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魔女リリスは男に戻りたい  作者: 夕凪真潮
第二章 撃ち砕け火の門番
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第26話


 戦闘の喧騒が無くなり、辺りに静けさが戻りました。

 さっきまでまるで夢を見ていたかのようでしたが、床には細切れになっているコボルトの成れの果てが転がっています。


 コボルトジェネラル。名付きの魔物。Bランクとされている魔物。

 ララさんの神速の剣にしっかり反応してくる強敵。

 エレンドさんとララさんの二人がかりで何とか勝てたけど、なぜこんなところにそんな強敵がいたのだろう。

 半年前、五階層に突如沸いた幻影騎士ファントムナイトもBランクだったけど、何か関連性があるのだろうか。


「りーりーすーさぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 突如ララさんが、静けさを打ち破りました。

 そして抱きついてくる。


「こわかったぁぁぁぁぁぁぁぁ! もうあたしダメかと思いましたよぉぉぉぉ!!」

「いやあんた、しっかりタメ張って戦ってたよ」


 ララさんはいまだE-ランク。

 翻ってコボルトジェネラルはBランク。

 あの後ろにいたローブコボルトも魔術を使っていたし、おそらくはCランクのコボルトウィザードだと思う。

 その二匹の魔物に対し、ララさんは一人で暫く持ちこたえていました。

 彼女の腕はBランクと言われても不思議じゃないでしょう。


 普段なら抱きつかれる直前に避けるところですが、さっきの戦闘では間違いなくララさんが敢闘賞です。

 しかたない、大目に見てあげましょう。


「今日は抵抗しないんですねっ!」

「まあ今回はララさん頑張ってくれましたし」

「そうですよねっ! ねっ!」


 ララさんの顔が一気に笑顔満載になる。

 こう見ると、エルフ族なだけあってものすごい美人です。

 性格さえ残念じゃなければ……。


「ふわわわわ~。柔らかく、弾力もあり、尚且つ大きすぎず小さくない絶妙なサイズですぅ。生き返りますぅ。枕にして寝たいですぅぅぅ」


 そう思ってたのもつかの間、ララさんの顔がボクの胸に頬ずりしてきました。

 そこまでは許可してないわっ!


「セクハラやめいっ!」

「ふぎゃっ?!」


 思いっきり杖でララさんの頭をどついてやりました。



「それにしてもコボルトジェネラルとは……一体何が迷宮に起こっておるのじゃ」


 その中、一人エレンドさんは細切れになったコボルトたちを眺めていました。

 あれから結構時間は経ったのに、死体は残ったまま。

 普通なら、消え去るはずです。


 となると、こいつらは外から来たのでしょうか?


 いえ、迷宮の出入り口はギルドがしっかり管理しています。

 それに二十四時間誰かしら入り口にいるはずです。

 それ以前に外から迷宮に入るのであれば、町の中を通って、ギルドの建物を突っ切る必要があります。

 魔物がそんなところを通れるわけがない。


「本当に異常な状態ですよ」


 エレンドさんがコボルトジェネラルの持っていた、大剣を拾い上げました。


「エレンドさん無用心に触っていいんですか?! それ呪われた剣かも知れないですよっ?!」

「さっき鑑定しておいた。こいつは単なる魔法の剣じゃよ」

「えっ。エレンドさんって鑑定魔法も使えるんですか?」

「わしの本業は武具職人じゃよ」


 鑑定魔法。

 主に武具を作る人や、それを扱う商人が使うもので、魔法と言っても普通の魔法とはかけ離れたものです。

 ゲームのように、剣の名前や効果が分かりやすく表示されるわけではありません。

 その武具の材質や割合、魔力の通りやすさが分かる程度。

 つまり、どのような武具なのかを推測するためのデータを収集する魔法です。

 このため、武具を作っている人、もしくはその知識のある人でないと、使ったところで意味の無い魔法になっています。


「鑑定の結果は?」

「どうやら視力を良くする効果が付与されておるの。他には硬化くらいじゃの」


 視力を良くする効果ですか。

 その手の補助効果は、実は盗賊シーフ野伏レンジャーの間ではそこそこ人気なのです。

 視力が良くなれば、より遠くを見通せるので先制しやすいしね。


 しかし大剣じゃ盗賊や野伏では重すぎて持てないので、残念ながら売っても安いでしょうけど。


 でもララさんの神速の剣に対応したのは、その視力が良くなる効果のせいかもしれないよね。

 となると、大剣使いの人なら高く売れるかも……。

 ここのところ、碌にお金を稼いでいないし、良い臨時収入だね。


「一度ギルドに報告しに戻るぞ。これはわしらだけでは解決できぬ」

「そうですね。リティ、大丈夫?」

「うん、ありがとうリリスちゃん」


 ボクは、リティの肩を支えてあげます。

 エレンドさんは、いまだボクの一撃で目を回しているララさんを担ぎました。

 ……荷物扱いですか。

 そしてその場からボクたちは立ち去りました。



 通路を歩き、そして出口のほうへと戻っていきます。

 途中、初心者と思しきパーティの一団とすれ違いました。

 エレンドさんが彼らに注意を促して、再び歩き始めます。

 もう少しで出口につくとき、依頼を受けていたことを思い出しました。


「あっ、そういえばテルノースさんに鉱石を頼まれてましたけど、どうしましょう?」

「テルノースには悪いが緊急事態じゃ。諦めてもらうしかあるまいて」

「仕方ないですね。かなり買取金額が高かったのに残念です。でもその魔法の剣を売ればそれ以上稼げるかな」

「これならば、少なく見積もっても五百万ギルくらいじゃろうて」


 五百万ギル。これは大きいです。

 魔法のかかった剣にしては安いほうですけど。

 もしこれが小剣や短剣だったら、きっとその倍以上はしたのにな。


「リリスちゃん」

「どうしたの?」


 そんな俗世にまみれたことを考えていたら、肩を貸していたリティが何かを思いついたように言ってきました。


「あのコボルトなんだけど、最初確認したとき、あんな異様なコボルトじゃなかったよ」

「コボルトウィザードが認識阻害の魔法をかけていたんじゃないの?」


 いくらなんでもあんな異様なコボルトなら、遠くからでも一発で分かるはずです。

 獣人のリティなら、なおさらそうでしょう。

 だからこそ、認識阻害の魔法をかけられたのかと思います。

 しかしリティは首を振ってそれを否定しました。


「だって私が最初に覗いたとき、まだ彼らには見つかって・・・・・いなかった・・・・・よ。見つかってもいないのに常に認識阻害ってかけるものなのかな?」


 彼女の一言で途端に思考が流れ出した。


 そうだった!

 認識阻害は自分の周囲に光を出して視界を誤魔化し、別のものに見せかけるもの。

 ララさんも普段ミスリルの鎧を隠蔽、つまりは認識阻害しているけど、それはララさんのような魔力が膨大にあるハイエルフ族だからこそ出来る芸当です。

 コボルトウィザード程度じゃ、常に認識阻害なんてかけられるほど魔力は持っていないはず。

 実はリティが偵察に来ていたことを知っていた、という線もありえますが、リティはこう見えても野伏レンジャーの腕は抜群に良い。

 何せ狐の獣人。気配を隠して気配に敏感な野生の動物を狩るなんてことは小さい頃からやっています。

 ましてやいくら名付きコボルトとはいえ、ジェネラルやウィザード、アーチャーといった戦闘系の魔物に見破られるわけがありません。


「私の予測だけど、きっと普通のコボルトが突然変異したんだと思う。それか、何かに憑依されたか」


 突然変異は、普通のコボルトから名付きになる瞬間の事を指します。

 でも、突然変異はいくらなんでもタイミングが良すぎです。

 となるとコボルトとは別の何者かが、近くにいたということになります。

 そして、そいつが部屋の外から覗いたリティの視線を感じて、何かをやったということでしょうか。


「コボルト以外の他にはいなかったの?」

「うん、少なくとも生き物の気配は感じられなかったよ」


 狩りで鍛えたリティは気配を読むことにも長けている。

 でもそれは生きている動物だけであり、不死者アンデッドには効果が薄い。

 しかし不死者アンデッドで肉体を持っているなら、腐っていることが多いので、匂いで分かるそうだけど。


「憑依か。ふむ、なるほどの……」


 リティの言葉に反応したエレンドさんは、大剣を持ったまま寄ってきました。


「何かわかりましたか?」

「半年前に沸いた幻影騎士、あやつも普通のゾンビに幻影騎士の魂が憑依したとすれば。不死者アンデッドならば憑依しやすいからの」

「何者かが、魔物の魂を魔物に憑依している?」

「コボルトは弱いからの。少し強い魂であれば、簡単に乗っ取ることはできようぞ」


 魔物の魂を他の魔物に憑依させるなんて事、一体誰が出来るのでしょうか。


 ……あれ? ちょっとまって?

 魂を操る魔法? コボルトに憑依? 不死者アンデッド、つまりは死体にも魂を憑依?


 ……まさか。


 三年前、ボクの国は魔物や人の死体で出来た大軍に襲われたことがあります。

 ボクはその時、氷の魔女の一族としてその戦いに参加しました。

 しかし、予想以上の大軍に追い詰められ、レミルバ国の首都の近くまで敵が押し寄せてきたのです。

 最終的にボクは大公家に伝わる秘術の魔法を使い、敵を全て消し飛ばしました。

 その時使った秘術の魔法により、生まれて初めて魔力を全て使いきりました。

 秘術の魔法って格好良く言っているけど、某ゲームのマダ○テそのものだったんだけどね。

 とにかく何とか敵軍を撃退しましたが、その軍を操っていた人物が使っていたもの、それは死体に魂を憑依させ不死者アンデッドにする魔法でした。


 結局彼には逃げられましたが、もしそいつがここにいたとしたら?

 そして死体だけでなく、コボルトのような低ランクの魔物に、より高位の魂を憑依させる事に成功していたら?

 元々この迷宮の魔物は、リッチロード、不死者アンデッドの魔力の余波で生み出された魔物です。

 となると普通の魔物と少し違い、不死者アンデッドに近い存在かも。


 額からつーっと汗が流れ落ちていきます。


「リリスちゃん、何か分かったの?」

「気ついたようじゃの」


 そんなボクの異変に気がついたリティが心配そうに顔を覗いてきました。

 エレンドさんは既に気が付いているみたいです。

 ララさんはまだエレンドさんに担がれたまま伸びています。


 ボクはリティとエレンドさんの顔を見て、一言呟きました。




死霊術師ネクロマンサー





やっと中ボスの姿が見えてきました。


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