66 しょっかー
「タマちゃ~ん!」
アイナさんと食材を運んでいると、キッカさんが嬉しそうに手を振りながら駆けてくる。
「野菜、たっぷり収穫しといたよ」
「わぁ、すごい量ですね」
「だって、収穫したそばからまた実が成るんだもん。楽しくなっちゃって」
なに、その食べ放題な畑。
ちょっと全力出し過ぎじゃないかな、歩くトラットリアの土?
「あと、ミルク!」
ばばーんと、巨大な樽に入ったミルクを指し示す。
これまたすごい量だ。
「あの、これを歩くトラットリアに持ち帰って、チーズとヨーグルトにしてきてもいいですか?」
「出来るの!?」
「はい。ファームフィールドに持ち込めば、すぐに加工してくれますよ」
歩くトラットリアの作るチーズやヨーグルトはとても美味しい。
外から持ち込んだ食肉の加工はしてくれないけれど、果物や乳製品の加工はやってくれる。
おそらく、初代オーナーの好みによるところが大きいんだろうな。
甘いものが大好きだったらしいから、美味しそうな物を外で見つけたら、それをすぐ加工して食べたかったのだろう。
歩くトラットリアの生みの親は、なかなかパワフルなわがままを言う人だったようだ。
「じゃあ、これ全部チーズにしちゃおう!」
「いや、多くないですか?」
「絶対足りなくなるから!」
相当好きらしいね、クイツクシープのチーズが。
この大きな樽一個分のチーズを一人で食い尽くしそうな勢いだ。
クイツクキッカさん。
あはっ、食いつかれちゃった。
「じゃあ、沢山作ってきますね」
「持てる?」
「無理ですので、小分けにして」
「手伝おう」
と、荷物を運び終えたばかりのアイナさんが申し出てくれる。
「疲れてませんか?」
「問題ない。……このくらいしか、役立てないから」
「そんなことはないですけれど……。では、お願いします。アイナさんと一緒にいると楽しいですし」
「たっ……の、しい、だろうか?」
「もちろん」
「……そうか」
俯いて呟き、ミルクがなみなみと入った巨大な樽を軽々と持ち上げる。
「わたしも、……楽しい」
一言呟いて、アイナさんが先行して歩き出す。
心持ち、弾むような足取りで。
「あたしも楽しいけどなぁ~、タマちゃんといると」
跳ねるアイナさんを見送りながら、キッカさんがそんなことを言う。
みれば、顔は前を向きつつ、視線だけがボクを見つめていた。
唇がちょっととんがっている。
なんだか、可愛い顔ですね、それ。
「ボクも楽しいですよ。みなさんと一緒にいると」
「みなさん、か……ま、いいでしょ」
にっと笑って、キッカさんがボクの背中を叩く。
「美味しいチーズを作ってくれたら、許してあげる」
……許す?
ボクは何を許されるのだろう?
というか、今現在は許されていない状況?
やだ、罪を犯した記憶がない……
「ちなみに、それほど甘くはないですが、さっぱりとした飲み口のドリンクって、好きですか?」
「決まってるじゃない。絶対大好き」
正体も分からない内に、自信たっぷりに即答する。
こういう潔さが、キッカさんだよね。
「っていうか――」
そして、こんな素敵なウィンクが似合うのが、キッカさんだと思う。
「タマちゃんが作ってくれるものなら、なんだって大好きだから」
……まぁ、少々威力が高過ぎましたけれども。
…………どきどきしちゃった。
「ボクも、美味しそうに食べてくれる、キッカさんの笑顔が大好きですよ」
「うみゅっ!?」
嬉しいことを言ってくれたお返しに、ボクも全力でキッカさんを褒めてみた。
結果、キッカさんが見たことのないような顔で、見たことのないような声を出しながら、見たこともないような動きを始めてしまった。
「みゃ、みゃ~ぁ? たまちゃんだし? ふきゃいいみとか、にゃいだりょ~けどしゃ? しょっか、しょっか、しょ~にゃんだ~、へぇ~、しょっかー」
……『しょっかー』って、なんだろう?
しょっかーしょっかー言ってますけども。
「じゃあ、楽しみにしてるからね!」
「はい。甘酸っぱい飲み物にも、期待しててくださいね」
「……もう、十分甘酸っぱいけどね」
「へ?」
「なんでもない! いいから、ほら、早く行って! チーズは待ってはくれないのよ!」
そんなことはないと思うけれど……
え、クイツクシープのチーズって、動くんですか?
……怖ぁ。
結論から言って、チーズは動かなかった。
キッカさんは、何が言いたかったのだろう……?




