メッシュノードの墓場
田舎町にも自動運転の小型バスがある。パトリシアが時々使って、モーテルに来るが、充電の拠点としてモーテルの電源を使えるように契約をした。町のインフラ事業なので、社会参加という一面もある。人と一緒に荷物も運んでくれるらしいので便利だ。
山に行くときにキャスが軽トラを使っている時は、俺もレトロと一緒に乗ることにした。
「お、よく整備されたヒューマロイドだな。型は古いだろ?」
乗り合わせた足に補助器具をつけた爺さんが話しかけてきた。
「そう。レトロって名前だよ。よろしくカウボーイ」
「アイデンティティもあるのか。いいな。兄ちゃんがエンジニアか?」
「そうです。叔父と叔母が持っていたのを受け継いで、いろいろ手伝ってもらってるんです」
「そうか。今度、俺のアシストウォーカーも見てくれないか。時々、熱くなる時があるんだ」
「それは歩きすぎです。山に登ってもバッテリーは切れませんか?」
爺さんは山へ行く格好をしていた。
「ああ、ほとんど体重を支えているだけだから、それほど電力はかからない。ああ、お前さん、モーテルの主人か!」
唐突に俺の正体に気づいたらしい。
「そうです。なかなかお客は来ないんですけどね」
「認知度が上がれば自然と来るだろう? 登山家からすれば、悪くない立地なんだから」
町に近すぎず、翌日山に登るには丁度いいという。
「認知度ですか……」
「この前、雷の木を回収して、スクールバスを助けたって町じゃ話題になっていたろ?」
「話題というか、消防署界隈では話題にしてくれたみたいですけど、街の人も話してくれてましたか?」
「そらぁ、子どものことだからな。まぁ、大丈夫だ。そのうち客は来る。それより消防署と連携しているなら、監視小屋を復活させてくれないか?」
「なんですか? それは」
「知らんか。ほら、地図にも書いてはあるんだけど、山の上の方にある防災拠点なんだけど、エコ系の団体は崩壊しただろ? 誰も管理してないんだけど、メッシュノードになっててドローンとかヒューマロイドが集まってしまってるらしいんだ」
ローカルメッシュネットワークというのは網目状に複数のデバイスが直接通信し、ネットワークを形成するシステムだ。中心のルーターに依存しない分、柔軟で強固になるが、そもそも導入するのに資金がかかる。
10年以上前はいろんな地球にやさしい団体が多かったから、その時に作ったが、政治的な仕分けがあり、放置されているのだろう。
ネットワークの拠点でもあるため、電力切れを起こしそうになった自立型のロボットやドローンが充電を求めて辿り着いているらしい。
「そんなところがあるなら、復活させたほうがいいと思うんですけど。ちょっと、消防局に聞いてみます」
電話して確認を取ったら、「自分たちの管轄ではないから、なんとも言えないが調べてみるよ」と言ってくれた。田舎なだけに、すぐに動いてくれるところがいいところだ。
とりあえず登山口で爺さんと分かれ、俺とレトロは枯れ葉集めだ。枯れ葉を木枠に入れ、少量のデンプンと土を混ぜ入れ圧縮。レンガに出来れば、持ち運びも簡単じゃないかと思って実験をする。
いつものように地図で回収する場所へ行き、なるべくエリアを分断するように枯れ葉や枝を拾っていった。山火事はとにかく燃え広げないように防災していく。完璧を求めすぎて、すべて拾い集めても環境に負荷がかかる。
さらにそれほど無理をせず、やりきれなくても、また来ればいいという気持ちで作業を進めていく。都会の仕事とは大違いだ。
なかなかレンガも思うように出来ない。繋ぎのデンプンの割合が悪いのだろう。また、モーテルで実験だ。
「休憩して、メッシュノードに行ってみようか。レトロ、わかるか?」
「一応、地図にあるからルートはわかるよ。ここら辺だと、我が家の方が近いと思うんだけど、民家として認識されるんだろうな」
「え? うちもメッシュノードの一つだったの?」
「そうだよ」
もしかしたら、ベン叔父さんがローカルメッシュネットワークを作ったのかもしれない。だとしたら、本当に復活させればいいだけだ。ただ、防災監視塔は山の頂上からさらに山道を下らないと行けない場所にあり、俺たちは登山客に紛れて移動することになった。
「レトロ、バッテリーは大丈夫か?」
「まだ大丈夫だけど、半分以下になると帰れなくなるから、たぶん帰る頃にはギリギリだと思う」
「俺が運ぶわけにも行かないしな」
レトロは100キロ以上あるので背負いきれない。
「途中で、バッテリーが切れたらドローンにバッテリーを持ってきてもらうか」
「それがいい。キャスにバッテリーの充電を依頼しておく?」
「頼む」
ビーコンもあるので大丈夫だろう。
山に登るのは体力がいる。日頃、枯れ葉集めに奔走しているとは言え、登山客の体力とは比べ物にならないくらい貧弱だった。田舎に行けば、体力を使うというのは嘘で、むしろ車社会だから、少しの移動でも歩くという選択肢はなくなる。
「体力をつけないといけないな」
「アルはミドルエイジ・クライシスの年代に突入したかもしれない」
「うそぉ……。でも、都会の仕事からは逃げたから、精神的には楽している。肉体のクライシスが激しいよ」
「だったら逃げたわけじゃなくて、進化しているのかもしれない。ああ、また電力が減った。充電が切れる前に目的地に行くよ」
「はい……」
レトロは一定のリズムで歩いていくため、俺はそれに合わせていけばいい。余計なことを考えることを止めて山頂まで行き、写真を撮ってから古い防災拠点の監視小屋へ向かった。
近づいていくと、大きなアンテナが見えた。
さらに近づくと、ドローンがいくつも落ちている。ヒューマロイドも3体ほど見えた。
「墓場か?」
「捜索願が出されているんじゃないか?」
「普通にGPSは付いているだろ? ここまで山の中にあるなら取りに来ないか」
監視小屋は完全に塞がれている。ただ、ソーラーパネルは外にあるので、掃除をすれば電源はつきそうだ。
枯れ葉だらけのソーラーパネルを掃除し、外付けのコンセントが使えないか試してみたが、ダメだった。
「中の電源を付けないと無理か」
「窓が空いてるよ」
「え?」
小屋のガラス窓が普通に開いた。防犯はどうなってるんだ。
「入れるかな」
俺は無理やり身体を押し込んで中に入り、電源を復旧させた。監視小屋とは言え、人がひとり寝られる分のベッドと、古いパソコン、無線機器にデジタルではないカメラなどが置いてあった。デジタルのカメラやドローンのパーツ、工具などが小さいコンテナに入って見つかった。食材はないが、山登り用のギアもある。
「レトロ、充電できるぞ」
「お、よかった」
「ここはやっぱりベン叔父さんが使ってたのかな?」
「ああ、繋がりはある。この小屋の画像を見たことがあるから」
遺産を見つけたような気がして、ちょっと疲れが飛んだ。日が暮れる前に、軽症のドローンを修理して充電しておく。電力が満タンになれば、家に帰っていくかもしれない。
落とし物なので、すべて写真に収めて、警察に報告しておいた。




