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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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51話 ドラゴンの里 -1-

 ドラゴンの里は、里とは名ばかりの、荒れ果てた場所だった。


 地面はひび割れ、目に付く植物はどれも頼りなく、今にも倒れそうなほどにやせ細っていた。

 日の当たらない場所に、苔むした沼が広がっているが、辛うじて水場と呼べるのはそこくらいのものだった。


 ドラゴンは穴蔵に巣を作るようで、切り立った崖に無数の穴が空いている。

 この崖は、ボクたちが降りてきた(落ちてきた)崖とは違う、言わば対岸にあたる崖だ。

 この崖を登った先には、きっとどこかの国が存在しているのだろう。


 けれど、そんな惨状に驚いている暇もないほどに……


『ガァアア!』

『グァアアア!』

『ギャアァアアアス!』



 ドラゴンだらけだ!?



 あっちにドラゴン、こっちにドラゴン。

 城が歩いているのかと思うような巨大なドラゴンが何十頭も歩き回っている。


「ひぃ!? め、目が合いました!?」


【ドア】の中にいればとりあえず安心なはずなのに、ボクは思わず壁際に身を隠してしまった。

 は、迫力がとてつもない……


「ほんと……これだけいると、さすがに……ビビるわね」


 キッカさんも緊張しているようだ。

 ドラゴンという生き物は、一頭いれば小さな町程度なら破壊してしまうとても強い生物だ。

 それが、何十頭もいるのだ。


 普通の人間なら、ここに迷い込んだ時点で人生が終了するだろう。強制的に。


「マザー、に、会いに行くナの」

「マザー、会うなノ」


 無邪気な顔で、致死率100%の土地へと誘おうとする少女たち。

 君たちは死の妖精ですか?


「わたし、たちと、一緒、なら、攻撃は、されない」


 グロリアさんがボクたちに向かって言う。


「わたしが、させない。安心、して」


 こちらに向けられた瞳はとても力強くて、ボクは縋るように見つめ返した……ら、さっと逸らされた。


「安心させてくださいよ!?」

「……あ、あん、まり……見つ、め、るな…………ばか」


 理不尽な罵倒を受けた気がします。

 ここでしっかりと安全を確約してもらわないと、ボクの命がジ・エンドだというのに。


「シェフ。大丈夫」


 温かい声が、ボクを包み込んでくれる。


「いざとなったら、わたしがシェフを守る」

「アイナさん……」


 アイナさんがいてくれれば百人力です。

 守られてばかりで申し訳ない限りですが。


「心配、しすぎ、だ」


 アイナさんの胸に飛び込みたい衝動にかられていると、グロリアさんがずいっと体を割り込ませてきた。


「ここに、いる、のは、みんな、女性。気品ある、我が、一族の、レディ、たちだ。野蛮、では、ない」

「そうなんですか?」


 ドラゴンの性別は見分けが付かないけれど、野蛮ではないレディだというのであれば、安心………………


「グロリアさんも、レディ、ですよね?」

「それは、……どういう意味なのかゆっくりたっぷり聞かせてもらいたいところだな、何か文句でもあるのか、このウスラバカゲロウ」

「そういうのがさらさらっと出てくるところあたりに恐怖心が煽られるなぁ、ということなんですが……」


 ドラゴンの女性は、みんな『こう』なんじゃないだろうか?

 違うといいな……違いますように。


『グロリア?』

『チルミル、ピックル』


 ドラゴンの里を【ドア】に乗って進んでいると、何頭かのドラゴンがドアの中を覗き込んできた。

 あ、確かに女性の声だ。脳に直接聞こえているらしいけれど。


「ねー様、グロリア、ねー様、連れて、きたナの!」

「ね~様、他の、お客さん、も、連れて、きたなノ!」


 チルミルちゃんとピックルちゃんがドアの外のドラゴンに向かって両手を振っている。

 どうやら、ドラゴンたちの間では、年上の女性は全員ねー様ということになるらしい。

 グロリアさんもねー様なのか。


「なに、その、『こんなちんちくりんもねー様なのかよ、ぷぷぷー』みたいな、目は? 錆びたスプーンで両の目玉をえぐり出されたいのか、下人?」

「被害妄想ですよ、グロリアさん……あと、下人はやめてください」


 ボクはただ、ドラゴンってみんな仲良しなんだなぁ~って思っただけで。


『……アイナ?』


 ドアの中を覗き込んでいたドラゴンの一人が、アイナさんの名を呟いた。

 その声に(念話らしいので、声は出てないんだけど)周りのドラゴンも反応を見せる。


「あ…………無沙汰を、している」


 無数のドラゴンに見つめられ、アイナさんが微かに緊張の表情を見せる。

 それは、ドラゴンに恐れを成したからではなく――


『……ちっ!』


 ――自身に向けられる、敵意の視線を感じたから。

 幼い日に浴びせられていたのであろう、攻撃的な視線を。


「彼女らを、マザーに、会わせる」


 グロリアさんの発言に、ドラゴンたちが俄にざわつく。

 互いの顔を見合わせ、無言でこちらを見つめ、何を考えているのか分からない顔で何名かが低く唸った。


 威嚇、されてませんか、これ?


『男……』

『…………敵』


 ドラゴンたちの敵意は、明確に、ボクへと向けられている。

 鋭い視線がボクを射貫く。


「…………」


 無言で、アイナさんがボクの前に体を割り込ませてくれた。

 ドラゴンたちの視線からボクを庇うように。

 すると……


『…………敵めっ!』

『いまいましい!』


 何頭かのドラゴンが一斉に翼を広げて、天に向かって咆哮を上げた。


 世界が震えた。

 轟く咆哮に空気が振動し、ボクたちの全身を痺れさせた。

 凄まじい迫力だ。……これが、ドラゴン…………っ!


 世界中の空気が弾き飛ばされているのかように、爆風に体が押される。

 濃密な空気が、まるで凶器のようにボクたちの体を飲み込んでいく。

 呼吸困難と止めどなく襲いくる圧迫感で、気を失いそうだ……


 その時――



『静まれ、民よ』



 静かな爆音が轟いた。






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