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魔女リリスは男に戻りたい  作者: 夕凪真潮
第二章 撃ち砕け火の門番
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第25話


 頑丈そうな鎧を着て、大きな大剣を持つコボルトが一匹。

 その背後に、弓をもったものが三匹、魔法使いのようなローブを着たものが一匹います。

 雰囲気からして普通のコボルトではありません。

 確かに遠目で見れば、武器を持った普通のコボルトに見えなくはないけど、なぜリティがあれをコボルト五匹、というサインを送ったのかわからない。

 でもローブを着ているコボルト、もしあれが認識阻害の魔法か何かをかけていたのであれば……。


「あれはコボルトジェネラルじゃ!」


 エレンドさんが異様なコボルトたちの姿を見た瞬間、名を叫びました。

 コボルトジェネラルは確か、普通のコボルトが長い戦闘経験を積むことによりランクアップして誕生する魔物です。

 人間の冒険者だって、最低のEランクと最高のSランクでは、同じ人間でも強さは天と地ほどの差があります。

 魔物にもこれが当てはまるケースがあります。

 それが名付きと呼ばれ、同じ魔物でも名付きの場合は遥かに戦闘能力が高い……のだけど……。


 ここはダンジョン。

 魔物はリッチロードの魔力によって生み出される存在で、一階とはいえ、ほぼ毎日初級の冒険者が誰かしらいるはずです。

 そして生まれた魔物は、ほぼその冒険者たちの手によって数日以内に倒されます。

 ここが一階ではなく人が未到達の最下層であれば、魔物同士で戦い、そして強い固体が経験を得て名付きが誕生したのであれば、まだ理由は分かります。

 でも一階では、戦闘経験を積む前に冒険者たちによって倒されるので、名付きが誕生する訳がない。

 逆にこんな低階層の魔物が、名付きになるほどの経験を得たという事ならば、多数の冒険者を倒しているはずです。

 それだけの数の冒険者が帰らなければ、必ずギルドが何らかの調査をしている事でしょう。


 では、このコボルトジェネラルたちは一体何者?

 どうやって生まれた?

 一体迷宮に何が起こっている?!


「うきゃぁ?! ジェネラルって強いんですかぁぁぁ?!」

「大丈夫じゃ、ララミスよりは弱いから安心して行くがよい。十五秒ほど時間を稼いでくれれば、問題ない」

「でもあの魔物さん、立ち去るがいいって言ってますから、リティさんを回収して大人しく帰りましょうよぉ」


 この状況下でもぶれないララさん。

 いやボクのように動揺して取り乱すよりはマシなのだけど、あれも一種の才能だよね。


「お主はそれでも、迷宮を潜る冒険者かっ?!」


 そんなララさんにキレたエレンドさん。

 突然ハルバードを床に置き、「さっさと!」彼女の首をむんずと掴んで、「行って!」投球フォームのように構え、「来るのじゃ!!」コボルトジェネラルのいるところへとブン投げました。


「うひゃああぁぁぁぁぁぁ~~~」


 某選手のレーザービームのように、高く速く飛んでいくララさん。

 さすがのコボルトジェネラルも、まさか仲間を投げるなんてこと思いも寄らなかったのか、完全に口をあんぐりと開けた状態です。


 甲高い悲鳴と共に高く放り投げられたララさんは、空中で猫のように体勢を整え、天井を蹴って一瞬でコボルトジェネラルたちへと襲い掛かります。

 その隙にエレンドさんが、床に落としたハルバードを拾ってリティの元へと駆け寄っていきました。


 ジェネラルの後ろに並んでいた弓をもったコボルトたちが、我に返り慌てて弓を構えるが、それは遅かった。

 地面に着地したララさんが、再び一歩足を出した途端、一瞬でコボルトたちの背後へと回りこみました。

 この距離から見ていたからこそ追えた動き。

 コボルトたちには、消えたように見えたでしょう。

 あっという間に弓を持ったコボルト三匹が、ララさんの神速の太刀筋によりで細切れにされ、次にローブ姿のコボルトへとかかった時、甲高い音と共に剣が遮られた。

 それは、鎧を着たコボルトジェネラルの持つ大剣だった。

 ララさんの持つ細剣はミスリル製であり、並みの剣であれば剣ごと切られるはずなのですが、あのジェネラルの持つ大剣も何らかの魔法がかかっている剣なのでしょう。

 ララさんが一歩後ろへ飛ぶと同時に、大剣とは思えないほどの速度で、ジェネラルの一撃が通り過ぎていきました。


 エレンドさんがリティの側へと寄ると、ハルバードを再び床に降ろしてすぐさま手をリティに翳し、呪文詠唱を始めました。

 白い聖なる光りが、薄暗く光る通路を白く染め上げていきます。

 それと同時に、流れている血の量が減っていくのが分かりました。

 神聖魔法の治癒ヒーリングは、怪我を治すだけでなく失った血も復活させるとても便利な魔法ですが、それだけに高度な魔法であり、術者の腕で回復量に差が出てきます。


 リティは大丈夫だろうか。

 でもここはエレンドさんの腕を信用するしかない。


 時間にして十五秒ほど、エレンドさんが翳していた手を下ろすと、ハルバードを拾いあげました。


「リリス、こっちにきてリティを助けてやってくれ」

「はいっ!」


 慌ててリティの側へと走っていく。

 まだ呼吸は荒いものの、目を開いたリティが走ってきたボクのほうへと顔を動かしました。


「ごめんねリリスちゃん、ちょっと失敗しちゃった」

「心配させないでよっ!」

「あとは任せたのじゃ、わしはララミスのサポートに回ってくる」


 そうだ、まだララさんが戦っている。


 そちらを向くと、戦闘はある種の硬直状態に陥っていました。

 ジェネラルがララさんを牽制しながら、後ろにいるローブのコボルトが魔法を唱えますが、ララさんの壁や天井を利用して跳びまくるトリッキーな動きで、魔法が命中せず相手を翻弄しています。

 しかし隙をついたララさんの繰り出す剣は、全てジェネラルの大剣によって阻まれています。


 あのララさんの剣速に反応するジェネラル、まさしくコボルトという種を超えた名付きです。


 でもそこにハルバードを構えたエレンドさんが参入してきました。

 ララさん一人と、ジェネラルとローブコボルトの二人でバランスを保っていたところに、エレンドさんの参入です。

 これで硬直状態が崩れました。

 ジェネラルの大剣を盾で受け流し、返す刀で横殴りにハルバードを振るうエレンドさん。

 ジャンプして避けるジェネラルにララさんの細剣が唸りをあげて襲いかかる。

 が、ローブコボルトから飛んできた魔法に気が付いたララさんは、咄嗟に剣で魔法を弾いた。

 その隙に体制を整えたジェネラル。

 再び今度はララさんがジェネラルに攻撃をしかけ、それが大剣で塞がれた時、エレンドさんが後ろのローブコボルトへと移動するフリをしました。

 それに引っかかったジェネラルの意識が一瞬エレンドさんに向けた瞬間、ララさんが一瞬にしてジェネラルの背後へと回り込み、そしてジェネラルを断ち切りました。


 残ったローブコボルトは、最後の悪足掻きのように呪文詠唱するものの、エレンドさんの盾が強打、吹き飛んだところにララさんの細剣によって、ローブコボルトも細切れになりました。





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