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魔女リリスは男に戻りたい  作者: 夕凪真潮
第一章 四人の冒険者、集う
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第8話


「リティ、リティ!」

「どうしたのリリスちゃん」

「唐突ですが、使い魔が欲しい!」

「ホントに唐突だね……」


 とある晴れた昼下がり、引越しも無事に終わって今は一息ついているところ。

 何せ前の家からエレンドさんの家まで徒歩一時間弱かかるから意外と大変だったのです。

 荷物は、食器類、衣類、予備の杖や魔法書、そして家具。

 一度に全部持っていけるはずはないので、少しずつ時間をかけて、やっと昨日終わったところなのです。


 そして今朝から部屋の片付けをやっていたのですが……唐突に使い魔が欲しいと思いました。

 使い魔を持つには、野良の精霊や魔物、あるいは動物と契約する、召喚する、自分で作る、が代表的な例です。

 一番手軽なのは動物との契約だね。

 でもアークに動物は殆どいません。魔物たちのエサになるからです。

 精霊もエルフ族くらいしか相手にしてくれないし。

 となると、残りは魔物一択。

 迷宮内でボクたちがいける階層に、使い魔にぴったりな魔物っていないんだよね。

 行け、コボルト! じゃ格好悪いし。

 ビッグスクイレルというリスのような魔物はかわいいんだけど、ちょっと大きすぎるし。


「リリスちゃん。手が止まっているよ?」

「あ、ごめん」


 ボクは止まっていた手を動かして、棚を拭き始めました。


 三階には空き部屋が二部屋あります。

 それぞれ互いに一部屋ずつ使うと、ベッドが二つ必要になります。

 でも今まで狭い部屋で一緒に寝ていたから、ベッドは一つしかありません。

 ベッドを買うのは勿体無い、とリティが主張してきたため、結局二部屋のうち一つを寝室に、もう一つを居間にすることになりました。


 リティ、あんた将来いい奥さんになれるよ。


 なんて変なことを思いながら拭いていると、棚にヒビが入っているのを見つけてしまいました。

 持って来るとき乱雑に扱ったからかなあ。

 ここ気をつけないと、一気に割れちゃうかもしれないね。

 目印つけておこう。

 そしてふと窓の外を見ると、太陽が真上から少し下がって来たようです。

 ここは三階なので結構見晴らしが良く、入ってくる風が心地よいね。

 このままお昼寝したら気持ちいいだろうな。


 って、太陽が真上から少し下がった?


「そうだ。お昼作らないとだめじゃん!」


 ボクの声を聞いたのか、リティも、あっ、という形に口を開けた。


「忘れてたっ! 急ごうリリスちゃん」

「うんっ!」


 慌てて二階の台所に行くとエレンドさんが、既に食卓の椅子に座って待っていました。

 しかもエール酒を飲みながら……。


「ご、ごめんなさいっ、すぐに作ります!」


 慌てて降りてきたボクたちを見たエレンドさんは、苦笑いをして「適当でいいぞ」と言ってくれました。

 しかし……。


「栄養バランスを考えて作るのです。冒険者は身体が資本。それがボクの使命!」

「リリスちゃんが燃えているよー」

「さあ適当に野菜切って炒めますよー!」

「でも料理は簡単だった?!」


 そりゃここから長い時間をかけて作っていたら、エレンドさんが餓死してしまいます。 ちなみにリティの料理スキルは壊滅的で、全く役に立たないどころか、余計に仕事が増えるのでエレンドさんの隣で座って待っています。


 野菜を炒めつつ、芋を蒸かして、あとはパンと干し肉でいいかな。

 一日五十品目が理想だけど、それだと殆ど一日を料理に費やしてしまいますよね。

 ボクも料理スキルもっと上げないと。



「ごちそうさまでした」

「食事前はいただきます、食後はごちそうさまでした、と毎回言っておるが、それは何のお祈りなのじゃ?」


 ボクが手を合わせながらそう言うと、エレンドさんが不思議そうに尋ねてきました。

 リティはボクがそう言う事にもう慣れたもので、既に食器を片付け始めています。


「いただきます、は食材となった様々な動植物の命に感謝を、そしてごちそうさまは、食材を集めてくれた人や食事を作ってくれた人たちに感謝の意味を込めています」

「ほほー、リリスは神の使徒かの」


 神の使徒はいわゆる神官のことです。

 冒険者の間では治癒魔法をメインで使う人を治療士と言いますが、神官も治癒魔法を使う事が出来ます。

 違いは、神官は治癒魔法の事を神の奇跡と言ってる事くらいですね。

 別に奇跡でも何でもないのですけど。だってボクも多少は使えますしね。


「ボクが敬虔なる使徒に見えますか?」

「……ふむ、愚問だったのじゃ」


 それはそれで何かプライドが傷つきます。


「リリスちゃんも治癒魔法を少し使えるよね」


 食器を洗ってたリティが戻ってきました。

 作るのがボク、片付けるのがリティと役割分担が明確になっています。


「うん、少しの怪我くらいなら治せるから、エレンドさんも少しは安心できますよ」

「怪我をしないことが大切じゃよ」

「その通りですけどね」


 冒険者は常に警戒して深入りしない事。

 戦う前に自分と相手を比べて強いと思ったら逃げる、もしくは搦め手を使ってなるべく被害を最小限に抑える事だね。


「それでも怪我をするのが冒険者じゃがな。治癒も期待しておるぞ」

「任せてください! ところで」

「なんじゃ?」

「使い魔ってみなさんどんな魔物を捕まえているんですかね」

「ふむ? わしは重戦士じゃからよくは知らんが、魔物を使い魔にしている魔法使いはあまりいないの。大半は魔道生物を造るのが多いと聞くが、それはリリスのほうが詳しいじゃろ」


 そりゃボクも魔道生物を造れるだけの知識があれば、そっちを選びます。


「ボク造れないのです」

「リリスちゃんって、昔から呪文を暗記して使うのは得意だけど、研究とかモノを作るとか、何かを考えることは苦手だったね」

「人には得手不得手ってあるの!」


 わざわざ未熟な自分で何かを作るよりも魔法書という教科書があるのだから、それを覚えたら済むだけの話なのです。

 正しい魔道生物の作り方~初心者編~とかいう本、売ってないかな。

 もし売っていても魔法書は全部高いですから、今のボクでは到底買えないけど。


「うーむ、確か十三階辺りにいるソードフェアリーを捕まえて使役している奴がいたの」

「ソードフェアリーですか」


 妖精族が魔素に中てられて堕ちた魔物で、確かCランクの魔物だったかな。

 身体は二十センチくらいしかないけど、結構強力な魔法を使ってきます。

 ソード、と言いつつ魔法を主体にしてくるんだよね。

 魔法使うならなぜ剣を持っている、と突っ込みたい。


 そして彼らは妖精族だけあって、見た目がかわいいらしい。

 ちょっと欲しくなってきました。


「リリスよ、まだ十階より下には潜らんぞ?」


 エレンドさんは、ボクの考えを見透かしたようです。


「うっ……」

「まだまだお主らはE+ランクじゃ。せめてDランクに上がってからじゃの」

「頑張ります」


 Dランク。あとどれくらいで上がるのかな。

 オーガだって結構倒しているし、そろそろあがってもいい頃なんだけど。

 あとでギルドへ行って聞いてこよう。



 使い魔はまだ先になりそうです。



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