第23話
今月は更新が不安定です><
まだ夜も開け切らぬ中、ボクたちは迷宮に潜るべくギルドへと赴きました。
さすがにこの時間だと人は少ない。が、それでも何十人かは見かけます。
「そこそこ人いるんですね」
「この時間であれば順番待ちもそこまで長くないしの」
ボクの呟きにエレンドさんが答えました。
慣れている人であれば、二十階層までなら一日二日で帰って来れます。
特に階層が狭いという訳ではありません。
数十のパーティが同じ階層に潜っていても殆ど遭遇することはないくらいの広さはあります。
その理由は、なぜか二十階層までは階段を下りて通路をまっすぐ、或いは角を一回曲がる程度で下へ潜る階段があるからです。
初見ですら地図すら殆ど必要ないくらい、簡単に下の階層へたどり着けます。
それはまるで二十階層までは肩慣らしだろう? と言っているかのように。
ギルドでは、十階層までが初心者、二十階層までが中級者、そしてそれ以降が上級者と大まかに分けられています。
しかしこの迷宮の造り主、リッチロードからすれば二十階層までが初心者、と考えているのかも知れません。
そして二十階層を越えると、迷宮の牙が本格的に剥いてきます。
入り組んだ道、様々な罠、そして迷宮の中なのになぜか気温が高くなったり低くなったり、天井も高くなり空を飛ぶ魔物も増えてきます。
更に三十階層を越えると、そこからは迷宮の中とはとても思えない風景が広がっているとか。
風がそよぐ広い草原、あるいは乾燥する砂漠、薄暗い森、そして降りた階段の高さを考えると不自然なほど高い山、あげく地下なのにも関わらずなぜか外と同じ昼夜、太陽と月が交互に登る場所。
それは一階層ごとに別の空間と繋がっているから、と言われています。
でもボクたちはまだまだそんなところへは行けません。
まず当面の目標は二十階層のボス、ファイアドレイクです。
さて迷宮に潜るには、一パーティごとに三分待ちます。
十パーティ居れば三十分の待ちになります。
これはパーティ同士の諍いを避けるためだとか。
混雑する時間帯だと、二時間待ちもざらにあります。
まるで夢の国の人気アトラクションのようですよね。
そんな順番待ちを嫌って人の少ない夜中に潜るパーティも居ますし、ボクたちのように夜明け前に行くところもあります。
なんといってもここは迷宮都市アーク。
住人だけで二万人、冒険者の数だけでも四千人~五千人はいます。
一パーティ平均四~五人の人数だとしても、一千のパーティがいるのです。
全員が全員、毎日迷宮に潜るわけではありません。大抵の人は一回潜ると数日休みを取る場合が多いです。
それでも稼働率を考えると、一日二百や三百のパーティは迷宮に潜っている事になります。
三分に一パーティ、一時間に二十、一日に潜れる数は四百八十ですから、殆ど二十四時間迷宮の入り口には誰かしら居ることになります。
もちろん潜る人も居れば戻ってくる人もいますしね。
ギルドでは高位の魔法使いたちが集まって、もう一つ入り口を増やせるか研究しているそうです。
入り口が二つになれば、待ちも少なくなりますしね。
迷宮の入り口はギルドの建物内を一度通ってから、中庭のような場所にあります。
これは入り口を囲うように壁が作られていて、唯一の出入り口にギルドの建物が建っているためです。
当初は魔物が外に出られないようにする為でしたが、今では事実上ギルドに登録している冒険者以外の人が潜れないようになっています。
利権って怖いですね。
そんなギルドの中を通って、迷宮の入り口へと続くドアを潜ろうとした時、声をかけられました。
「エレンド」
「テルノースではないか、久しぶりじゃの」
その声の持ち主、スリムな体系の三十代中盤の女性でした。長い青い髪で、鋭い眼差しをしています。
若い頃はかなり美人だったでしょう。
あとどう見ても盗賊っぽい人ですね。
そしてエレンドさんを呼び捨てで呼んだということは、きっとエレンドさんの昔の仲間だった人でしょう。
「一つ頼まれて欲しい」
「何をじゃ?」
「フォックロックの鉱石を二つ三つ」
「フォックロックじゃと? 今日はそこまで潜るか分からぬぞ」
フォックロックは十三階層辺りに出てくる魔物です。
狐のような形をした岩の魔物で、岩だから硬いし、そして岩のくせに狐火を使ってくるなかなかの強敵です。
でも今日はボクの魔闘氣の本番練習なんですよね。
十一階層を回って終わりにする予定です。
「出来れば行って欲しい。明日くらいには欲しいから」
「鉱石ならギルドから買えば良いのではないか?」
「あまりギルド……ライラスに知られたくない」
ギルドマスターに知られたくない? でもここギルドの建物の中ですよ?
さすがにこんな夜明けに出社はしてないでしょうけど、彼の手足はそこら中に居るはずです。
となると、別の理由?
例えばララさん。
彼女が仲間になってからもう半年以上経過しています。
その腕前はEランクとはとても思えない、Bランクくらいの冒険者と戦っても引けをとらないと思う。
これだけ成長しているのであれば、そろそろ実力を試される頃かも知れない。
フォックロックは十三階層に出てくる魔物で、ボクたちは十一階層が最高です。
エレンドさんはソロで十三階層まで行けるのですから、試すなら適正な階層だよね。
そして、この盗賊っぽい女性がギルドマスターに頼まれて実力を測る意味合いで、鉱石をボクたちに依頼した。
うん、考えられますね。
他にはこの女性、テルノースさんでしたっけ。彼女が本当に鉱石を必要としている場合。
でも鉱石はランプ代わりの灯火の燃料として需要はあるものの、それ以外の用途は殆どありません。
確かにフォックロックは強敵ですが、所詮はCランクの魔物です。
中級の冒険者であればそれほど苦労することなく倒せるし、何せ明かりの燃料ですから需要もたくさんあるので、在庫も大量にあります。
エレンドさんの言うとおり、二~三個ならギルドで買えば良いだけです。
それ以前にエレンドさんの仲間だった人であれば、Cランクはあるはず。
自分で採りに行けば良いだけですよね。
「ふむ、まあ良い。最悪わしだけでも行ってくるかの」
「すまない」
そんなボクの思案とは裏腹に、軽く請け負うエレンドさん。
全く彼はこういうところが正直というか。
少しは疑おうよ。
「いやいや、だめですエレンドさん。ボクたちはパーティなんですから、エレンドさん一人だけ行くのは不許可です」
「リリスちゃんの言うとおりだよ、エレンドさん。今日は十三階を目標にしようよ」
「あたしは出来れば早く……いえ、みんなと一緒に戦いますぅ!」
ボクはセリフを全て言う前にララさんを睨みつけました。
彼女は協調性というものを学ぶ必要がありますね。
そんなボクたちをぐるっと見渡したテルノースさんは頭を下げました。
「頼んだ。ギルド価格の五倍で買い取る」
五倍!?
これは絶対何か裏があるね。
「買取云々は後でもよかろうて。明日の夜までには戻るから、テルノースはそれまで待っててくれんかの」
「分かった。では明日の夜」
彼女はそう言うとギルドを出て行きました。
完全に姿彼女のが見えなくなったあと、ボクはエレンドさんに耳打ちしました。
「エレンドさん、彼女には何かあるのですか?」
「ふむ、分からぬな。まあ詳しい事は、明日にでもあ奴から聞けばよかろう」
それもそうですけど、なんか心配です。




