52話 ドラゴンの怒り -2-
「この里にも、男はおるのじゃ……ただし、今は全員地下に閉じ込めておるがの」
そういえば、ここに来てから男性を見ていない。
外にいたドラゴンも、「みんな女性」だと、グロリアさんが言っていた。
男性のドラゴンをみんな地下に閉じ込めている……一体なんのために?
「それもこれも……元をたどれば、その娘のせいなのじゃ」
アイナさんの…………いや、アイナさんが何か悪いことをするなんて、そんなことあり得るはずがない。
きっと何かの間違いで……
「のぅ、人間よ……そなたにも覚えがないか? その娘と初めて会ぅた時のことを思い返してみよ」
アイナさんと初めて会った時…………
「人間よ……」
「ひ……っ!」
気が付くと、マザーはボクのすぐ目の前にまで迫ってきていた。
氷のように冷たい指が、ボクの頬に触れる。
「そなたは、目を奪われなんだか……」
白っぽい緑の瞳がボクを見据える。
そして、強くアゴを摘ままれ、強引に顔の向きを変えられる。
「あの……忌まわしき、悪魔の塊に!」
首の骨がグキッと音を鳴らし、ボクの視線はアイナさんのある場所に向けられる。
いつもの鎧とは異なり、青い可愛らしいエプロンドレスに包まれた、隠しきれないくらいの大きな、雄大な、たわわな二つの膨らみに。
ゎはぁ~い!
「その顔じゃ!」
途端に襟首をつかまれ、視線が強制的に逸らされる。
もっと見ていたいのに!
あの、これでもかと押し上げられたエプロンドレスのその向こう側を!
「まったく、男という生き物はどいつもこいつも同じ顔をしおって! だから信用ならんのじゃ!」
氷のように澄んだ恐ろしいまでに美しい瞳がボクを睨みつける。
「人間のオスは、会うや否や顔の前にまず乳を見おる!」
と、言われて、ボクはマザーのお胸をチラリ………………あっ。
「その顔じゃぁぁあああ!」
「く、首っ、首が、締まっっっ!?」
氷のように冷たい指がボクの襟首を締め上げ、これでもかと首を締めつけていく。
いや、だって……ねぇ。
失礼なことを言うわけにはいかないなぁ~っと思ったから言葉を飲み込んだら……思いの外飲み込むのが困難で思わず顔に…………
つまり、マザーは、思わず顔に出てしまうほどの…………ぺったんこさんだった。
「エロき人間のオスは死ね! 滅しろ! 塵芥と化せ!」
「ま、待ってください! ボ、ボクは、今っ、たった今話題になるまで全然見てませんでしたよ! あの、マザーさんのお顔が、あまりにお美しいので、そちらにばかり気が向いてしまって!」
思わずマザーにさん付けをしてしまうほどの迫力だった。
咄嗟に口から飛び出した弁明が吉と出るか凶と出るか……
「人間のオスが……わたしの顔が美しい、じゃとぉ!?」
マザーさんの背後にどす黒いオーラが立ち昇っていく。
あぁっ!? 一族の長に「顔が美しい」だの「綺麗」だの、そんな言葉を発するのは無礼だったかもしれない!
ボク、死んだかも!?
「…………ふむ。そなたは見所があるのじゃ」
解放されたぁ!?
なんか、意外とチョロいぞ、一族のマザー!?
いや、おかげで命拾いしましたけれども!
「そうなのじゃ。我らドラゴン族の女は皆、美しいのじゃ。貞淑であり、気品を持ち、高貴で、高潔な者たちばかりなのじゃ」
まぁ、確かに。
ざっと見た感じ、おっしゃることは最もなんですが……自分で言っちゃうのはどうなんでしょうか…………
「それを、人間のオスどもは……汚らわしい目で品定めをするように見おって!」
「それは、あの……そういう人もいなくはないですが、全員がそうというわけでは……」
「いいや、全員がそうなのじゃ!」
とりつく島もない。
「理由ははっきりしておる。悪魔の塊じゃ」
悪魔の塊……というのは、つまりその……大きなおっぱいのことだろうか。
「あれは生き物の心を蝕む禍々しいものじゃ」
そんなわけないでしょう……と、言いかけたのだが、マザーさんの向こう側に居並ぶ女性たちが全員「うんうん!」と頷いていた。
……宗教、ですか?
こう、邪神を許せない的な一体感がにじみ出しているんですが……
これは、早急になんとかしないと。
けれど、マザーさんの怒りはどんどんとボルテージを増し、呼応するように周りの女性たちの怒りも膨れ上がっていった。
止められるのか、ボクに……




