第30話
<氷の槍!>
ボクの生み出した氷の槍が火の霊魂に突き刺さると、かき消すように消えうせました。
ただ、周囲にはまだ三体も残っています。
こいつらには魔術、もしくは魔力の乗った武器しか効き目がありません。
しかしボクは魔術メインだし、リティだって魔力の矢を使うし、ララさんもミスリルの細剣で魔力を乗せて攻撃します。
そしてエレンドさんの武器は高品質だけど普通の鉄で出来たハルバード。だけど彼も魔術が使えます。
<聖なる力を我が剣に捧げよ、聖付与>
魔術が完成すると彼の持つ大きなハルバードが淡く光りました。
武器に魔力を載せる付与魔術の一つで、単なる普通の武器でも少しの間、魔剣と同等の効果が生まれます。
今更ながらだけど、このパーティってリティを除く三人が魔術使えるんだよね。
そのリティも魔弓士だから、実質攻撃は魔力を使っているし。
こんなに豪勢なパーティって他にはそうそうありません。
エレンドさんは魔力が乗ったハルバードを片手で振るい、横殴りに火の霊魂たちをなぎ払いました。
切られた三体もあっけなく消えていきます。
火の霊魂といえば魔術を使ってくるBランクの魔物です。
それをいとも簡単に殲滅させてしまいました。
「よーしよし、なかなかサマになってきたな」
ボクたちの戦いを側で見ていたSランク冒険者のラレダさんが大きく頷きました。
「とてもDランクが三人もいるパーティには見えませんわ」
同じSランク冒険者のパチルさんも微笑みながら満足そうにしています。
やっぱこの人綺麗だなぁ。
そして彼女はDランク三人と言いました。
つい半月前にD-に上がったボクとリティですが、昨日Dランクにあがったのです。
ララさんも無事D-ランクにあがりました。ひゃっほい! と小躍りするくらい嬉しい。
こんなにぽんぽん簡単にあがるとは信じられません。
でもBランクが適正の十九階層にここ一週間ほど篭っていたし、そりゃランクもあがります。最高ランクのSランク二人によるパワーレベリングだね。あまり褒められた事ではないけど。
ちなみにエレンドさんはC+ランクからB-ランクへとあがっています。
「そろそろいけるんじゃね?」
「そうですわね」
ギルドマスターは一ヶ月で二十階層を突破しろ、なんて無茶な命令をしてきましたが、その一ヶ月がそろそろ経とうとしてます。
「ふぇっ?! ど、どどどどこへ行くんですかぁぁ?!」
「もちろん二十階層のボ・ス・部・屋、だぜ、ララちゃん」
「あたしとっても重要な用事を思い出したので、帰らさせていただきますっ!」
「こりゃララミス。お前さんが居ないと話しにならんぞ」
「だってボスってファイヤドレイクですよね! ブレス吐かれたら熱いじゃないですかぁぁぁぁ!」
「まともに喰らったら熱いなんて感じる暇も無く、真っ黒こげのウェルダンだぜ?」
「やっぱり帰らさせていただきますぅぅぅぅ。若い身空でまだあの世に行きたくないですぅ!」
人見知りの激しいララさんも、一ヶ月でやっとSランク二人にも慣れてきて、普段の口調に戻っています。
最初は借りてきた猫のように大人しかったのに。
「ララさんがこの中じゃ二番目に年寄りだよ?」
「がぁぁぁん?! エ、エルフじゃまだまだ生まれたてのぴちぴちなんですぅ!」
一番年上がエレンドさんで三十七歳、次がララさんの二十八歳です。
ララさんは確かに数千年の寿命を持つハイエルフ族だから、二十八歳なんて本当に生まれたてのようなものだけど。
ちなみにSランク二人には、ララさんがハイエルフなのは秘密になっています。
「大丈夫ですわララミス様。ファイヤドレイクのブレスはエレンド様が何とかしてくれますから」
「やっては見るが、いくらわしでもあのブレスは三回くらいが限度じゃ。盾が持たぬ」
渋い顔のままエレンドさんが答える。
人を一瞬でウェルダンにするような火力のブレスを三回耐えるのは凄いけど。
「氷の盾使えば、もう少し持つと思います」
「それでもせいぜい四回じゃな」
「それよりあのブレスってことは、エレンドさんは以前に戦ったことがあるのですか?」
「ライラスたちとな」
なるほど。元Aランクのギルドマスターライラスさんたちと一緒だったんだから二十階層くらいは行っていても不思議じゃない。
「それにいざとなりゃ、リリスの嬢ちゃんが魔闘氣でぱーっと倒すさ」
「ラレダさん、無茶言わないでくださいっ!」
「でもリリスちゃん、その為に魔闘氣を覚えたんじゃないの?」
「リティまで……。それにダメージディーラーのボクが防御してたら、魔術使えないよ」
ファイヤドレイク戦では、以前幻影騎士を倒した氷の嵐を使うつもりです。
あれは強力な魔術だけど、少し詠唱に時間がかかるのが欠点なんだよね。
その間、エレンドさんには頑張ってもらう必要があります。
「奥の手を用意しておくのは良い事さ」
「そうじゃな、ライラスからの命令である一月は三日後じゃ。明日は一日休みを取りたいしの。今日中に一度マッドサラマンダーのブレスで練習するのも良いじゃろうて」
「マッドサラマンダーって面倒。ぱかぱか口を開けてぽんぽん火を吐いてくるし」
「じゃが、あやつらの皮は高く売れるぞ?」
マッドサラマンダーは、元は火の精霊だからか火に耐性があります。
そのためか皮も火耐性が高く、革鎧の材料にも使われることが多いので、意外と高く売れたりするんだよね。
これでここ最近、懐事情もあったかくなってたりします。
「あとはマッドサラマンダーの皮をわしの盾に数枚張っておけば、少しはブレスに耐久もつくじゃろう」
「エレンドさんって皮も扱えるんですか?」
「もちろんじゃ。本職には一歩譲るが、鎧のつなぎ目に頑丈な皮を使う事もあるしの」
そっか、リティの革鎧もエレンドさんが作ったんだっけ。
戦闘から回復から鍛冶まで全て一人でこなすなんて、オールマイティ過ぎます。
何だか返せないくらい借りを作ってしまった感じです。
「ではマッドサラマンダーを狩りつつ、戻るとするかの」
「はーい」
「あうぅぅぅ~」
「はいっ!」
三日後には二十階層です。
Sランクお二人のお墨付きもあることだし、勝てるはず。
最下層にはまだまだ遠いけど、着実に強くなってきている。
この調子で頑張ろう。
もう少しで二章が終わります




