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28.襲来

※リリア視点

 私は物心ついた頃にはもう教会の子供として過ごしていました。生まれて間もない頃にいつの間にか教会の入り口に捨てられていたそうです。白金の髪に薄紫の瞳をした私は、おそらく貴族の娘なのだろうとシスター達は思ったそうです。庶子かそれとも他に訳ありか。そういった事情で子供を捨てる人は数多くいるそうです。まだ教会の前で捨てられただけ、良心的とも言えるでしょう。

 本来なら悲しむべき事実ですが、気付いた時には教会で過ごしていた私はあまり気にしたことがありません。シスターが母親で、神父様が父親で、孤児の子供達は皆兄弟だと思って過ごしてきました。

 貧しい生活ですが、それでも毎日優しい人達に囲まれて充実した日々を過ごしていました。

 だけど、ある日私は聞いてしまったのです。


『なあ、最近生活資金に困ってるんだろ? あんたんとこの綺麗な嬢ちゃん、オレに渡してくれんならそれ相応の値段払うぜ?』


 食材や生活用品を仕入れてくれる男の人がシスターへと投げていた言葉でした。最初私は何を話しているのかよくわかりませんでした。けれど、次のシスターの怒鳴るような声で、子供ながらに理解したのです。


『それは、もしかしてリリアのことを言っているの!? 馬鹿を言わないでください! 私達が子供達を売るような真似致しません!』


『ハッ! 流石神に仕える者は綺麗事が好きだな! だけどよ、その意地が何処まで続くのか見ものだな。名無しのせいで、自分達が苦しむことになるんだからよ』


 それまで私は教会がそれほど苦しい生活をしていることを知りませんでした。もちろん、食事は満足に食べられないし、古くなった建物の修繕も間に合わない状態ではありましたが、シスターや神父様がいつだって笑いかけてくれるから、些細なことだと流せていたのです。

 だけど、私達がいるから、シスター達も貧しい生活をしなければならないのだと、ようやく気付いたのです。こんな生活をしなければいけないのは、全部、全部私達のせいなのだと、幼い私は思い悩んでしまいました。その結果、何も考えずに教会を飛び出してしまったのです。


 教会の外に一度も出たことがない私は、ただただがむしゃらに走って、そして見事に迷子になりました。

 西区はただの住宅街。北区に行けば門があり、その場には騎士もいるのですが、残念なことに私が向かった先は南区側の方でした。幼い私ではそれほど遠くまで行ってはいませんでしたが、何処まで行っても同じような景色が続くそこは、私にとって未知なる世界で恐怖そのものでした。

 すぐに帰ろうと思って辺りを見回すものの、見知らぬ景色が広がるばかり。せめて人に道を聞こうとその場にいた男性に声をかけたのですが、それが間違いだったのです。何と、その人は人攫いだったのです。しかも当時私は自分のことをどう説明すればいいのかわからず、家を説明するために自分のことを〝名無し〟と説明してしまったのです。その瞬間、相手の目の色が代わり、有無を言わさずに連れ去ろうとしました。

 怖くて怖くて仕方なくて、もうダメだと思ったその時、私と同じくらいの年の子が助けに来てくれたんです。男の子と女の子二人でした。その後のことは、ただただ混乱していて何が起きたのかよくわかりませんでした。気付けば私を捕まえようとした人は大人の人に捕らわれていて、私を助けてくれた子供二人とお兄さんくらいの男の人が私を心配そうに見てました。


 私が男の人に怖がっていることに気付いたのか、女の子が声をかけてきました。彼女も私と同じように捕まりそうになっていて、抵抗したことで髪は乱れて服は汚れ、更には口に怪我までしてましたが、にっこりと可愛く笑って声をかけてくれたのです。

 白むほどに輝く銀の髪と透き通った薄青い瞳はとても綺麗で、私は思わず見惚れてしまったことを覚えています。私と同じくらいの子供なのに、すごくしっかりしていて、私の帰りの馬車代まで出してくれた優しい人でした。綺麗な姿から考えると貴族の子供だと思っています。また、いつか会えたらお礼を言いたいと今でも思います。


『リリア! ああ、よかった、無事でよかった!』


 教会に戻ればシスターが涙を流しながら私を抱き締めてくれました。神父様も子供達も私のことを心配してくれたようで、その場に勢ぞろいしてました。私を送ってくれたお兄さんは事の事情を話してくれて、最後まで丁寧に接してくれました。


『シスター、私をたすけてくれた女の子がね、すっごくキレイな子だったの。きっとね、せいじょさまだと思うの。でも、みんなはそんなわけないって言うの!』


『リリアはその子に救われたのね。それなら、リリアにとっての聖女様で間違いないわ。だから、貴女はそう信じていていいのよ』


 何度も何度も聖女様のお話をしてくれたシスターは、私の気持ちを否定せずに聞いてくれました。幼い頃から大好きだったそのお話は、それ以降更に好きになって、いつかまたあの女の子に会える日がくることを願って祈りました。

 そうしているうちに十歳を迎えた私は、自分に魔法適性があることを知り、魔法学校入学が決まったのです。平民で、孤児である私が貴族の集まる学校に行くことは不安で、どうしても行かなくてはいけないかと何度もシスターや神父様に相談しました。けれど、王都にある教会で暮らす子供である以上、誤魔化しは効かないようで、入学は取り消せませんでした。

 不安から気を重くしていた私ですが、定期的に足を運んでくださるようになっていたセイリム様にお話を聞いてもらって、ようやく踏ん切りがついたのです。


『教会のために何かしたいと貴女は常々言ってましたね? それなら尚のこと、学校には通うべきです。貴女は水魔法の適性がとても強く、魔力も多いです。それならば、治療師になるのをお勧めします』


『治療師?』


『ええ。治療師から神官になれる人もいますし、そうでなくても、貴女なら在学中に神官にスカウトされてもおかしくないですね。そうすれば、教会を護ることもできますし、教会勤務を認めてもらえるかもしれません。何でしたら、私の方で推薦状を出してもいいです。ですが、学校で魔法を学び、それなりの結果を出してもらわないことにはそれもできません。どうか、考えてみてください』


 セイリム様の言葉に、私はハッとしました。これから先、どう生きるにしても、学校で学べることはプラスにしかなりません。それに、孤児院暮らしの子供は、よっぽどの事情がない限り十五を過ぎると孤児院では暮らせなくなるのです。それならば、教会を出るのと同時に学校に入り、きちんとした職に就くのが一番なのでしょう。

 だから、私はその日から学校に入ることを決意したのです。


 そうして始まった学校生活は、思ったよりも充実した日々でした。というのも、ティーナさんやマリーさんを始めとした友達が、私にできたからです。私のバディが王子殿下になってしまった時は、恐れ多いし、失礼があったらどうしようとずっと不安で仕方なかったのですが、王子殿下はとても誠実で、気さくな方で、授業の時もいつだって私にペースを合わせてくださいました。

 恵まれた環境に、勉強も魔法も自分でも自覚できるほど成長できたと思います。特にティーナさんには治療魔法の手ほどきもしてもらって、私の目標にグンと近付いたと思います。

 ティーナさんはすごいです。私のように孤児院にいた孤児ではありませんが、平民なのに学年首位をキープして、魔法をまるで手足のようにスムーズに操って誰にも一目を置かれています。優しいけれど、優しいだけじゃない。芯がしっかりしていて、理不尽には屈しない強い心を持っています。


 だから、大神殿に呼ばれ、この場に聖女様がいると大神官様に宣言をされた時、私はきっとティーナさんだろう、と確信めいた予感を覚えていました。


 まさか、自分がこんな歴史的瞬間に立ち会うとは思わず、ずっと胸がドキドキと高鳴っています。


「突然のことで驚かれていることでしょう。しかし、今は質問を飲み込んで私の言葉を聞いてください」


 あまりのことになかなか騒ぎが収まらない中、不思議なほど通る声で大神官様は言葉を続けました。


「聖女様がいつ、どこで、どうやって現れるのか、それは私どもにはわからないことでした。ですが、この度はマナリス様のお蔭で、いつ、どこでの部分は明確に示されました。後は誰がを突き止めるだけです。そこで、皆様にもご協力頂きたい。この、聖女様の力を見つける魔道具を順に触れて頂きたいのです」


 そうして掲げられた物は手のひらサイズの水晶玉でした。形は違っても、それはバディ決めの際に使った魔道具にそっくりに見えます。もしかしたらあの時使っていた物も、同じような技法で作られた魔道具なのかもしれません。


「残念なことにこの魔道具はこの一つのみ。時間はかかるかと思いますが、ご協力いただきたい。まずは、男性は壁側へ寄って頂きましょう。そして、女性はどんな順番でもいいので列を作ってください。ただ、魔道具にてバディが決まった方は最優先にして頂きます」


 その言葉に確信します。やはりバディ決めは聖女にも関係する何かがあるのでしょう。だからこそ、魔道具も似ているのだと思います。皆が移動する中、ティーナさんとマリーさん、そしてエルダさんと共に最前列に並びます。その際、ティーナさんが神妙な顔をして小声で「同じような魔道具……バディを見つけ出す……聖女と勇者……」と呟いていたのを聞いて、彼女も私と同じような考えだとわかりました。自分一人の考えじゃないと思っただけで何だかホッとします。


「ありがとうございます。それでは、順に行きましょう」


 大神官様の声で私達は顔を見合わせます。最優先とされるとはいえ、私達四人の中に順番はありません。ただ触れて確認するだけですから、あまり順番など気にしなくてもいいかもしれませんが、ここは貴族が多く占める魔法学校。配慮できるのならなるべく配慮すべきです。


「あたしから行くわ。この中で唯一上級生だしね」


「それなら、次は私行くよ。そしたらほら、階級順にもなるし」


「では、ティーナさんが三番目になってください。私もティーナさんも平民ですけど、学力順ってことで」


「何それ、ふふ、わかった」


 もうこのメンバーでは遠慮はありません。時間を使っても無駄ということもわかっているので、すぐに順番は決まります。私がティーナさんを先に行かせたのは、口にした理由もありますが、それ以上に私はティーナさんが聖女だと思っているからです。

 私はティーナさんの真後ろで、その歴史的瞬間を目の当たりにすることができるのです! こんなにすごいことはきっとありません!

 も、もちろん他の方の可能性もありますので、あからさまな態度は取りませんが、でも、ティーナさん以上の適役がいないのは確かなので、期待する心を消せません。

 ドキドキと高鳴る胸を抱いたまま見守ります。まずはエルダさんが気負う様子も無くあっさりと水晶に触れました。反応はありません。予想していたようであっさりと身を翻して戻ってきます。

 次にマリーさんが恐る恐るという風に触れました。何の変化もなく、ホッとした様子で駆け足気味に戻ってきました。

 そして、ティーナさんが足を進めます。エルダさんと同じように気負うことなく水晶の前に進み、触れようとしたその時でした。


 ゾワリと冷たい何かに心臓を鷲掴みされたかのような悪寒が走って身が竦みました。小刻みに体が震えて手足がスーッと温度を失っていく感覚に、尋常ではない何かが起きている気がしました。

 何かが、来ます。

 漠然と、そう思いました。何が来るのかはわかりません。だけど、よからぬものがここに向かってきているような気がしました。視線を上げれば薄青い瞳と目が合いました。水晶に触れようとしていたティーナさんも私と同じように顔を青くしています。


「大神官様、体調が優れないのですか? どうなされました?」


 慌てた声につられて視線を動かせば、すぐ端に立っていた大神官様も顔を青くして蹲っていました。やっぱり、何かよくないことが起こる。そう思った瞬間、私の考えを肯定するかのような地震が起こりました。建物が軋み、窓ガラスが割れる音が響き渡ります。皆の悲鳴が聞こえるものの、私自身どうしようもなくその場に蹲りました。


「な、何よ!」


「この辺に火山はないはずなのに、どうして地震? 何が起きてるの?」


 混乱しつつも状況を理解しようとエルダさんとマリーさんが声を上げて疑問を口にします。けれど、それに答えられる人はここにはいません。地震はすぐに止みました。スッと驚くほど簡単に止んで、まるで悪夢でも見ていたかのようです。けれど、地面に広がるステンドガラスの破片や、壁に走るヒビが夢ではないことを教えてくれます。


「いったい、何が?」


 未だに悪寒は治まりません。自分の体を抱き締めるようにして縮こまっていた私はゆっくりと顔を上げました。その先にいたティーナさんは一人、何事もないかのように佇んで、割れてしまった窓の外を睨みつけています。


「ティーナさん?」


「……魔物よ」


「え?」


 小声で何かを呟いた後、ティーナさんは地面を蹴って壁伝いに窓の枠にしがみつきます。軽やかなその身のこなしは常人ではない動作なのですが、今はそんな常識すらも突っ込む心の余裕はありません。ただ、彼女がそんな行動を取る理由は必ずあることを私は知っています。


「北東の空が黒一色! 飛行型の魔物がまっすぐにこっちに向かってる! 数は不明。とにかく沢山! ジルシエーラ様!」


「了解! 王宮に伝令を送れ! すぐさま騎士団、魔法師団に連絡!」


 ティーナさんの言葉に壁際にいた殿下がすぐさま頷いて神殿付きの騎士へと命令を下します。緊急時における判断の速さにこちらは事実を飲み込む暇がありません。ですが、のんびりはしていられませんでした。


「王都全体、というよりおそらくこの神殿にまっすぐ向かってる! と言っても、数が多すぎて漏れた魔物が何処に向かうかはわからない! とにかく、戦えそうな人はこの場で迎撃しないとやられるだけよ!」


「そ、そんな……!」


 ティーナさんの言葉にその場にいる生徒達が悲鳴を上げました。王都を目指しているのではなく、この神殿が目標なのです。仕方ないことかもしれません。

 ですが、そんなことよりも私は神殿外にも襲い掛かるかもしれないことに絶望しました。ここには私の育った教会があるのです。そこには、父代わり神父様が、母代わりのシスターが、兄弟のように共に育った子供達がいます。皆に何かあったら、私は……私は――!


「戦闘経験のある神官は一緒に来てほしい! その他、騎士団や魔法師団に進路が決まっている者は私と一緒に迎え撃つ! 覚悟ができた者は外に出ろ!」


 殿下の強いお言葉に、生徒の何割かが頷いて後に続きました。大きな扉から駆けるように飛び出した生徒達に、私も行かないとと無意識に身を翻します。けれども、突然腕を掴まれて進むことができませんでした。

 振り返ればそこにはいつの間にか下りていたティーナさんがいました。


「テオ、そっちは暫く任せるね!」


「おう! こっちはロイド達がいるから当分は大丈夫だ!」


 殿下の隣にいたテオドール先輩が元気よく答えています。無数の魔物がここに向かっているというのに、二人には焦りが見えません。それを頼もしいなんて思う心の余裕は私にはなく、止めるティーナさんにむしろ苛立ちを覚えてしまいます。


「どうして、」


 どうして止めるのですか、と恨みに似た気持ちを込めてティーナさんを見つめました。彼女は真剣な顔で私を見つめます。


「リリーは、今何処に行こうとしたの?」


「……それ、は」


「多分だけど、ここで迎撃する人達に混ざろうとは思っていなかったでしょ?」


 私は、ここで迎え撃つのではなく、大切な人を護ろうと思っていました。多くの魔物がいつ私の家族を害するのか、わからないのです。せめて目に届く範囲まで行って、防御魔法を使って護りたい。


「ここは、こんなにも人がいるのです。私一人抜けても大丈夫では?」


「そうかもしれない。けど、もう魔物はすぐそこまで迫っている。そもそも、魔物が何を目的にして集まっているのか、それは考えた?」


「それ、は」


 魔物は普通自ら生まれた場所から飛び出してまで人を襲ったりはしません。体を維持するには瘴気が溜まりやすい場所にいるのが一番だからです。それなのに、その場所を抜け出してまでこの場に、しかも大勢で来たということは、何か目的があるのは確かでしょう。


「おそらく、聖女様ですな」


 頭に血が上った状態でどうにか答えを出そうとしていた私に、優しい声がかけられました。先ほど顔を真っ青にしていた大神官様です。


「ええ、そうだと思います。おそらく魔物は人よりも聖女の存在に敏感なのでしょう。だから、まっすぐに聖女がいるはずのこの大神殿に向かってきている。だけど、誰が、とまでは魔物もわかっていないと思います」


「そうですね。特にこの大神殿は魔物が嫌う聖なる力が込められた魔力で結界を張っています。この中に聖女様がいる以上、誰が聖女様かまではわからないでしょうな」


「じゃあ、尚のこと、私一人ここから出ても気付かれないじゃないんですか!」


 早く向かいたい。たとえ襲われてなくても魔物の存在には気づいているはずです。だって、空を飛んでいるのだから。せっかく魔法が使えるのに、家族を護ることに使えないなんて、役に立ちません。行かせてほしくて、ティーナさんを泣きそうな顔で見つめました。途端、両頬に強い衝撃とバチンという音が響きました。


「深呼吸、まずは落ち着く」


「……ッ」


「魔物の数は多い。ほとんどがここを狙っていても、あぶれた魔物はきっと存在する。それは神殿ではなく他の場所を襲う可能性は確かにある。だけど、その魔物から王都を護るのは騎士団の役目よ。ここで、リリーが一人勝手に行動して神殿を出ることで、逆に魔物に目を付けられる可能性がある。リリーのせいで、貴女の大切な人が目を付けられるかもしれないのよ」


 両頬を掴んだまま、ティーナさんは私をまっすぐに見つめました。ジンジンと痛む頬と、その強い瞳に次第に思考が働いていくように思います。

 私は、水と木の属性魔法が使えるだけ。しかも防御と治療魔法を優先的に学んで来たので、攻撃魔法はあまり得意ではありません。しかも、魔物は普通の獣や人とは違います。核を確実に壊さなければ意味がないのです。

 私一人飛び出して、もし想定よりも多くの魔物と対峙なければならなくなった時、回避することに精いっぱいでその内限界が来るでしょう。そうなれば、護るどころか私は死にます。

 魔物討伐は、それほど単純なことではないのです。


「落ち着いた?」


「……はい、ごめんなさい」


「いいのよ。大切な人を喪いたくない気持ちはよくわかるもの。でも、ジルシエーラ様達を信じましょう? 魔物が活発化していることから、王都に配備されている騎士が最近多くなっているんだから。きっとすぐに対処してくれてる」


「……はい」


 確かにそうです。教会に出かける度に騎士の姿は見かけました。巡回しているにしても数が多いと思っていたのです。きっと、こういう日を想定していたに違いありません。さっきも、すぐに状況を理解して指示を出していました。頼もしい彼を、疑ってはいけません。それでも未だドキドキと高鳴る心臓を落ち着けようと深呼吸を繰り返していれば、足に何かが当たったように思えて下を向きました。そこには、聖女様を見つけるための水晶が転がっていました。

 先ほどの地震で転げ落ちたのでしょう。

 無意識にそれを拾おうと触れたその時でした。カッと目が焼けるような眩い光が放たれたのです。バディが決まる時と同じ、薄い紫色の光でした。


「お、おお、これは、まさしく」


 驚きか、歓喜か、震える声を上げる大神官様に、これがまさしく聖女を指し示す反応なのだとわかります。けれど、それが私が触れた瞬間に起こったというのが、受け入れられず、光から逃れるように顔を背けました。

 その視線の先にいたティーナさんを見れば、彼女はまるで母親のように優しい笑みを浮かべて小さく口を動かしたのです。


 やっぱり、と。




 

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