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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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97 簡単な計算

 びっくりした。


「歩くトラットリアを作ったのって、お師さんだったんですね」

『いんや。ワシの魔力を使ってミサキが作った魔法じゃ』


 お師さんの魔力が食材で、それを元に『ミサキ』さんが調理した――みたいなことらしい。


「以前、『女神様からのギフト』とか言ってませんでしたっけ?」

『女神様からもらったミサキのギフトを元に生み出した魔法じゃったから、そういう「設定」にしておこうとミサキが言っておったのでの。乗っかったまでじゃ』


 なんか、そういうゲームに憧れがあったらしい。


 っていうか……


『ミサキ』さん、先代オーナーだったんだ。

 どうして正体を隠していたんだろう?


 それに、どうしてお師さんの前に姿を見せてあげないんだろう?


 そもそも、お師さんは知っているのかな?

 歩くトラットリアに、『ミサキ』さんがいること。

 生きているのか、どういう状態なのかは分からない。

 けど、『ミサキ』さんは確実に歩くトラットリアの中に存在している。


 尋ねてみようと口を開けたが……言葉に出来なかった。


 これは『ミサキ』さんからの「ないしょ、よ」の合図だ。


 あぁ、そうか……

『ミサキ』さん、お師さんとの生活が苦痛で苦痛で、もう二度と顔を合わせたくないほど大っ嫌いなんですね。


『ちがうけど!?』


 突然、目の前に『ミサキ』さんが現れた。

 歩くトラットリアの外にも出てこられるんだ!?



『ミサキ!?』

『はぅっ、しまった! ついうっかり!』


 お師さんに見つかり、咄嗟に顔を隠すミサキさん。


『人違いじゃねぇですかぃ、アッシは通りずがりの旅人でさぁ』

『なんのマネじゃ? すっぽんぽんジェネラルか?』

『流浪人タイガーです! 一緒に全話見たでしょう!?』

『ふふふ、やっぱりミサキじゃ』

『しまった!?』


 わぁ、なんだろう。

 ミサキさんが、残念な人だ。



 うん。

 これまで、顔も見えず、存在も希薄で、でも「そこにいる」っていうのだけははっきりと感じ取れていた不思議な存在だったから『ミサキ』さんって思っていたけれど、こうしてはっきり目の前に現れて、顔も見えると、普通にミサキさんって感じだね。


 へぇ、こんな顔してたんだ。


『なぜ隠れておった?』

『だって……私の魂を見つけたら、あなたは絶対、私を蘇らせるから』



 死者の蘇生。


 ミサキさんが言うには、肉体の創造らしいけれど。

 それには、とてつもない魔力が必要になるらしい。


 それこそ、歩くトラットリアを創造した時と同じくらいに。


『今度、そんな魔力を使ったら、あなたは消えてしまう……私、独りぼっちとか、堪えられないから』

『じゃからといって、ワシに独りぼっちを押し付けるな……バカモノ』

『ごめんなさい……』

『……ずっと、そばにいてくれたんじゃな』

『…………うん、ずっと見てた』

『そうか……』


 独りぼっちだと思っていた時間は、実は独りぼっちじゃなかった。

 それを知ったお師さんは――


『パンツ漁ってごめんなさい!』

『だけじゃないけどね。余罪、えぐいよね』


 めっちゃ土下座してた。

 わぁ、歴代最強魔王の土下座だぁ。


 ……お師さんのお戯れ、全部見られてたのか……ボクなら七回は余裕で死ねる。


『こうして、話せるだけでも、ワシは嬉しかったぞ?』

『だって、ボーヤが来るまでのあなたは……本当に危うかったから』

『そうか…………そうじゃな』


 姿を見せられなかったのには、それなりの理由があるようだ。

 ボクには分からない、二人だけが共有できる理由が。


『なら、ボーヤが来た後、姿を見せればよかったのに』

『だ、だって! ……ボーヤに全部見せたじゃない、私の秘蔵コレクション!』

「はい。ミサキさんの性癖、全部熟知しています」

『違うのボーヤ! あれは、かなり誇張されたものなの! この人の話も、話半分、いや一割程度で聞いてね!? 私、そんな残念で卑猥な人間じゃないから!』


 顔が真っ赤だ。

 出てこられなかった理由、案外しょーもないのかも。


「けど、魂はこちらに残ったんですね」

『この人が言っていたでしょう? 物質は異世界を渡れない』


 それは人間も同じだったようで。


『元の世界に戻ろうとしたら、向こうに私がいたのよ。お祖母ちゃんになって、孫たちに囲まれてた』


 そこで、自分がこの世界で複製された魂なのだと知ったミサキさんは――


『なんでもありなら、やりたい放題やってやれ☆ って、残っちゃった』


 世界の常識を捻じ曲げた。

 とんでもない人召喚しちゃったんだね、この国の昔の魔導士か誰かさんは。


『まぁ、バレちゃったから、もう開き直って居座るけど……私を蘇らせるために、私を独りぼっちにしたら、許さないからね』

『……ふっ。ミサキのツッコミは痛いからな。善処しよう』


 なんか、お師さんが渋い。

 正体カエルのくせに。

 ドラゴンから、なんでかカエルになった不思議生命体のくせに。

 というか、早くカエルに戻ればいいのに、いつまでドラゴンの姿でいるつもりなのやら。

 え、カッコつけてます?


「ま、魔王のみならず……勇者まで……」


 あ、まだいたんだ、父。

 こうして、歴史上の人物が並んでると、かすんで見えるねぇ、今代魔王。

 もう、帰ってひっそり暮らしたら?


「父上、何を怯えることがありますか」


 そんな中、にこやかに、空気を読まない兄が言う。


「先代魔王といえど、魔力の99%を失った出涸らしじゃないですか。むしろ弱体化した魔王をエクスに食わせて、最強の肉体を手に入れるチャンスですよ」


 そんな気休め、今のお師さんの魔力を感じ取れれば、夢物語だって分かるでしょうに。


「そ、そうであるな!」


 わぁ、魔力感じ取れてないっぽい!?

 大丈夫か、今代魔王!?


「もうやだ……ここ、こわい、おうち、かえる……」


 向こうで頭を抱えて震えているお父様。


 なんだろう。

 めっちゃ強そうに、コレモンのドヤ顔で出て来た父親属性の人が、物凄い小物になっていく。

 お師さん、手あたり次第キャラ崩壊させないでくださいよ。


「さぁ、父上! 先代魔王に引導を!」

「うむ! 喰らえ魔王! いや、魔王を喰らえ、エックハルト!」


 お師さんに向かって手を伸ばし、襲い掛かる父。

 だが――


『単純な計算じゃい』


 その父の腕を、小指一本でへし折るお師さん。


『ワシの血液一滴で肉体の限界を迎えたお前さんが、99%しか魔力が減っていないワシに勝てると思うか?』


 まぁ、どう考えても、お師さんの全血液が100滴しかないわけがないからね。

 仮にお師さんの体内の血液が100万滴だったとしたら、99%オフでも1万滴分。

 父が手に入れた力の1万倍の力を、今でも持ってることになる。

 勝負にならないよ。


 そんなことも分からない父はあわれとしか言いようがないが――




 兄は、それを知った上で、狡猾に父を操っていたのだった。







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