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11.解放

 あまりの寒さに目が覚める。これは絶対外は雪だ。賭けてもいい。誰に何をとは言わないが。

 この世界で目覚めて三年と半年。あっという間に時間は過ぎるもので、すっかり山暮らしが板についてしまっている私だけど、この凍えるような寒さには未だに慣れない。

 ここは夏は暑いけれど熱中症を心配するような暑さになることは少ない。代わりに寒さが半端ない。


「で、出たくない」


 部屋の中なのに息をすると空気が白くなる。ひぇええ。この部屋には暖炉がないのが痛いところ。元より物置部屋に近い小さな部屋を客間として作ってあった簡易的な居室なので、こればかりは仕方ない。だから、毎年冬になる度にどうにかならないかと頭を悩ませてる。未だに解決策は出ていない。

 電気毛布とかあればいいのに!! 魔道具で作れないかな? 今度作り方研究しよ。


「ティーナ、起きてるかい?」


「起きては、いるけど、出れません!!」


「あー、あと十分もすればリビングはあったかくなるから、そしたら出てきな。飲み物を入れとくから」


 毎年私がこの状態になることを知っているフィーネさんは、生温い視線を向けてそう言ってくれる。いつもは私の方が早起きなんだけど、冬の時期は逆転する。

 この部屋の寒さを知っているから文句も言われないので、私は冬の間だけ甘えてベッドとイチャコラするのだ。そうしてうとうととしながらも布団の中に入り込んでいれば、漂ってくる香りに目を覚ます。そろそろ朝食ができるみたいだ。


「仕方ない、起きないと。大丈夫、一瞬で隣に行けばいいんだから。そう、一瞬で」


 一瞬の寒さだけを我慢すればいいと言い聞かせて勢いよく起き上がる。体が寒さを感じる直前にベッドから飛び降りて、すぐさまドアを開けて隣の部屋へと飛び込んだ。


「さ、さむ!!」


 それでも結局寒さは感じるわけで。でも、すぐに暖かい空気に包まれて体に込めた力を抜いた。

 やはり早急に魔道具を見るべきだ。むしろ今までどうして気付かなかったのか。いや、あまり見に行ったことがないからだな、うん。


「もうすぐできるから、そこに座ってまずは飲み物でも飲んで暖まりな」


「はーい!」


 テーブルには既に湯気が昇るカップが置かれていた。準備がよくて嬉しい。いそいそと足を進めようとして、視界に入ったものに思わず立ち止まる。


「危ない危ない、朝の日課っと!」


 飾りのように置かれた水晶に挨拶するかのように手を伸ばす。毎日欠かさず水晶に触っておかないと、自分の誕生日がわからないなんて不便で仕方ない。それでも、まだ十歳未満だったからこそ、年齢と誕生日がわかる機会が残されていたのだから、不幸中の幸いなのかも。ちなみに、魔法が使えるほどの魔力を持っていない子でも、きちんと水晶は反応するらしい。魔法が使えないと言うだけで、人間誰もが魔力は持っているので、微かに色の判別がつかない程度だけれど、光を帯びるんだそうだ。

 でも、明るい内に触れて、その光を見逃したら元も子もないよね。今日から夜も触ろうかな、なんて考えながら水晶に触れた。その瞬間だった。


「――わっ!」


 なんと、なんとなんと! 爆発したかと思うくらいの強さで光り始めた! 至近距離での全力光源は目に悪いよ!

 思わず目を閉じそうになったけど、どうにかもう片方の手を盾にして光の色と強さを認識する。

 青、緑が本当に強い色で光り、少しだけ明るさを落とした黄、そして更に少しだけ明るさを落とし黄緑、赤と光った水晶はようやく元の状態へと戻った。もう光ってもいないのに、未だに目がチカチカして、景色が見えづらい。どうにか視界を戻そうと周囲に視線を巡らせれば、唖然とした表情のフィーネさんを見つけた。


「あんた、今……何色に光ってた?」


 彼女がこんなにも戸惑った様子を見せるのは珍しい。声も若干上ずっている。でも、それは仕方ないことなのかもしれない。私も素直に誰かに問いたい。けれど、ここには私とフィーネさんしかいないので、その問いに答えられるのは私しかいない。


「…………五、色、でし、たね」


 そう、五色だ。光の強さはあれど、火、水、木、土、風の五属性全ての適性があると、水晶が表している。そんなことってある? いや、普通無いでしょ。無いからフィーネさんのこの反応だよね? 思ってもみない事態にくらりと眩暈がした。

 よし、落ち着こう。うんうん、と頷きながら椅子に座る。目の前にあるカップを持ち上げて、ズズズと音を立てながら飲んだ。普段こんなことしたらフィーネさんに怒られるけど、未だに彼女はショックが抜けないのか何も言わない。


「はー、あったまる」


 冬はやっぱり生姜が効いた薬草茶だよね。体の芯からポカポカしてとても落ち着く。心も安らぐぅ。いい感じに体の緊張が解けたし、もう大丈夫なんじゃない? よーし、今の状態ならきっといける! なるべく表情を戻さずに素早く水晶のところに戻って、もう一度触れた。

 結果は…………まあ、変わらないよね。


「フィーネさぁん!」


 どうしよう、これどうしよう! 絶対普通じゃないよね? 涙目になりながら縋るように視線を向ければ、彼女は未だに困惑顔を浮かべるものの、どうにか口元だけ笑みを作った。


「受け入れな、それがあんたの力だよ」


「そうだけど、いっぱい魔法使える! やったー! って純粋に喜べないよ!?」


「まあ、確かに普通じゃないねえ。というか、五属性使える人間なんて、実際聞いたこともないよ、私は」


 やっぱり! 何、何なの? もしかしてこんなところで転生チートみたいなこと起きてんの? てか、つまりそれってここって乙女ゲームとか小説とかそういう世界なの?!

 有り得ないことに一気にパニックに陥る。シナリオがもしあるなら、私は一体どういうポジションなのか気になるところ。例えば、聖女がヒロインだとしたら私は実は悪役令嬢とか……いや、ねーな? だって私孤児じゃん。地位も財産もないし、そんな力のない悪役令嬢は有り得ないか。私が見たくない。

 そういえば、ただのモブに転生っていうパターンもあったな。モブにしても設定ヤベーな。魔法属性抜きにしても珍しい髪色に見目のいい少女が山の中に無傷で捨てられてて記憶喪失って大分な設定だぞ。その線もない気がする。

 そこまで考えて、頭を切り替えた。転生とかどうとか、今はどうでもいいや。まずは、この有り得ないほどの力をどうするかだよ。


「うん、とりあえずフィーネさん」


「ん?」


「ご飯食べよ!」


 お腹が空いては何とやら。朝から悩む羽目になってしまったけど、とにかく今日は私の誕生日だ。年齢も誕生日も明らかになったことだし、私に五属性の魔法適正がある事実は覆らないし、一旦置いておこう。落ち着きを取り戻した私が椅子に座り直すと、フィーネさんは大きな溜め息をつきながら笑った。本当、あんたって肝が据わってるねえと、感心したように呟かれる。人生、諦めが肝心だと思うの。




 きっちりとご飯を平らげて満足したら、とりあえず私は部屋からレターセットを取り出した。


「手紙? どうしていきなり」


「テオと約束してたの。十歳の誕生日がわかったら、すぐに手紙で教えるって!」


「なるほどねえ。でも、今から書いても大分時間かかるんじゃないか?」


「……フィーネさん! ベッサの街に投函してもらえないかな?!」


「本当、あんた結構いい性格してるよ。育ての親を配達員代わりにするんだから」


 そう言いながらもフィーネさんは仕方ないねえと引き受けてくれるのだから、結構溺愛するタイプだと思う。

 私が子供らしくないからっていうのもあるけど、それを抜きにしてもフィーネさんは子供の扱いに結構慣れている気がする。でも、彼女自身は未婚だと聞いてるんだよなあ。不思議。テオで慣れているのかもって思ったけど、私が来てから王都に久しぶりに下りたって言ってたし、そんなに回数来てないよね? そんな数えるほどしか会ってないはずのテオで慣れるかどうか……疑問なところだ。


「ああ、でもティーナ。あんたが五属性持ちだというのは、テオ含めて秘密にしておきな」


「え?!」


「言っただろう? そんな人間、聞いたこともないって。魔法は平民でも使える者はいるけれど、多属性の魔法が扱えるのは貴族に多いんだ。あんたは見た目も疑惑持ちだしね。今までいたかわからない五属性持ちという情報を、容易に外に出すもんじゃないよ」


 なるほど、確かにそうか。銀髪って言うだけで目立つもんね。それに加えて全属性の魔法が使えますなんて言ったら出生のわからないただの危険人物だ。テオにまで秘密にするのは心苦しいけど、誤魔化すなら徹底的か。


「まあ、でも、多属性自身を秘匿する必要はないよ。そこまで縛りを強くしたらどこかで絶対ボロが出るからね。そうだね、せめて三属性持ちにしようか」


「え、結構多いですね?」


「じゃあ二属性にしとくかい?」


 え、意見を変えられるとそれはちょっと悩ましい。フィーネさんがそう言うってことは、三属性の魔法を扱える人はいるのだろう。テオが二属性持ちで強い方だと言っていたから、三属性は更にレア度が高いはずだ。だから、それだけでも結局目立つことには変わりないはずだけど。

 でも、せっかく使える魔法を、これ以上減らしたくないのが正直な気持ちで。


「わかった。じゃあ、水と木と土属性ってことにする」


 真顔で答えれば、フィーネさんは声を上げて笑った。

 テオ相手にも時期を見て真実を話してもいいと言われたから、この心苦しいのも少しの間だけだ。

 そして、十歳になったことで、私はフィーネさんにもう屯所に足を運ばなくてもいいと進言した。もう今更だし、今になって探していると言われてもいいことに思えない。そんなことになるくらいなら、フィーネさんの娘として今後も庶民らしい暮らしをしていく方が幸せだ。私のその言葉を聞いて、彼女は少しだけ複雑そうに微笑んだが、案の定文句も言わずに頷いてくれた。






 魔法解禁になって二日目。今までずっと我慢してきた私は、ここぞとばかりに暴走してます!


「そーれ!」


 頭一個分の水を浮かべて投げる。昨日ずっと降っていた雪は見事に積もっていて、山は辺り一面真っ白に染まっている。寒い。非常に寒いのだが、それでも魔法意欲には敵わない。

 水が当たったところの雪が溶ける。けれどすぐにそこは凍ってしまうだろう。好き勝手投げてたけど、そろそろ投げる場所考えないと後で転びそうだな。


「あんた、本当に昨日まで魔法使えなかったのかい? めちゃくちゃな力だねえ」


「酷い! 今まで使えなかったからずぅーっと本読んで勉強してたんだよ! 暗記するくらいに!」


 ムキーっと子供っぽい怒り方をして口答えして返せば、フィーネさんははいはいと投げやりに言葉を返して家の中に戻っていった。


 知識で得ているのと、実際やってみるのとでは違うのはわかっているけど、やり方も何もわからないよりかはスタートダッシュが変わるはず。そう思って本当にずっと魔法のやり方については学んでいた。

 体力面ではテオに劣っているんだから、魔法が使えるなら魔法くらいはテオに追いついておきたい。その思いがあってのことだったけど、飽きるほど本を読んでおいてよかったと思う。

 未知なる分野だから魔力を感じることも難しいかも、と思っていたのが嘘のように体に巡っているのがわかる。この魔力を自分の意思で動かすコツを掴む特訓を昨日はひたすらに繰り返した。そのお陰で今ではこの通りだ。

 ただ、一番使いたいと思っている治癒魔法についてはなかなか上手くいきそうにない。魔力は感じられれば扱うことは簡単だけど、それを使った魔法の操作は、イメージ力による。目に見えるものについては単純に発現させることができるけど、理屈がわかっていない……見えない効果の魔法は発現させるのも難しい。

 前世もちって言うのも考えものかも。人より多くの知識を持っているせいで、治癒魔法一つ使うのも、その原理を考えてしまって発動が鈍くなるのだから。

 それに、問題はそれだけでなく……。


「治癒魔法については本を読んでも曖昧な表記ばかりなんだよねえ」


 治癒効果のある魔法が存在する属性は全部で三つ。弱い順から言えば風、木、水だ。全属性使える上に、一番効果の高い水が私のメイン属性と言えるので、可能な限り治癒魔法だけは得意魔法として習得しておきたい。だけど、こればかりは地道に練習してみるしかないだろう。


「おーい!」


 唐突に聞き覚えのある声が頭上からした。ギョッとして顔を上げれば、空高く飛行しているのはテオだった。


「え、え? 何で!」


「はは、手紙くれただろ! だから、来ちまった!」


 いやいや、昨日の今日で? 確かにあの距離なら今日には届くだろうとは思っていただろうけど、行動早すぎない?!

 混乱している私を他所に、テオは颯爽とその場に着地した。

同時に、盛大に滑りコケた。


「いってー! な、何だよココ、めっちゃ凍ってやがる!」


「あ、ごめん、私が水バンバンその辺に投げてたから」


「おま、やっぱり底知れねーな……てか、三属性って本当かよ!」


「へっへーん! すごいでしょ! これから力つけて、テオと肩を並べて戦えるようにするね!」


 まだツルペタな胸を反らして得意げな顔をすれば、テオはへーへーと投げやりに返事をしながら笑ってくれた。


「にしてもどうしていきなり? 慌ててこなくても私が来るまで待ってればいいのに」


「あのなあ、お前の誕生日がわかったら早く祝ってやりたいから手紙よこせって言ってたんだろ! それなのに、祝われるヤツを出向かせるなんておかしいだろ!」


 バカと言われながら額を指で突かれる。そういえばそうだっけ。十歳の誕生日というよりも、魔法が使えるようになったことの方が重要過ぎてそのことをすっかり忘れてた。ということは、テオは私を祝うために手紙が届いてすぐに来てくれたってことだよね。しかも、もうほぼ完璧に使いこなしているとはいえ、集中力を使う飛行魔法を使ってまで。


「母さんも本当は来たがってたんだからな」


「え、ロッテさんが?」


「でも、店をいきなり休むわけにはいかないからオレにプレゼント託して今も元気に働いてるよ。フィーネばあちゃんに挨拶したいから家ん中上げてくれよ」


「あ、そうだね。こっちこっち!」


 テオの手を引いて家に帰ると丁度お昼時だった。フィーネさんが昼食の準備を始めた頃合いで、食材を吟味していた。


「ティーナかい? お昼はシチューにでもしようと思うけどパン残っていたっけ?」


「焼いたパンは残ってないけど、丁度発酵した状態のパンなら冷蔵箱にあるよ」


「フィーネばあちゃんのシチュー! すげー懐かしいな。オレ、大盛りがいい!」


「テオに作ってやったのなんて随分昔のことじゃないか。よく覚えて……はあ? あんた何でここにいるのさ」


 うん、そういう反応になるよね!

 不思議そうな顔していたけど、すぐにフィーネさんは理由が思いついたらしくテオから返事を聞く前にまずは手を洗ってきなと私とテオを洗面所に追いやった。

 仲良く交代で手を洗ってリビングに戻れば、温かいココアを淹れて置いてくれた。


「まあ、いつかは来るんじゃないかと思ったけど、まさかこんなにも早くやってくるとは」


「本当なら昨日のうちに祝ってやりたかったけどな!」


「それは流石に無理だよ。だって手紙だって今日届いたんでしょ?」


 むしろ届いた当日にやってきたことが驚きなんだけど。

 そう言ってもテオは不満そうに顔を顰めていた。でも、フィーネさん特製シチューを食べたら機嫌はコロっとよくなってた。うん、わかる。わかるよ。このシチューは本当に美味しい。実はこの味を引き継げないかと思って特訓中だ。でも、なかなか上手くいかないんだよなー。特別な調味料使っているわけでもないのに。

 魔法の次に大事な課題として心に刻もう。


「それで、手紙を見てすっ飛んでこれるほど事前にプレゼントを準備していたテオは、何を持ってきたんだい?」


「んぐ、ばあちゃんそういう聞き方ねーだろ。たく、出しにくくなるだろ! ほら、ティナ、まずはこれ母さんから」


 受け取った包みは結構大きい。ゴソゴソと開けて取り出してみれば、真っ白でふわふわなポンチョコートだった。か、か、可愛い! しかもあったかい! 何これ、すごい好み! 思わず目を輝かせて早速羽織ってみる。

 ポンチョ型って見た目すんごい可愛いけど、実際防寒具としては隙間が多くて寒いよね。でも、子供だからこそこのあざといデザインを着こなせると思う。以前から好きなデザインだったけど、以前の私では絶対似合わないと思っていたから、すんごく嬉しい!


「ね、ね、どう?」


「あ、ああ、似合ってんじゃねーか?」


「ありがと! ロッテさんにもお礼言っておいてね!」


 普段はこんなにはしゃいだりしないのに、見っとも無く跳ねながらポンチョを見せびらかす私に、テオは呆れたように視線を外した。いくら十歳でも中身はアラサー。流石にはしゃぎ過ぎたかと猛省して、もう一度椅子に戻った。


「そ、それで、オレからはこれな」


「わーい! ん? あれ、」


 何かデジャヴじゃない? 箱のようにぴっちりとした長方形の形を手渡されて私は思わずテオを凝視してしまった。もしかして、同じものをプレゼントしてくれたわけじゃないよね? そうだったら気まずいんだけど。だって、テオにあげた魔法の本の内容なんて、あの時には既に暗記済みだったもん。

 確認する前から疑ってはいけないので、恐る恐る包みを開いて中を確認した。


「……え! 治癒魔法専門書!? すごい、テオどうしてこれが欲しいって知ってるの?!」


「お前、前々から言ってたじゃん。もし治癒魔法がある属性を持ってたらそれを真っ先に習得したいって。でも本がなかなかなくてとか愚痴も零してただろ。だから、本屋のおっちゃんにその類の本が手に入ったらキープしておいてもらうよう頼んでおいたんだ。一年ぐらい前に」


 知らなかった。テオがそんなことしてくれてたなんて。驚いて言葉を失っていれば、テオはそんな私に気付かずに話を続ける。


「頼んだ時に大体の予想の値段聞いておいたんだけど、ぜってー買えねーってくらいの金額でさ。死に物狂いで手伝いして稼いだんだぜ。それでももし足りなかったら母さんに相談する気だったんだけど、一年猶予があってよかった」


 全然気づかなかった。ずっと私のためにお小遣いを貯めててくれたんだ。私は、何だかんだ自分で物を作って売ることができたから、テオの本を買う時も数日働いただけで補えてしまった。だけど、テオは遊ぶのも我慢してきっとずっと手伝いをしていたんだ。私に、気付かれないように。

 そりゃあ、飛んでくる。だって、ちゃんと計画通りにプレゼントが用意できたんだもん。それほどまでに私を喜ばせたかったんなら、きっとこの瞬間をテオが誰よりも心待ちにしていたんだろう。

 私の誕生日なのに。

 私が祝われる側なのに。

 それなのに、テオが誰よりも楽しみにしていることがすごく不思議で、すごく……幸せだ。


「ありがとう、テオ。これでいっぱい勉強する」


「おう! どうせお前のことだからすーぐ読み切ってすーぐ使えるようになるんだろうな」


「どうだろう? わかんないけど、でも……使えるようになったらテオの怪我、いっぱい治してあげるからね」


 元々そのつもりだったけど、今日で更にその気持ちが強くなる。

 お互いに幸せで微笑み合っていれば、その様子をフィーネさんは呆れた表情でただ黙って見守っていたのだった。



 

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