89 失態
やってしまった!?
まさか、あのお方がアイナさんのお父様だったなんて!?
二回も殴っちゃった!?
ど、どど、どうしよう!?
『娘さんをボクにください!』
『一昨日来やがれ!』
――って、なっちゃう、絶対!
「あ、あの、お、おと、お父様のお好きなお菓子とか料理とか知りませんか?」
な、なんとか、機嫌を直していただいて、こう、円満な関係を――
「すまない、父のことは何も知らないのだ」
「じゃ、じゃあ、好きなこととか、ご趣味とか」
「ん~…………殺戮?」
デンジャラスなお父様!?
「しかし、凄いなシェフは! あの父を二度も吹き飛ばすだなんて!」
何に興奮しているのか、アイナさんの瞳がきらきらしている。
本当に凄いと思ってくれているのは分かるんですが……ちょっと手加減なしで殴り飛ばしたので、きっとめっちゃ嫌われたと思うんですよね、ボク……称賛の眼差しが、痛いです。
「シェフはこんなにも強かったのだな」
と、立ち上がったアイナさん。――の、お腹付近の布が「ぺら~り」☆
「肌色っ!」
もう、なんというか、引き締まったお腹、ありがとうございます!
角度によってちらっと見える黒スパッツ、ご馳走様です!
危険です、アイナさん!
とっても危険です!
「き、危険なので、早く【歩くトラットリア】へ!」
「う、うむ。確かに、鎧でなければ戦場では危険だな」
そうじゃないけど、もうそれでもいいです!
とにかく、お着替えを!
で、そこら辺の騎士ども!
絶対見るなよ!?
見たら目玉を抉り取るからな!?
きしゃー!
「なに面白いことしてんのよ」
そこへ、キッカさんがやってくる。
「……ホント、もうなんて言うか……」
眉間にシワを寄せて、キッカさんがボクを見て、ため息を漏らした。
「ナゾ過ぎ」
そんなことを言って、口元を緩める。
「ま、今更よね。タマちゃんだもんね」
そして、バニーの耳を揺らして、アイナさんの手を掴む。
「このままじゃ、あたしたちが足手まといになっちゃうから、急いで着替えるわよ。傷、もう平気なのよね?」
「うむ。痛みも消え、体力も回復した気がする」
改めて凄いな、ドラゴン族の妙薬。
「それじゃあタマちゃん、あたしたち、少しだけ離脱するけど……怪我とか、しないでね」
それは、何とも言い難いですね。
そろそろ、お腹が空いてきてしまったので……もう、これ以上は力を使えないかもしれません。
ボクが、ボクであるために。
「――っ!? シェフ、避けて!」
突然、アイナさんがボクと突き飛ばす。
その瞬間、さっきまでボクが立っていた地面がなくなった。
深くえぐり取られ、消滅してしまったみたいに地形が変わる。
「邪魔だな」
いつの間にか、お父様がすぐ目の前にいて、アイナさんとキッカさんを蹴り飛ばした。
なにすんだ、このオッサン!?
「女性を足蹴にするなんて、紳士としてあるまじき暴挙ですよ!」
ボクの抗議に、お父様は目を眇めて――
「アレを殺せば、もう少し面白い戦いになりそうか?」
そんな、とんでもない言葉を口にした。
そして、ボクの身長よりも大きな剣を上段に構え、――あの構え、アイナさんが斬撃を飛ばす時にやる構えと一緒だ――地面に蹲るアイナさんとキッカさんに向けて、斬撃を放った。
「こ……んのっ!」
お腹が空いたけど、そんなことは言っていられない。
「バカ親父ぃ!」
出し惜しみなしで力を開放し、凄まじい速度の斬撃を追い越して、凶悪な破壊力を持つ斬撃を受け止める。
火山が噴火したかのような爆音が轟き、大地が揺れる。
アイナさんとキッカさんに辿り着く前に、なんとか斬撃を消滅させることが出来た。
けれど、ボクはやらかしてしまったのだ。
「ぐぅぅう……」
と、ボクのお腹が鳴った。




