9.魔物
「すごいすごーい! もっと早く!」
「だあ! そう簡単に言うなよな! これ、結構難しいんだから!」
すっかり慣れてしまった空中散歩を堪能中な私の声に、苦し気な様子で叱るテオは腰に回した手の力を強める。王都に来るたびにフィーネさんの魔法で空を飛んでいる私だけど、今日はちょっと違う。だって、この風魔法を展開しているのはテオだからだ!
フィーネさんと同じくらい適性があり、魔力もあるテオならばきっと使えるはずと思って、最初の段階で飛行魔法を提案していた私に、テオもそれは便利だと乗ってくれて、あれからずっと練習していたようだ。けれども、風属性であれば使える魔法と言っても、飛行魔法は気圧や風圧等から護る守護要素と、体を浮かべる飛行要素、その二種の働きを同時に起こす高位魔法に分類される。
つまり、かなり高度な魔法となるそうだ。使うには集中力とそれだけの魔力操作力が必要で、テオが成功させるのに一年近くも時間を要した。しかも、毎日毎日、自分の集中力を高める特訓をずっと続けていてようやく使えるようになったそうで。軽い気持ちで提案した私は、そんなテオの努力も知らず、毎回会う度に無邪気に魔法の特訓の成果を聞いてしまっていた。その度にテオは苦笑を浮かべながらできるようになったことを正直に話してくれていた。そんな私に、たまにフィーネさんが無邪気なのは恐ろしいと漏らしていたが、その時それがどういう意味なのか理解してなかった。まさかそういう意味だとは。提案しつつも、私は飛行魔法の習得を催促していたわけではなかったんだけど、テオは最初の内はそう考えていたようで少しだけ凹んでいたと言われてしまった。反省である。
そして、今日、顔を合わせると同時に満面の笑みを浮かべて報告してくれたのだ。飛行魔法ができるようになった、と。それまでは成果すら報告する気がなかったテオの言葉に、私は一瞬キョトンとしてしまったのは仕方ないと思う。すっかり提案したことすら忘れてしまっていたのだから。
テオはずっと懸命に練習を続けてくれていたのだと、気付いて気まずい気持ちになった私には気づかず、早く見せたいとばかりに南門から王都の外へと私を連れ出した。まだ、自分自身に魔法をかけるだけで精いっぱいだと言うテオに、それなら私が引っ付けばいいだろうと、お互いに抱き着く形で今空を飛んでいる。私に見せたくて報告してきたのに、抱き着くことにはかなり渋っていた。解せぬ。やっぱり二人分の体重になると魔力消費も激しいのかな?
五分程度お互いに言い合いをして、結局私の提案通りの形でテオの飛行魔法を体験している。フィーネさんのように高度はないし、動きもぎこちないものではあったけど、本当に空を飛んでいることに私は大興奮だ。
自分が魔法が使えないからまだ実感も薄いけど、フィーネさんが言うには、この飛行魔法は大人でも展開するのは難しい代物らしい。王宮勤めの師団員……しかも隊長格レベルの素質が必要なのだとか。それをたった一年練習して習得したテオって、かなりの才能だと思う! 剣だって毎日欠かさず特訓しているし、才能があって、努力もできる人……まさに天才の部類だ。
「じゃあ、あの森まで行くのは? それくらいならできる?」
「まあ、あれくらいの距離なら! 行って帰るだけだからな! 下りないぞ」
「えー! どうして? ちょっとくらい森の中見てみたいのに」
山から王都の往復しかしてこない私は、それ以外の場所を出歩いたことがない。今回、飛行魔法を使うからということで、特別に私達は二人だけで王都の外に出ることを許されたのだ。この機会にこっそり別の場所を見てもいいじゃないか。不貞腐れた気持ちで唇を尖らせれば、テオは呆れた表情を浮かべた。
「お前、頭いいはずなのに世間知らずなところあるよな。フィーネばあちゃんに告げ口しねーと」
「なんで!」
やめて、あの人結構スパルタ教育なんだから!
「あのなあ、ここは王都から一番近い森なんだ。魔物の存在知ってるだろ? 山にだって出る可能性があるんだよ。負の感情を元に産まれる魔物なんだから、一番負の感情を持ちやすい人間が多くいる王都付近は、魔物が多く産まれやすいんだ。特に、こういう日の当たらない場所にな」
確かにこの森は王都から徒歩でも向かえる範囲にある。だからこそテオの魔法でも十分に往復できる距離なんだけど。空から見下ろすだけなら問題ないが、中に入れば魔物と遭遇しないとは限らない。そうなった場合、まだまだ庇護下にある私達だけでは対応できない。
テオが言いたいのはそういうことだ。
むしろ、ここで足を引っ張っているのは魔法も使えない私だ。テオなら魔法が使えるし、何か棒状の物があれば、倒すことも可能かもしれない。子供の力と言ってもテオはもう十一。幼いころから木剣を振ってきたことで、戦闘能力はかなり高いらしい。フィーネさんがたまにテオを見てそう漏らしていた。
ちなみに、フィーネさんは若い頃それなりの戦闘職に就いていたようで、最近では魔法だけじゃなくて剣の扱いもテオに助言していた。
「わかった……我慢する」
それでもつまらないなと思ってしまうのは当然で。いつの間にか身に合わせて心までも子供に戻ってしまったようだ。そんな私にテオは呆れた顔を浮かべつつも、ちゃんと森の真上まで飛んでくれた。おかしいな、精神年齢二十代後半の私が、十一の子供に呆れられてるってなんぞ?
木々が広がるその姿は私が住む山と似ているようで違う。とても暗い気がする。木の密集具合は山と変わらないようなのにどうしてだろうか。広葉樹ばかりというわけでもない。むしろ針葉樹が多く、葉の広がりはそれほどないように思う。近くに山があって太陽の光を遮断しているわけでもない。平地にある森だ。それなのに、
「やっぱり少し空気が悪そうに見えるな」
「うん。暗い理由ってやっぱり瘴気なの?」
「多分。オレもちゃんと見たことがあったわけじゃないけど、そうじゃないか? 太陽の光は届いているのに、妙に暗く見えるし」
なるほど。瘴気のたまり場になっているのか。確かに、こんな場所を見てしまうといくら私でも入ってみたいなんて思わない。暫く上空で眺めたけれど、テオはすいーっと慣れたように旋回して王都の方へと向きを変えた。
「そろそろ戻らねーとまた母さんに叱られる」
「あはは。確かに! 流石に私も一緒に怒られちゃうね」
人攫い事件をきっかけに、ロッテさんは少し怒りん坊になってしまった。今まで、テオと男友達だけの時はそれほど遠くに行かなかったし、テオより年下で女の子の私と一緒ならもっと慎重に動くだろうと思っていたのだ。それなのに、その認識をあっさりと裏切ってむしろ身軽とばかりに区を乗り越え危険なことに首を突っ込んだ私達は、今では問題児扱いだ。
でも、あれからそれほど問題は起こしていない。いないのに、少しでも約束を破ると今は二人そろって叱られる。テオは嫌な顔をするけど、あまり反省はしない。私は反省はするものの、まるで私もロッテさんの子供のように扱ってくれるのが嬉しくて、頬が緩んでしまいそうになってたりする。
「よく言うよ、嬉しそうな顔してるくせに」
「うげ、バレてる」
「変なヤツだよな、ティナって」
叱られるのが何がいいんだよとジト目で問われる。けれど弁解させてもらえれば、叱られることが嬉しいのではないのだよ、テオくん。
「「「うわああああ!」」」
「「――――!!」」
もうすぐで森から出るという場所で、有り得ない声を聞く。数人の子供の声だ。反射でテオと二人下を見れば、黒い靄をまとった狐のようなモノに三人の子供が追われていた。私達と同い年くらいの子が一人と、五歳くらいの子二人。
どうしてこんな場所に? あれは魔物? あの靄は瘴気? なんて、疑問は尽きないけれど、そんな場合じゃない。
というか、コレ……結局人攫い事件の時と同じじゃない?
「テオ、大変! 助けないと!」
「だ、だけど!」
私の声にテオは躊躇いを見せる。前なら私が言う前に行動していたのに。テオらしくない動きに視線を動かせば、私を心配そうに見ていた。
なるほど、助けたいのはやまやまだけど、今回も私を巻き込んでしまうのを懸念しているのね。でも、そんなのテオらしくないし、私もただ心配されて守られてるだけなんて嫌なので、引っ付いていた体をぐいぐい押して暴れる。
「わ、おい! 危ないだろ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 助けないと! テオ!」
怒鳴るようにして訴えれば、テオは覚悟を決めたようだ。苦々しい表情をしながらも、私の言葉に頷いた。風の力を緩めて高度が下がる。まっすぐに狐のような魔物に落ちて行った。
「せーのでいくぞ!」
「了解!」
どんどん地面が近づいてくる。同時に魔物から逃れようと走る子供達にも近づく。そしてあと少しというところで、テオがせーのと口にした。それに合わせてテオと共に足を突き出す。グンと風の力が上からかかった。落ちる速度は一気に早まり、突き出した足は見事に魔物の顔に突っ込んだ。
「ぎゃうっ!」
おぉう、なんか人間みたいな悲鳴だな。後ろに豪快に吹っ飛んだ魔物に思わず同情してしまい、私はすぐさま後ろにいる子供達に視線を向けた。
「大丈夫?」
「あ、うん……」
一番年上であろう男の子がどうにか頷くのを見て、ホッとした。随分追われていたようで三人とも息が上がり切っていて喋ることも難しそうだ。
「テオ、何か棒いる?」
「一応魔法でどうにかしてみるけど、頼む!」
頼もしすぎるテオの言葉を私は信じて、すぐに森の中に視線を巡らせる。木々がある癖に木の枝は全然落ちていない。そういえば山の中であってもそんなに簡単に落ちてないわ。テオから離れるのも怖いし、この辺で調達したいんだけど……。そう思って視線を巡らせれば、子供達が小さなナイフを持っていることに気付く。
「ねえ、それちょっと貸して!」
「え、これ?」
「そう!」
私の勢いに身を引きながら小さな女の子がそれを差し出してくれた。お礼を言いながら受け取って上を見上げる。ナイフを直接テオに渡してもいいけど、これじゃあリーチが無さ過ぎる。まだまだ腕力がない子供の身で、必要以上に近づくのはよくない。魔物の性質を考えても殺傷力があるだけのリーチがない武器は避けるべきだ。そこそこに細めの枝を見つけて、私はその木に向かって駆け出した。
山暮らしで見つけた身軽さで幹に一度足をかけただけで枝の上に乗る。同時にナイフを振って枝を切り取った。
「テオ!」
風の魔法で魔物を引き付けていたテオに切り取った枝を放り投げれば、彼は一発でそれを受け取った。飛行魔法を習得する際の副産物で、テオは風魔法の魔法操作はかなりのハイスピードでレベルが上がっているようだ。それならば火魔法も同じように扱えるのではって思ったんだけど、性質が異なるから、魔法操作も若干違いがあるようで、そっちはまだ手付かずらしい。それほどまでに飛行魔法に追い詰めてしまったことに少しばかり反省してしまう。
だから、魔物一匹を引き付けるだけなら魔法でも簡単みたいで、ただ問題はここに来るまでに飛行魔法を使っていたから、これ以上魔法を使うのに集中力が持たないことだ。だから、武器が必要なわけで。
「てりゃああ!」
そして、物心ついた時から木剣を振り回していたテオにとって、武器を持てばあんな魔物一匹、テオの敵ではない。
「「ひぃ!」」
後ろで短い悲鳴が聞こえる。気持ちはわからなくもない。だって、躊躇いもなく木の棒で突き刺したんだもん。魔物は生物とは違うからなのか、血は出ていない。苦しそうに呻いてもがくだけ。その姿に少しだけ同情してしまいそうになるが、ここで倒さなければ私達が殺されてしまう。
瘴気を動力として生きる魔物に、同情は必要ない。彼らは、本能的に生物を襲うのだから。むしろ、同情を誘うために生物の形を取っているという説もあるくくらいだ。
「テオ、どっかに核があるはず!」
「おう!」
瘴気に寄って産まれた魔物は、その体のどこかに心臓の代わりとなる瘴気の塊、核を持っている。それを壊せば、体を維持している瘴気が霧散し、死ぬことになる。情報としては私もテオも知っていることだ。だけど、その核がどこにあるかは明確にはわからない。獣型、植物型、爬虫類型などなど、魔物が摸す形に寄っても大まかに変わるようで、完全に把握することは不可能に近い。けれども、それでも傾向というものがある。
「確か獣型は腹に近い所が多いって聞いた!」
「よっし、腹に穴あけてやればいいんだな!」
さっきはあんなに渋っていたくせに、いざとなったら頼もしい返事に私は危機的状況下にも関わらず苦笑してしまった。
テオ自身は心配する必要がないほどの実力だ。襲い来る魔物の牙をひょいひょーいと躱しながら木の棒をひたすらに突き刺していく。血が出なくてよかったわ。出てたら今頃テオは血みどろだわ……。グロ注意が出るし、後ろの子供達はきっと失神している。体のどこかにある核を壊さない限り、魔物は死なない。だからこそ、小さなナイフでは勝ち目がないのだ。
そろそろトドメを刺したいところだけど、というタイミングでテオが大きく跳躍する。瞬時に風の魔法を展開して、魔物の上で身を翻した彼は、魔物のど真ん中に背中から突き刺した。もうかなりの風穴があいていた体だ。数打ちゃ当たるって言うけど、本当ね。見事に核に当たったようで、甲高い悲鳴を上げて魔物は黒い靄になって霧散した。
いくら姿形は動物をまねていようとも、元は瘴気。核さえ壊してしまえば、その場に残るものはない。血も肉も骨も残らない。本当に、それだけはよかったと思う。環境破壊とかにも繋がるし、残ってしまったらその肉を食べた動物とかはどうなるかとか不安だ。なんて、いらぬことまで考えてしまいそうだ。
「お疲れ、テオ!」
「おう! これサンキューな!」
ブンブン振り回して感謝を述べてくれるのは嬉しいけど、後ろにいる子供達がヒィってか細い声で叫んでいるからやめようね、テオさん。
何はともあれ、助けたのだから怖がられて逃げられるなんてことされては困る。私はなるべく優しい笑みを浮かべて子供達を見やる。
「大丈夫? 怪我してない?」
「えっと、だ、だいじょうぶ」
「してない、です」
未だに震えて顔を真っ青にしているものの、私の質問にはきちんと答えてくれた。よかった、思ったよりも落ち着いている。
一応視線を巡らせて確認してみたけど、逃げて来たことで土や葉っぱが体中についてはいるが、血や痣などは見当たらない。一番上の男の子ならまだしも、小さな子達がここで嘘を言うほど我慢できるようには思えないので、とりあえず信じておこう。
「どうしてこんな場所にいたんだ? 森は危険だって知ってるだろ?」
「――ッ、す、すみませ!」
「え、何でそんなに怯えられてんの? 地味にショックなんだけど」
「テオ、魔物撃退シーンなんて、普通見ることがないから怖くなるのも仕方ないよ。とにかく今はそれ捨てちゃえば? もう森の出口もすぐそこだし、さっさと王都に戻ろう?」
魔物を刺した木の枝なんか、子供達にはトラウマものだろう。いくらグロ画像ではなかったとはいえ。そう思って提案すれば、テオも理解したようであっさりとそれを捨てた。同時にその木の枝が元々くっついていた木へと視線を移した。
「それにしてもティナ、お前結構身軽なんだな。普通あんなに簡単に木の上に登らねーぞ。これ家の一階相当の高さはあんじゃん」
「これでも山育ちですから! テオは知らないだろうけど、私、食糧調達のために山の中駆けずり回って動物を狩ることもあるんだからね! 木登りも山菜採取もナイフの使い方もマスター済み!」
「マジで! すげーじゃん! 今度オレにも教えてくれよ!」
なんて、ほのぼの話している場合じゃない。ハッとして子供達の方に視線を向け、とにかく森から抜けようと皆を立たせた。森の出口は歩いてすぐ辿りつき、明るい帰路を目にしてようやく三人の顔から安堵の色が見えた。
それを確認してから、ゆっくりとどうして森に来たのかあらかた話を聞くことにする。
「つまり、薬草が欲しくてここにきたの?」
「そう、あのね、シスターがねつ出して、うごけないから」
「なおすのに、このカンカンの実がいいっていってて」
「それならこの森で見かけたって聞いたんだ。シスターには早く治ってほしいし、薬は高いからあまり買えないし。それにたくさん取れたら残った分は売れるだろう? 少しでも役に立てると思って」
小さな女の子が必死に持っていたのは赤い実をつけた枝丸ごとだった。カンカンの実は小さな子供の拳くらいの大きさなので、いくつも実がなっている枝は重かっただろうに、あの状況でも落とさずに今もギュッと胸に抱いている。その健気さに胸がキュンと疼いた。
私が借りたあのナイフで枝丸ごと切り取ったらしい。それなら鮮度もすぐ落ちることもないし、帰ったら薬として加工すればいい。大胆というか、堅実というか、きちんと先のことを見越して行動していることには感心してしまう。
「でも、それをどのようにしたら薬になるのか、貴方達わかってる?」
「そ、それは……」
思わず湧いて出た疑問を口にすれば、途端に口ごもる。これは知らないわね。いくら薬の原料になるからと言って、それをまんま食べればいいってものじゃない。どの薬でも、薬にする為の過程がある。だからこそ、薬自体は高価になるのだ。
この解熱の薬は材料自体にそれほど希少価値はない。けれど、摘んだ後、すぐに種を取って乾燥させて、塩を付けて、もう一度乾燥させるといった具合に、時間のかかる作業なのだ。どうしてもすぐに薬として使えないから、無駄にお金がかかる。だけど、この実以外に必要となる物は少ないし、他の材料も比較的手に入りやすいので、この子達でも作ることは可能だ。だから、目を付けたものは悪くはないんだけど……。
「作ることは不可能じゃないけど、今から普通に作ってたたら一週間はかかるわよ」
「え!」
「それじゃあダメだよ! シスターが死んじゃう!」
絶望に染まった顔に私は困り果てる。チラリと隣に視線を向ければ、テオも私の方を見ていたようで自然と視線が交わった。
「普通に作ったらってことは、特殊な方法があるんだろ?」
最近テオは私が何でも知っているという風に問いかけてくる気がする。もちろん、フィーネさんの家の贅沢な環境を存分に使っている身ではあるので、普通の子よりも知識はありますけれども。私だって知らないことはあるんだからね?
「カンカンの実を薬にする方法は単純なの。工程としては、ひたすらに乾燥させればいいのよ。でも、実が大きいし、一度乾燥させたものを更に乾燥させるなんてことをするから、どうしても時間がかかるの。でも、時間をかけて乾燥させなきゃいけないわけでもない」
「つまり?」
「結局、実の中にある水分を抜けばいいだけの話だから、テオの魔法で乾燥させられるなら、今日明日にでも出来上がる気がするんだよねえ」
実際、フィーネさんから風魔法で乾燥させてカンカンの実を薬にしていたという話は聞いている。だからこそ、私もこの実の効力と薬の作り方を知っているわけだ。
「なるほどな。いいぜ。お前らを家に送り届けたらやってやるよ」
「え! いいの?」
さっきまで怯えていた三人は、今の台詞にパッと顔を明るくさせて振り返った。そのくらい大丈夫だと笑うテオだけど、魔法を使うのは子供の体では結構大変なはずだ。魔力操作に集中力はいるし、さっき散々空まで飛んでいたのだから、疲労は残っているだろうに。それでも、自分の損得を考えずに面倒を買って出るその性格は、こうして人を惹きつける。
実際、テオって結構友達いるみたいなんだよねー。いろんな子の名前を聞くけど、私ほとんど顔を合わせたことないな。私がいるとき、何故か私だけに時間を割いてくれるから。あれ、普通みんなで遊ぼうってならないのかな? んん??
「ねえ、それよりさ、シスターって言ってたけど、みんなってもしかして……」
そこまで問いかけると、私達と同じ年くらいの男の子は少しだけ気まずそうに視線を下げて、口にした。
「うん、僕達そこで暮らしているんだ。みんな、孤児でさ」
私とテオは孤児と何か因縁でもあるのだろうか。そう思わずにはいられないほどのエンカウント率だと、表情を変えることなく思うのだった。




