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22.祝勝会

ちょっと体調を崩していたことと、仕事が忙しかったことが重なって結局木曜は更新できませんでした…(汗)

一度打ちっぱなし状態で更新しましたが、誤字修正かつちょこちょこ文章を変えて差替え済みです。

 武術大会が開催された翌日は、学校はお休みになる。しかも、土の曜日、光の曜日と続いて連休になるようにセッティングしてくれるので、この世界ではあまりない三連休だ。というのも、祝日という概念がこの世界にはほとんどないらしい。国民の日とか文化の日とかそういう記念日をわざわざ制定したりしないんだよね。そんなことしなくてもそれぞれの事情でお休みを設けるし、通常のお休みは土と光の曜日と決まっているのでこれ以上は必要ないと考えているんだろう。例外を言うなら一日だけ、春の月(4)の一日……つまり解放祭の日だ。ただこれは祝日には違いないけど、お休みする日というよりもお祭りの日という認識が強い。

 これが日常になっているからお休みが無くて不満はないんだろうかと思ったけど、何となく年間休日というものを計算してみれば、結構以前の私の世界とどっこいどっこいだと気付いた。


「祝勝会やろうぜ!」


 武術大会を終えてそれぞれ寮に戻ろうとしたその時、テオがそう声を上げた。もちろん訴えているのは私しかいない。少し前だったらマリーやロイド先輩などまだいたのに、わざわざ私一人になるのを狙ったようにそう提案してきた。


「祝勝会?」


「そ。って言っても、ただ二人で遊びたいだけなんだけど」


 なんて、二人でなんて言うから、つまりやっぱりこの状況を狙っていたわけで。だから、怒るつもりなんてなくて、ただ苦笑だけを浮かべる。


「つまり、デートしたいってこと?」


「……まあ、そうだな」


「ふ、ふふ。何それ。普通祝勝会なんて、優勝し合った人同士だけでやらないからね?」


 自分から提案したのがよっぽど恥ずかしいのか、テオは頬を赤らめてそっぽを向く。その仕種が可愛くて、ついつい笑みを深めてしまった。まあ、でもお疲れ様会ってことで一緒に出掛けるのは別に嫌じゃない。


「じゃあ、明日、何時に集合する?」


「え、いいのか?」


「いいよ。折角だもん。それに、帰りはテオの家に行くんでしょ? そしたらちゃんとした祝勝会、きっとロッテさんが企画してくれるよ」


 そう笑顔で返せば、テオは拗ねた表情から一転して、いつもの笑顔で頷いてくれた。


 そして一晩経ってデート当日。思わぬ事態に私は頭を悩ませる。


「嘘でしょ、筋肉痛」


 まさか、そんな。ちょっと油断してた。

 そりゃあ、毎日テオみたいに激しい特訓しているわけじゃないけど、それでも山育ち。それに技術の時間は真面目に特訓していたのに。

 あああ、でもでも、そうだよね、一日通しであんなに激しい戦闘なんて今までしたことなかったよね。でも、メインは魔法で終わってたから、筋肉痛にはならないと思ってたのに。幸いにも痛むのは足とか腕とかじゃなくて背中の一部。少し背を反らしたり捩ったりしたら僅かに痛む程度だから支障はない、はず。

 だけど、ちょっと気分が落ちてしまうのは仕方ないことだろう。それでもどうにか着替えを済まし、髪をセットして、準備を終える。髪型はいつものハーフアップではなくて、思い切ってお団子ヘアだ。もちろん、お団子上部にはテオからもらった髪留めを付けている。お団子を項近くに下げて、帽子をかぶるにも邪魔にならないようにする。


「変じゃないかな?」


 一人ごちて鏡で全身をチェックする。うん、多分大丈夫……なはず。こんな風に気にするのは慣れてないから、見落としあるかもだけど。

 でも、まあ、きっとテオなら何かあっても見逃してくれるはず。そんな事より、今日は楽しまないと!


 ルンルン気分で寮の入り口に向かえば、テオは先に待っていてくれた。朝強いんだよね、テオって。テオの性格だけで考えると、だらしない感じがするのに、特訓大好きテオはむしろ朝すっごい早いから、時間さえ気にしてれば遅刻なんてしないんだよ。むしろ、寒くなればなるほど朝弱くなるのは私だ。


「お待たせ、テオ。そういえば今日はどこに行くの?」


「おはよ、ティナ。今日はまた東区に行こうかと思ってた。前も全部は回れなかっただろ?」


「まあ、そうだね。でも、そうなるとちょっとお高め区域に入らない? お貴族様御用達が並ぶところだってあるでしょ?」


「流石にその区域には近づきたくねーけど、でもまだまだオレ達でも歩いて楽しめる店はあったはずだし、食べ物だって前の時食べきれなかったものだってあるだろ?」


 確かに、一日で回り切れるほど店が少ないはずがない。前回は私の好みが中心だったし、今回はもう少しテオも興味がありそうなものを中心で回ってもいいかもしれない。とりあえず東区に行くことは反対じゃないので、馬車乗り場に向かう。もちろん、デートということでまた手を繋いで。何だかもう普通になり始めてきたけど、これ普通かな?

 前回行った時に気になったけど入れなかった所はどこかとテオと一緒に話しながら東区に向かう。話していればあっという間で、危うく通り過ぎそうになった。

 慌てて下りて、また手を繋いでデートを楽しんだ。


「そういえば、歌劇というものがあるんだよね。どういう感じなんだろう」


 大きな劇場の建物が視界に入って思わず口にした。

 前世で言うならミュージカルみたいなものだよね? この世界ではどんな話が好まれているのかちょっと興味がある。だけど、もちろんそれは裕福な人が通う代名詞とも言えるから、平民の、しかもただの子供が気軽に行くには難しい。


「歌劇かあ、そういう話あんまり聞かないからオレも知らねーな」


「いつか行く機会があったら一緒に行ってくれる?」


 こういうのは恋愛物が多いのが定番だ。もちろん、それだけじゃなくて冒険とか英雄とかの題材だってあると思うけど、見に行ける時にタイミングよくそれとは限らない。もし恋愛物だったらテオが好きかもわからない。

 だから、一応聞いてみた。私がわざわざ聞くのが不思議だったのか、テオは首を傾げながら当たり前だろと即答してきた。


「むしろ二人で行けるのにオレ以外誘ったら怒るぞ」


「……怒るの? 拗ねるんじゃなくて?」


「……同じようなもんだろ」


 既に拗ねているのか、ムッとした表情で視線を逸らしたテオに、何だか面白くなる。ともあれ、ちゃんと私に付き合ってくれるらしい。いつかコネを使ってチケット手に入れようかなと考えてしまう。


(コネなら、そこそこにあるんだよねえ)


 例えば、宰相閣下とか。例えば、メイリーとか。貴族繋がりで言うならロイド先輩やマリーにだって頼むくらいはできるはず。きっと、一般席なら難しくないと思う。それに、一応私宰相閣下には貸しを作っているはずだし。ちょっとくらいおねだりしても許される立場だ。

 となれば、チケットくらい融通を利かせてもらっても罰は当たらないはず。そんなことを思いながらも私はテオの手を引いて話していたカフェに入った。






 ランチをして、店をいくつか見て回って、露店で売ってるデザートを外のベンチで頬張って、何だかんだ充実した時間を過ごした。これだけならいつもは疲れないんだけど、筋肉痛が残っていることもあってか、今日はちょっと体が重い。

 でも、楽しい時間が終わってしまうのも嫌で、ついつい深く息をつくことで誤魔化そうとしてしまう。


「ティナ、ほら、手」


 デザートも食べ終わって差し出される手に私は自分の手を重ねる。次はどこ行くの、と口を開こうとすればテオが来た道をゆっくりと歩き出した。


「テオ?」


「ちょっと早いけど帰ろうぜ。今日くらい早めに帰らねーと母さんが怒りそうだし」


 まるで最初からそうしようと思っていたような言い方。だけど、さっきより確実に歩くペースはゆっくりで、テオが話しをするついでとばかりに視線を私によく送ってくる。これは、確実に私の不調に気付いてる。それなのに、口にしないなんて、どうして、なんて。

 テオの気遣いは嬉しいけど、今までにない気遣いに戸惑う。だって、今までなら普通に調子悪いだろって聞いてたのに。今日に限って妙に慎重で、逆にどうしたのだろうって不安になってしまう。


「……そんなに気を遣わなくていいのに。私、まだいられるよ?」


 折角テオが気を遣って言葉にせずに自然と帰るようにしてくれたけど、丁寧過ぎる気遣いにむず痒さを感じて、つい遠慮も忘れて口にした。ちょっと疲労が残っているけど、それだけだ。このくらいならまだ動けるし、休まないといけないほどじゃない。


「そうなんだろうな。ティナがさ、オレと同じようにこの時間が楽しいって思ってくれてるのが、ただ嬉しかっただけ。だから、変な空気にならないようにって、ついいらない気を回しちゃったな」


 きっと、このままデートをしても楽しめた。だけど、疲労は無くなるはずもないし、ちょっとしんどいなという気持ちは心のどこかにずっと居座っていただろう。そんな思いをした状態でデートを続ければ、確かに楽しいという思いに水を差していたかもしれない。そんなことをするくらいなら、早めに帰った方がいいと。どうせ、帰っても一緒にいられるからと。だから何でもないようにデートを終えて帰ろうとしてくれたんだ。

 ただ、私と一緒にいられる時間があれば何でもいいと言うテオに、ジンと胸が熱くなった。握られている手も同じくらい熱くて、しんどいなんて気持ち、どこかに吹っ飛んだ気がした。




 夕方にテオの家にたどり着けば、既に店は閉まっていた。今までこんな時間に店仕舞いすることなんてそうそうないので、テオは怪訝な表情でドアを開ける。


「ただいま、母さん? 何で店閉まってんの? 何かあったのか?」


「え? テオ、今日は何でこんな早いの?」


 店は閉めているのにキッチンにいたロッテさんは、テオの思いがけないほど早い帰宅に心底驚いているようだった。薄い、新芽のような黄緑の瞳を丸くして、唖然とした表情を向ける。


「昨日の大会の疲れが残ってるから早めに切り上げてきたんだけど。何だよ、早く帰ってきちゃ悪かったのかよ」


 言い訳としてロッテさんにたまには早く顔を見せないと怒られると言っていたのに、まさか邪魔者のように言われてテオは居心地悪そうに顔を顰めた。ちょっと不憫に思いながらも、遠慮ない言葉に私は堪らず苦笑する。

 でも、実はロッテさんが慌てている理由も知っているので、テオの少し後ろで彼女に見えるように手を合わせて謝罪しておいた。


「そうじゃないわよ。もっと時間があると思ってたから慌てちゃったのよ。今日は特別な日だもの」


「特別?」


「テオ、今日は何日?」


「え? 十日だろ?」


「そ、秋の月(10)の十日。テオの誕生日だよ!」


 しかも、今日で十八だ。つまりこの世界でいう成人の日。こんなおめでたい日はない。テオが祝勝会しようぜって提案してた時、完全に自分の誕生日を忘れている様子に実は吹き出しそうになっていたのは内緒だ。

 案の定、さっきのロッテさんより驚いた表情で固まるテオに、私は横をすり抜けて振り返った。


「だから、今日は店も休んで誕生日パーティーだって、実はずっと前から決まってたんだから」


「はあ?!」


「後で教会の子達も来るわ。夜だから神父様達にも許可をもらったけど、帰りは悪いけど送ってあげてよ」


 主役にさらっと護衛を頼むあたり流石ロッテさん。まあ、このメンバーの中で一番強くて頼りになるのはテオなので、仕方ないことだけど。


 そして、夕方から気合いを入れて準備していたロッテさんは、店内のテーブルのほとんどに美味しい料理を並べていた。その頃にはよく手伝いに来てくれるリック達が店にやってきた。


「テオ兄ちゃん、成人おめでとう!」


「これ、ただのクッキーだけど」


 入ってくるなりにお祝いの言葉を口にして大きな袋をテオに手渡す。ここに来られる子供達はあまり多くない。手伝いができる十二歳以上の子供だけだ。だからミミアは来られない。それでも、教会にいる子供達全員でこのクッキーを作ってくれたんだろう。


「いつも食べてるクッキーより豪華なんだからな!」


「オレ達がお金出して材料買ったんだ」


「マジかよ。すげー嬉しい。ありがとな!」


 子供達のお給料は決して高くない。忙しいお店の手伝いではあるけど、この店自体大きくはないし、手伝ってもらっているのはピーク時だけだ。それでも子供の身で安心して働ける場所は少なくて、こうして子供達は喜んで働いてくれている。決して多くないお給料からこうしてプレゼントされるのはすごく嬉しいんだろう。満面の笑みでクッキーを受け取って、そのまま子供達を抱き締めていた。


「さあ、皆も一緒に食べてね! もちろん、余った分は居残りの子達に持ち帰ってくれていいわよ」


「わあ! 本当? ありがとう!」


「ロッテさんのご飯美味しいからずっとみんなに食べてほしかったんだ!」


 わいのわいの盛り上がる場に笑顔が溢れる。しかも教会の子だけでなく、いつも来てくれる常連さん達も顔を出しに来てお祝いの言葉を口にしてくる。穏やかで、平和で、そして特別な一日だ。テオが恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに笑っていて、私も嬉しくなってその姿を眺めた。


「ありがとね、ティーナちゃん。協力してくれて」


 一番端の席に座っていたら、隣にロッテさんが座った。おじさんに絡まれているテオは、必死にお酒から逃げているようだ。成人したのでお酒も解禁にはなるけど、平民で出回っているものはエールくらいで、まだその年では美味しいなんて思えないだろう。匂いからして好きじゃないのか、必死に抵抗している。


「何言ってるんですか! テオのお祝いだもん、協力くらいします。でも、早く帰ってきちゃってすみません」


「テオがああ言ったってことは、ティーナちゃんが疲れてたんでしょ? 大丈夫よ」


 穏やかに笑いながらテオを眺めているロッテさんは、だけどそっと私に視線を向けてきた。伺うような瞳に、何か聞きづらいことがあるのだと理解して、私は静かに見返す。ロッテさんがこんな風な態度を取るのは珍しい。気まずい何かがあるということは、おそらくそれは私のことというよりも、テオのことで聞きたいのかもしれない。

 今、それで思いつくものは一つだけだ。


「……あの子が、王宮騎士団の推薦を断ったと聞いたの。本当?」


 やっぱり。でも、気になるのは当たり前だ。私だって少し前までテオはお父さんと同じ騎士団に入りたいんだと思ってたんだから。テオは、騎士団に不信感を持っていることを、誰にも言っていなかった。ロッテさんには、言えるはずもなかった。お父さんに関係することだからこそ、ロッテさん自身が触れて来なければきっとずっと言わなかったと思う。

 ロッテさんも気まずさがあるからテオに直接じゃなく私に聞いているんだ。


「はい。国王陛下直々に勧誘されてたけど、断ってました」


「……ティーナちゃんは、理由を知ってる?」


「はい」


 一か月前、王子が私達に打ち明けてくれた会話を思い出す。




『こんな場所にいたからこそ、上の人間に見つかり――――殺されてしまったのだと』


『上の人間、とは?』


『それはわからない。私も当時はまだ幼く、その会話が恐ろしいことはわかっていたが、どう対処すべきか判断がつかなかった。ただ、何年経ってもその会話が頭から離れず、ずっとこびりついていた。だから覚えていたのだ。セドリック殿が死んだ事実も、セドリック殿が何者かに殺された可能性があることも。

 テオドール、さっきも言ったようにきっと君は今までの優秀な成績を評価され、王宮騎士団へとスカウトされるだろう。素行調査は既に終えている。むしろまだ声がかかっていないのが遅すぎるくらいだ。でも、まだ間に合うと思ったから君にこの話をした。この事実を君が知っているのと知らないのとでは、きっと騎士団入りのことも考えが変わるだろう。知らぬまま騎士団入りを決めていたら……きっと私は報せなかったことを一生後悔すると思った。自己満足とも言える行動だと思うが、それでも、伝えておきたかった』




 王子は当時六歳。そんな幼い時に聞いただけの会話をずっと覚えていた。それほどショックなことだったんだろう。だけど、そんな曖昧になったはずの記憶を、きちんと伝えに来てくれた。テオがこれを知らずにいれば、きっと騎士団入りしてしまうかもしれないから、と。

 王宮の騎士団が平民とはいえ仲間を殺害した。それが事実で、しかもそれが噂として広まってしまえば、民が王家に不信感を抱く材料になるだろう。それほどデリケートな案件だと、王子だってきっとわかっているはずなのに。それなのに、わざわざテオに伝えに来てくれた。

 その王子の気持ちを、無関係と言える私が踏みにじることはできない。

 だから、その時の会話はロッテさんに伝えはしない。だけど……。


「ずっと、お父さんが死んだ時から、テオは騎士団に不信感を持っていたみたいです。死体もないことや、死んでしまった経緯の違和感。それがずっと拭えずに、悩んでいたから騎士団に入るのは、心配……らしいです」


 騎士は忠誠心がないと務まらないものだ。特に王宮騎士となれば、王家への絶対的忠誠と揺るがない信念を持って務めるべく役職と言える。それなのに、自分の父の死の原因が、その王宮騎士にあるとするなら、到底気にしないでいられるはずもない。だから、これは仕方ないことだ。きっと王子が言わなくても、テオは断っていたに違いない。


「そう……やっぱりそうなの。薄々は気付いていたのよ、私も。だけど、寂しいものね。あの子が、それを私に言ってくれないなんて」


「そう、ですよね。でも、テオはきっと、ロッテさんを護るのはもう自分しかいないって、思ってたからじゃないですか?」


 セドリックさんとロッテさんは相思相愛のおしどり夫婦だったと聞いている。そんな相手を喪ったロッテさんは、きっと見るに堪えないほど落ち込んだに違いない。たった一人の家族だ。母親を……ロッテさんを護るのは自分だけしかいないのだと、きっと幼いテオは思ったんだ。

 幼くとも……いや、幼いからこそ、その覚悟は生半可なものじゃなかったはず。護られてしまうようでは護れない。となれば、甘えるなんてこともできないはず。

 騎士団に不信感を持っていることを、ロッテさんに打ち明ければきっと不用意に慰められてしまう。きっと、テオはそう思ったんだ。だから、今まで何も言えなかった。


「そうね……。でもよかった。ティーナちゃんがいてくれて」


「え?」


「ありがとね。あの子の隣にいてくれて。あの子の傍にいることを、望んでくれて」


 嬉しそうに微笑んだロッテさんは私の手を握った。少しかさついてるけど、暖かいその手に、何だか安心してしまう。まるで、フィーネさんの手のようで。


「あの子があんなにもまっすぐに、強く生きられたのは、ティーナちゃんがいてくれたからよ」


 ありがとう、ともう一度言われて胸がこれ以上ないくらいいっぱいになった。

 そう、なのかな?

 私が傍にいるだけで、テオの力になれてるのかな?

 私がいることで、テオが強くなれているのかな?


 テオの隣は誰にも譲らない。そう思ってはいるけど、私は自分に自信があるわけじゃない。

 むしろ自信がないからこそ、勉強も魔法も欠かさずに取り組んでいるつもり。誰にだって認めてもらえるように。言いがかりを付けられないように。


 だから、嬉しい。テオ自身に認められたことも。ロッテさんにそう思ってもらえたことも。

 願わくば、この信頼が、この関係が、ずっとずっと続きますように。私はそう願わずにはいられなかった。



 

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