表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女リリスは男に戻りたい  作者: 夕凪真潮
第二章 撃ち砕け火の門番
28/35

第27話




死霊術師ネクロマンサー


 ボクがそう呟いた瞬間、周囲の景色が一変しました。

 確かボクたちは迷宮の出口すぐ側にいたはずだったのに、そこはまるでどこか暗い洞窟になっていた。

 恐る恐る岩肌に触れると、本当の岩を触っているかのような冷たい感触が、指先を通して身体に伝わってきました。


 え? なんだろうこれ?

 一瞬、何かの魔力を感じたけど……。


「こ、これは?!」

「え? え? どこここ?」


 エレンドさんとリティも混乱しているみたいです。

 ついさっきまで出口が見えていたのに、今は暗闇で奥まで見えない通路になっているのです。

 それは混乱しても仕方が無いと思います。

 二人が混乱している中、ボクの頭がぐるぐると回り始めました。


 瞬間移動?

 いえ、四人もの人を一瞬で、しかも殆ど何も気配を感じさせずに移動させるなんて、そんな高度な魔法を使える人など、滅多にいないと思う。

 ならば、一体誰が?


「お久しぶりですな、リリス嬢」


 その時洞窟の奥から不快な、耳に付く声が聞こえてきました。

 思わず背筋がぞくりと粟立ちました。


「だ、だれ?!」

「リリス、リティ、わしの後ろに来い! ローブを着ているものが一人、奥にいるぞ!」


 エレンドさんは暗視能力があります。

 ボクの目では見えない暗闇でも、エレンドさんには見えているのでしょう。

 慌ててエレンドさんの後ろに移動し、そして杖を構えました。

 リティも同じように弓を持ち、魔力をチャージし始めます。


「おっと、驚かせてしまったようですな。今日は顔合わせのつもりですから、攻撃する気はありませんよ」


 暗闇から薄っすら人影が見えてきました。

 ゆっくりとこちらに歩いてくるのが分かります。


「……全く気配が読めないよ。ちゃんと見えているのに……」

「え? リティが気配を読めない?」

「そこにいるのに、まるで誰もいないような」


 歩いてくる相手の姿がようやく見えきったとき、相手が立ち止まりました。

 その姿は黒いローブを全身に纏わせていて、顔や身体は全く見えません。

 更に手には杖を持っています。

 どこからどうみても、魔法使い。

 でもであれば、しかもこの距離ならばリティが気配を読めないなんて事はないはず。

 となると、あいつは気配を自在に消すことのできる高レベルの暗殺者、もしくは……ではない。


「ふふふ、そこの狐の獣人もお久しぶりですな」

「あなた、一体誰?」

「おや、私の軍団を魔法一つで消し飛ばしたリリス嬢の言葉とは思えませんな」


 軍団って、まさかあの時の死霊術師?


「くははははっ、ようやくお気づきになられた様子」

「さっきコボルトを無理やり突然変異させたのも、あなたの仕業?」

「あれは単なるお遊びですよ。まさかリリス嬢がこの迷宮にいるとは思いもよらず、つい嬉しくなって少しばかりちょっかいをかけさせていただきました」


 本当に嬉しそうに顔を上に上げ、高笑いをするローブの男。

 しかしやっぱりあの時の死霊術師だったのか。

 これはやっかいですね。


「何が目的じゃ!」


 エレンドさんが油断なくハルバードを構えたまま問いかけた。

 そのエレンドさんにたいし、嘲笑するかのように答える死霊術師ネクロマンサー


「おや? 死霊術師ネクロマンサーの目的など周知の事実かと思っていましたが?」

「なんじゃと?」

「ドワーフ程度では私の崇高な目的は分かりませんか。まあ仕方ありませんね。それではお教えいたしましょう」


 そういった死霊術師ネクロマンサーが、突然頭を覆っていたローブを捲りあげた。

 そこには……。


「骸骨っ?!」


 そこには肉の一片もない、白い骨があった。

 目の窪みには青白く光る炎が灯っている。

 それがぎょろりと、ボクたちを見据えていた。


「まさか……リッチ……」


 リッチは不死者アンデッド。だからリティにも気配は読めなかったのか。


「そうです。死霊術師ネクロマンサーの目的は、永遠の命! リッチになることが究極の目的の一つですよ。ははははははははは!」

「どうして……三年前のあなたは、まだ人間だったはず」

「リリス嬢によって我が軍団が壊滅されたとき、私は命からがらこの迷宮に逃げ込んだのですよ。ここならそうそう追っ手はきませんからね」


 確かにこの迷宮に入るには、冒険者ギルドに登録して冒険者になること。

 この迷宮都市アークは、身分や過去は一切問わない、実力だけが物をいう町です。

 そして、この町で悪事を働かない限り、基本的に誰でもなることができる。

 まさにこの男のような奴には持って来いの場所です。


「最初はリリス嬢を恨みましたが、今では逆に感謝しております。まさかこの迷宮に、人がリッチになるような力が隠されているとは! この迷宮は素晴らしい、叡智の宝庫ですよ!」


 そんなものがこの迷宮に……。

 でもここはリッチロードが作った迷宮。

 見る人が見れば、それこそ宝の山かも知れません。


「それであなたは、一体これから何を!」

「先ほども申し上げたとおり、今日は顔合わせのつもりです。リッチとなった私はこれから色々な研究をしなければいけません。例えば……」


 そういった死霊術師、いえリッチは右手を上げた。

 すると、そこに五体のゾンビが突然現れる。

 でも、やけに死体が新しい。


「このように、アンデッドをもっと効率よく操る研究も必要となります」

「……そのゾンビは、先ほどすれ違った冒険者たちではないのか?」


 確かここに戻る途中、初心者らしきパーティの一団とすれ違いましたけど。

 まさかその人たちを殺して……?


「私がリリス嬢の後ろを追いかけている時にすれ違った者どもです。リリス嬢へのちょっとした余興のつもりで、即席で作り上げました。彼らは非常に運が良かったですね、死という概念から抜け出せましたし、きっと今最高に幸せなことでしょう」


 狂っている。

 こいつは倒さなければならない!


<凍える魂、氷雪の狼、凍てつく風>


 杖を前に突き出し、呪文詠唱を始める。

 即座にボクの詠唱と呼応するように、リティが弓にチャージしていた魔力の矢を一気に解き放つ。

 が、リッチは骨だけの手を前に突き出した。

 それだけでリティの放った魔力の矢が消えさる。


「えっ?!」

「ははははは、そのようなおもちゃが私に効くとでも?」


 驚きの声を上げるリティ。

 エレンドさんはリッチの攻撃がいつ飛んできてもいいように、大きな盾を構えました。


<吹き荒れよ氷の吐息>


 その彼の前に、ボクの詠唱と共に白く輝く大きな魔方陣が生み出されました。

 しかしリッチは全く動じていません。

 まるでボクの魔法など児戯に等しい、相手にする価値などないかのように。

 ならば、効くかどうか試してみようじゃないか。


氷の雨フローズンレイン!>


 呪文が完成すると同時に、魔方陣からいくつもの氷の弾が散弾銃のように飛んでいき、リッチに襲い掛かりました。

 が、リッチはリティの矢を消した時と同じく、片手を前に突き出す。

 その行為だけで、氷の弾が何かに弾かれたかのように吹き飛ばされていきます。


「さすがリリス嬢の魔法ですな、中々に強力です。しかしやはり私には届きませんな」

「くっ」


 思いっきり魔力を注ぎ込み、氷の弾を打ち出すも、全てリッチの前に生み出されている障壁によって阻まれてしまいます。


 なんで?

 これだけ魔力を使っても、こいつには届かない?


「そんなことないっ!」


 ボクは、自身の周りに纏っている魔闘氣を消し、更に上積みして魔力を注ぎ込みました。

 今のボクは魔闘氣を纏わせた魔力の余波だけで、魔法を唱えている。

 魔闘氣を消して、それを全て注ぎ込めばもっと威力が上がるはず!


 エレンドさんの前に生み出された魔方陣、それが妖しくより強烈に光りだし、そして氷の弾が徐々に氷の岩となって次々とリッチへと襲いかかりました。


「ばかもん! 魔力を注ぎ込みすぎじゃ! 暴走するぞ!」


 エレンドさんの叫びが洞窟内に木霊するけど、ボクの魔法の音がリッチの生み出した障壁に当たる音で消していく。

 徐々に障壁にひびが入り、押されていくリッチ。


 このまま! もっと押し込め!


「ぬぅ?!」


 リッチが慌てるかのように、開いた片手を前へと翳すと、二重に障壁が生み出されました。

 しかし……。


「これはっ!?」


 ボクの氷の雨の魔法がリッチの一枚目の障壁を砕くと、その勢いで二枚目の障壁をあっさりと破壊し……。

 それが一気にリッチへと襲い掛かった。


 凄まじい音と共に、吹き飛ばされていくリッチ。

 近くにいたゾンビはそれに耐え切れず、次々と身体中を吹き飛ばされて動かぬ死体へと変わっていきました。


 それから暫くして魔法が終わり、辺りに静けさが漂いました。


「エレンドさん、あいつはどうなりましたっ!?」

「……倒れておる」


 やった?

 いくらリッチ、一般的にはSランクに相当する魔物でも、あれだけの氷の魔法が当たれば無事ではすまないはず。

 もう一発魔法を当ててやれば、きっと倒せる!


「む、気をつけるのじゃ。あやつ、まだ死んではおらぬ!」


 もう一回魔法を唱えようと杖を突き出したとき、ボクの期待を裏切るかのように、エレンドさんが叫びました。

 でも、かまわない!


<凍える魂、氷雪の狼、凍て……ぐはっ?!>


 ボクが詠唱を開始した瞬間、まるで自分の体重が何倍にも重くなったように、地面へと倒れました。

 これは、重力魔法!

 エレンドさんや、リティも同じように地面に倒れて動けない様子です。


「さすが……リリス嬢。今のは効きました。こうでなくては面白くない」


 その中、ボクの魔法で吹き飛んだリッチが、若干ふら付きながらも戻ってきました。

 しかし、さっきまで着ていたローブはぼろぼろになっていて、骸骨のオドロしい姿をさらしていました。


「たかが下級の氷の魔法で、この私の生み出した障壁が砕かれました。それも技など関係なく、力押しで」


 歓喜するかのように、両手を挙げるリッチ。

 その手をボクのほうに差し出してきました。


「だからこそ、あなたが欲しい。これだけ強大な魔力を持つあなたを、私がゾンビにして操ることが出来れば、この迷宮の最奥にいるリッチロードすら倒せると思いませんか?」

 こいつ、そんな目的を!


「リリス嬢、あなたに相応しい、より高度な、魔法をも扱えるゾンビを作り上げたとき、お迎えにあがります。それまでご健勝を」


 そしてリッチは深くお辞儀して、闇の中へと消え去っていきました。





出落ち担当にしたい誘惑に駆られました・・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ