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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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223/227

96 穏やかな日々


★★★★★★★★★★



 それから、しばらくの後。

 ワシの魔力を使って、ミサキの魔法を強化できることが分かった。


 そして、ミサキが心配していた「そんなに持ってきて、大丈夫!? 万引きになってない!?」という不安も、物質を異世界へ渡らせているのではなく、構造や組織を模倣してこちらで再構築していると判明し、「なら万引きじゃないよね☆」と解消されたようだった。


 まんびき?


『卑猥な言葉か?』

「ちがうわい!」

『ミサキの家にあった書物を片端から読んでみた結果、そのような趣味嗜好をしていると判断したのだが?』

「プライバシーのしんがーい!」


 ぷらいばしー?


『卑猥な言葉か?」

「ちがうっつーの!」


 ミサキはよくワシを叩いた。

「ツッコミ」というらしい。

 愛情表現の一種ということで、甘んじて受け止めることにした。


「本当にいいの?」

『ミサキの提案であろう』

「それはそうなんだけどさぁ……弱くなるんだよ?」

『構わん。最強の勇者様が守ってくれるからな』

「やめてよも~、わたしも相打ちで死んじゃったことにするんだから」


 ミサキから提案があった。


『魔王が死んじゃった大作戦!』というらしい。


「魔王さんの魔力を根こそぎ使って、この世界に、誰にもマネできない、二度と誕生しないような最高傑作の魔法を作ちゃおう!」


 ワシの魔力がなくなれば、ニンゲンたちはワシが死んだと判断するだろう。

 そして、勇者が同時に姿を消せば、相打ちだったのだと思うだろう。


『では、弱る前に大量の血をまき散らしておくか』


 魔王の死を演出するため、住処中にワシの血を振りまいておいた。

 洞窟内が真っ赤に染まるほど、大量に。


「も、もういいんじゃない!? 死んじゃう、死んじゃうって!」

『この程度、唾を付けておけば治る』

「ヨダレエリクサーか!?」


 傷口にツッコミを入れられて、ちょっと痛かった。……ぐるる。


「じゃあ、一応私の血もどっかにつけとかなきゃね」

『必要ない』

「でも、魔王さんだけの血じゃ、戦った感じしなくない?」

『これだけ大量の血だ。どれが誰の血かなど分からぬ』

「あ、そっか。DNA鑑定とかないもんね、こっちには」


 あははと笑うミサキ。

 さっさとその剣をしまえ。


『お前の体はキレイだ。傷など一つもつけるでない』

「ぉ……ぉうっふ。それ、は……ちょっと照れる、ね」


 ぱたぱたと、手扇で頬に風をおくるミサキ。

 褒めると喜ぶのか。そうか。ならば……


『エロい体をしている』

「参考資料を見直せ!」


 全力のツッコミだった。



 それから、住処を出る前に魔力を使い切るため、この世に存在しない、規格外れの大魔法を構築した。

 魔力の使い過ぎで頭が割れそうになったのは、後にも先にもあの時だけだった。


「それでねぇ、キッチンは対面式でね、目の前には座って食事が出来るカウンターがあるの。私が『はい』って料理出したら、魔王さんがそこでご飯を食べるんだよ?」

『料理に必要なものもすべて想像しておくのだ。余さず創造してみせよう』

「じゃあさ、私の好きなゲームであったんだけど、『ハンティングフィールド』と『ファームフィールド』っていう部屋があってね――」


 ミサキの語る絵空事のような夢物語を、膨大な魔力でこの世に具現化する。

 ミサキが心底願った故郷を、特殊な『扉』に隔てられた別次元に想像する。



 そうして、ワシの99%の魔力を注ぎ込み、『歩くトラットリア』は完成した。




『それからは、穏やかな人生じゃった』


 最初は取り繕っておったミサキも、『オタク魂』というものが抑えきれなくなり、一年も経つころには本性を隠さなくなっていた。

 もっとも、ワシは、そちらのミサキの方が断然好きだったがの。


『スク水の破壊力を教えてくれたのは、ミサキじゃった』

「『ミサキ』さん、余計なことを!?」


 ほっほっほっ、ボーヤのツッコミもなかなかじゃが、ミサキにはまだ届かぬのぅ。


「というか、お師さんは三千年も生きてたんですか? 前に千年近く生きているとか言ってませんでした? 盛りました?」

『盛っとらんわぃ。こんだけ生きとると、千年も三千年も誤差じゃ、誤差』


 その三千年の内千年近くは洞窟で寝て過ごしていた。

 何もしていないのであれば、生きているといえるかどうかすら怪しいものだ。


『まぁ、そういうわけで、あの時の「魔王」は死んだんじゃ。あとに残ったのは、種族と次元を超えた、一組のアベックだけじゃった』


 実に、楽しい時間じゃった。

 見るものすべてが楽しく、輝いて、生まれて初めて幸せというものを知った。


 食事が美味いと感じたのも、初めてだった。


 ただ一つ、不満があるとすれば――ミサキと過ごせた時間は、あまりにも短すぎた。


 ミサキが消えてからの九百余年。

 物言わぬ『歩くトラットリア』で過ごす日々は、つらかった。

 そこかしこに残るミサキの思い出に包まれて、ただ無為に過ごした時間。


 そんな時、ボーヤに出会った。


 人ならざる力を持ちながら、「人間になりたい」と願う少年。


 ワシと同じ願いを抱いた少年。



 ボーヤと出会ってからの毎日は、あの頃には勝てないまでも、実に楽しい。



『なのでの、――お前ごときにはくれてやれんのよ』



 邪魔をするものは、排除する。







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