71 どうなるの!?
「…………負けた」
地面に四肢を突いて、がっくりと項垂れるアイナさん。
はい。
そうですね。
完膚なきまでに敗北しましたね。
しかも、マザーさんが哀れんだような顔になって、「わらわでは相手にならぬであろう。チルミルよ、相手してやれ」って舌っ足らずなチルミルちゃんを選出するという大ハンデを受けての、惨敗でしたね。
「かえるぴょん!」
って、言ってましたからね。
「かえるぽこぽこもぽぽぽーん! あわせてぽぽここ、かえるぴょん!」
って、言ってましたからね。
……なぜ、あんなに自信満々だったんでしょう。
「早口言葉が、好きなのだ……言えた時の感動が、すごくて、好きで……」
「あんた、言える早口言葉なんてあるの?」
「……かえるぽこぽこ」
「言えてないのよ! 他は!?」
「あまかきかき!」
「赤巻紙でしょ!?」
「……キッカは、なかなか筋がいい」
「どこから目線よ、あんたごときが!?」
キッカさん、「ごとき」はやめましょう!
気持ちは、ほんのちょっとお察ししますが、「ごとき」はマズいです!
「はぁ~……ったく。グロリアが土下座してくれて、マザーが哀れんでくれたおかげで、三本勝負になって命拾いしたけれど……」
本当に、ありがとう、グロリアさん!
デザート、一番大きなケーキをグロリアさんにあげるからね!
「あんた、本来なら今ごろシェフとバイバイしてたのよ!?」
「う……っ、面目ない」
「はぁ……、反省は出来るのにねぇ」
アイナさんって、時々とんでもない暴走をするからなぁ。
「次こそは勝つ!」
「あんたはもう何もするな!」
『つぺこし!』っと、キッカさんがアイナさんのおでこに五本そろえた爪を突き立てる。
五本の指で何かを摘まむような感じで指を揃えて、それをそのままおでこへ『つぺこし!』っと。
「三本勝負を飲む代わりに、あと二回の勝負内容は向こうが決めることになったのよ? ……ドラゴン相手に、ドラゴンが得意なフィールドで戦わなきゃいけないのよ……まったく」
そうなんだよね。
この後二本、向こうが提示する勝負に挑んで勝たなければいけない。
もし、本気バトルとかになったら……その時はアイナさんにお願いしよう。まぁ、さすがにないと思うけど。
「次の勝負を始めてもよいかの?」
もうすでに勝ちを確信しているマザーさん。
物凄く余裕の笑みを浮かべている。
「まぁ、三本勝負を了承はしたが、この次で決着はつくであろう。先ほどのあまりにもあんまりな勝負では、後味が悪すぎたから、座興に乗ってやっただけじゃ」
「あんまり舐めないでほしいわね。あたしは、剣姫ほどあまくないわよ?」
キッカさんも、ものすごい自信だ。
これでもかと胸を張っている。
「……早チチ対決って、実際存在したら、どんな勝負なんでしょうね?」
「何を見てその発言が出て来た? ん? 言ってごらん? たぶんブチ切れるけど」
キッカさん。
「言ってごらん」のあとに続くのは「怒らないから」でないと、到底口を割れませんよ。
「怒らないから」でも言いにくいのに。
「次の勝負は、かけっこじゃ」
マザーさんが勝負内容を宣言する。
かけっこ……
「では、こっちは熱っ々のとろみあんを用意しましょう!」
「何をかけ合うつもりなの、タマちゃん!?」
えっ、違うんですか!?
でも、かけっこって!
「スタートからゴールまで、どっちが速く走れるかを競うの!」
「あぁ、徒競走ですか」
「言い方なんかどうでもいいから!」
かけっことか言うから、てっきり……
「ただし、ゴールまで先に着くことが出来れば、地面を走らなくともよいものとする」
え?
地面を走らずにどうやってゴールまで行くんですか?
「なるほどね」
キッカさんは何かを悟ったらしい。
どういうことだろうか?
「受けるか、キッカよ?」
「えぇ。相手は誰? マザーが相手してくれるのかしら?」
おぉーっと、久しぶりの、敵を煽るモード!
「キッカさん、大人っぽい!」
「うっさい! 気が散るから黙れ!」
大人っぽい雰囲気が一瞬で霧散して、可愛らしいキッカさんの顔に戻る。
大人っぽいモード、持続力弱いなぁ。
「わらわが出るまでもない。ピックル、相手をしてやるのじゃ」
「やる、なノ!」
相手はピックルちゃんか。
これなら、勝算はあるかも。
キッカさん、移動速度がめっちゃ速いから。
目で追えないスピードですもんね。
「ねぇ、ピックル」
キッカさんが、余裕の笑みでピックルちゃんに語りかける。
「空を飛ぶつもりなら、今からドラゴンの姿に戻っておいた方がいいよ」
飛ぶ!?
ドラゴンの姿で!?
え、それはありなんですか!?
ドラゴンの飛翔速度には、さすがに勝てないんじゃないかと思うんだけど……
それでも、キッカさんは一切余裕の笑みを崩さなかった。
勝算、ある……んですよね?




