第33話
今回、ちょー短いです。キリが良かったもので……
「へ? え? あれ?」
そこに立っていたのは盗賊風のお姉さんであるテルノースさん。
そういえば、この人いつの間に来たんだろうか。さっきも不意にリッチを蹴り飛ばしてたし、全く気配というものを感じない。
少なくともボクは全く気がつかなかった。
昔、エレンドさんやギルドマスターと同じパーティを組んでいたらしいし、やっぱり高ランクの冒険者なのだろう。盗賊風だし、人の背後に立つのは得意なんだろうな。
「はやく詠唱の続き」
あの日会ったときの様に、必要最小限の事しか言わないテルノースさん。問題あると思うんだけど、でも今はそんな事を考えている場合じゃない。
テルノースさんに蹴られ吹き飛ばされたリッチは、何とか立とうとしている。が、エレンドさんとパチルさんの魔法でかなりダメージが合ったのか、上手く立ち上がれずにいる。
ボクは地面に落ちていた杖を拾って立ち上がり、再び詠唱の続きを始めた。
<氷の刃よ嵐となりて切り裂け>
突き出した両手の先に渦巻いていく氷の竜巻。
ボクが使える魔法の中でも特に強力なもの。魔力を十二分に注ぎ込めばファイヤドレイクだって一発だ。
<吹き荒れよ凍れる嵐>
今だリッチは吹き飛ばされたダメージが残っているのか、立っているもののふらついている。
もっと、もっと魔力を注げ。
あの強力なリッチをずたずたに出来るまで。
「リリス、ちょっと籠めすぎ」
テルノースさんに言われて気がついたけど、いつの間にか目の前の氷の竜巻がとてつもなく大きくなっていた。
普段の倍くらい太く大きくなっている。
氷の魔法には耐性のある不死だけど、これならば!
いっけぇぇぇぇぇ!!
<氷の嵐!!>
氷の竜巻が凄まじい音を出して噴出されました。
その勢いは予想以上に大きく、反動で転んでしまったけど。
「なんとっ!?」
やっと気がついたのか、リッチの青白い目が氷の嵐を凝視したかに見えました。
でもこの魔法は追尾型、どこまでも追いかけていきます。
リッチが手を振りかざして何やら呪文を唱え始めました。
……が。
「魔法が?! そうか、貴様ぁ!!」
リッチが驚いたあと、テルノースさんをにらみつける。しかしテルノースさんは涼しい顔でそれを流しています。
そして……。
「くっ、わ、私の野望が、こんなところでぇぇぇぇ!!」
巨大な氷の嵐がリッチに炸裂しました。
竜巻の中に煌く無数の小さな鋭い氷が、リッチの纏う魔法障壁へと次々と当たり、弾かれ、輝く。しかし氷が当たるたびに魔法障壁のきしむ音が微かに聞こえ、それが徐々に大きくなっていく。
「ふ、防ぎきれぬ!」
そして魔法障壁の決壊が始まり、すり抜けた氷がリッチの身体へと突き刺さっていきました。
魔法障壁が無くともリッチの魔法耐性は強い。が、どれだけ強かろうと無数の氷を防ぎきれるものじゃない。
魔法障壁と同じように、どんどんリッチの身体が軋み、そして削れて行きます。
「エレンド、パチル、追撃を」
「わかったのじゃ」「はい、テルノース様」
テルノースさんがそう言うと、二人は再び浄化の輝きの詠唱に入りました。
光の球が氷の嵐の上に燦々と輝き、そしてスポットライトを浴びるように明るく照らします。
竜巻の中に蠢く影が身をよじるようにして光を避けようとするものの、竜巻の中は気温が極度に低く氷漬き、更に風が周囲を防壁のように張り巡らされていて逃げ場は無い。
動きが鈍くなってきて、更には影自身も小さくなっていき、そして崩れていきました。
それが元死霊術師で執拗にボクを狙ったリッチの最後でした。




