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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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222/227

95 魔王と異世界勇者


★★★★★★★★★★


 そいつは、何とも情けない顔で、ワシの前に現れた。


「も~ぅ! 最悪ですぅ! なんで私がこんなことしなきゃなんないんですかぁ、も~ぅ!」


 べそをかいて、剣を構える一人の女。

 ……いや、女児。


「失敬な!? これでも、当年取って二十二歳! ぴっちぴちの女子大生ですよ! 二浪してますけども!」


 じょしだいせい? にろう?

 わけのわからぬことを話す子供だ。


「レディだと言ってんでしょうが!」


 剣を振って抗議してくる。

 なんなんだ、こいつは?


『ニンゲン、か?』

「いえす! そちらは魔王さんであってますか?」


 知らぬ。

 ニンゲンがそのように呼んでいるらしいが、ワシが望んだことではない。


「人間に悪さするのをやめてください!」


 知らぬ。

 ニンゲンなどどうでもいい。


「え、でも、国とか滅ぼしてますよね?」


 向こうが攻めてきたから、潰しただけだ。

 何人も何人も住処に冒険者を寄越しおって。


「あれぇ~? じゃあ、こっちから何もしなければ、別にどうこうするつもりはない感じ?」


 興味がない。

 ワシはただ、死ぬまでここでこうしていたいだけだ。


「もったいなっ!?」


 ……もったいな?


「だって、そんな強いのに。なんでもきる魔力もってるのに」


 なんでも出来る……だと?


「だって、魔法って万能じゃない。こっち来て、魔法使えるようになって、びっくりしたもん。『あぁ、アレがあればいいのになぁ』って思ったら日本から取り寄せられたんだから」


 にほん?

 そなたは異世界人か?


「あぁ、うん。なんかそうみたい。魔王さんが強すぎてどうにもならないから、異世界人を召喚して、なんとかしてー、って。勝手すぎるよねぇ」


 はぁ……っとため息をついて、少女はその場に座り込んだ。


「……おまけに、もう二度と元の世界には帰れません、なんてさ……酷いよ」


 なら、そんなニンゲンの言うことなど、聞かなければいい。


「そうは言うけどさ! 私めっちゃ強くなっちゃったから、戦わないわけにはいかないというか……魔王さんが、こんな話しやすい人だとは思わなかったから」


 ……話しやすい?


「正直、顔見た時『あ、私死んだ』って思っちゃた。顔怖すぎだよ」


 ……ふん。


「あ。傷付いた?」


 知らぬ。


「けど、ちゃんと話通じるじゃない」


 まぁ、今から二千年ほど前までは暴れ回っていたからな。


「じゃあ、自業自得じゃん」

『やかましい』


 なんなんだ、この女は。


『よくそれだけの力を得られたものだ』


 実際、この女の力は凄まじい。本気で戦えば、負けはせずとも、苦戦はするだろう。

 そんな強さを、この女は――


「違うんだよぉ~、聞いてよ~」


 ――嘆いていた。


「初めて行ったダンジョンにさ、こ~んなデッカい『ゴキ』がいたの!」


 ごき?


「口に出すのもおぞましい、黒い帝王だよ……」


 あぁ、カオスコックローチか。

 ニンゲンにとっては、驚異的な魔物だな。


「でさ、わたし、ゴキだけは絶対無理で! 無我夢中で『殺虫剤ー!』って念じたら、出て来たの。それも、煙で家じゅう丸ごと駆除する方のヤツ!」


 ん、分からぬが……


「で、物は試しと、それを洞窟の中で使ったらね――ゴキ全滅して、めっちゃレベル上がったんだよね……」


 ダンジョン一つ分のカオスコックローチを死滅させたのであれば、当然だろう。

 ヤツは、一匹で騎士団を壊滅させるレベルだからな。


「もう、そっからアレやれ、コレやれうるさいうるさい……わたしね、本当はお家に籠って、料理して、美味しいものを食べて、薄い本読んだり書いたりするのが生き甲斐だったんだ」


 うすいほん?


「あぁ、まぁ、それは……乙女の嗜みというか、生きる糧というか……」


 卑猥な書物か。


「何でわかんの!?」

『心を読んだ』

「そんなん出来るなら、最初から言っといて! デリカシーないよ、もう!」


 それから、女は開き直ったように、自身の半生を語って聞かせた。

 穏やかな国に生まれ、平穏に暮らしていたこと。


 本当は、戦いなどしたくないということ。


 帰れないまでも、せめて、祖国に近い環境で、のんびりと人生を過ごしたいという願いを、楽しそうに語っていた。



『祖国の物を取り出せるなら、すべて持ってくればよかろう』

「それがダメなんだよぉ。魔力が足りないのか、自室にある物で、5kg未満の物しか取り出せないの。あと、電気も使えないから、電化製品を取り出しても意味ないしねぇ」


 少しだけ寂しそうに、女は言う。


「キッチンが使えたら、自慢の手料理くらいご馳走してあげたんだけどねぇ」

『いらぬ』

「ひっどいなぁ。これでも料理は超上手いからね? 一応、調理師免許持ってるし!」

『そうではない。ワシは物を食わぬ』

「え? ……あ、人間以外は、的な?」

『ニンゲンなど食ったことはない』


 噛み殺したことはあるけれど。


『ワシは強くなりすぎた。なにもかもが虚しい。誰にもワシは殺せない。だから、何も食わず、いつか来るであろう崩壊をここで寝て待つことにしたのだ』


 もう、生きるのに疲れた。


「ダメだよ、そんなの!」


 女は立ち上がり、大袈裟に腕を振って熱弁する。


「楽しいことって、いっぱいあるから! 知らないだけで、絶対、いっぱいあるから!」

『三千年生きてきたワシに、二十二年しか生きていないそなたが言うか?』

「うぐ……、じゃ、じゃあ、バナナオレは知ってる?」


 ばななおれ?


「はい、知らない! はい、人生の半分損してる!」


 ……いら。


「バナナオレは、世界で一番美味しい飲み物です! 飲まずに死ぬなんてありえない!」

『……では、飲ませてみよ』

「それがねぇ……」


 女は魔法を使い、黄色い果実と、白い飲み物と、花の蜜を集めた甘未と、奇妙な筒を取り出した。


「ミキサーが動かせないから、作れないんだよねぇ……電気さえあればなぁ」


 でんき……?

 よくは分からんが、女の使った魔法を真似てみる。

 女の指定していた座標に魔力を飛ばし、その場所に存在するのであろう『でんき』という物を呼び寄せる。


 ――すると、四角い板のくっついた紐が出て来た。


「ぅえええ!? 電源タップ!? っていうか、どこに繋がってるの!? え、嘘でしょ? まさか…………電気使えるし!? なに!? どうなってるの!? 魔王さん、マジすげぇ!?」


 女がやかましい。


「でも、これで作れる! 待ってて、世界で一番美味しい飲み物、ご馳走してあげるから!」


 それから、女は実に楽しそうに何かを作り始めた。

 けたたましい音を立てる謎の筒は「ミキサー」というらしく、飲み物を作る道具のようだ。


「これが、ミサキちゃん特性バナナオレ! 頬っぺた落ちちゃうかも知んないから、気を付けてね!」

『ワシに頬などないが』

「う、うるさいな! そーゆー爬虫類ギャグとか、いいから!」


 ……ぎゃぐ?


「さぁ、召し上がれ。一口飲んだら、世界が変わるから」


 そう言われて、一口飲む。


 正直、味はたいしたことがなかった。

 どろっとした、甘い飲み物。それだけだった。

 だが……


「どう? 美味しいでしょ? 感動した?」


 そう問いかけてくる女――ミサキの顔が眩しくて。


『うむ。悪くない』

「でしょ~!」


 そういって、嬉しそうに笑ったミサキの顔が、愛おしくて。



 本当に、ワシの世界は、その一杯からがらりと変貌した。







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