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魔女リリスは男に戻りたい  作者: 夕凪真潮
第一章 四人の冒険者、集う
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第14話

 壁の華となっていたボクとリティに、ギルドマスターが声をかけてからは誰一人として近寄ってきませんでした。

 たまに、あれはどこの貴族の子だ、という不躾な視線は飛んできましたが、ボクたちの側に誰も居なかったので冒険者ゲストと認識された見たいです。

 若い女性の近くには、必ずお偉いさんがいますしね。

 ボクたちの持っている皿には大量の料理が乗っていた事も、その理由になったでしょう。

 また見知った顔もありませんでした。

 うちの国から誰か来ているかも、と思ってたけど、さすがに普通のパーティーにあんな遠方から来る事は無かったみたいです。


 会場内には、給仕に扮装している冒険者が数名いらっしゃいます。

 足の運びから気配の隠し方、周囲の警戒の仕方と、どうみても一般人ではありません。

 まるで迷宮に潜っているような雰囲気です。

 しかも格好が給仕のくせして、仕事してないし。

 あれ逆に目立つよ。

 それなりな高位冒険者なのでしょうけど、こういった形での護衛は苦手な人たちなのですね。

 もっと上手な人だと、それらを隠して一般人のような行動をします。



 パーティもそろそろ終盤になり、ぞろぞろと人が出て行っています。

 主役であるはずのギルドマスターが、ほんの少しだけ顔を出したあとすぐまた居なくなったせいでしょう。

 ボクたちは日ごろ口に出来ない料理を、まだ食べています。

 冒険者の資本は身体です。食べなきゃ損だからね。

 まだテーブルの上にはたくさんの料理が残っているし、もったい無い。

 お持ち帰りできるか、あとで聞いてみよう。

 二人で持ち帰れば二日分くらいにはなるしね。

 ……ボクって一応貴族の生まれだったよね。

 思えばこの一年でたくましく育ったなぁ。


 ひた向きに食べていると、いつの間にか周りにはリティ以外、給仕の人しか居なくなりました。

 こいつまだ食ってやがる、という顔で給仕が見てきます。

 さすがにそろそろ遠慮しないといけないかな。


 なーんて思うのは普通の人。


 ボクとリティはフードファイターのごとく次々と料理を皿に乗せて、厚顔無恥さを貫き通します。

 こうじゃなきゃ、冒険者なんてやってらんねーぜっ。


「なんじゃ、まだ食ってたのか」


 二人して食べていると、エレンドさんがやってきました。

 彼はジョッキを片手に、樽をもう片手に持ったままです。

 そっちこそ、まだ飲んでいたのですか。


「もぐもぐ……えれんどはん、これほいしい」

「うん、ほいしいおね」

「慌てずとも食ってからでかまわぬ。それはヒドラの肉じゃな、一切れもらうぞ」


 ボクの皿から肉を手で取り、口に放り込むエレンドさん。そしてジョッキを傾けて蒸留酒を美味そうに飲み干してました。

 いかにも幸せそうな顔だね。

 それにしてもさすが冒険者生活の長いエレンドさん。ヒドラの肉も知っていた様子。

 ギルドマスターとも顔見知りですし、何回か食べたこともあるのでしょう。


 彼は蒸留酒を飲み干した後、器用に片手で樽を掴んで注いでいます。


「ところで、ギルドマスターのお話って何でした?」

「それは帰ってからじゃな。ここじゃと人目が多い」


 確かに給仕の人が、片付けたいんだけど帰ってくれないか? という雰囲気で訴えてきています。

 さすがにそろそろ帰ったほうがいいかな。

 それにおなかもかなり膨れているし。

 近くで待っている給仕に、ボクとリティがそれぞれ持っている皿を指して頼んでみました。


「すみません、これ包みたいので入れ物ありますか?」

「え? 入れ物ですか?」

「はい。とてもおいしかったので、是非持って帰りたいんですよ」

「しょ、少々お待ちください」


 マニュアルに載ってない頼みごとだったのか、若干慌てた感じで会場に残っている給仕のお偉いさんのところへ向かっていきました。

 パーティーに来る人は、基本お偉いさん。つまりお金持ち。

 こんな頼みごとする人はいなかったのでしょう。

 まだまだ経験が足りていない模様だね。


「ちゃっかりしておるの」

「だって、残った料理って捨てられるんですよね。なら貰ってもいいじゃないですか」

「余り物は会場を護衛しておった冒険者たちに配られるから、捨てられる事はないの」

「そうだったんだ」


 うちの国のパーティーだと、基本全て捨てられていたから、勘違いしてたよ。

 ボクはそれがもったいなくて、なるべく料理を持ち帰って近所の子供たちに配ってた。

 家族には、大公家としてあるまじき行為だ、みっともないからやめろ、とは言われてたけどね。

 国民が汗水流して納めてくれた血税が、このパーティーには使われている。

 それを捨てるなんてとんでもない、と説得してたっけ。


「これをお使いください」

「ありがとうございます。また後日お返しに伺いますね」


 戻ってきた給仕から、木でできた箱を受け取りました。

 別に布でも良かったんだけどな。


 リティと手分けして箱の中に料理を詰め込んでいきます。

 何となく、おせちを箱詰めしていた記憶が蘇りました。

 育ち盛りの頃、元旦におせちを殆ど食べきってしまい、怒られたっけ。


 懐かしいなぁ。


 五分ほどかけて箱一杯に詰め込んだ料理を見たボクとリティは、互いに笑いあいました。

 これだけあれば、二日分になります。

 料理を作る時間が減るし、開いた時間で何かやろう。


「終わったかの?」

「はい、たくさん入れました! ヒドラの肉もありますから、おつまみもありますよ?」

「そうかそうか、それは嬉しいの」


 樽を横に置いたエレンドさんは、ボクたちが詰め込んだ箱を見て破顔しました。

 さて、帰りますか。

 箱を貸してくれた給仕さんに礼を言って、会場を後にしました。


「そうだ、あの執事さんにも一応礼を言わなきゃダメかな。それに出るときも、あの裏口っぽいところから出たほうが良いかも」

「そうだねー。ドレスとかは借りたわけじゃないけど、お礼くらいは言っておくべきかな。リリスちゃん、あの部屋までの道のりは覚えている?」

「うん、大丈夫」


 リティは町の外や迷宮内の方向については野伏レンジャーも兼ねているせいか正確なんだけど、なぜか広い家の中だとよく道に迷う。

 何年も住んでいるボクの実家でも、たまに迷っていたくらいだ。


 エレンドさんとボクが先導して歩いていると、廊下の前に三人が並んでいました。

 ギルドマスター、執事さん、そして……あれはエルフ?

 そのエルフの少女は緑色の髪を肩で切り揃えて、リティと同じような革鎧に身を包んでいます。

 更に腰には細剣を携えて、ボクたちのほうを見ていました。


 ……軽戦士……いや、魔法剣士ですか。


 重戦士は硬い鎧と盾で敵の攻撃を押さえ込みますが、軽戦士はその身軽さで敵を圧倒します。

 更に彼女はエルフ族ですから精霊魔法も使えるはず。

 剣と魔法を両立させ前衛でも後衛でも活躍できる魔法剣士は、魔弓士に比べれば多いものの絶対的な数は少ない。

 それはどちらも中途半端に終わるから。

 でもエルフ族は長寿な種族です。

 人間より長い期間、経験を積めるし両立も可能でしょう。


 それにしても始めてエルフ族を見たけど、噂どおり線の細い美人さんだ。

 ボクと殆ど変わらないような年齢に見えるけど、エルフ族だし百歳を超えていると言われても不思議じゃない。


「エレンド、こちらのエルフがララミス=シルフィード殿だ。そしてあのドワーフがエレンド=イクスノード、ララミス殿のお仲間・・・となる人です」


 ギルドマスターがエレンドさんにエルフの少女を紹介してきました。

 ……仲間? それはどういうこと?

 咄嗟にエレンドさんの顔を伺うも、彼の表情はいつもと変わらず。

 これか。さっきギルドマスターに頼まれたことって。


 そのエルフのララミス=シルフィードさんが、一歩前に出て優雅に一礼します。


「はっ、はじっ……はじめみゃ、いたっ! あうぅ~、舌噛んじゃいました~」


 挨拶は全然優雅ではなかった。かみかみです。

 しかも真っ赤になっています。

 これ本当にエルフ族?



 というか、これは萌えますね!




これでレギュラーキャラ揃いました

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