58 滅ぇぇえつ!
「此奴らじゃ! 此奴らが、微かにでも芽吹いた植物を根こそぎ食い荒らしてしまうが故に、この大地には植物が育たぬのじゃ!」
マザーさんが忌々しそうに声を荒らげる。
この数の草食動物は、たしかに脅威だ。
そして、見るからに獰猛そう!
草食動物なのにめっちゃ好戦的!
「この魔獣が、この荒れ果てた大地を生み出した原因なんですね。ボクはてっきり、ドラゴンの巨体で大地を踏みしめたせいなのかと……」
「そうではない! 我らがこの地に来た時、すでにこの地は死の大地であった。そこに我らが種を撒き、確かに緑が復活したのじゃ! それを此奴らが――」
なんとか大地を蘇らせようと努力したドラゴン族。
その苦労と努力を踏みにじるように、このクイツクシープが食い荒らしてしまったらしい。
「あまりに腹が立って全員で地団駄を踏んだ結果、大地の土が岩のようにカッチカチになってしまった事実は否めぬが」
あ、そこは否定しないんだ。
じゃあ、ドラゴン族も要因のひとつなんだね。
……自爆してますよ、それ。
「マザー! ここは、我らのブレスでひと思いに!」
「ならぬ! 我らのブレスは高温故に、折角実った植物まで枯らしてしまいかねぬ! ドラゴンの姿になることも禁ずる! 総員、人化のまま、素手で此奴らを殲滅するのじゃ!」
「「「えぇ~……」」」
不平たらたら!?
確かに、この量を見るとそんな顔になるのは理解できますけども!
「でも、こんな数の魔獣……一体どうすれば!?」
「終わったわよ」
「すべて駆除しだ」
「仕事が早い!?」
ケロッとした顔で、アイナさんとキッカさんが報告してくる。
見れば、あれだけいた、なんならマザーさんとしゃべっている間も続々押し寄せてきていたクイツクシープが、巨大なメスを含めて全部退治されていた。
ホント、規格外過ぎますね、このお二人は。
壊滅。
殲滅。
撲滅。
ありとあらゆる「滅」が並んでいるようだ。
「お疲れ様です、アイナさん、キッカさんも」
「ついでみたいに言わないでくれる? あの大きいの倒したの、あたしなんだからね?」
え、大きい方をキッカさんが倒したんですか?
「なんか、細々したのはキッカさんの方が得意なのかと思ってました」
「まぁ、基本的にはね。剣姫、大雑把だし」
「それほどのことはない」
アイナさん、惜しい。
それ、謙遜になってないです。
「キッカには負ける」
アイナさん、それは悪口。
「キッカは、脱いだ下着をベッドに『とりあえず』と放置して、それを忘れてそのまま眠り、翌日枕の下から――」
「それ以上口を動かすなぁ!」
フルスウィングの振り下ろしゲンコツがアイナさんの後頭部を穿つ。
……物凄い音したなぁ、今。
「……キッカ、痛い」
痛い、だけで済むから凄いですけどね。
「とにかく、剣姫の技は対軍勢用ってのもあるし、こういうのは任せておくのが正解なのよ」
あぁ、確かに。
離れた場所から斬撃を飛ばしたり、空から無数の燃え盛る剣を降り注がせたり、派手な技が多いですよね、アイナさんの剣技は。
「今回はどんな技を使ったんですか?」
「うむ。剣身を指で弾くと、魔獣が嫌うイヤ~な音が広がって、弱い魔獣はそのイヤ~な気持ちに堪えられず絶命するのだ」
おぉ……っと、思っていたより地味っぽい。
でも、効果は抜群。
「流石ですね、アイナさん☆」
「あんたは、何がなんでも肯定したがるわよね」
呆れ顔のキッカさん。
キッカさんも肯定しますよ、もちろん!
「あんな大きな魔獣を一人で仕留めちゃうなんて、凄いですよ、キッカさん」
「仕留めてないわよ」
あ……
「キッカさんにはまだちょっと難しかったんですね。仕方ないですよ、キッカさんまだちょっと小さいですし。その内大きくなれば、アイナさんみたいに強くなれますって」
「励ますな! 違うから! 敢えて仕留めてないだけなの、理由があるの、あと『まだちょっと小さい』とか大きなお世話だわ!」
と、絶命したちっちゃいクイツクシープ(オス)を投げつけてくる。
やめてください。ぽふっとしてちょっと気持ちいいですけど、絶命している魔獣をこんな風に扱うのは冒涜しているみたいでちょっとアレです。
「これだけの数いるんですから、無駄なく使いたいですね、食べられるんでしょうか?」
「そのような物は食えぬ」
と、マザーさんが断言する。
そっかぁ、食べられないのかぁ……
「野菜だけだと動物性タンパク質が不足しそうなので、そっちもなんとかしたいですね」
「そういうのなら、多分大丈夫だと思うわよ。よくわかんないけど、たぶん」
どうやら動物性タンパク質が何かを知らないっぽいキッカさんが胸を張る。
確証もない自信でよく胸が張れますね。
「あたしが、敢・え・て、生かしておいたあのメスのクイツクシープ」
『敢えて』を強調したなぁ。
「あいつが、ミルクを出してくれるわよ」
素敵なウィンクが飛んでくる。
それは、キッカさんが――大きなお乳を認めた瞬間だった。




