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序章

明けましておめでとうございます!

今週からまた週二の感覚で出来る限りの更新をしていきたいと思います!よろしくお願いします!

 まるでダンスホール並に広い講堂に全校生徒が並んで着席している。全校生徒と言っても、百にも満たない数だ。前世の……以前の世界で通っていた学校と比べると半分以下の数はとても少なく見える。

 それでも、今から自分がすることは、以前含めてこなしたことのない任務で、私は久しぶりに緊張していた。


(貴族含めて百近い人の前でスピーチとか、本当にやめてほしい)


 それでも、後見人が宰相という時点で、断ることは無理だろうし、仕方ない。最初から目立つ行動はしたくなかったんだけどなあ。

 今更、うだうだ言っててもスピーチをやることは決定している。覚悟を決めよう。そう思ったタイミングで、その時を迎えた。


『新入生代表、ティーナ』


 家名がない私の名前が講堂に響いた瞬間、ざわつく。平民? という言葉が至る所で口にされていて、思わず溜め息をつきそうになった。

 何事もないように澄ました顔で立ち上がれば、意図せずにテオの顔が視界に入った。驚きと呆れ。そんな感情が交じった顔を浮かべるテオに、肩を竦めて見せる。

 はいはい、ごめんなさいね目立って。

 テオがこの学校でどんな道標を作ってくれたかは知らないけど、多分私がそれなりに目立つことを考慮して先にいろいろと暴れてくれたんじゃないかなって思う。それなのに、テオじゃどうにもならない方法で私は目立っちゃった。これは確実に後で文句言われるんだろうなあ。

 今後のことを考えて諦めたように息を吐いて、檀上に上がる。そして、考えてきた自分なりの最上の挨拶を落ち着いた口調で語るのだった。






 と、何とかスピーチを終えた私は、指定された教室へと入ったわけですが、まあ平民と呼ばれる存在は私以外にこの教室にはいないですよね。やっぱり。

 貴族だから無理、なんて最初から決めつけるようなことはないけど、それでも緊張はするし、こっちから話しかけにくいのは変わらない。しかも、首席なんてものを取っちゃったから、余計に絡みにくい。ま、まだ序の口。とにかく今日は学校の雰囲気さえ掴めればいいよね。


「ご入学、おめでとうございます。私はこのクラスの担任となりました、マークスです。実は担当クラスを受け持つのは初めてですので、至らない点があるとは思いますが、よろしくお願いします。本日は各授業について説明をし、午後からはバディ決めを行いたいと思います。こちらは既に知っている方もいらっしゃると思いますが、一年間行動を共にする相棒決めのようなものです」


 担任として教室に入ってきたのは歴史学を教えてくれているマークス先生と言うらしい。赤茶のちょっと暗めの髪色を肩より少し上まで伸ばし、後ろで縛っている。薄い灰色の瞳を優し気に揺らして微笑むその姿は、とても穏やかで人好きする顔をしていた。家名がないのは、敢えて名乗らないようにしているだけか、それとも本当に平民なのかはわからないけど、この人なら一年穏やかに過ごせそう。

 バディと聞いて少し胸を高鳴らせる。ようやく、ようやくだ! この学校のその制度を聞いた時からずっと考えていた。テオとバディを組むって。


 授業のガイダンスを終えて、バディ組みの前にお昼ご飯だ。この学校には大きな食堂があって、そこで美味しいご飯を頼むことができる。貴族から平民が通う場所を考慮してあるようで、食事のランクは幅広く揃っている、らしい。と言っても、貴族の割合が多いので、ランク高めのメニューのほうが種類も多いらしいけど。それでも、平民でも頼めるメニューが存在することは有り難い。だけど、毎日そこで食べるとなるとどんなに安くてもやっぱり食費が嵩む。ので、寮の部屋はキッチンのある場所がいいと実は我がままを言っていたのだ。けれど、それを考慮した結果あの部屋割りだったとしても、流石に貴族様の部屋は私には身に余り過ぎているんだけど。


「ねえ、ランチ一緒にしない?」


 食堂でご飯を頼まなくても、そこで食事をするのは自由だ。教室で食べるよりはいいだろうと移動しようとしたとき、不意に後ろから声をかけられた。

 振り返れば女の子が一人、そこに立っていた。優しいオレンジ色の髪を耳より少し上の位置で二つ縛りにして、優しい緑の瞳を私に向けている。顔だちがきっぱりとしていて、可愛らしいイメージの子だ。


「えっと、」


「あ、ごめん。私、同じクラスにいるマリエッタ・ロティって言うの。ティーナちゃんって呼んでいい?」


「え、あ、はい。どうぞ」


 明るくハキハキと言葉を紡ぐ彼女の勢いに押されて、反射で首を縦に振る。それに気をよくしたのか、にっこりと微笑んで彼女はもう一度さっきの言葉を私に投げた。


「ね、一緒にご飯食べよ? 私、ティーナちゃんと話してみたかったの。できれば友達になりたいって」


 まるで平民の友人のような気安い態度に戸惑う。ロティというからには彼女はきちんと貴族の出のはずだ。それなのに、こんなにも普通な話し方をするんだと、意外だった。

 だけど、この世界の貴族は私が以前の世界で考える中世ヨーロッパ的な貴族世界と比べれば結構緩い。一通りのマナーや貴族の世界について教えられてはいるが、想像よりも難しくはないとバリバリ現代社会人の私が思っていたくらいだから。

 だから、学校で、しかもクラスメイト同士ならば、これくらいの気安さは普通なのかもしれない。自分がどのような対応をするのが正解かわからないけれど、彼女から誘ってきた以上、固くなりすぎてもいけない気がする。

 それに、クラスでの友達は必要だ。そう思って、私も笑って頷いた。


 食堂について早々、空いている席を探す。マリエッタさんは注文してくると言ってカウンターの方に近づいて行った。あまり並んでいる人はいないけど、貴族のメニューを選ぶとそれなりに準備に時間がかかる。だから、昼休みは一時間半もあるんだからちょっと呆れてしまった。


「おい、お前!」


 ぽん、と頭を小突かれて振り返る。そこには呆れ顔のテオが立っていた。


「何ですか? テオ先輩」


「ひっ! 妙な声出すなよ」


 これは絶対小言を言われるパターンだと気付いて、敢えて茶化すように甘い声を出した。誤魔化そうと思って口にしたけど、まさか悲鳴を上げられるとは思ってなかった。流石にショックだよ。


「おまえなぁ! 何主席なんて取ってんだよ! オレの今まで築いた土台、台無しじゃねーか!」


「上手いこと言うね! 土台が台無し! まさにその通り」


「怒るぞ」


「ごめんって! 私だってまさか主席なんかになってると思ってなかったから! でも、なっちゃったもんは仕方ないし、スピーチ断れなかったんだもん」


 初日から全校生徒の前で目立つことをしてしまった自覚はあるので、流石に素直に謝る。テオも、この文句は無意味なものだと気付いているんだろう。溜め息をつくだけにとどめた。


「とにかく、あんまり他のことで目立ちすぎるなよ。全部が全部とは言わねーけど、平民ってだけでいちゃもんつけるヤツは少なからずともいるし」


「わかった。気を付けるね」


 じゃあ、また後でと軽い挨拶だけして今は別れる。一人だったら昼は一緒に食べようと誘っていたところだけど、そうもいかない。それに、テオも私を誘わなかったってことは、初日から上級生と仲いい姿を見せるのは目立つ行為になるって思ってるのかも。

 テオが私のために何かしてくれているなら、今テオと一緒にいると、それだけで騒がれる可能性もなくはないし。


「お待たせ~! 席取ってくれてありがと!」


「ううん。何にしたの?」


「今日は一番オーソドックスなガーモのコンフィにしたよ」


 ガーモは以前の世界で言えば鴨だ(ちなみに、鶏はコッコウ)。まるでチョコレートのあれみたいな名前だなって最初聞いた時思った。大きめなトレイに肉料理とパンとサラダとスープが乗っていて、豪勢な食事だ。この一食でいくらするんだろうなとぼんやり思いながら私は自分が作ったサンドウィッチを取り出して広げた。


「……もしかして、それティーナちゃんの手作り?」


「うん。今日はクルミパンとか作る余裕なかったから、普通にサンドウィッチだけど」


「クルミパン! え、もしかして他にもフルーツの入ったパンとか、そういうのも作れる?」


「作れるよ。今度作ってこようか?」


 何気なく聞けば是非! と勢いよく言われた。何だか全力で懐いてきてくれる子犬のような子だなって、失礼ながらに思ってしまう。思わず笑っていいよと頷いてしまった。


「マリエッタさんとなら、仲良くなれそう」


「本当? それならマリーって呼んでよ」


 偏見ではあるけど、貴族の人って、もう少し固いかと思ってた。ちょっと反省しよ。




 そして、そして! お待ちかねのバディ決めタイム!

 一年生は基本上級生に声をかけてもらってバディを組むらしい。けど、その点は安心だ。なんたって、テオは最上級生。異性のバディは私だけと前に言ってくれていたから、きっと今年は私に声をかけてくれる気でいるはず。だから、のんびり構えていればいいわけで……。


「おい、マジかよ!」


「あれ、二年連続で武術大会入賞したテオドールじゃねえ? バディいるらしいぜ!」


 三年、二年、一年と上級生から順に渡されている魔道具。近くに相性のいい人間がいる人は、光を発すると言うそれを渡されたテオは、今、光っていた。青を帯びた光を全身に浴びて、輪郭がぼやけるほどに。


「え?」


 嘘でしょ。だって、今年は私とバディ組むって……魔道具反応しちゃったら、強制的に決まっちゃうじゃん。相性の良さの度合は、光の強さって言われてるけど、何でそんなテオの顔も見えないくらい眩しいの? 相手誰さ。テオじゃないの? 本人だからあり得ないくらい光ってるんじゃないの?

 あまりのことに大混乱中の私は、さっきまでのワクワクもウキウキも消え失せて絶望を味わっていた。


 一番……いや、むしろ唯一と言ってもいいかもしれない。この学校生活で楽しみにしていたことが、音を立てて崩れていく音がした。



 

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