と絡んでないのが心残りです。

更に言えば妹とかいるのに存在すら出せてない…!

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