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21.決勝戦

 燃え盛る炎の壁があちこちに存在している。高く生えた植物は極限まで水を抜かれ、そこに投下された火の魔法により炎の色が薄くなるほど高温と化していた。流石にこれほど大胆な方法を使うとは思っていなかった私とテオは、一瞬茫然としてしまった。


「捨て身ってわけでもないし、こっちもこの火を消すのはかなり苦労するし、なかなかすごい戦法だね」


「おいおい、呑気にそんなこと言ってる場合かよ」


「何言ってるのよテオ。道を塞いで不利になるなら向こうも同じでしょ。それに、あっちとこっちで戦力差があるわけじゃないし、どちらかと言えば魔法属性ではこっちが勝ってるんだから、どうにでもなるよ。とりあえず、向こうの動きがわからないことには難しいから、私連れて空でも飛ぶ?」


「へいへい。まあ、それが一番か」


 試合開始と同時にリリーが木属性魔法で植物を生やしたかと思えばそれに王子が火をつけた。まあ、その程度のことなら今までの闘いでもあったから油断してたんだけど、まさかここまで大がかりなことをするなんて思いもしなかった。気付けば火の壁に囲まれているし、避けて近づこうと思っても新たな壁ができていて、正直もうあっつい。すんごい、暑い。涼むためにもここから離れたいのが本音だったりする。


 慣れたようにテオが私の腰を引き寄せて飛行魔法を展開する。観戦席と同じ高さまで飛び上がり、下を覗く。しかし、微妙な位置に飛んだせいで熱気はむしろ上がった。そうだよね、熱って上ってくるんだっけ。それでも、飛行魔法によって周囲が風に包まれているからまだマシなんだろうな。


「うわ、あいつらの周囲以外ほとんど塞がってる」


「あれで、どう私達に攻撃する気だったんだろう……」


 自分達だけには裏をかけるようにルートを用意しているんだと思ったのに意外だ。王子とリリーの周囲は間隔をあけてはいるけど、全て火の壁に覆われていた。こっちの足止めをしたいのかと思ったけどそうじゃないみたいだ。思いがけない状況に困惑していると、ふと王子と目が合った。その瞬間、何となくだけど二人の考えを察した。


「――、テオ、今すぐ下りて!」


「え、何で? このままじゃ近付け――うわっ!」


 案の定、王子はその場所にいながらも魔法を放ってきた。見晴らしのいい上空にいる私達は姿を隠すことができないし、地上に降りても火の壁を処理するのは難しい。王子達だってそれなりに魔力消費をしてしまうけど、一方的に魔法攻撃できるなら話は別だろう。

 テオが使っている飛行魔法は魔法操作が難しいものだ。飛びながら他の魔法を使うことは可能だけど、精度は確実に落ちてしまう。それを見越した上で、その魔法を使うように仕向けたのだ。


(とはいえ、あの火の壁を消すのは難しいし、こっちから何か放ったとしても、あっちだってすぐに対応しちゃうだろうし……)


 悶々と考えて、だけど自分が持つ属性に一つの可能性を見つける。水魔法を使ったとしても鎮火するのは難しい。木魔法も論外。テオの魔法もこの状況には不利に思えた。だけど、土魔法なら、まだやりようがある気がした。上空に行ったことで相手との距離感も掴めたし、やれないことはないはず。


「どうするんだ?」


「試してみたいことがあるの、一回下りて」


「了解」


 次々と襲ってくる風魔法を器用に避けながら、テオはそのまま地面に着地する。どちらにしてもあのままではこう着状態だ。まあ、それはそれで王子が先に魔力が尽きそうな気もするからありだけど。

 でも、そんな微妙な闘い方で優勝しても納得できないし、テオだって物足りないだろう。だから、今度はこっちの番だ。

 着地した場所と王子達がいた場所の距離を考えながら、私は土魔法を展開した。炎の壁の下から盛り上がった土は人一人が通れるくらいのトンネルを作り出した。


「うわっ! マジか、なるほどな!」


「テオ、先制攻撃。まずここに火の玉ぶち込んで!」


「よっしゃ!」


 トンネルができたとしても通っている間にまた炎の壁で塞がれたら意味がない。その前にまずは攻撃だ。

 言葉通り火の玉を投げ込んだテオに、更にそれを追うように風を思い切り送り込んでもらう。


「こんなことしたら先に投げた火の玉消えねえ?」


「消えないよ。特にテオが作った火の玉だし、テオの風に反応して大きくなるだけ」


「え? そうなのかよ」


 火炎剣なんて編み出しているんだからそれくらい理解しておいてほしいんだけど。まあ、きっとテオのことだから「こんなことできたら格好いいだろうな~」って感じでやってみて上手くできたからやった! て感じなんだろう、うん。

 なんて、ついつい遠い目をしてしまう。だけどここでのんびりしているわけにはいかないので、テオと共にトンネル内に入り込んだ。その間にも何度か同じように火の玉と風を送り込んでもらい、ようやく王子達がいる場所へと出た。目論見通り、断続的に続く攻撃にリリーが水の幕を張って防御していたので、それ以外は何もできなかったようだ。ということで、ようやく事態が進みそうだ。


「あれどうする? 火で相殺する?」


「ううん、私に任せて」


 私達が来たことで動きにくくなったんだろう。そのまま水の幕を張り続ける二人にテオが相談してくる。だけど笑顔で答えればテオは一歩後ろに下がった。水の幕を張っているのはリリーだ。悪いけど、まだ師として負けるつもりはない。

 水の幕は防御するために張っているもの。それ自体に攻撃性はないように思える。もちろん、イメージ通りに動くのだから、リリーが想像すればその瞬間、この水の幕は兵器にもなり得る。だけど、彼女がそんなことをする発想がないことは知っている。だからこそ、私は迷いなくその膜に触れた。

 触れる必要はあまりないんだけど、その方がやりやすいのは本当だ。彼女の魔力が巡る魔法を、私の魔力で上塗りするように働きかけた。


「ッ、え、嘘――! きゃあ!」


 コントロールを失った水の幕はパアンと弾けて四散する。圧縮されたそれは、かなりの水量だったようで、しばらく通り雨のように降り注いだ。そのお蔭で周囲の炎の壁は勢いを失っている。熱気も無くなるかと思いきや、火が消えたわけじゃないのでむしろ蒸し暑くなっちゃった。

 この隙を逃すはずもなく、テオは一直線に王子へと飛びついた。だけど、テオが剣を振る前に王子が火を送り込む。流石に身構えないと火傷必須だ。しかし、テオは気にせずにまっすぐに王子へと向かっていくのを見て、王子が焦り出す。

 もちろん、そのまま火に飛び込むのを見送るつもりはない。テオ自身に私の魔力を残しておいたので、それを元にテオの周囲に水の幕を張った。じゅあっと音を立てて消えた火と同時にテオは王子に剣を振るう。ここまで近づかれたら魔法で対応するのも難しく、王子はそのまま剣を打ち合わせた。

 ああなったらなかなかフォローもしにくいので、私はリリーを相手にすることにする。思った以上に連係プレーできるみたいだしね。放置したら痛い目見るのは私達だ。

 それに、リリーは根が優しいからこういう闘いに不慣れなだけで、実際は有能だ。だからこそ、王子をフォローして決勝戦まで進んで来たんだし。油断はしない。

 迷いなく走り始めた私に、リリーはすぐに反応した。彼女も私を十分に警戒しているのだから当たり前だ。私の邪魔をするようにリリーの前に木の壁ができる。だけど、それを土魔法で無理やり崩した。植物は基本的に根を張る地面が無くなれば脆いものだ。あまりにも対応が早い私に戸惑うリリー。悪いけど、ほとんど属性がかぶっているリリーの行動は手に取るようにわかる。水では押し潰したり、窒息寸前にさせたり、流したり、強引な方法を取ることになる。私の過去の闘いを少しでも見ていたなら水から氷を作ることも可能なことは気付いているかもしれないけど、本番ぶっつけでそれを試すようなほどリリーは無謀ではない。となれば、攻撃として用いるのは木属性になる。生やせば壁になるし、蔦を使えば捕えられる。水と比べれば穏便に決着がつけられるだろう。

 きっとそうするだろうと思っていたから、木魔法を使ったら土魔法で崩すことは決めていた。私の迷いない行動に驚愕したリリーの隙も予想済み。一息でリリーの元へと滑り込んだ私は、容赦なく腕を掴んで捻り上げた。地面に倒して押さえつけ、同時に木魔法の蔦で彼女の体をそこに拘束した。


「勝負あり!」


 審判の声と共にハッと顔を上げる。リリーは脱落したと判定されたのですぐに魔法を解いた。同時にテオの方に視線を送れば、あっちは完全に剣の勝負に移行している。

 まあ、メイン属性は違えど、どちらも風と火を使う者同士。魔法でやり合い続けるのは無理があるんだろう。しかも、お互いに剣で打ち合うことになれば、魔法を展開するのも至難の技だ。イメージして展開する魔法はどうしてもズレが生じる。どれほど速くても思い描いたタイミングで繰り出すのはかなりの経験を積まない難しい。こればかりは私も手が出しにくいので見守ることに決める。

 スピードはテオの方が上。だけど、一撃の重さは王子の方が強いようで、打ち合う度に互いに苦悶の表情を浮かべている。テオの攻撃が王子の手足をかすめる。だけど、決定打にはならず打ち返された際にその一撃の重さにテオが一瞬だが動きを止める。もちろんその隙を逃さず王子は更に剣を振って肩へと打ち込む。寸前のところで身を捻って躱したけれど、完全に逃げ切ることはできずに背中に受けてしまう。決定打としては弱い。だけど、徐々にお互い満身創痍になり始める二人にヤキモキしつつも見守った。

 そして唐突に気付く。魔法で応戦できないのなら、さっきみたいに接近戦で少しでも王子の気を逸らせればいいのでは、と。だけど、同時に別のことも気になってしまう。


(これ、手出してもいいのかな?)


 ここまで見守っていて今更二人の闘いを妨害してもいいのか、と。だけど、いつまでも悠長に見守っているわけにもいかない。


「テオ、後三分!」


 だから、仕方なく制限時間を設ける。後三分だけ手は出さないと。その言葉の意味を理解したテオは、荒くなり始めた息をそのままに、口だけで笑った。


「りょーかい」


 返事をしたその瞬間、グンとテオのやる気に火が付いた。おそらく長距離走でのゴール直前にやる最後の追い込み走みたいなそんな動きに、王子は咄嗟に反応できない。元々早かったテオのスピードが更に増したことで更に一撃、腿に受けてしまう。痛みで鈍くなった動きを見逃すこともなく、テオは更に足を進める。一度体勢を崩してしまうとなかなか戻すのは難しい。テオも手を抜くことがないのだから当たり前だ。だから、力があってもその力を発揮できない王子は、最終的に速度のあるテオに押されて行く。そして、もう少しで約束の三分がくるというその瞬間、限界を迎えた王子が片膝をついた。一度合わせていた剣を引いたテオは、変わらない速度で背後に回り、王子が対応するその前に背中を打ち付ける。


「あ、ヤベ……!」


「勝者、テオドール&ティーナ!」


 審判の声とテオの漏らした声は重なっておそらく私と王子にしか聞こえていなかっただろう。接戦すぎて手加減できなかったテオは、余裕なんてあるはずもなく寸止めするなんて考えが抜けていた。だから、つい力いっぱい王子の背中をぶっ叩いてしまったようだ。なかなかモロに入ってたけど、王子大丈夫かな?


「やべ、やべ! おい、大丈夫か?」


「ぐぅ、君の剣を、まともに受けて、大丈夫なはず、ないだろ!」


「わりぃ! オレも余裕なかったからつい……っ! えーっと、えっと、ティナ! ティナ! 出番だ!」


「試合終わってから出番言われてもねえ……何か複雑だよ」


 まあ、ここで治療師って言わないところがテオの信頼を勝ち得てる証だからいいけど。はいはいって返事をしながらもちゃんと駆け寄る。王子に何かあっては困るもんね。


「テオも後でちゃんと治すからね」


「ああ、流石に今回のはいてーから素直に受けるって」


「もぉ~」


 テオを睨み付けつつも王子に手をかざして魔力を流す。あちこちに打ち身や打撲があり、転々とした魔力の乱れを感じるけれど、重傷ではない。一分ほど魔力を流せば全快だろう。


「これは、すごいな……こんなにも早く傷が癒えるなんて」


「ティーナさんの治療魔法は本当にすごいんですよ、王子殿下」


「ああ。君が師として教えを乞うわけだな」


 負けちゃいましたねと王子に話すリリーの表情は穏やかだ。それに対応する王子にも悔しさは感じられない。思ったよりもこの二人がバディとしていい関係を築いているように見えて、私はそっと安堵する。何度か話をした感じでは王子がいい人だというのはわかっていたけど、確信があったわけじゃない。それに、良い人であってもすれ違いや勘違いから気まずい思いをすることだってある。だけど、この雰囲気を見る限り、杞憂に終わったのだろう。


「完敗だ、テオドール」


「こっちこそ、ちょっとヤバかった。だけど、王子殿下との対戦はすげー楽しかった!」


 個人的な場ではないのにすっかり敬語を使うことを忘れているテオに、王子は苦笑を漏らすだけで文句は言わない。若干ハラハラしつつも、この王子がこんなことで不敬だと声を荒げることはないとわかっているので敢えてスルーしておく。だけど、周囲に人がいる場合は違うだろう。今は生徒がいないから何も言われないけど、貴族がいたら大目玉に違いない。もう少し世間体というものを理解してほしい。

 そんな私の不安を感じ取ったのか、それとも元々考えていたことなのか、王子はタイミングよくある提案をしてくれる。


「できれば君達には名前で呼んでほしいんだが、どうだろうか?」


「名前……?」


 朗らかに微笑んだ王子の言葉にテオはキョトンと目を丸くして首を傾げた。仕種がちょっとあざといなと思ったのは内緒だ。


「えっと、確か……」


「え、何で悩んでるの?!」


 まさか忘れたんじゃないよね? 違うよね? 冷や冷やとしながら突っ込むと忘れてねーよと呆れ顔で先に返されてしまう。それならいいけどと思いつつも不安は拭えない。


「ジルシエーラだろ? えっと、様はつけるべき、ですか?」


「いや、君さえよければジルでいい。君のことも、できればテオと呼ばせてもらえないだろうか?」


「え、いいの? そんな慣れ慣れしく呼んで。そう言うなら、遠慮なく言っちまうけど」


「ああ、それがいいんだ」


 遠慮なんて最初からする様子のないテオに、王子は嬉しそうに目を細めて笑った。そのままの流れで私やリリーにもジル呼びをお願いしてきた。流石に私もリリーも呼び捨てにはできなかったので、ジルシエーラ様と最初は呼ばせていただくつもりだ。


「そうだ、君達も何なら愛称で呼んでもいいだろうか? 呼び捨ては少し気が引けるので、リリー嬢とティナ嬢と」


「はい、大丈夫です!」


「え、っと……」


 嬢はついてるけど、これってありなのかな? って思ってついついテオを横目で確認すれば、アウトらしい。テオはさっきまで浮かべていたご機嫌顔を一気に真顔に変えて駄目と言い張っていた。私の名前だけ。どうしてテオが、という疑問は何故かここでは上がらなかったのがむしろ疑問だ。


「私のことはティーナと呼び捨てにしていただいて大丈夫です、ジルシエーラ様」


「そ、そうか? わかった」


 テオの勢いに引いていた王子は、私の言葉を助け船だと思ったようで、どうにか笑みを浮かべてティーナと呼ぶことで場を収めた。

 こうして、決勝戦を終えた私達は、戦友と呼べるような絆を築いて表彰台へと向かったのだった。




 優勝を飾った私達は、特別サロンの使用権と記念の楯をなんと国王陛下直々に手渡された。あまりにも特別仕様過ぎる今年の対応にどう反応していいかわからない。羨望の眼差しが集中するのがわかる。見られすぎて焼き切れそうだ。


「そうだ、この場を借りて君達に是非提案したいことがある」


 おめでとうという陛下からの有り難すぎるお言葉を頂いて、早々に表彰台から離れたいと思っていたのに、まさかのこのタイミングを待ってましたとばかりに陛下が話を始めた。ええー、待って待って、このタイミングで口開くって嫌な予感しかしないんだけど。


「テオドールは一年の時から三位入賞という素晴らしい成果を出していたのは私の耳にも入っている」


「きょ、恐縮です」


「去年優勝を飾った時に既にほとんど決まってはいたのだが、どうせならと今年まで引き延ばしていたのだ。このような機会があることを願ってな」


 陛下のこの口ぶりから考えると、今年の訪問は去年から既に決まっていたってことになる。そんなに、今年は何か特別なことでもあるんだろうか。私が見た限りではそうとは思えなかったんだけど。


「君を、できるなら城の騎士団へとスカウトしたいと思う。もし、まだ行くところを決めていないのであれば、考えてほしい」


 国のトップが口にするにはあまりにも優しい言葉選びだ。私達が平民だから配慮してくださった結果なのか、それとも元々の陛下の気質なのか。それはよくわからないけど、この瞬間がいつか来ることは予想していた。だから、チラリとテオに視線を向けながらも私は彼が返事をするのを静かに待った。

 いつかは打診されるだろう。それは確定していた未来でもある。それほどテオの力は強く、騎士に向いている能力だ。平民であっても騎士なら実力ですぐに上に上がれるだろう。陛下から直接言葉をいただいたという事実があるのなら、思っていた以上の出世コースになるに違いない。


 だけど、テオの返事はずっと前から決まっている。


「……陛下自らオレを買ってくださり、とても有り難く思います。ですが、今のオレは城の騎士団に入るほど、忠誠心を見せることはきっとできません。ですので、すみませんが今のところはその打診を受けるつもりはありません」


 そうキッパリと返事をした彼に、僅かながらに陛下は驚きの表情を向けた。だけど、流石は陛下というべきかすぐに元に戻してそうかと、優しい声で呟くだけだった。


「では、君はどうだ? ティーナ嬢。君なら、神官としてでも、治療師としてでも、ましてや城の専属魔法師としてでも歓迎するが」


 思ったよりも多くの選択肢を与えられてちょっとびっくりする。神官も治療師も覚悟はしていたけど、まさか魔法師……しかも城専属と言われるほど待遇をよく考えて下さるとは。そんなに評価していただいて嬉しいけれど、私の答えも既に決まっている。


「申し訳ありませんが、私はどんな道に行くにしても、一つだけ決めていることがあります。それが叶わない以上、どこかに身を置くことは考えておりません」


「ほぅ? その決めていることを聞いてもいいか?」


「はい。私は学校を卒業後も、テオの隣に立てる身分を望んでいます。ですので、テオが城に入らない以上、私も城に身を置くことはありません」


 こればかりはどんなに好条件を出されても譲れない。だって、私がずっとずっと望んでいたことだ。テオが勇者になり、私はその他大勢という括りになったとしても、彼の隣にいる為に今まで努力してきたのだから。

 だから、申し訳ないと思いながらも、頷くことはできなかった。


「やれやれ……強い人間を得るのも大変だな」


「陛下から直々に打診を受けるとは思わず、私もテオドールもとても嬉しくは思っているのです。ですが、今はまだ、個人的な理由で大変恐縮ですが、城に身を置くには不安材料があり、いい返事ができません。申し訳ありません」


「ふむ、その理由について聞いても?」


「……申し訳ありません。どうしてもというのなら、王子殿下から話を伺ってください」


 テオに視線を向けながら伺えば、テオは頷いて了承してくれた。王子が認めてくれれば話してもいいという合図だ。そこで王子が出て来るとは思ってなかったのだろう、陛下は驚いたように視線を横の王子へと向けた。


「なるほど、ジルが知っていることではあるのか。わかった、今回は大人しく身を引こう。しかし、一度断られたとしても、君達の力を諦めるのは惜しい。また時期をみて改めて打診するとしよう」


 とても失礼なことをしているにも関わらず、陛下は朗らかに笑って許してくれた。王子が言っていた通りだ。叱責もお咎めもなかったことにテオと一緒に肩の力を抜いてしまった。そのせいで、その後すぐに陛下へ謝罪の言葉を口にした時は、少し間の抜けた声になってしまったけど、誰も気付いていないことを祈るばかりだ。



 

もしかしたら、今週の木曜更新が危ういかもしれません…!(既にストックが切れているマン)

頑張りますが、更新できなかったら潔く月曜に回してしまうので、察してください(泣)

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