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幕間1.どうやら普通じゃなかったようだ

※幕間はテオドール視点です。


思ったより長くなりました。時期的には本編の闘病のあたりくらいからのテオの話になります。

テオが魔法学校に通い出した時期を目安にしていますので、二年分の話を幕間にします。

『テオ、いいか。本当に将来勇者になりたいと思うのなら、自分が心から護りたいっていう女の子を見つけるんだ』


『まもりたい?』


『そうだ。自分の力で護ってやりたいって思う女の子だ。お前にとって、唯一の聖女を見つけて、お前がその子の勇者になるんだ』


『でも、せいじょがさきにえらばれるんだろ?』


 今はもう、ほとんど覚えていない朗らかな笑みを浮かべたその人は、少し困ったように眉を下げる。何て言えばいいのかなあと、幼い自分に対していろいろ言葉を探っているようだった。オレと同じ、黒く短い髪を風に揺らして、空よりも濃い……まるで宝石のような青の瞳をオレに向ける。


『その聖女様はな、国が選んだ聖女様で、お前のじゃない。お前だって、知らない女の人がいきなり自分は聖女だからテオに護ってほしいって言われてその力を振れるか?』


『うーん……わかんない』


『まあ、そうだよなー。……そうだな、誰かに何かを言われるんじゃない。お前自身が護りたいって思える大切な人を見つけろって言ってるんだ。そしたら、きっとお前はもっともっと強くなる。その女性を護るためにな。父さんが、母さんに出会った時のように』


 当時四歳のオレには少し難しい話だった。けれど、父さんが母さんを見初めた時のようにと言われれば、ようやく理解できた。家族は大切だ。かけがえのない存在で、オレにとっても護りたい存在だった。父さんが仕事で家にいないときは、オレが母さんを護らないといけない。幼いながらもそんな決意だけは胸にあって、同じように思える人を見つければいいのだと理解した。

 だからオレは、無邪気に笑って頷いた。

 皮膚が固くなった手。低く、けれど穏やかな声。がっしりとした体躯。城下町と王都周辺を定期的に見回る任務に就く騎士。それがオレの父さんだった。強くて、優しくて、そして母さんとオレを誰よりも愛してくれる。そんな父さんのことが大好きだった。きっと、これからどんなことがあってもずっと母さんとオレを護ってくれるんだって、そう思っていた。


 だけど、そんな幸せな日々はあっけなく終わった。


 父さんが死んだときは今でも忘れられない。目の前で殺されたわけじゃないし、死んだ顔を見せられたわけじゃない。家に来た騎士が淡々とした口調で報告しに来ただけ。泣き崩れる母さんに、オレはただ傍にいることしかできなかった。慰めようにも、慰められるような心の余裕、オレにだってなかったから。ただ、もうこの家に父さんは帰ってこないのだと、その事実だけが胸を締め付けた。

 父さんを殺したのは魔物だった。王都周辺に出た魔物に襲われたそうだ。普段だったら絶対に死ぬなんてことないのに、動きづらい森だったこと、思いがけないほどの数が出たこと、父さんが他の騎士とはぐれて一人だったことと、不幸が続いた上の結果だったらしい。

 当時七歳だったオレには理解しきれないことが多々あるけど、今となればそれに違和感を覚える。王都周辺の警備は定期的に行っている。森の中だって例外じゃない。もう慣れた場所だ。それなのに、どうしてはぐれるのか。それも魔物が多かったことと関係しているのか。

 多分だけど、人には聞かせられない何かがあると、オレは思っている。

 けれど、それを母さんに言うつもりはない。言っても悲しませるだけだし、何より根拠がない。それに、オレだってどうにもできない恨みで腹の奥がチリチリ痛むんだ。そんな思いをさせたくはなかった。

 今となってはそれだけで済んでいるけど、当時七歳だったオレは、しばらく無気力だった。どこに行ってももう見ることはできない父さんの面影を探してしまう。今、母さんを護れるのはオレだけなんだから、しっかりしないといけないのに、できなかった。ぼんやりと過ごしていれば、誰かから連絡がもらったのか、久しぶりにばあちゃんがやってきた。泣き崩れる母さんの肩を撫でながら励まして、オレにも声をかけてきた。


『よくロッテを支えてやったじゃないか。偉いよ』


 優しい言葉に、オレはただ首を振った。別に何もしていない。何もできなくて、何もしたくなくて、ただ家にいただけだ。母さんを護ってたんじゃない。そんな褒められるようなこと何もしてなかった。


『……まもらなきゃ、いけないのに、オレが、父さんの、かわりに!』


『そう……思えているだけ偉いんだよ。でも、今は私がいる。だから、あんたも素直になっていいんだ。甘えてもいいんだよ』


 ばあちゃんは不思議な人だった。父さんの義理の母親で、オレのことをそれなりに可愛がってくれているっぽいけど、別に甘やかすわけでも、厳しくするわけでもない。ただ、たまに家に立ち寄って、オレの成長を見守っているような、静かな人だった。

 父さんが言うには、自分の時と全く違うらしい。女にしておくには勿体ないくらい厳しい人だったって。そんなこと言われても想像はできなかった。

 そんなばあちゃんが自分に甘えていいなんて、そんな言葉かけてきたのは初めてだった。ばあちゃんだって辛いのに。血が繋がってなくても、自分の子供を喪った痛みは、きっとオレと変わらないはずなのに、それなのに……オレは結局ばあちゃんの胸の中で泣いた。わんわん声を上げて、涙も鼻水も遠慮なしにばあちゃんの服に擦りつけて、それでも何も言わずに背中を撫でてくれた。

 母さんもオレも、その日を境に徐々に気持ちを持ち直すようになった。少しのんびりしたいのなら自分のところに来るかと、ばあちゃんが優しく問いかけてくれたけど、母さんは首を横に振った。


『あの人が死んで、悲しい気持ちはまだ強いけど、それでもこの王都はあの人との思い出がいっぱい詰まってるんです。ここで、あの人に会って、話をして、からかわれたり、怒ったり、笑ったり、そうしてあの人に告白されて、結婚して、テオが産まれて……。だから、その思い出から逃げるようなこと、私したくないんです』


 目を真っ赤に腫らして、声も掠れていて、まったくカッコついてなかったけど、でも微かに目を細めた母さんは、確かに笑っていた。久しぶりに見た笑顔に、オレは堪らない気持ちになって、無言で母さんの腕に抱き着いた。


『オレも、こんどは、母さんまもる』


 一度緩めた涙腺は、すぐには元に戻らなくて、またポトポト涙を落としながら情けない顔でばあちゃんに見栄を張った。その様子にばあちゃんは困ったように笑いながらも、優しい声で何かあったら呼ぶんだよと言ってくれた。

 呼ぶにしては不便な山にいるくせに。今だったらそう言ってしまいそうだけど、ばあちゃんがあまり王都には近づかないことをオレ達は知っていたから、だからその言葉は彼女の中で最大限の気遣いだったんだと思う。


 それからしばらくして母さんは個人店を立ち上げた。元々少し大きめの家を父さんが当時指輪の代わりに購入した家だったから、その一部を改装して小さな飲食店にした。昔は食堂で働いていた母さんは、それなりに顔が知られていたようで、開店当時から好んで足を運んでくれる客はそれなりにいた。改装資金は、父さんの見舞金から賄った。それでも母さん一人だけで店を動かすのは大変で、軌道に乗るまで生活が苦しくなるかもと、オレに苦笑しながら訴えていたのは覚えている。結局、ばあちゃんが開店祝いだって言ってかなりのお金をくれたみたいで、それほど生活が苦しくなることはなかった。

 オレはまだ店の手伝いをするには難しくて、でも母さんを一人で店に残してどこかに行く気にもなれず、庭先で父さんが作ってくれた木剣を振り回して特訓するようになった。

 どんなに小さなことでも、続けることが大事なんだ。そう父さんが何度もオレに言っていたことを思い出して、とりあえず自分ができそうな内容を、毎日続けるようになった。それを一か月、二か月、三か月と続けていき、いつしか日課になっていく。たまにばあちゃんが様子を見に来たときは、気まぐれにオレの特訓を覗いては、一言二言だけ助言をするようになった。父さんがいた時にはありえなかったことに、ちょっとだけ照れくさい気持ちになりながらも、オレは特訓を続けた。

 そして、あの日……。


『おまえのなまえ! ティーナってのは、どうだ?』


『うん、ティーナ! 可愛い名前! ありがとう!』


 オレよりも小さくて、けれどキラキラと輝く髪を振り回して満面の笑みを浮かべる小さな女の子。その子に何となく頭に残っていた聖女の絵本の名前をつけた。その時は別に大した意味はなかった。自分で名前なんて付けたことがなかったから、馴染みのある名前が頭に浮かんだだけだ。だけど、その笑顔を目にした瞬間、これで正解だったんだって思った。


 多分、この子はオレだけの聖女になる。


 勝手にそう思った。きっと、その時には既にオレの中では決定事項だったんだと思う。こんなに小さくてこんなに可愛い子は、オレが護らなきゃいけないんだって、そう思った。


『お前自身が護りたいって思える大切な人を見つけろって言ってるんだ』


 見つけたよ、父さん。

 大人になるまで見守って、大人になってからも傍に居続けたい女の子を。あのキラキラした笑顔をもっと見たいって思った。彼女が悲しくならないように、オレが護らなきゃって思った。オレだけの聖女に認めてもらえるよう、もっと強くならなきゃ。そう思って、次の日の朝から更に特訓メニューを増やした。その結果、まさか朝からあの子に会うことになるとは思ってなかったけど。






「あら、テオ、フィーネさんのところにティーナちゃんの手紙も一緒に送るの?」


「ああ。だって、毎日病室行ってるらしいし、その方が楽だろ」


 今日は春の月の一日。一年で唯一曜日が存在しない日だ。今年もまた、王都での解放祭は活気に溢れていた。去年と同じように出店で作ったお守りを封筒に入れているところを見られて母さんにニマニマと気色の悪い笑みを向けられる。またかと内心で溜め息を漏らした。


「ふふふ、それあんたの手作りでしょ? いい趣味してるわね」


「去年はあいつにもらいっぱなしだから、お返しに作っただけだって」


「でも、ティーナちゃんのために学校生活のこと手紙に書いてから送るんでしょ? 文字書くの苦手なくせに、健気ねえ。いつ告白するの?」


「だーかーらー! 何でもかんでもそういう風に持っていこうとするのやめろよな!」


 こういうこと言うから家でティナのことをするのは嫌なんだ。オレがあいつにばかり構ってたり、他の友達に紹介しなかったり、何か贈り物用意したりすると絶対こうして冷やかされる。だから、なかなかお土産とかプレゼントとか用意できねーんだよ。そういうのが邪魔になってるってわかんねーのかな、母さんは!

 まあ、贈り物が少ないのは元々そんなにお金ねーのも関係あるけど。

 救いなのは明日から学校が始まるから、今日はもう寮に戻ることだな。






「三十一人中二十五位かあ」


 入学式に配られた各々の入学試験の順位を確認しつつ、オレは苦笑を浮かべる。正直に言えば勉強は苦手だし、文字を書くことすら嫌いだから、貴族ばかりのこの学校で最下位じゃないのはマシな気がする。けど、この結果をティナやばあちゃんに知らせるわけにはいかねーよな。

 魔法学校は魔法が使えるほどの魔力を持つ子供なら誰でも受け入れている。一応自己申請で魔法適正結果を報告し、クラス替えのための試験を行い、同時に魔法が使えるかどうか実施で確認をされる。魔力の大きさは関係なく、筆記テストの点数に寄って入学した際のクラスが決まるらしい。

 八割貴族であることもあり、一クラスの人数構成は少なめだ。半分ずつくらいかなって思ったけど、三つのクラスに分けられる。つまり、オレは三つあるうちの中でも一番順位が低い人達が集まるクラスになるわけだ。

 でも、それは結果として気が楽としか言いようがない。魔法は使えても貴族のように勉強することができない平民は基本的にこのクラスに入るから。価値観が似たような奴が多いだろう。


「んだよ、平民ばっかじゃねーか」


 と思ったんだけど、まあ二割くらいしかいない平民だけで、このクラスを構成できるはずもなく、自分の学力を棚に上げてこういう態度を取る貴族はそりゃあやっぱりいるよなー。

 マナーが厳しいはずの貴族のくせに、どうしてこういう時の態度だけは最悪なんだろうか。貴族なんて今までほとんど会ったこともないのもあって、こいつのせいで貴族全体の印象最悪になるんだよなー。


「どうせ平民の魔法威力なんて子供だまし程度の強さだろ。そんな者入学させて何の意味があるんだか」


 十二人の生徒に対応している割にその何倍もの人数が入りそうな教室は、一言で言うなら無駄に広い。どうしてこのサイズにする必要があったんだろうか。教室に入った瞬間意味なく考えてしまった。それなのに、広すぎる教室中に聞こえる声で一人文句を漏らす男に、その教室内は見るからに白けていた。面白いのが、その男以外にもいる貴族もオレ達ほどとは言わないけど、眉をひそめて不機嫌な表情を浮かべていることだ。それなのに、そのことに気付かない。というか、何でこんな男がオレの前の席にいるんだよ。机の間隔が広くても不快としか言いようがないんだが。


「入学おめでとうございます。私がこのクラスを担当させていただきます、アークと言います。この学校では基本的に貴族平民等身分はあまり関係がありません。あるとしたら教師と生徒、同級と先輩、後輩という上下関係のみです。もちろん、人に対する基本的なマナーは必要ですが、生徒内は平等であることを忘れないでください。さて、今日の予定ですが、午前は授業の内容の説明をし、午後からはバディ決めを行います」


「バディ決め、ですか?」


「はい。この学校では一年に一回、バディとなる人間を選びます。基本は生徒の魔力の相性を測定する特別な道具を用いて全生徒が測定をしますが、それではおそらくほとんどの生徒が反応を示さないでしょう。反応がなかった人は自分達で学年関係なくバディになる相手を選んでもらいます。ちなみに、そのバディとは一年魔法授業等で関わっていく上に、武術大会でもパートナーとなりますので、よく考えて組んで下さい。と言っても、おそらく最下級のあなた方は上級生からの声がかかるのを待つのが基本だとは思いますが」


 バディとか、全く知らない人間と組まなきゃいけないなんて面倒な制度だなあ。魔力の相性というのがどういうことなのかわからないけど、オレはその話を聞いてそんなことしか思わなかった。どちらにしても平民であるオレに声をかける人間なんて同じ平民くらいだろう。そう考えると少しは気持ちも楽になる。勉強が嫌いな分、楽しみだったのは実技の授業だったんだけど、気の合う人とバディが組めることを祈るしかないな。


「チッ、んだよ面倒だな」


 また前の男が気分の下がる言葉を吐いている。平民よりもこういう縛られた生活を強いられているはずの貴族なんだから、人前で堂々と文句吐くなよな。


「確かこの学校の今の制度の基盤を作ったのは先代陛下でしたよね?」


「ああ。平民も入学するように学校制度を大幅に見直したって話だ。今の陛下の兄にあたるけど、現王陛下が即位できる年になる約十年だけ王位につく条件に先々代陛下死去と入れ替わりに即位したんだよな。学校自体は元々存在してたけど、先代陛下が即位して暫くして突然大幅に制度改革が行われたんだ」


「あの方は荒れた時代をお一人の力でここまで活気のある国に戻したお方ですわよね。バディ制度を作った真意は私にははかり知れませんが、おそらく何か意味があることなのでしょうね」


 今度は落ち着いた貴族同士の会話が後ろから聞こえる。よかった、やっぱり他の貴族はまだまともだ。にしても前にティナやばあちゃんから十年だけ即位した先代陛下の話は聞いていたけど、貴族の中でもその評価はかなり高いんだな。

 その人は弟に王位を引き継いだ後、公爵位を得て臣下に下ったことは知ってるけど、今何してるんだろうか。


 そんなこんなで怠い授業の説明と、他の教師の紹介を受け、バディ決めを行った。魔力適性を調べる水晶玉とは少し違う形状の水晶を渡される。大きさはとても小さい。オレの親指程の長さと太さの多角形型の水晶だった。それを持つだけで、魔法適性を測定する水晶同様に色が付く人がいるらしい。

 でも、ほとんどの人は色が出ない。というのも、周辺にバディとなり得る相性の高い人がいないと反応しないように作られてるらしい。魔道具っていうのはいろんな数式を組み合わせて作られた特殊なもので、魔法ではできない便利な特性を持っている物が多い。これを人が作るなんてすごいことだよなあ。前にティナが数式を見ながらぷろぐらみんぐ? とか呟いてたけど未だに何のことだかわかっていない。どちらにしても便利道具を作ることも複雑な物を使い切る自信もないからこれから先求めることはないけど。

 んで、オレのバディだけど、まあやっぱり相手は出なかった。というわけで声をかけてくれた気のいい平民先輩と組んだ。その後、自己紹介も含めて特別教室で魔法をお互いに見せ合うことになった。

 オレのバディになってくれた先輩の名前はディーノ。落ち着いた暗い茶髪に黒眼をしていて、何でもベッサの街の更にずっと北に行ったところにある小さな村の出身らしい。特に目立ったものはなくて、村のほとんどの人は農業をして暮らしているんだとか。


「この学校に入ってようやくまともに魔法の特訓したからまだまだ魔法の苦手意識高いんだ。お前はどう?」


「そうですね。オレも魔法ができるようになる前から剣の特訓ばかりなので、苦手意識は高いです。けど、近くに魔法が使える人がいたので、その人に習っていたおかげで一応それなりにコントロールできるようになりました。先輩は魔法何の属性ですか?」


「オレは地味な土。オレの親さあ、その属性聞いた時なんて言ったと思う? 魔法使えるだけでもすごいのに、土属性なんてラッキー! 畑を耕すのが楽になる……だってよ。そんな繊細なコントロール力つけるのにどれだけ時間かかるかわかんないし、あの広大な畑を耕せるほどの魔力、オレにあるかってんだよ」


 ん? 畑を耕すほどの魔力なんてない? いやいや、きっとコントロールが足りないからそう言ってるだけだよな? オレも最初はあの風を纏って空を飛べるなんて思ってなかったしな。


「で、お前は何が使えるんだ?」


「ああ、オレは炎と……」


 自分の属性を話そうとしたその時だった。早速魔法を試し打ちしていたある貴族が突然大きな声で危ないと叫んできた。二人してそちらに視線を向ければ、大きな水の玉が、軌道が反れてこちらに向かってきた。慌てる様子の先輩を無意識に背後に庇って、オレはその水の玉を眺める。貴族だけあって大きめだけど、ティナが作る物より勢いも大きさも劣る。


「おい、危な……!」


 慌てて止めに入ろうとした先輩の声を聞き流して手を前にかざした。自分の魔力を手のひらから放出して、大きな壁になるイメージをする。風の刃と盾は毎日のように作り出している。もう呼吸をするように、簡単だ。

 大きな渦を作り出すように風が手のひらを中心に渦巻いていく。そうして薄い風の膜を張った瞬間、飛んで来た水の玉はあっけなく弾けて空中に舞った。

 シン、と辺りが静まり返る。その場にいる何十人もの生徒がオレの方を見ていた。その異様な空気に、ようやくオレは違和感を覚えてゆっくりと先輩の方を振り返った。


「おま、え……とんでもねーな!」


(あー。なるほどなあ)


 常々、ばあちゃんとティナは普通ではないと思ってはいた。難しい要求を軽い態度でしてきたり、重すぎる期待をオレにかけてきたり。だけど、そんな普通じゃない人間を傍に置き、教わり続けていた時点で気付くべきだった。




 オレもとっくに普通じゃない人間になりつつあるってことに。




 

テオ視点になると恋愛色は強くなります

ヒロインは一身上の都合でなかなかそっち方面に思考がいかないので今のうちに恋愛小説っぽさを味わっていただければ幸いです(笑)

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