第2話
「リリス=ラスティーナさん。確かにオーク三体、ゴブリン十二体の討伐を確認しました。これを持って支払窓口に提出してください」
「はい、ありがとうございます」
すんなり終わってしまいました。
オークやゴブリンの部位はありふれたもので、一目見れば分かるものだしね。
ぽんっと判子の押された依頼表を持って支払いカウンターへ移動し、今回の依頼料二万ギルとジャイアントクローラー一体分、千ギルを受け取りました。
そしてついでに取っておいたサーベルウルフの牙二本を買取カウンターへもって行き、一本四千ギルで買い取ってもらいます。
しかしあれだけ頑張って二万九千なんだよね。ウルフの牙が無ければ二万ちょっと。
毎日これくらい稼げげることができれば、二人で暮らすだけなら余裕なんだけど。
ボクもリティも魔法がメインで武器の磨耗も殆どないから楽なんだけど、普通の初心者で更に剣士だったら絶対暮らしていけないよね。
しかもオークなんてDランクの魔物なんだよ?
駆け出しや初心者には非常に厳しい敵です。
冒険者のランクはFからSまで七段階に分かれていて、更にランク毎に-、なし、+と三つになっています。
つまり合計二十一ランクに分類されています。
最初は誰でもF-から始まって、こつこつギルドの依頼や魔物を倒して一定の功績が認められたら次のランクへ上がる形ですね。
Dまでは時間をかけて普通に依頼をこなしてけば誰でもあがるけど、Cからランクアップ試験が必要になってきます。
つまり、Fが駆け出し、E~Dが初心者って事。C~Bが中級者、A~Sが上級者となっています。
ちなみに魔物もF~Sランクに分けられていて、おおむね自分のランクと同レベルの魔物であれば何とか倒せるかな、とう目安になっています。
もちろん相性もあるだろうし、パーティーを組んでいる人数にもよるけど。
ボクたちの場合は魔法メインなので魔法抵抗力のある魔物だと苦戦するけど、逆に言えば魔法抵抗の低い魔物であれば、自分より上位のオークなども狩れるしね。
さて、何かいい依頼はないかな。
ざっとボードに張られている迷宮外の依頼表を見てみます。
家の片付け 五千ギル。
迷子の猫探しています 五百ギル。
求む!クラーベルの薬草 一つ百ギルで百個まで。
護衛求む ミヤキスの町まで 一人一日五千ギルで五人まで。
うーん、これといった良いものないなぁ。
クラーベルの薬草なら森に行けば一日で百個くらい集まるだろうけど、こういった簡単な依頼はFランクやEランクと言った初心者向けなんだよね。
いやボクたちもまだE+ランクだから初心者なんだけど。
まあ今日はいいや。夕食の買出しをして帰ろう。
このアーク島と呼ばれる島は元々魔物たちが溢れかえっていた。
そのせいで島に一番近い町、トレックやベンドルが島から流れてきた魔物たちの被害に合っていた。
度重なる被害に、とうとう時のバル連邦国の酋長会議で軍隊を派遣してアーク島を制圧する事に決定し、そこから長い年月をかけ少しずつ進めていた。
島の岬に港の構築(後のベルミ)、そして魔物が移動してきている島の中央へと徐々に版図を広げ、そして迷宮を発見しました。
そこからが大変だったそうです。
何しろ迷宮からは定期的に魔物が沸いてくるし、周囲からも同時に襲われるというまさに四面楚歌。
多くの犠牲者を出しつつ迷宮の入り口に魔除けの結界を張り、更に迷宮の入り口を囲うように頑丈な壁で覆い、それと同時に散発的に襲ってくる外からの魔物を駆逐していくという、とてつもない苦労を経て作られたのがこの迷宮都市アークです。
それから三百年、しかし未だ誰一人としてリッチロードのいる最奥に到達したものはいません。
ここへ訪れる冒険者が、一度は夢見る迷宮の最下層到達。
ボクもそのうちの一人だ。
でもボクの場合はリッチロードの討伐ではなく、性転換の魔法を知っているか聞きにいくだけなのですけどね。
そもそもリッチロードなんて、人が勝てる相手ではありません。
普通のリッチですら、冒険者でも最高峰クラスのSに到達した人でないと討伐は不可能とされるSランクなのです。
いくらボクが人の数百倍の魔力量を持っていても、今は勝てないでしょう。
そう、転生してから気がついたんだけど、ボクは他の人と比べて遥かに大きな魔力量を持っています。
プールに並々と入れられた水を、普通の小さなコップで掬っている感じ。
プールの水がボクの魔力量、そしてコップ一杯が魔法を一回使った時の魔力量という事です。
数百回魔法を使ったとしても、減った気がしないくらいのたくさんの魔力を持っています。
オークを倒したときに使った魔法、氷の雨。
その気になれば二十四時間ずっと撃ちっぱなしだって出来るのですよ。
徹夜してまでやるほど意味のある事じゃないから、やらないけど。
……でもそれだけ。
大量の魔力を多く必要とする魔法なんて殆どありません。
そもそも人が持っている魔力量を超えた魔法なんて、普通は開発されないよね。
開発しても使える人が居なければ、まさに猫に小判。
複数人の魔法使いが集まって行使する儀式魔法なら別だけど、天候を変えたり、迷宮の入り口に強力な魔除けを張ったりする時くらい。
そんなもの、普通の冒険ではまず使いません。
宝の持ち腐れとはまさにこの事。
ボクが魔法に研究熱心だったら、この有り余る魔力を使って魔法を作っていたかもしれないけど、今のところボクは男に戻るのが最優先の目的です。
そりゃあ最初は男になれるような魔法を研究しようと思ったけど、魔法は難しく到底ボクの頭では理解できなかった。
何十年もかけて魔法研究するより、ここのリッチロードに会いに行くほうが、ボク的には確率が高いと思う。
それにせっかく転生してきたのです。
冒険者になって敵をびしばしと倒していきたいじゃないか!
当面の目標は早くSランクに上がること。
そのためにも、まずは地道にこつこつと依頼を受けて、開いた時間は迷宮内へもぐってより戦闘に慣れることです。
よし、明日は迷宮へ潜ろうっと。




