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1.私としては、

 三年生に二人。二年生に三人。魔道具が光った人がいた。内、二人は既にバディとして成立している。辺境伯の双子の子供らしい。納得するバディだけど、結局この魔道具は〝何の〟相性がいいのか、はっきりしてくれない。


「ティーナちゃん、何だかさっきから元気ないけど大丈夫?」


「う、うん」


 一緒にいるマリーが私の心配をしてくれている。有り難いけど、今はそっとしておいてほしい。ショックが消えない。バディが判明するまで魔道具を放しちゃいけないってのはこんなにも堪えるものなんだなあ。ずっと目に痛い青白い光を浴びせられているなんて。

 まあ、周囲はともかく、持っている本人は相当眩しそうだ。目を開けてすらいないもの。


「次の人どうぞ」


「はーい!」


 呼ばれて先にマリーが魔道具を受け取る。その瞬間、マリーが持った魔道具が光った。ヒュッと息を呑んで光を凝視すれば、それは優しいオレンジ色の光だった。途端、深く息を吐いた。よかった、テオじゃない。


「ええええ、うそ、わたし? ど、どうしよ」


「とりあえず、前に行ってきなよ。相手も確認しなきゃ」


「う、うん」


 自分が魔道具に選ばれるなんて思っていなかったマリーは戸惑いながらも私が言ったように前に出る。魔道具が持ってかれてしまったので、予備を回してもらうまで待つしかない。まだテオの相手が決まっていないことに安堵しながらも、意味もなく焦っていた。

 焦ったところで、もうどうにもならない。この教室の中にテオのバディがいる。それは事実だ。つまり、私は別の人とバディにならないといけないわけで、憂鬱な気分で俯く。


「はい、お待たせしました。どうぞ」


 予備の魔道具を差し出されて、私はそっと手を持ち上げた。その瞬間、また光った。二つ隣の列から伸びるその光は、とても眩しい。けれども、テオほどではない。それに、光の色も青というよりは紫に近い。


 よかった、またテオじゃない。


 わかってる。こんなことで安堵したところで意味がない。それに、結局自分じゃない誰かが選ばれる事実は変わらない。


(せめて、男の子ならいいのに)


 それなら、無意味にもやもやする理由はないのに、と自嘲しながら、ようやく水晶を手に取った。


「わっ!」


「きゃっ! ま、眩しい……!」


 あああああ! 目が、目があああああ! リアルにこの叫びを言う日が来るなんてええええ!

 あまりの眩しさに投げ捨てるように魔道具の水晶を放り投げた。途端、目を直撃していた強烈な光が消える。

 あー、びっくりした。テオはよくこんな光に耐えられてたな。って、ちょっと待って。私、テオとバディ組めないだけじゃなくて、バディの相手すら勝手に決まってるの?


「て、あれ?」


 さっきバディが決まっていない人で残っていたのは三人。その内の一人はマリーとバディで。もう一人はさっき光っていた紫の光の人。じゃあ、残りは?

 思考が働かなくて硬直していれば、マリーの時みたいに魔道具に選ばれた人達が集まる場所への道ができる。その先にいるのは、馴染みの人だ。その人は未だに強く光っている魔道具を握ったまま、懸命に薄く目を開けようとしていた。


「あの、私の光って……何色でした?」


 魔道具を届けてくれた人に思わずそう問えば、彼女は困惑気味に淡い青だったと色を教えてくれた。淡い青。そして、目が潰れそうな強い光。それはまさに、道の先にあるあの光と同じ。唯一バディが決まっていなくて棒立ちしているテオの光。

 嘘だ。絶対都合のいい夢だ。そう思ったけど、でもそれでもいい。だって、これは私の望み。私だけじゃない、テオの望みでもある。自分達の意志であり、そして魔道具が示す相手。

 落ち込んでいた気持ちが吹き飛んで、どこからか歓喜の感情が湧き上がる。もう、周囲のことなんてどうでもいい。とにかく二人でこの感動を分かち合いたい気持ちで小走りで前に出た。


「テオ!」


 声を上げる。同時に、テオも私の声に気付いて水晶を隠すように手の中に閉じ込めてこっちを見た。近付いてくる私に、ようやく事態を飲み込んだらしい。パッと顔を明るくして前に数歩出てきた。


「やった! バディだよ、バディ!」


「本当に? 奇跡じゃね?」


「ね、ね! すごいよね! 諦めてたからすごい嬉しい!」


 再会した時のように飛びついてきた私をテオが抱き留めてそのまま高く体を上げてくれる。ずっと一緒だったテオと、学校でも二人でいられる。もし、お互いに違う人がバディになっていたら、きっと気軽に会うなんてことできなかったと思う。そんなの、意味がない。だって、私が魔法を習うのは、この学校に通うのは、全部……ぜーんぶテオと肩を並べるためなんだから。


「嬉しい……」


「ティナ?」


 胸に気持ちが溢れる。一緒にいたいって気持ちが、一緒にいられるんだっていう安堵の気持ちが、歓喜が、いろんなものがごちゃごちゃになって、声にならない。堪らなくなってテオの首に抱き着いた。


「私、運命っていうのあんまり信じてないし、あっても自分には関係ないって思ってた。でも、こればかりは、あるのかもって……思っちゃう」


 どんなことがあってもテオの隣にいる覚悟はしていた。その思いや立場をもっと強めるために、一度はテオの傍から離れて自分を磨いてきた。それに、テオも私を認めてくれていることはわかってた。

 だけど、こればかりは不安だった。自分達の意志とは関係のない相性で決まる相手。年頃の男女なら運命的でロマンチックなのかもしれない。まるで、伝説の聖女と勇者のように。でも、私にとってその〝運命〟は呪いに近い。だから、きっと自分の思うような結果にならないんだと、ずっとそう思っていた。

 だから、嬉しい。


「……ティナ。なあ、少し離れろ」


「うん」


「うんって、返事だけして流すな。おーい!」


 一緒に喜んでいたはずのテオは突然慌て出した。首に抱き着く私を無理に引きはがそうとしてきて、ちょっと面白くない。そんなに私に引っ付かれるのは嫌なのかな? そう言えば今までも何度かこういう場面はあったけど、毎回最初は嫌がってたし。不貞腐れつつも仕方なくテオから身を放せば、その場の空気が異様なことに気付いた。


「え?」


 全員が私達に注目していた。驚愕顔を浮かべた生徒達の視線に、顔を引きつらせてテオを見れば、彼は彼で溜め息をついて項垂れていた。

 これは、もしや、私のせいかな?


「……テオ、お前恋人がいたんだな」


「……ちげーから」


 すぐ脇に立っていた黒に近い藍色の髪の人に、静かで低い声音で問われて、テオは今度こそその場に蹲ったのだった。




 少しはわかっていたはずだった。テオはこの学校では割合の少ない平民で、しかもその中で貴族にも勝る魔力の持ち主。一年、二年と続けざまに武術大会で入賞している上に、二年の時は殿下を差し置いて優勝をしている。そんな相手に注目が集まるのは必然で、その証拠に実家のお店だってあんなことになってたんだから。だから、一年の、しかも主席を取った私がテオとあんな親し気にしてたら、そりゃあまあ、あんな空気にもなりますよね。


「たく、何のために昼食の時すぐに離れたと思ってんだよ」


「ごめんって。でも、テオとバディ組めるってわかって嬉しかったんだから、仕方ないじゃん」


「ぐっ、ま、まあ、それはオレもそうだったけど……。とりあえず、紹介しとくよ。オレが二年の時にバディを組んでたロイド」


「……ロイド・タッサだ」


「で、こっちがティーナ」


「ティーナです。よろしくお願いします」


 あの後、騒然となりながらもどうにかそのまま他の人のバディ決めが始まり、バディ同士の親睦を深めるための時間が設けられた。私とテオ、そしてテオの友達であるロイド先輩、そしてこれもかなりの偶然なんだけど、そのバディに魔道具で選ばれたマリーの四人で部屋の片隅へと移動した。


「それで、こっちが同じクラスの友達、マリエッタ」


 そのままの流れでテオにマリーを紹介すると、彼女はにこりと笑みを浮かべてカーテシーを行った。


「マリエッタ・ロティと申します。テオドール先輩のお噂は耳にしておりました。以後、お見知りおきを」


「あー……そういう畏まった挨拶はいいよ、オレには。ロイドとはバディ組んでたんだ。これからはバディの友人同士ってことで、よろしくな」


 気まずそうな顔をしつつも、マリーに対して気安い態度で対応するテオに、少し安堵する。

 テオはおそらく勘のいいタイプなんだと思う。あの店の前で絡んできた女生徒の態度について意外だったからあの後ちょっと聞いてみたんだけど、自分が好まない人に対して元々気を許すことはしないらしい。それに、自分に合う合わないは、顔を合わせた時に何となくわかるようで、だからこそマリーのことを気にしていないということはテオにとって害のある人じゃないって思ってくれてるってことだ。

 まあ、テオの感覚をどれほど信じていいかはわからないけど、今のところ警戒する必要はないのかな。


「にしてもすごいね! 幼馴染の二人が魔道具でバディとして選ばれるなんて! 私、絵本でも見ている気分だったよ」


 聖女と勇者が選ばれる条件というものはきちんと伝わっていない。だからこそ、絵本や物語として伝えられる二人は、まるで運命の相手のようなロマンチックな表現をされるものばかりだ。

 このバディも、どのような相性がよくて選ばれるのか明かされていない。けれども、確かにこうしてペアが決められるということは、その相手が運命の相手のように感じるのは普通だろう。

 今回、歴代の中でも最大の人数がバディとして選ばれた。全部で四組という中で、元々知り合いで、だけど他人なのは私とテオだけ。しかも、他の誰よりも魔道具の光は強かった。


 私も、奇跡だと思うくらい、だけど……でも。


「聖女と勇者という伝説で考えるなら、私としてはあっちが本物だと思うんだけどなあ」


「あっちって……もしかして殿下のことか?」


 そう、私達以外のバディはあと二組。その内の一組は辺境伯の双子。もう一組は何と! 二年にいる王子殿下と一年生の女の子だった。自分のことで頭いっぱいだったから全然その二人のことは見えてなかったんだけど、離れる前にちらっとだけ見てみたら、あまりの光景にギョッとした。

 王子殿下は輝かしいばかりの銀髪を一つに括り、宝石のような綺麗な青い瞳をした美丈夫。その隣に立っていた女の子は光をキラキラと反射させる見事な白金を波立たせ、透き通った紫水の瞳をした美少女。まさに絵になる二人とはこのことだと感激してしまった。


「あの子、平民の女の子でしょ? あれだけ綺麗な子で、しかも殿下のお相手が平民! これぞまさに王道パターンじゃない?」


「おうどう? ってのはよくわかんないけど、でも……まあ確かに平民から勇者や聖女が生まれた例は無くもないしな」


「そうそう。それでも、二人共平民だった試しはないよね?」


 そう。聖女も勇者も、一度は平民出が選ばれたことはある。けれども、歴代の中で二人共平民から選ばれたことはただの一度もない。そのことも踏まえればヒロインっぽいのはまさにあの子の方だ。

 まあ、でもそれっぽいという感覚は、以前のものなので、テオ達に説明したところで理解してくれないだろう。


「私は、あの子のことちょっと心配だな」


 自分よりも目立つバディがいるということで安心している私とは他所に、マリーは気遣わし気にあの二人がいるであろう方向に視線を向けた。


「平民の子が殿下のお相手でしょ? 去年は地位を考慮して侯爵家のご子息と組まれていたって聞いたけど、今回は魔道具による選定。誰も文句は言えないけど、その分あの子自身の当たりが強くなりそうだよね」


 なるほど、虐めかあ。それも王道パターンだよね。


「彼女、最下位クラスだもんな。バディ相手が殿下となれば平民からも距離を置かれそうだしな」


 あー、まあ、地位があり過ぎる人と付き合いある人に近づくのはリスクあるよね。特に一番下のクラスにいる人達は、今後自分の成績を上げることに必死だし、煩わしいことには近寄りたくないか。


「……そう言う意味では、ティーナも同じなのでは?」


 静かにロイド先輩に問われて視線を上げる。三人が私の方を注視しているのに気づいて、思わず何度か瞬いた。


「別に、大丈夫だよ。だってテオが元々いたし、マリーとも友達になれたから孤立はしないし。それに、元々テオさえいればいいって思っていたからあんまり気にしてない」


 それに、私に手を出したら危ういのは多分相手側だ。大っぴらにはされてないけど、私の後見人はこの国の宰相なんだから。……まあ、基本的に泣きつくつもりはないけれど。

 となると、もし彼女が不当な扱いを受けていたら、一番助けやすいのは私なんだろう。私はただの平民だし、私の相手も平民のテオだ。保たないといけない体裁はほとんどないし、いざとなれば多分護ってくれるだろう後ろ楯も存在する。

 だけど、ただ相手がヒロインっぽいというだけの印象で、人を助けてあげるほど私はお人好しじゃない。可愛い子だったし、同じ平民として頑張ってほしい気持ちもある。だけど、知り合いでもない相手を今から助けてあげないと、と思えるほどの正義感も義務感もない。

 だから、心配しているマリーにもあの子について私が何か意見を言うことはない。


「ま、ティナがそう言うなら、それでいっか」


「そ、そうだね。ティーナちゃんには私がいるからね」


「うん、よろしくね!」


 話が一段落着いたことだし、早速魔法について実力を見せ合おうと提案をしてみる。けれども、その途端テオがものすごい渋い表情を浮かべて首を振った。


「ティナ、お前が魔法使うなら、絶対人がいない上に外がいい」


「……何で?」


「オレは、それで盛大に注目を浴びたからだ。お前はその比にもならないくらい騒ぎになるに決まってる。下手したら教師とか城のお偉いさんが来る。やめとけ」


 なんかすっごい失礼な気がしたのは気のせいじゃないと思う。






 開き直っているとはいえ、私の事情はほとんど世間に知られていない。となれば、学校の人達にとって私は目障りな存在だろう。何せ、まともな教育を受けていないはずの平民が、名誉あるこの学校で頂点を取ってしまったのだ。しかも、相手は平民とはいえ、既に確固たる地位を築いたと言っても過言ではないテオと魔道具によってバディに決まった。何も知らない人から見れば、何もかも運よく手にした恵まれた人間と思ってもおかしくはない。

 バディはともかく、首位に関しては実力だけど、何か一つでも気に入らなければいちゃもんを付ける人はどこにでもいるものだ。


「どういう手を使ったのかわかりませんが、あまり調子に乗らない方がよろしいわよ」


「平民では貴方のような方が好まれるのかもしれませんが、ここは身分は関係ないと言えど貴族が占める学校。身の程を知った方がよろしくてよ」


 ニヤニヤと私の顔を見て人気のない場所で口にするのは顔を見たこともないお貴族様。五人ほどいるけど、その内の二人は違うクラスの同学年にいた気がする。他は全然記憶にないから、きっと上級生なのだろう。

 貴族なら、顔を見ただけで誰かわかるんだろうか。そんなことをぼんやりと思いながら私は小さく溜め息をついた。


「なっ! 貴方今溜め息をつきましたね!」


「あら、聞こえちゃいました? それは失礼しました。あまりにも退屈なお話だったので漏れてしまったようです」


「まあ! 私を馬鹿にしているの!」


 驚き声を上げながらもさっきから私を罵る彼女はおそらく上級生。他の人達が同調するように声を上げるということは、地位も高いのだろう。だけど、そんなこと私には関係ない。


「いえ、あまりにも身に覚えのないことで注意をされたので驚いてしまいました。先輩……でよろしいんですよね? 私、貴女方とは初対面だと思うのですが、教えて頂けませんか? いつ、どこで、私が調子を乗った姿を見たのでしょうか? せっかく忠告していただいているのに、どのような行動が誤解を招いているのか理解できなければ私自身も気を付けようがありませんので」


 にっこりと笑う。どの世界でも、笑顔は武器だ。綺麗に微笑んで自信に満ち溢れた表情を作るだけで、威圧感というものは生まれる。それに、女の身で一年旅をしてきたのだ。これくらいの揉め事なんて、可愛いものじゃない?

 案の定、私の態度にたじろいだご令嬢達に私は少しだけ柔らかい笑みに変える。


「ああ、もしかして誰かと間違われたのでしょうか? 仕方ありませんね、私、見目も平凡で高貴な貴女方には他の平民の方と見分けがつかなくなってもおかしくありませんし」


「え、ええ、それは……」


 違うとも、そうだとも言えない。違うと言えばまたさっきの質問を投げられて答えないといけなくなるし、そうだと言えば結局この人達の言いがかりだと肯定してしまう。どうすべきかと悩んでいるその間に私はトドメを刺す。


「ですけど、いくら同じように見えてたとしても、今の私は皆様と同じ学校に通う者。こんな少数の人の見分けくらいできないと、これから先、高貴な方の世界では生きていくのは大変ではないでしょうか?」


「なっ! 何ですって!」


「だってそうでしょう? 爵位のある方はここにいる人達だけではないのですから。私にとって高貴なお方はどの方も神々しく、眩しい人ばかりで、遠目からでは顔を見分けることも恐れ多く難しいですけど、高貴な方は元より眩い世界にいるのです。爵位のある方はもちろん、そのご子息ご息女も見分けるのは必須能力なのでは? 本格的に社交が始まるのはこれからと言っても、今からその能力を磨いておいた方がご自身のためではありませんか?」


 スラスラと知ったかぶりをしてみるものの、あながち間違いではないだろう。それでも、私には無関係のことで余計なお世話だ。そう言われたら素直に引き下がるしかないのだが、あまりにも図々しい言葉にお上品に生きてきたお嬢様方は唖然と私を見つめていた。


「あ、出過ぎたことを言いました。申し訳ありません」


「……ッ、そうよ! 何を言っているの!」


「申しわけありません。ここでの会話はどうぞお忘れください。私も、何も聞いていなかったので」


 私の言いがかりを聞かなかった代わりに、私が言った言葉も水に流せ。そう脅しをかければ彼女達はグッと唇を噛み締めた。まだ食いつくことはできただろうに、そうしなかったのは冷静さを欠いてはいないんだろう。

 これ以上私に何かを言えば、どんな反撃があるかわからない。それくらいの予測がついているようだから。

 だから私は満足に微笑んで失礼しますと一方的に言葉を放ってその場を後にした。




「ティ、ティーナちゃん、強いね」


 いつからいたのか、影に隠れて私を見ていたマリーが引きつった笑みを浮かべてそう口にした。助けに入ろうとしてくれたのかもしれない。そう思うと自然と頬が緩んでしまう。


「あれくらいなら朝飯前よ!」


「あさめしまえ? どっかのことわざ?」


「ああ、そうそう。朝食前に済ませられる簡単なことって意味。口で文句を言うくらいなら可愛いものでしょ。でも、今後どんな陰険な方法を取ってくるかわからないから、少し警戒しとかないとね」


 乙女ゲームとかでありそうなのはもっと面倒で陰湿なこと。持ち物を壊されたり、突き飛ばされたりとか。無いとは思いたいけど、もしあったら面倒なのは確かだ。私がいるのが貴族向けの寮だということはまだ広まっていないようで部屋に直接来る人はいないけど、それもいつまでもつかわからない。目立たないように気を付けたいけど、もうそれは手遅れだから、せめて実力で黙らせられるようにしようと早々にテストに備えようと心に決める。

 そんなことを思いながらマリーと一緒に教室に戻った。






 だけど、私の予想は早々に崩れる。その後、私が誰かに絡まれることはなく、これと言った虐めもないまま過ごした。だけど、それは単純に虐めが無くなったわけじゃなく、虐めの対象が変わっただけに過ぎなかった。

 それに気付いたのは入学してから約一か月後のこと。昼休みにマリーと一緒に食堂に向かおうとしたその時、中庭の片隅で数人のご令嬢が壁を作っていたことで判明した。




 彼女達に取り囲まれるようにしていたのは、あの殿下のバディとして選ばれた平民の女生徒である、リリアがいた。



 

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