第24話
や、やっと更新できました。
お待たせして申し訳ありません><
え?待ってないって?
ギルドを抜けて迷宮の入り口につくと、既に三パーティが並んでいました。
でも朝の混雑時間帯に比べれば、空いています。さすが明け方前ですね。
列の最後尾に並ぶと、十代後半くらいの女性ギルド職員がやってきました。
迷宮の入り口を受け持つ職員は若手が起用されることが多いのです。
なぜかというと、それは冒険者たちの顔を覚えられるからですね。
なんせ殆どの冒険者が利用するでしょうしね。
それに長時間外で立ちっぱなしということもあるので、体力のある若手が有利です。
「ギルドカードの提示をお願いします」
「ご苦労様です」
カードを見せると、職員はノートに記帳していきます。
ギルドカードには通し番号が振られていて、この番号と名前、そして時間を残しておくことで、いつ誰が迷宮に入ったかを記録しています。
不自然に長い間戻ってきていない冒険者は、迷宮内で死亡扱いになります。
と、職員のお姉さんが記帳している間に順番が回ってきました。
「はい、確認しました。あなた方に天の幸運を」
「あなたにも地の恵みを」
ギルドでは恒例となっている挨拶をして、迷宮の入り口へと向かいます。
一呼吸置いた後、リティを先頭に、続いてララさん、ボク、エレンドさんの順番で入りました。
入った途端迷宮特有のひんやりした空気、そしてまとわりついてくる魔素。
いつきても陰険な場所だ。
初心者だと、この魔素に充てられてうまく動けなくなるんだよね。
でも一階層の通路は迷宮の中とは思えないほど明るい。
昼間とまでは言えないが、夜に家の中で明るいライトをつけたくらいだ。
この明るさが四階層目まで続く。まさしく初心者向けと言える階層だろう。
さて、入ってすぐ通路が前と右の二方向へ伸びています。
ボクたちは下の階層に繋がる階段のある正面の通路を歩き始めました。
ここから早く移動しないと、三分後には次のパーティがくるしね。
リティは手慣れたように先頭を歩いています。
彼女から少し離れて、残り三人が縦に並んだ状態で続いています。
リティは野伏技能を持っている。
盗賊は人の手によって作られた場所で能力を最大限に発揮できますが、野伏は自然に出来た場所で能力を発揮します。
三十階層までなら盗賊のほうが有利ですが、それより下の階層は外の世界に似た階層になっているので野伏が有利とされています。
「おお、そうじゃ。ここから十階層まではリリスに全ての戦闘を任せるのじゃ」
「ええっ?!」
リティの後ろを歩いていたエレンドさんが、突如怖い発言をしてきました。
確かにいきなり十階層から実戦するよりも、敵の弱い一階層目からやった方がより安全ではあるけど。
一体どこの世界に魔法使いを前衛に出すパーティがあるのかな?
「リティを先頭に、リリスがその次、ララミスがサポートをして、わしが後ろを守る。戦闘が始まればリティがララミスと並んでサポートするのじゃ。良いかの?」
「私はいいけど、リリスちゃん一人で大丈夫かな」
「あたしは大賛成っ!」
「いやいや、最初から全部じゃなくって一匹だけにしませんか?!」
一階とはいえ、敵は二~三匹出てくるのだ。いきなり一対多ではなく、タイマンさせてほしい。
「ふむ、確かにそうじゃの。ではララミスよ、最初の戦闘は一匹だけ残してくれんか」
「は、はぅっ。で、できればリティさんに任せたい……けど」
「あんた前衛でしょっ?!」
「デスヨネー、が、がんばりますぅ!」
頑張るというか、あんた十階層のボスすら、雑魚まとめてなます切りにしてたよね。
勢い余って全部切っちゃうほうが怖い。
「まあとにかくやってみる」
大丈夫。模擬戦ではララさんの攻撃すら、全部防いでた。
もっと下層の敵ならいざ知らず、初心者向けの十階層までの敵なら複数いてもきっといける!
「よし、ではリティよ。先頭を任せるのじゃ」
「はーい。少し回り道していきますか?」
このまま階段まで最短距離で行けば敵に遭遇する確率は低い。
実際普段なら五階層目くらいまで、遭遇しない事が多いしね。
二階への階段は入り口から一直線。普通に歩けば十分もかからず着きます。
いくら冒険者の中で初心者と呼ばれるランクが一番多いとはいえ、本当の駆け出しランクが適正の一階~二階で戦う人は全体から見れば少ない。
殆どの冒険者は一直線に下の階層へ目指します。
つまり人通りが一番多い通路であり、部屋から魔物が流れて来たとしてもすぐ討伐されるので、結果的に魔物に会う確率が低くなります。
ちなみに一番多いのはアンデットエリアである五階層、そしてEランク~Dランクの適正エリアである八~十階層です。
でもそれだとボクの最初の戦闘が五階層目以降と言う事になる。
だから途中、どこかに寄って一~二度戦闘をしてみようとリティは提案しているのだ。
「その辺りも任せるのじゃ」
「了解です!」
そうそう、言い忘れていたけど、今回からリティが隊列の先頭を勤めることになりました。
今まで十階層までがリティ、十一階層以降がエレンドさんでしたけど、本来であれば野伏のリティが常に先行なのが普通だ。
ようやく普通のパーティらしい体系になってきました。
リティは途中十字路になっているところで、右に曲がっていきました。
ここを曲がると、部屋が十個くらいある通路へと繋がっています。
駆け出しの冒険者がよく行く場所で、ボクとリティもよくお世話になったところだ。
懐かしいなぁ。
リティが最初の部屋の前で一度立ち止まった後、そのまま素通りしていきました。
そして、二番目、三番目、四番目と部屋の前に立ち止まるも、素通りです。
……あれ? そんなに混雑しているのかな?
それとも中に何も居ない?
ボクが駆け出しの頃よく通ったけど、混雑時間帯の昼間でも五~六番目くらいの部屋まで行けば開いていたはずだ。
ましてや今は明け方。こんなに混雑しているのは想定外。
エレンドさんを見るが、彼も少々不審な顔をしている。
リティはそのまま突き進み、一番最後の十番目の部屋の前で立ち止まると、右手で五本の指を、左手は親指を一本立てた。
「コボルト五匹か」
エレンドさんが呟く。
これは部屋の中に五匹の魔物が居て、親指はコボルトを指し示しています。
殆どの階層は、一階層辺り五種類までの魔物しか沸きません。
だから左手の指を一本ずつ種類に割り当て、右手でその数を伝えるのが定石です。
冒険者は必ず一冊買う事を義務付けられている迷宮ガイドブックにも、三十階層までですが、どの指がどの魔物を指しているか載っています。
いや何と言うか至れり尽くせりですね。
ちなみに一階だと、親指がコボルト、人差し指がワンダーハーブ、中指がビッグスクイレル、薬指がビックマウスとなっています。
「何かおかしくないですか?」
「うむ、そうじゃの」
ボクたちも先行するリティに合わせて移動しているので、今は五番目の部屋の前辺りで待っています。
しかし一番目から五番目まで、中には誰もいませんでした。
迷宮では普通、部屋には数匹の魔物がいるはず。誰かに倒されたとしても、十五分も待てば次が沸いてくる。
誰かが開いているのをこれ幸いと、次々と部屋を順番に攻略しているのならばともかく、この通路にはボクたち以外誰も居ません。
ここに来るまで他のパーティとすれ違ってもいない。
明らかに何らかの異変が起こっている。
「とにかくリティのいるところまで……いや一度リティを戻らせるかの」
エレンドさんはしばし逡巡するも、リティを呼び戻す事にしました。
彼が手で合図すると、リティは静かにこちらへと向かってこようとした瞬間。
なぜか半年前、五階層に沸いたイレギュラー、Bランクの魔物である幻影騎士の事が頭を掠めた。
「リティ!!」
ボクが思わず叫んだ瞬間、部屋の中から飛んできた何かがリティに当たり、そしてゆっくりと倒れていく。
それを目にしたボクは、思いっきり魔闘気を開放した。
足に力を溜め込んで一気にリティの元へと駆け寄ろうとした瞬間、がっしりとした手に腕を掴まれた。
「エレンドさん?!」
彼の手から逃げようともがくが、魔闘氣を使っているのにも関わらずびくともしない。
「一人で行くんじゃない」
「で、でもリティが、リティが!」
「慌てるなリリス、リティはまだ大丈夫じゃ」
しかしリティの居る床には、赤く彩る液体が流れているのが見える。
あれだけの出血をしていれば、医療に疎いボクでも致命傷というのが分かる。
「獣人は人間よりも遥かに体力が多いのじゃ。まだ暫くは持つ。それより迂闊に近寄るとリティと同じ事になる。わしらまで倒れてはリティを助けるどころか全滅じゃ」
確かにエレンドさんの言う事は正しい。
でも心は焦る一方だ。
自然と涙が溢れて視界がエレンドさんの顔をゆがませる。
「ララミスとわしでゆっくりと近寄るぞ。リリスはここで待っているのじゃ」
「ふぇっ? あたしもですかぁ」
「ボクも行きたい!」
「だめじゃ。今のお主は冷静な判断が下せぬ」
「でもっでもっ!」
「良いからわしらに任せろ。わしは神官戦士じゃ、あれくらいなら一瞬で治せる」
そうだ。彼ならリティを助けられる。
確かに今のボクでは敵を見れば一人で特攻していくだろう。
「……はい」
「よし、いいか、絶対にここで待ってるのじゃぞ」
そう念を押したエレンドさんは、ララさんと一緒に素早くリティの倒れている場所へ近寄っていく。
その時部屋の中からコボルトのような魔物が五匹出てくるのが見えた。
コボルトは犬が二本足で歩行したかのような魔物で、体長は一メートル程度、魔物の中ではほぼ一番弱いとされているけど、あれは雰囲気がまるで異なる。
その魔物がこちらを見ると、犬のような口を開けてしゃべってきた。
「矮小な人族どもめ、また懲りもせず来たか。ここは我等が縄張りである。早々に立ち去るが良い」




