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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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64 レシピと味見

 なんだか寂しそうだったお師さんに、「バナナで何か作りましょうか?」と尋ねたら、「バナナオレが飲みたいのぅ」とこちらを見ずに呟いていた。


 なんだか、ボクではなく、記憶の中の誰かと会話しているような、そんな雰囲気だった。

 なのでボクは、気を遣って――


「イヤ、そっちには誰もおらへんやないかーい」


 と、突っ込んでおいた。

 ……無視された。


 こんなにも、なけなしの愛弟子愛を掻き集めたというのに。


 仕方ないので、バナナを一房もぎって、ボクは一人で歩くトラットリアへと戻った。

 あ、バナナはチルミルちゃんがするすると木に登って取ってくれた。

 ピックルちゃんより木登りが上手なのだとか。

 ピックルちゃんは、「泳ぎは、得意ナの!」と負けず嫌いを発揮していた。

 じゃあ、今度どこかの湖で魚でも取ってもらおうかな。


 ……え、魚も嫌いなの?

 ダメです!

 好き嫌いは許しません!


 今度、物っ凄く美味しい魚料理を食べさせてあげるから、頑張って好きになって!


 こんな小さい内から偏食してると、大きくなれませんよ…………あ、だから……


「ん? なにか言ったか、エロニンゲンのエロオスよ?」

「なんでもないです!」


 いつの間にか背後にぴたりとくっつくようにマザーさんが立っていて――ダッシュで駆けこんだよね、歩くトラットリアに。

 この中にさえいれば、たとえマザーさんが怒り狂って暴れ出しても安全だから。


「ふぅ……」


 歩くトラットリアの中に充満する、この香りにほっと落ち着く。

 他のどことも違う空気の匂い。


 やっぱり好きだなぁ。


「ただいま、歩くトラットリア」


 言いながら、柱を撫でる。

 人前ではやらないけれど、一人の時は……いや、歩くトラットリアと二人きりの時は、ついこうして話しかけてしまう。


 ボクの、大切な家族。


「よし、じゃあバナナオレと、子羊の肉を使った料理を何か作ろうかな」


 収穫祭なんだから、お祭りっぽい料理をいくつか作ってみたい。


「えっとレシピは……」


 歩くトラットリアの厨房に立ち、冷蔵庫の扉に手を置いてまぶたを閉じる。


 すると、今現在歩くトラットリアにある食材で調理可能なレシピが無数、脳内に浮かんでくる。

 輝くパネルに表示されるように、鮮明に、明瞭に、とても分かりやすく。

 そして、一瞬でもボクの意識がそのレシピを認識すれば、ボクはもう二度とそのレシピを忘れない。


 歩くトラットリアにシェフとして認めたられた者だけが使える、秘密の魔法だ。


 ちなみに、食材が揃っていない料理も教えてくれる。

 あと何が必要なのかも分かって、結構便利だ。


「あ、やっぱり食べられるんだ、クイツクシープ」


 食材が食べられるかどうか、どう食べればいいのかも、問えば教えてくれる。

 それによれば、クイツクシープのオスはとても美味らしい。


「体長5センチ未満はラム、5センチ以上はマトンと呼ばれる……か。微妙な差で味が全然変わるんだ」


 なら、それを活かしていくつかの料理を作ろう。


 あ、でもその前に。


「お師さんのためにバナナオレを作ってあげよう。歩くトラットリア、レシピをお願い」


 冷蔵庫に手を置き、まぶたを閉じる。

 ……だが、レシピが浮かんでこなかった。


 あれ?


「……歩くトラットリア?」


 呼びかけると、耳元で寂しそうな声が聞こえた。



『見つけちゃたんだね……』



 目を開けると、目の前に『ミサキ』さんがいた。


「ミサキさん……」


 彼女は、姿を持たない。

 ボクの目には薄ぼんやりとした球体に見えている。

 ただし、触れることはできない。


 彼女にあるのは、口だけだ。


 これが、もう一つの、シェフしか知らない秘密の魔法。



 その名も、『全能なる味見』。



『ミサキ』さんの舌は正確無比で、彼女がOKを出した料理は、誰に出しても、どこで出しても、確実に美味しいと言ってもらえる最上級の味になっている。


 歩くトラットリアが教えてくれたレシピの通りに料理を作り、『ミサキ』さんに味見してもらって、OKが出れば、それはボクのスキルとなる。

 ボクが習得したスキル、つまり料理は、この先どんな場所でも同じ味で再現可能になる。



 それが、歩くトラットリアのシェフなのだ。



『だからこそ……ね』



 薄ぼんやりとした口元が、寂しそうに歪む。



『ボーヤには、教えてあげない』



 そのつぶやきが聞こえた瞬間、ボクの意識はなくなった。





 次に気付いた時、カウンターの上にはミルク缶いっぱいのバナナオレが置かれていた。

 そのミルク缶のそばには――


『ごめんね。あの人、寂しくなると閉じこもっちゃう人だから』


 と書かれた置手紙が添えられていた。

 あの人…………はて?

 ボクでなければ……あとはカエルくらいしかいないんですが?

 アイナさんたちが、『ミサキ』さんと知り合いとは思えないし……



『あと、これは感謝と謝罪の気持ち』



 そんなメモと一緒に、先ほどレシピで見て、足りなかった食材がカゴに盛られていた。

 ハンティングフィールドやファームフィールドを経由せず歩くトラットリアが食材を出してくれたのは初めてだ。


 ……そんなに、特別な料理なのか、バナナオレ。



 そして確信する。

 ボクの中にスキル――まだ作ったことがない料理の記憶刻み込まれている。


「スキルまでくれるなんて、『ミサキ』さん太っ腹だなぁ」


 ただ、メモの最後に――



『他言無用☆』



 と書かれており、そこまで読んだ直後にメモは燃え上がり、灰も残さずこの世界から完全に消滅した。


「……相変わらずの引っ込み思案さん」


『ミサキ』さんは、本当に人見知りなんだから。


「じゃ、作りますか!」


 そしてボクは、バナナとクイツクシープを使って、お祭り料理を大量に作った。






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