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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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226/227

99 力の差を埋めるために


★★★★★★★★★★


「シェフ!」


 わたしが叫んだ時にはすでに遅く、シェフは、シェフの兄だという魔人によって地面へと押し倒され、その口へと肉の塊を突っ込まれてしまっていた。


 シェフは、食事をしないと言っていたのに、あんな無理やり――


「シェフを離せ!」


 剣を持って飛び掛かるが――魔人はこちらに見向きもしないで軽く腕を払った。

 たったそれだけの動作で、わたしの体は大空へと吹き飛ばされてしまう。

 見る見る小さくなっていくシェフの体。


 かなりの距離を吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる。


「……ぐふっ!」


 あとになって、衝撃が体内を突き抜けていった。

 口から大量の血液が迸る。


 内臓を、かなりやられてしまったようだ。


 まるで、歯が立たない。

 いや、そもそも次元が違い過ぎる。



 シェフが……遠い。



「っぁああああ!」


 シェフの悲鳴が聞こえる。

 魔人がそれを見て笑っている。


「さぁ、目覚めろ! 飢え続けた貴様の細胞なら、さぞいいエサになってくれるだろう!」


 シェフの体が黒い靄に覆われていく。

 シェフの姿が、見えなくなっていく。


「シェフっ!」


 立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。

 くっ!

 こんな大事な時に――!


「うごっ……け!」


 固く握った拳を太ももに打ち付ける。

 激しい痛みが神経を叩き起こし、微かにだが体が動くようになる。


 これで、シェフの元へ行ける――


『無理はしちゃダメよ』


 優しい声が聞こえる。

 振り返ると、美しい女性が浮かんでいた。


 この人が、歩くトラットリアの前オーナーで、名前はたしか――


「トミコさん」

『ミサキよ。せめて一文字くらい掠らせて』


 ため息をつかれてしまった。

 文字数は合っていたのに。


『あなた、ボーヤを助けたい?』

「もちろんだ! そのためなら、この身がどうなろうと――!」

『はい、ストップ。それ以上は言っちゃダメ』

「――っ!?」


 突然、口が動かなくなった。

 強引に動かしてみるも、声が出ない。


 なにをされたのか、まったく分からない。


『あなたがいなくなると、ボーヤが悲しむわ』


 シェフが……


 わたしなど、誰にも必要とされず……父にも、存在すら認めてもらっていなかった。

 どこに行っても恐れられ、疎まれ、避けられていた。


 そんなわたしだが……


 いなくなると寂しい。

 そんな風に思ってもらえているのだとしたら、嬉しい。

 それも、シェフがそんな風に思っていてくれるなら――


「思い残すことは何もない。この身を犠牲にしてでも必ず助け出す!」

『えっと、話聞いてた? あれ、残念ななのかな、この娘?』


 ウナギさんが戸惑っている。


「ウナギさん」

『ミサキです! ちょっとは近付いたかな~って、そんな大らかな心では許せないくらい間違ってるからね、まだ』

「アナゴさん!」

『遠ざかった!? あっれ、この娘、本腰入れて残念な娘だ!?』

「シェフを助ける方法があるなら教えてほしい! 魔王を倒せるくらいの力を持っていた勇者であるあなたに!」

『うん。教えてあげる』

「そこをなんとか! この通りだ!」

『教えるって言ってんの!? 土下座やめて! 一般人は土下座されてもドン引きするだけだから覚えといて!?』


 キナコさんが戸惑いながら大きな声を出す。


「ありがとう、キナコさん」

『アナゴ寄りに知識を固めようとするのやめてくれる? ミサキさんって言えたら教えてあげる』

「ミサキさん!」

『物凄く現金、この娘!?』


 ミサキさんが「したたかだわ~」とか「ボーヤ、悪女に騙されてないかしら?」とかぶつぶつ言っている。

 今はそんな暇はないというのに。


「真面目にやってほしい、ミサキさん」

『どの口が!? えぇ~、こっちのせいにする? 怖いわぁ、最近の若い娘……』


 言いながら、ミサキさんが人差し指をくるくる回し、わたしに光を投げてくる。

 指先から発せられたまばゆい光がわたしの体を包み込み――青く美しい鎧へと変化した。


『それは、私が生前使っていた勇者の装備。一応、伝説級の激レア装備だから、性能は折り紙付きよ』

「オマケつきなのか」

『折り紙付きね? え、もしかしてオマケで折り紙がついてくるって思ってる?』

「よく分からないことは言わないでほしい」

『それこっちのセリフぅ~!?』


 ミサキさんがなんだか怒っている。

「ボーヤの育ての母として、嫁姑問題が深刻化しそうだわ」とか、ちょっとよく分からないことで頭を抱えている。


「ユニークな人だ」

『そっくりそのまま、熨斗付けて叩き返してやるわ!』


 なんか、叱られた。


「剣姫! タマちゃんが!」


 遠くからキッカがわたしを呼ぶ。

 振り返れば、シェフが――


「あぁぁ……」


 黒い靄に包まれた姿で立っていた。

 その姿は、いつものシェフとは似ても似つかないくらいに禍々しく――


「ちょっと、大きい」

『いや、どう見ても2メートル超えてるでしょ。かなり大きいって』


 ミサキさんがわたしの肩を叩く。

 ツッコミというヤツだ。


「ふははははは! 素晴らしい! 素晴らしいぞ、エクス! それでこそ俺様の弟だ! さぁ、俺様の糧とな――ん」


 なんか、魔人が「うがぁ!」って鳴いたシェフによって殴り飛ばされた。

 めっちゃ飛んでる。

 凄い飛距離だ。

 肉眼ではもう見えないくら――あ、土埃が上がった。


 飛んだなぁ。



『夜目が利くのね』

「うむ。森での暮らしが長かったのでな」


 夜でも、結構遠くまで見通せる。


『今のボーヤには、おそらく自我は残っていないでしょう』

「自我……」



 ……じが?



『自分が誰か分かってないってことよ!?』

「なるほど、自我か」


 得心がいった。


 シェフは、自分がシェフだということを見失っているらしい。

 それは、悲しい。


「止めてくる」

『今のあなたには無理よ』

「それでも、止めなくては」


 シェフを守るためなら、なんだってする。


「シェフは、優しい人だから。自我を取り戻した時、悲しむようなことにはなってほしくない」

『そうね――』


 ミサキさんは優しい声で言って、わたしの髪を撫でた。


『だから、あなたに力をあげる。今代魔王をも凌駕する、新生魔王を止められる力を』


 その言葉を聞いて、わたしは思う。


「新生魔王とかどうでもいいから、シェフを止めたいのだが」

『うぅ~ん、この娘と話すのちょっと疲れるぅ』


 なんだか、すごく重たいため息をつかれてしまった。







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― 新着の感想 ―
お疲れ様ですミサキさん… そして勇者アイナさん爆誕なのか? ………ところでやっぱりベジータだったな…魔王子兄…
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