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5.勉強会

 ということで、放課後にお馴染みのメンバーで勉強会をすべく私の部屋にご招待!

 ちなみにここは貴族の女子寮になるから、本来男性は入れないんだけど、きちんと申請をして、訪問する人が男性だけでないのであれば、昼間のみ許可してくれる。たまにどんな理由があろうと男性が入れない期間も存在するけど。


「ここ、いつ来ても広いよな」


「もー、テオ先輩、いつ来ても部屋は変わらないんだから、広いの変わらないに決まってるじゃないですか!」


「……平民用の寮はどれほどなんだ?」


「えっと、少なくとも、寝室よりも小さいと思います」


 貴族二人に平民三人。どちらの寮がどうなのかという話をするには十分な人数なんだけど、平民の一人であるはずの私が貴族向けの寮にいることは何かの間違いだと今でも思いたい。


「そういえば、爵位に寄って部屋の大きさって変わるの?」


「変わるよー。基本的に寮は誰でも入れさせてもらえるけど、部屋の大きさについては寄付金の額に寄るんだもん」


 初耳情報に思わず動きを止める。そっか、そうだよね。こんな豪華な部屋までもタダで使わせてもらえるなんて、そんな美味い話があるわけないじゃんね!


「ま、待って、私のこの部屋って……」


「一階とは言え、角部屋でこの広さだから、子爵家並の広さはあるんじゃないかなあ」


「ってことは、ロイドの部屋はもっと大きいのか?」


「……そうだな。二階になるし、部屋も一つ増える」


「え、まだ部屋があるんですか? すごいですね」


「どんだけの寄付金でそこまでの部屋がつくんだよ……。てか、マジでティナはどういう経緯でこの部屋になったわけ?」


「ティーナさん、自腹でこの部屋を?」


 四人が驚きで私を見てくるが、そんなわけがない。いくら将来を考えてそこそこ貯金をしていた私であっても、ただの平民が、そこまでの金額集められるはずがない。頑張ったところで精々男爵並の金額じゃないだろうか(それすらもどれほどの額か知らないけど)。

 元々、この部屋が用意された経緯は私とは関係のない所だ。私は精々キッチンが広い方がいいとお願いしただけ。主席だからってこんな豪華な部屋に回されるはずもないし、となれば答えは簡単だ。


「……寄付は、宰相閣下が出したってこと、だよね」


「「「「え?」」」」


 あ、しまった。声に出てた。

 いやー、でもそうだわ。迂闊だったわ。少し考えればわかることじゃん。いくら何でもこんな豪華な学校、国のお金だけで賄える訳がない。となれば、入学する貴族から何らかの形で資金を調達していると考えるのが自然だ。

 つまり、私は気付かぬうちに後見人以外にも彼に借りを作ってしまったわけだ。何か嫌だな。好意からやってくれてるのかもだけど、私と彼には何の義理もないのに?

 ダメダメ。考えるのやめよ。そもそも、あの人私に何も言ってこなかったんだから、このことについて私が恩を感じる必要はないということだ。それに、後見人が宰相で、かつ公爵当主なのに、私普通の寮にいるのも外聞が悪いし。そういったあちら側の都合でこの部屋に決まったのかもしれないし。


「何で宰相がお前の部屋代を払うんだよ!」


「てか、ティーナちゃん宰相閣下と知り合いなの?」


「……流石に俺達でも顔を合わす機会ないが」


 あー、思わぬ事態に言葉に出たのが悔やまれる。折角誤魔化してたのに……いや、誤魔化されててくれてたのに、結局話すことになるのかあ。


「私の後見人が、宰相閣下なの。だから勝手にこの部屋を用意されてて、入学前にもきちんと顔を合わせて直々に主席の挨拶をお願いされたの。ということは、この部屋に見合う寄付金を、宰相閣下自ら支払ったと考えるのが自然でしょ? 今まで気にしてなかったけど、寄付金が必要だって知ったら、驚くのも無理はなくない?」


 はあ、と重い溜め息をついて訴えれば、四人は顔を見合わせる。そして、テオとマリーはとても残念そうな顔をして、リリーは苦笑して、ロイド先輩は相変わらず無表情のまま、けれど同じ言葉を口にした。


 驚く点が多すぎて何に対して突っ込めばいいのかわからない、と。




「す、すごい、こんな計算方法があるなんて!」


 マリー達とは何度か勉強会を開いたことがあるからこの反応を見るのは久しぶりだ。リリーの言葉に、他の三人も頷いて同意して見せた。


「どうして計算なのに暗記するのか不思議でしたが、確かに一桁の数字の掛け算を暗記するだけでも計算が楽になりますね」


「覚えるのに苦労するけどね。でも、一度身に着いちゃえば、使ってればそうそう忘れることもないし」


 私の言葉にはい、はい、と律儀に相槌を打ちながらもリリーは感動したように何度も九九を繰り返し口にして覚えている。

 リリーは最初から躓いているから、学校でも理解できずに戸惑っているタイプの子だった。基本を知らないから、応用を教えられてもどうしてそうなるのかわからず、立ち往生している。だから、基礎をしっかり覚えさせて、きちんと順序立てて説明すれば、素直な性格も相まってぐんぐん知識が深くなっていくだろう。


「あ、解けました!」


「うん、正解。この調子ならすぐ追いつけるよ。まずは焦らず基本を完璧にしようか」


「はい! ありがとうございます!」


「ティナー、これはー? 何度やっても解けない」


「これ? これは……あー、テオ、ここ! 掛け算に直すの忘れてるでしょ! だから間違えるんだよ!」


「あ、なるほど! おい、ロイド! お前、絶対気付いてただろ! 何で教えてくんねーんだよ!」


「……テオに教えてると、キリがない」


「うっせー!!!」


「てか、テオ先輩、いつまでティーナちゃんに教わってるんですか? いや、それでティーナちゃんが教えられる方もおかしいけど」


「ティーナさん、三年のテストしても首位取れそうですね」


「あははは! ありえそー!」


「……先生に頼んで、テストもらってこようか?」


「そこ! 同意しない! 面白がらない! テストはしません!」


 仲良く勉強会するのは嫌じゃないけど、たまにこうやって収拾つかなくなるのは考え物だ。


 一息つこうということで、作っておいたクッキーと紅茶を振る舞う。たまにこうして私の部屋に集まることも増えたから、食器を揃えるのに難儀したんだけど、この寮の侍女に相談したらレンタルがあると言ってくれて本当によかった。まさか、こんな貴族の寮にレンタルなんて存在するとは思いもしなかったから。


「ふわああ、ジャム、ジャム付きなんですか! そんな豪華な食べ物、頂いていいんでしょうか?」


 孤児院暮らしだと、甘味は甘い芋等しかほとんど食べられないリリーにとっては、おやつはかなりの贅沢品だ。フルーツの入ったパンをあげた時も驚きで固まっていた彼女は、やっぱりクッキーにも異常反応を示した。


「大丈夫大丈夫。このジャム、この前テオと一緒に山でたーくさん摘んできたベリーで作ったものだから」


「あれは大量だったな。去年ティナがいなかったからその分増えたんじゃねーか?」


「そうかも。あの場所、見つけてから欠かさず毎年摘んでたしね。ちょっと張り切って取ってきちゃったから、もしよかったら一瓶あげるよ」


 調子に乗ってたくさん摘んでほとんどジャムに加工したら全部で三瓶にもなっちゃって驚いた。売るにしては量が少ないし、自分で使うにしては量が多い。それに、この世界には保存方法が少ない。手作りは腐るのも早いのだ。


「え、そんな、高価なもの」


「私がこんなに持っていても腐るだけだもの。一瓶丸々あげるよ。何なら、リリーの分は小さな瓶に移してあげるから、残りはリリーの孤児院に差し入れすれば? 私も南区の孤児院に一瓶送るつもりだったし」


 私の何となしの提案に、リリーはこれ以上ないほど目を見開いて驚愕する。何度も、そんな、でも、と繰り返していたが、やがて涙目になりながら絞り出すようにお礼を言ってきた。そして私を拝んでくる。まるで神様のように。

 いや、そこまでかな? そんなに! そんなに感動することかな?! それにしても拝むのはやめようね?!

 と、とりあえず喜んでもらえて何よりだよ……。




 今日の勉強会は概ね良好に終わりを告げた。異性を夜まで部屋に入れておくことはできないので、寮の入り口まで見送りに出るけど、各々自室に戻る背中を見ながらも、その内の一人の手を掴んだ。


「わ、何だよ?」


「あのね、前に行ったあの鍛冶屋から連絡来たの! できたんだって! だから、また一緒に行ってくれる?」


「できたって……まさかあのヘンテコナイフか? マジで作っちまったわけ? あー……いいって言いたいけど、次の休みは配達が多いって聞いてるから、当分手伝いを休むわけにはいかなくてさ」


「あ、そっか……そうだよね」


 テオの実家は南区にあり、私が依頼した鍛冶屋は北区にある。近場なら店の手伝いをした後にちょっと寄ればいい話だけど、正反対の区に移動するには馬車が必要になるくらい距離があるし、移動にもかなり時間がかかる。しかも、夜六時になれば区間の門が閉じてしまうから迂闊なことはできない。

 それに、テオがお店を休むときは、大抵私の我がままに付き合ってもらっているときだ。忙しいのをわかっていて無理に休ませることはできない。


「来週末なら休めるかどうか母さんにも聞いてみるけど」


「ううん、大丈夫。元々受け取りに行くだけだし、一人で行ってくるよ」


「え! いや、でも、」


「大丈夫大丈夫! ごめんね、何か毎回テオと一緒だから、今回も一緒の方がいいなって思っちゃって……甘え過ぎちゃったね」


 別に、本当にただ受け取るだけだ。それだけのために、わざわざテオを巻き込む必要はない。それなのに、つい思ってしまった。心細いな、なんて。どうかしている。一人で一年近く旅をしていたのに。テオと再会してまだたったの三か月しか経ってないのに。それなのに、こんなにもテオに依存し始めている。


「別に、甘えてくれたっていいんだって。むしろ、オレはそれを望んでるって、お前知ってるだろ」


「へ? いや、でも、これはただの我がままじゃない?」


「それの何がいけねーんだよ。オレは、……何でもできるようなお前が、そうやってオレを頼ってくれんの、嬉しいけど」


 少し照れたように口にして、そっぽを向いたテオに、私は思わず顔を上げた。テオの顔が赤く見えるのは、夕日のせいだろうか、それとも……。

 どちらにしても、嬉しいと言われて胸が熱くなった。自分がしていることを否定しない。受け入れて、更に支えようとしてくれている。その事実が嬉しくて仕方がなかった。


「ありがとう。でも、やっぱり受け取りは自分で行ってくるね! テオはお店の手伝い頑張って!」


「……わかった。でも、人通りが多い道で行けよ! あと、陽が高い内に済ませること」


「テオ、何だかロッテさんみたいだよ?」


 心配してくれるのは有り難いけど、私を幼子と勘違いしてない?

 もしかして、私テオの妹ポジなの? 






 南区は旅人にも開けた首都の玄関口と言うべき場所だ。そのため、宿屋や道具屋、親しみやすい飲食店が割合多く集まっている。


 対して北区は身内のためのプライベート区と言っていいだろうか。ここが首都だからこそ、王都には他の領地と比べて騎士や文官が多く住んでいる。それに伴い、必要になってくる店も偏るのは必須だ。騎士なら鍛冶屋、文官なら専門書や専門魔道具、文具といったものなど。

 しかも、一店舗で補える数ではないので、鍛冶屋でも何十もの店が存在する。そのせいで、同じ分野の店が増え、並び、激戦区となっている。鉄を打つうるさい音や、鉄を溶かす熱気漂う無骨な区域だ。しかも、騎士と文官、どちらも必要な物はこの北区で揃えることが多いせいで、何かと揉め事も多いらしく、北区の中でも東西で店の種類が変わる。雰囲気は正直に言えばあまりいいとは言えない。


 ちなみに、東区は貴族のための高級専門店が集まる土地だ。劇場や美術館といった娯楽を含め、ドレスや靴などの装飾品を扱う店が数多く存在している。

 店の種類によって、集まる人種も変わる。つまり、治安も変わるのも必然だ。東西南北の内、一番治安が悪いのは住居区の西区だが、その次に悪いのはここ北区だ。だから、テオはまるで保護者のように心配していたわけだ。


 まあ、でもいくら治安が悪いと言っても、それでもここは王宮で務める重鎮たちが集う北区。変に絡んでくる馬鹿はいないだろう。


 そう、思ってんたんだけど。


「お嬢ちゃん、こんな所に何しに来たんだ? そんな細腕じゃあ、剣なんて触れねーだろうし、わざわざ包丁頼みに鍛冶屋まで来てねーだろう?」


 ヒック、としゃっくりをうざったいほど繰り返しながら、ニキビだらけで赤くなった顔を近づけてくる男に、私は隠すことなく顔を顰めた。

 サケクサイ。昼間っから飲んだくれている奴に出くわすなんて、流石に想定外だった。


「包丁なんて頼んでません。私は、ちゃんと自分のための武器を頼んでるんです!」


「もしかしてこーんな小さなナイフでも頼んだのかあ? アヒャヒャヒャ! そんなの持ってたところで護身にもなりゃーしねーよ。そんなに自分の身を護りてーなら、護ってやろうか? オレが」


 ふ・ざ・け・ん・な! だーれがあんたみたいな飲んだくれに護衛なんか頼むか! それなら丸腰の私の方がまだ全然戦えるわっつーの!


 怒りでフルフルと震えているのを、何を勘違いしたのか男はニヤアっと気持ち悪い笑みを深めるだけ。吐き気がしそうだから離れてほしい。


「いいぜ、護ってやるよ。代わりに、お代はあんた自身で払えよ?」


 もう、いいや。話を聞いてやる価値もない。テオの言葉通りに大通りを歩いていたはずなのに、どうしてこんな目に遭うのかな。てか、どうして昼間なのにそんなにめぼしい人いないんだろ。誰かに助けてもらえるなんて思ってないけど、それにしてはまともな人が誰もいないっていうのはどうなんだ。

 頭が痛い気持ちになりながら飲んだくれの脇をすり抜けようとした。けど、急に腕を取られて建物の壁に押し付けられる。


「――ッ」


 いったぁあい! 掴まれた腕もそうだけど、押し付けられた背中もジンジンと痛む。どこか痣になってたらどうしてくれるんだコイツ。あまりの痛みに涙目になって男を睨めば、ニタリと更に気持ち悪く口角を上げた。


「いいねえ、その顔。そそる」


「ふ、ざけない、で! 放して!」


「何言ってんだよ。お前を護るためにはまず前払いしてもらわねーといけねーだろ」


「貴方に払うものなんてないし、貴方に何も依頼もしない! 放して!」


「うっせーな。いいから、ほら、オレの宿に来い」


 勝手に一人で盛り上がって勝手に腕を引かれる。素早さや反射にはそれなりに自信があるけど、単純な腕力には敵わない。男女の差もあるけど、元より私の体は華奢の方で、どれだけ体力をつけても筋肉はそんなにつかなかった。だから、男の力に抗うことは難しくて、だけど素直に言うことを聞くはずもない。ありったけの抵抗として足を踏ん張る。


「こいつ! おい! 言うことを聞け!」


「聞かないわよ! こんなのただの人攫いじゃない!」


「はあ? そんなわけねーだろ! おめーはオレのもんだ!」


「名前も何も知らない人に、モノ呼ばわりされる覚えはないっ! いいから放して! 放せ!」


「このっ!」


 元より酔っ払い。理屈の通るようなことを言うはずはないけど、これは酷い。何一つとして了承した覚えなんてないし、願った覚えもない。何なら、ただ鍛冶屋に自分の武器を作ってもらったと答えただけで、どうしてこの男に護衛の任務を与え、その報酬に自分を差し出すことになるのか。

 頭腐ってんじゃないの?


 とにかく、ここで魔法を使えば簡単に倒せるけど、相手は丸腰の男。私より力があると言っても、体を作っているようには見えないから、騎士とかじゃない。明らかに非戦闘員に対して、正当防衛という理由で魔法を使うのは躊躇われる。せめて、巡回騎士とかが来てくれたらいいのに。


「言うこと聞きやがれ!」


 必死に抵抗していれば、男が空いた手を大きく振りかぶった。その瞬間、私は抵抗を一切やめて力を抜く。もちろん、相手は必死に私を引っ張ってた状態なので、振りかぶったその体勢のまま後ろに大きく崩れた。


「うわっ!」


 その隙を見て掴まれた腕を払いのける。大きく体を後ろに動かして距離を開けた。


「こ、このやろー!」


 まあ、逆上するよね。でも、酔っ払いは酔っ払いだし、戦いの〝た〟の字も知らないような男の拳なんて、怖くない。ブンブンと大振りで振り下ろされる拳を、私は冷静に見極めて最低限の動きで躱す。一回、二回、三回攻撃を躱しただけで、相手はぜぇはぁと息も絶え絶えだ。何とも情けない。まだそんなに年がいってるわけでもないのに。


 でも、これ、いつまでやってればいいんだろう? 騎士はまだかな? あ、でも騎士が来ても、私も時間取られるやつだよね? あーそれは面倒臭い。やだやだ。さっさと諦めて帰ってくれないかな。


(せめて、学校の制服で来てれば、こんなことにはならなかったな)


 魔法学校の制服は、騎士と同じくらいの牽制効果がある。まあ、そりゃあそうだよね。魔法学校に通う人間はほとんどが貴族なんだから。下手に手を出したら文字通り命がない。だけど、今日は休日で、寮から来たとはいえ、制服をわざわざ着る考えはなかった。今度からは制服を着ようと自分に言い聞かせる。

 反省したところで今のこの状況が変わるはずもなく。すでにひぃはぁと情けない呼吸になっているにも関わらず未だに拳を振ってくる男を冷めた目で見つめた。


「こ、こいつ、うろ、ちょろ、と!」


「これでわかったでしょ? 貴方なんかに簡単に従うような女じゃないって。だから、そこ、退いて!」


「う、るせー! ぜってー、泣かす!」


 ああ! もう! わからずや!

 苛立ちのまま魔法をぶっ放してやろうかと考えたその時、向かってきた男の頭を、誰かが掴んだ。そして、そのまま横に振り払う。


「ぎゃっ!」


「まったく、変な男に絡まれやがって」


 地面で悶える男を見ながら溜め息をついた男に私は驚きで目を丸くした。赤みがかった焦げ茶色の髪をかき上げながら、少し不機嫌そうな顔をするその人は、懐かしの人だった。こんな場所で会えるなんて思っていなかったし、まさかその人に助けてもらえるとも思っていなかった。

 だから、思わずテンションが上がってしまった。跳ねるようにしてはしゃいで近づいた。


「ガーシュおじさん、久しぶり!」


「おう! まあ、なんだ、元気そうだな。相変わらず」


「まあねー!」


 彼は、フィーネさんの所に年に何度か商品を売りに来る旅商人。テオに渡した転送魔道具を探し出してくれた、信頼できる人だ。

 近々会いたいとは思っていたけど、今まで家に売りに来るだけだった彼と連絡する手段はなかったので、どうしようと思ってたんだ。魔法学校に通っている今、偶然顔を合わせるのは難しくて、だけどいろんな場所に気まぐれに旅している彼がここにいるタイミングなんてわかるはずもない。だから、半ば諦めていた。


「助けてくれてありがと! しつこかったからどうしようと思ってたんだ」


「あー、まあ、あのままやってたらその内こいつが勝手にダウンしてただけな気もするけど」


「それでも時間が無駄でしょ? 早く決着ついてよかった。ね、ね、そんな事よりガーシュおじさんに頼みたいことがあるんだけど、また相談乗ってくれる?」


「そうだなあ」


 顎に手を当てて悩む素振りをするものの、この人のコレは基本〝振り〟だ。商品を仕入れる時も、売る時も、悩むなんてことはほとんどしないで即決する豪快な人だ。それに、私の頼みは内容を聞かなくても大体は頷いてくれるほどに甘いことも知っている。

 それを証拠づけるように彼はニッに大きな口を開いて笑い、私の頭をポンポンと撫でた。


「ま、嬢ちゃんのお願いは断れねーな。いいぜ、聞くだけ聞いてやる」


「やったー! ありがと、ガーシュおじさん!」


 飲んだくれの相手は疲れたけど、結果彼に会えたならまあ、いいか。そう気持ちを切り替えた私は、まずは鍛冶屋まで付き合ってくれと彼にお願いするのだった。



 

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