50話 友達、から -2-
「タマちゃ~ん。もう帽子取ってもいいよ~」
キッカさんの声が聞こえる。
きっと、幼いドラゴン――チルミルちゃんとピルクルちゃんの着替えが済んだのだろう。
ボクの顔から、帽子が外される。
――と、目の前に。
「じぃ…………」
「……あの。すっごい近いんですけど、グロリアさん」
「至近距離、という、サービス」
ほほぅ、……斬新。
「嬉しい、か?」
「えっと……適度が、いいです」
なんだろう、この、ボクとグロリアさんの「友達」の定義が激しく乖離してそう感……
「タマちゃん。ちょっと見てみなよ」
キッカさんの声に誘われて視線を向けると、キッカさんの手にぐるぐる巻きにされた麻袋が握られていた。袋の口からはカエルの足が生えている。
……っていうか、お師さんに袋をかぶせて荒縄でぐるぐる巻きにしたようだ。
「いい縛り方ですね。それなら絶対抜け出せないでしょう」
「あぁ、こっちの全年齢ストライクゾーン変態カエルじゃなくて、こっち」
と、的確に表現されたお師さんから視線を誘導されるがままにキッカさんの指し示す先を見る。
そこには、浴衣のようなフォルムの簡素な衣服を着た少女が二人立っていた。
一人は、おかっぱ頭のおとなしそうな女の子。
もう一人は、ふわふわの天然パーマで明るそうな女の子だ。
どちらも、グロリアさんと同じ緑色の髪をしていて、身長は120センチあるかないかくらい。小柄なグロリアさんがお姉さんに見えるくらい小さい。
グロリアさんは140センチちょっと、かな。
「よろしくナの。わちし、チルミル」
「よろしくなノ。わちし、ピルクル」
おかっぱ頭がチルミルちゃんで、ふわふわ天パがピルクルちゃんらしい。
声は、見た目の通り、落ち着いたチルミルちゃんと元気なピルクルちゃんという印象だ。
「強い魔力、マザー、感じたナの」
「見て来い、マザー、言われたなノ」
どうやら、【ドア】がドラゴンの里付近に来たことで、警戒されたらしい。
魔力とか、感じ取れるんだなぁ、ドラゴンって。すごいな。
その能力があれば、アイナさんがどこかに行ってもすぐに見つけられたりするのだろうか。アイナさん、強いし。きっとオーラ的なものをがんがん発しているだろうし。
どこにいてもアイナさんを感じられる……、いいな。
「マザーの、力、で、覗き、は、出来ない、ぞ、この瞬間沸騰煩悩人間」
「そんなこと思ってませんよ!?」
「え、なに。タマちゃん、アイナのオーラとか感じ取ってストーキングしたいとか思ったわけ?」
「思ってないですよ! 思ってないですからね、アイナさん?」
「ストーキング、というのは……なんだろうか?」
「えっと……一方的な好意で、付きまとったり、監視したりすること、ですかね?」
「なるほど、スパイか!」
「惜しい、けど、違います!」
やっていることは近しいかもしれない。
ほら、ターゲットの秘密を暴く的な?
「おにーさん」
「おにーちゃん」
「へ?」
不意に、尻尾が引っ張られた。
あ、もちろん『着ぐるみの』ですよ。
振り返ると、ボクを見上げる小さな少女たちの大きな瞳が四つ。
そして、左右対称に、ほぼ同時にこてんと傾げられる首。
「おにーさんは、エロい、人ナの?」
「おにーちゃんは、エロい、輩なノ?」
「そんなことないですよ!?」
なぜ、龍族のみなさんはボクを初対面で卑猥な人物だと思うのだろうか。
何かが滲み出しているとでもいうのだろうか…………くっ、ちょっと心当たりがある辺り、強く否定しにくい。
しかし、アイナさんの手前、認めるわけにはいかない!
「大丈夫ですよ~。ボクは、全然エロくない人ですからね」
「よくもまぁ、純真無垢な少女に面と向かって大ボラ吹けるよね、タマちゃん」
「あの、キッカさん……ちょっと黙って」
ホラだなんて証拠はどこにもないわけで、まったく、あはは、冗談きついなぁ、キッカさんは、あは、あはは~。
「おにーさん、は、エロく、ないナの」
「おにーちゃん、は、安全なノ」
「そうですそうです。ボクは安全な人ですよ~」
「……っていう男は、一番信用しちゃいけないタイプよね」
キッカさんは、少女たちに何を植えつけたいんですか?
少女からの蔑みの視線なんて、浴びせられて喜ぶのはお師さんくらいのものですよ?
「おにーさん、安全、ナの」
「エロく、ない、なら、安全なノ」
「そうそう、ボクは安全――」
「マザーに、会っても、死なない、ナの」
「…………ん?」
「エロくない、なら、安全なノ」
…………ん~っと。
雲行きが怪しくなってきていませんか、これは?




