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16.これからのこと

 シンと静まり返る部屋がまるで知らない場所のようだった。何年も暮らしていて、もうすっかり自宅だと馴染んでいたはずなのに。たった一晩で知らない場所に変わるなんて……。

 自分以外の息遣いが聞こえない。

 声が聞こえない。

 姿が見えない。

 失ってしまった存在がどれほど大切だったのか、わかっていたはずなのに、まるで今初めて知ったかのように胸が痛くなる。

 ゆっくりと外に出た。もう陽は昇り切っているのに、風は冷たく、冬になる直前だと教えてくれる。家の脇にある小さな広場に、石で作った墓がある。私が作ったものだ。この広場も、その墓も。


「もうすぐ、私の誕生日だったのにね」


 それでも長く生きた方だ。発病して二年生きればいい方と言われている病にかかり、その倍も生きたのだから。

 ぼんやりとただ墓を見つめる。この世界のほとんどの国が遺体の処理は基本的に土葬だと聞いていた。けれど、私は密かに自分の魔法で火葬していた。

 お金がないからと嘘を言って木製の棺に入れて、人気のない夜中に風魔法でこの家まで移動し、誰にも気づかれないうちに燃やした。そうして残った骨を鉄製の箱に移して墓の下に埋葬した。

 別に土葬でもいいとは思った。けれど、万が一動物などに掘り起こされたらと思ったらゾッとした。暴かせたくない。死体が原因で何かの感染病になっても嫌だった。フィーネさんという存在が、汚されてしまうのが許せなかった。


「こんなことしかできないなんて、ごめんね」


 これからどうすればいいんだろう。学校が始まるまで一年と少し。その間、私はどう生きればいいのかわからない。学校だって、行く必要があるんだろうか……なんて、そんなことを考えてしまう。

 だけど、行かないと。学校に行くことをフィーネさんは望んでいる。遺書として残された沢山の手紙に、そう書いてあったんだから。

 だから、それまで元気に過ごさないと。お金は、フィーネさんが内緒で貯金してあった金額がいっぱいあって、正直余裕だ。私もこの一年、薬やパンの売り上げでかなり稼いだし。だから、何もしなくても問題はない。けれど、何もしないままいていいのだろうか。

 きっと、よくない。

 何かしないといけない。じゃないと、フィーネさんに申し訳ない。そう思うのに、何も浮かばない。


「わかんないよ、フィーネさん」


 何をすればいいのか。

 何を見ればいいのか。

 何を支えにしていいのか。


 少し前まですぐに出ていた答えが、何も見つけられない。


 いつまでそうしていたのか。気付けば赤い日差しが墓を照らしていた。そっと視線を外してみれば、そこから僅かに見える王都の景色に目を細める。

 ここに墓を置いたのは、王都が見えるからだ。フィーネさんが、ここに小屋を建てた理由だから、墓も見えるところがいいだろうと思って。ベッサの街はこの山が邪魔で見えないから。


「喜んでくれた?」


 聞いたところで答えは返ってこない。だけど、きっとフィーネさんのことだから、「いいところに作ったじゃないか」って笑ってくれるはず。


「声、聞きたいな」


 顔が見たい。

 パンを食べてほしい。

 一緒に魔法の特訓したい。

 またいろんなこと教えてほしい。


 たくさん、たくさんやってほしいことが浮かぶのに、それを訴える相手がいない。話を聞いてくれる人がいない。我がままを言える人がいない。

 たった一人の家族が、いない。


「さみしいよ」


 寂しくて悲しくて苦しいのに、それでも私の目は乾いたまま。なんて薄情なんだろうか。この体は壊れてるんだろうか。はは、と息を吐くような笑いを零して座り込む。どんどん陽は傾いて、山は暗闇に包まれて行く。同時に冷える空気に体は震え始めるけど、私は寒いなんて感じなかった。

 むしろ、何も感じない。このまま壊れてしまうんだろうか。


 それなら、それでもいいかもしれない。


「ティナ!」


 聞き覚えのある声に僅かに顔を上げる。息を切らしたテオが空に浮かんでいた。どうしてここにいるんだろう。今日はまだ平日で、学校もあるはずだ。ぼんやり考えながらも、それ以上深く考えることもできずに視線を落とした。


(見られたくないな……)


 こんな情けない姿、誰にも見られたくない。もう十四にもなるのに、以前と合わせれば三十路も過ぎたおばさんなのに、フィーネさんがいないだけでこんなにも無力な自分なんて、見てほしくない。

 そう思うけど、表情を取り繕うこともできなくて、無表情のままそこに居座り続けた。


「ティナ、こんなところで風邪ひくだろ!」


「……」


「ティナ……」


 私が何も言わずにただ座り込んでいることにテオは何を思っているのか。顔を見ていないからわからなくて、でも確かめる勇気もない。


「こんな場所にずっといたってばあちゃんは生き返らない!」


(わかってる)


「それに、お前がこんなことで風邪ひいたらばあちゃんだって悲しむだろ!」


(わかってる)


「悲しいのはわかるけど、とにかく家の中に入ろう?」


「――本当に、悲しいのかな?」


 消えるように微かな声で私は囁く。

 寂しいし、苦しいし、悲しいはず。だからこんなにも虚無感を味わっているし、何もしたくないって思っている。だけど、それならどうして……?


「どうして、涙が出ないんだろ」


 自分で自分がわからない。いや、そんなのは今更だ。この世界で自我を持ったその日から、私は〝私〟を見失っていたのだから。

 だから、もしかしたらこれが本来の私なのかもしれない。血も涙もない、非情な子供。だから、涙も流れないのかもしれない。


 突然、腕を引っ張られて立たされる。同時に私の体を何かが包み込んだ。少し痛いくらいの力で、温かいそれに僅かに目を瞠る。


「もし、悲しいとか、そういう感情がわかんないなら……それは理解するのを拒んでるだけだ」


「こば、む?」


「昔、ばあちゃんが母さんに言ってたんだ。脳ではわかっていても、心が拒んでるんだって。大切な人がもうこの世にはいないって、受け入れられないからだって。きっと、ティナもそうだ。悲し過ぎて、受け止め切れなくて、拒んでるんだ」


 だから、無理に泣こうとしなくていい。そう掠れる声で囁かれて私は息を止める。

 私を抱き締めてくれるテオの体は震えていた。その震えはきっと寒さからじゃない。その証拠にテオの顔が押し付けられた肩が僅かに熱を帯びている。

 テオの言う通りだ。

 亡くなった瞬間は傍にいた。眠るような死に顔を見ているし、彼女の死体を燃やしたのは私自身だ。骨を拾い、墓を作り、誰もいない家を確認している。それなのに、未だに私は受け入れられていないんだ。受け入れたら、それこそ死が本当になってしまうから。私が一人になってしまうから。


 でも、違う。一人じゃない。


 だって、ここにはテオがいる。テオも、私と同じようにフィーネさんの死を悲しんで、泣いている。


 だから、私も――泣いていいんだ。


「――、……ッ!」


 滲む視界には明かりが灯る王都がある。だけどそれもただぼんやりと光が確認できるくらいに滲んで、同時に頬が濡れていく。

 一度認めてしまえば涙なんて簡単に流れていく。声もなくただ零れ落ちる滴をそのままに、縋り付くようにテオの背中に手を回した。知らない内に少年から青年に成長したテオの体は、驚くくらいがっしりしていて。同時に自分の体がこれほどまでに小さく感じるとは思わなかった。テオの体温に包まれていることに安堵して、余計に涙が溢れていく。


「ティナ……オレの前でなら、いつだって泣いていい」


 涙声になりながらもテオはそんなことを言う。それはこちらの台詞だなんて、そんなこと言う余裕も資格もなくて、ただ素直に頷いた。


「むしろ……オレの前だけにしてくれ。その代わり、お前が泣きたいときは、絶対に傍にいるから」


 どうしてテオは、こんなにも私のことを思ってくれるんだろう。そんなことを思いながらもやっぱり頷くことしか今はできなくて、濡れた頬が冷えて固まってしまうまで、私達はその場で抱き合った。




 悲しみで胸が潰れそうになるくらい苦しいその夜は、皮肉なほどに月が綺麗だった。






 ガタン、という大きな物音で目を覚ます。既に外は明るくなっていて、昼近い時間だとわかる。余計な肉でも張り付いているのかというくらい瞼がパンパンになっていて、見えづらい。視線を巡らせれば隣に座っていただろうテオがソファーから落ちて尻をついていた。


「テオ?」


 首を傾げて呼びかければ、カッスカスの声しか出なかった。そう言えば昨日ほとんど飲まず食わずだったな。


「ごめん、ちょっとびっくりしただけ」


「……? 何が?」


「いや……。にしても声も顔もひでーな。何か飲み物でも入れるからお前顔でも洗って来いよ」


 結局あの後、夜が更ける時間までずっと泣きっぱなしだった。そりゃあ目も腫れるよね。ものすごく不細工顔になっている自覚はあるので、テオに甘えて洗面所に向かう。一度顔を洗った後に少し熱めのお湯にタオルを浸して絞り、目元を覆った。暫くその状態を保ち、今度は冷たい水に浸して目元を冷やした。まだ違和感は残るけれど大分スッキリした気がする。

 リビングに戻ればココアが注がれたコップが置かれていて甘い香りに頬を緩める。


「あ! というか、テオ、学校は?」


「今日は土の曜日。学校は元より休みだよ」


「あ……」


 曜日感覚すら曖昧になっていたのか。改めて考えてみるとここ数日の記憶が靄がかかったようにはっきりしない。苦笑を浮かべてココアを口に含んだ。


「飯もちゃんと食ってないだろ?」


「……ふふ、正解」


「笑いごとじゃねーよ。たく、仕方ねーな。簡単な飯なら作るから一緒に食うぞ」


 思いがけない提案に思わず吃驚してまじまじとテオの顔を見つめてしまう。テオが料理ができるというのは知っていたけど、作ってもらう機会はなかった。だから、初めてだ。


「んだよ、できないと思ってんのか?」


「ううん、すっごい楽しみ。よろしくね」


 だって、ロッテさんの話だと、テオが料理をしてくれるのはよっぽど大事な日の時だけ。ということは、テオにとって今は大事な時なんだ。

 私のことでそう思ってくれることが嬉しくて、頬を緩める。少しムッとしてた彼は、そんな私に安堵したように息をついてキッチンに向かった。


(心配かけちゃったなあ)


 でも、テオがいてくれて本当によかった。あのままあの場所にいても、きっと私は泣くこともできずに凍えていた。


(今更だけど、ずっと抱き締め合ってたのは、ちょっと照れるな……)


 それに、あの時実感した。テオももう……子供ではないんだと。とは言っても、私の精神年齢は三十路過ぎなんですが。でも、子供として七年過ごしてると、精神年齢は純粋に足した数でいいのか疑問過ぎる。そんなこと悶々と考えていても泥沼化するだけなので、早々に思考を放棄するに限るけれど。


 泣いて、寝て、すごくすっきりしたことがわかる。昨日までわからなかった〝やらなければいけないこと〟が、今では簡単に浮かぶ。

 もともと私は、これからもずっとテオと一緒にいると自分で決めていたんだ。


(魔王が出てきても出てこなくても、私はテオについていくって決めてたんだ。そのためにも、やっぱり学校には行かないと)


 学校を卒業した後、私はどうするのか未だに決めていないけど、学校という場所は自分の目でこの世界を見るいい場所だろう。八割貴族という偏ったメンバー構成だけど、基本的に王都にいることがない私が、この国を統治する貴族をよく見るには学校が打って付けだ。


「ねえ、テオ」


「んぁ?」


「学校、楽しい?」


 何度か手紙で学校の話を聞いていたけど、こうして面と向かって話を聞いたことはあまりない。夏休みに一度会いに来てくれたけど、その時は孤児院の子達の話とかロッテさんの話とか、私の生活について話すことで終わってしまった。だから、じっくりと話をしたかった。


「んー、まあまあ? 友達はそれなりにできたけどな。あー……でも一人」


「ん?」


「一人さ、面倒くせー絡みするヤツがいて」


 苦々しくそう口にするテオは、嫌な思い出でもあるのか、手も止めて窓の外を見つめていた。視線の先には私が手作りした水車があるだけだ。水汲みのための水車なので、魔法で動かさない限り回らないけど。


「面倒臭い?」


「ああ。何か妙にオレを敵対視してる伯爵家の次男」


「ふぅん。強いの?」


「強いんじゃねーの? 騎士団長の息子だし」


 いや、何かの息子だから優秀とか強いという判断はよろしくないよテオさんや。

 でも騎士団長の息子さんか。伯爵令息だからってテオのこと敵対する意味はわからなかったけど、騎士の息子と言われると納得する。だってテオ、きっとその辺の騎士よりも強いもんね。多分。


「でも、目を付けられたってことは、きっかけがあったんじゃないの?」


「……」


「何? 何したの? すんごい気になる!」


 ワクワクと目を輝かせて問いかければ、テオは深い溜め息をついて簡潔に説明してくれた。

 いわば、学校行事である大会で相手を負かしたらしい。


「あいつは何を思っていたのか知らないけど、剣にはすごい自信があったみたいでさ。魔法も使ってないオレにあっさり負けたのが理解できなかったらしい」


「へえ! で、テオはその大会で何位だったの?」


「あー、流石に三位だったな。言っとくけど、それ個人戦じゃねーからな。ペア組むんだよ」


「ペア! 何か意外! テオは誰とペア組んだの?」


「二年の先輩だな。同じ平民で気が合ったから。でも、タイプが同じ過ぎてなかなかお互いに助け合いができなかったから、結局一人が一人相手にしている状態だったな」


 それは、二人ペアになる醍醐味が薄いのでは? つい真剣に考えてしまったけど、二年の先輩とペアが組めるということは、学年の隔たりはないということだ。じゃあ、テオが三年になったその年は私とペアを組んでくれるだろうか。そしたら、テオが戦いやすいように私が全力サポートするんだけど……。


「ほら、できたぞ。ただのポポフだけど」


「やった! 美味しそう! ありがとうテオ!」


 ポポフというのは簡単に言えばこの世界のポトフだ。コンソメに似た出汁で作った煮物というかスープというか。優しい香りを漂わせるスープを口に含めば、じんわりと暖かさが身に沁みた。


「おいし」


「そりゃよかった」


 この家に私以外の人の気配がすることにホッとする。けれど、同時にこれが普通だと思ってはいけないのだと自分に言い聞かせた。

 一人じゃないことはわかっても、この家では一人で暮らしていくしかないのだ。


「ティナ、あのさ……お前さえ良ければ実家に住まないか?」


「え?」


「本当ならこの家に残りたいと思ってる気がするんだけど、でも、しばらくは心の整理も必要だろ? その間だけでもオレの家にいてくれるなら、きっと母さんも安心すると思う。部屋はオレの部屋にいてくれてもいいし。今オレ寮生活してるしさ」


 私のことを考えて誘ってくれてるんだってすぐにわかる。嬉しくて僅かに目頭が熱くなった気がするけど、どうにか呼吸を繰り返して落ち着ける。

 すごく魅力的な話だ。あの家に居させてもらうならロッテさんの手伝いをしながらのびのびと生活できるに違いない。甘えたい気持ちはある。けれど、同時に甘えてはいけないとも思う。


「すっごい、嬉しい。嬉しいけど、それはできないよ」


「何で? 迷惑だなんて思わねーよ?」


「そういうのじゃない。きっと私、今ここで簡単にテオやロッテさんに甘えちゃうと、自分で立ち上がることができなくなる気がする。寂しいから、できれば一人でいたくない。そう思うけど、同時に今だからこそ、一人で前を向くことを考えないといけないと思うの。あと一年と少しで私も学校に通うことになる。その時になったら、テオもロッテさんも近くにいてくれるもの。そう思えば、むしろ一人で頑張れるのは今しかない気がするの。ずっとフィーネさんに甘えてきた。だから、一度くらいは一人で頑張ってみないといけないって、そう思う。一人で……この世界を見てみたいの」


 一人で見ると言ってもたった一年だ。そんなに大したことはできないだろう。けれど、入学資金も当面の生活費も余裕なほどある。学校に入るまでは自由にしていいのなら、私は一度、少しでもいいから旅に出てみたいと思った。

 誰かに甘えることは簡単だ。だけど、甘えるにしても、私個人の限界を知らないといけないと思う。何ができて、何ができなくて、何が悲しくて、何が苦しくて、何が楽しいと思い、何が自分らしいと考えるか。


 今だって迷うことは多い。それは、自分というものを知らないからだって思う。一年一人で頑張ればいい。時間制限があるからこそ、やりやすいし、頑張れる。その後は素直にテオやロッテさんに甘えられる気がする。


「……はあ、本当お前って、変なところ不器用だな」


「……ごめん」


「いつも甘えてたって言うけどさ、オレはむしろお前にもっと甘えてほしいって思ってる。だけど、今のままじゃ甘えられないんだろ? ならいいよ。やりたいようにやればいいじゃん。そうしたら、オレに甘えてくれんだろ?」


 ……ん? 何か私の旅の目的がテオに甘えるためになってないか? 確かに話しの流れ的に合ってるけど、何か違うんだけど。


「あ! でも、手紙は欲しい」


「はは! そうだな。通信魔道具はあるからいつでも文通できるしな。ティナが見つけておいてくれて助かったわ」


 通信魔道具というのは、以前春の解放祭の時にガーシュおじさんにお願いしていた物だ。本当は使う機会が無ければいいと思っていたけど、それでもいつフィーネさんが危篤状態になるかわからなかったから、何かあった際にすぐに連絡できるようにしたかった。だから、貴重とも言えるそれを手に入れてテオに渡しておいた。小さくて重くない物なら瞬時に相手の元へと送れる優れものだ。だから、あの日、車椅子を取りに行くときにメッセージを書いてテオに送っていた。

 この魔道具はどこにいても所持者に送られる物なので、距離も場所も関係なく使える。だから、旅をしていても気軽に文通ができるし、タイムロスもなくて便利だ。


「にしても、一年とは言え旅とか出て大丈夫か? 移動にかなり時間がかかるだろうし、お金もかかるだろ?」


「その点は大丈夫! 移動しながらでも薬草とか採取できるだろうし。それにね、移動は簡単なの」


 何で、とばかりに首を傾げるテオに、私はニンマリと笑った。テオになら、テオだけにならもう教えたっていいはずだ。


「だって私、実は五属性持ちだから、テオと同じ飛行魔法が使えるんだよ」


 ちょっと調子に乗ってウィンクをしてみる。お茶目っ気出るかなって思って。でも、やってみて盛大に後悔した。イタイわ。いくら今は美少女と言っても過言ではない容姿でも、キャラじゃない。もうこれは一回きりで封印だ。

 私がそんなことで自分自身に絶望しているとき、テオはあんぐりと口を開けて硬直していた。ものすごーく間抜けだ。お世辞でもかっこいいとは言えない。


「五属性?」


「そ、水、土、木の他に火も風も使えるの。まあ、多少は威力落ちるけど。それでも強い部類には入るよ。だから飛行魔法も使えるし、基本魔力量は多いからよっぽどのことがない限り入学式に間に合わないってことはないよ、安心して!」


 なんてことはないと軽く説明してあげれば、ようやく理解してくれたのか、テオは頬をピクピク引きつらせて、力の限りの声を上げるのだった。


 すっごいうるさかった。



 

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