50話 友達、から -1-
幼いドラゴンがドアから店内を覗き込んでいる。
「チルミル、ピルクル!」
『『ぐぁああ』』
グロリアさんの声に、二頭のドラゴンは可愛らしい返事をする。
「どうして、出て、きたの、人間の、世界、は、危険と、言った、のに!」
『ぐぁあ』
『がぁう』
「『ぐぁあ』『がぁう』じゃ、分かん、ない!」
えぇぇ!?
分かんないんですか!?
そこは、こう、ドラゴン的なシンパシーで分かり合えたりしないんですか!?
すると、もそもそと、二頭のドラゴンの輪郭が揺らめき始める。
あ、人化するのかな~?
と、思った矢先。
「いやらしい目で見るなケダモノ!」
「おぅっぷ!?」
グロリアさんの帽子が顔面に覆いかぶさってきた。
ただでさえ着ぐるみを着て、露出している部分が少ないというのに、グロリアさんの大きな帽子が、残っていた顔部分を覆い、ボクは完全に布に覆われてしまった。
「ま、前が見えません!?」
「見たい、のか!? わたしの、仲間の、幼女の、裸、が!?」
「いえ、そういうことではなくて!」
「じゃ、じゃあ、わたっ、わたしと、重ね合わせて、想像を…………エロ助ぇぇえ!」
「してないですよ!?」
グロリアさんの帽子が、ボクの顔面を覆う。
お面的な被り方を強要されて、ボクの視界は完全に塞がれている。
いや、決して幼女の裸体を見たいとか、そんなつもりはないのだけれど、こうも強引に視界を奪われると、ちょっとした恐怖を感じる。というか、落ち着かない。
それに、なんだか……
「帽子の中に、グロリアさんの香りが充満していて……落ち着きません」
「むぁあああ! わた、わたしの、匂いで、興奮、するなぁああ! 節操なし! 年中発情魔ぁぁああ!」
酷い言われようである。
「どんだけ、わたしの、ことが、好きなんだ、お前、は!?」
いえ、それは誤解なんですが……
「好き過ぎか!?」
だからですね……
「……シェフは、グロリアが…………好き、なのか?」
「そんなことないです!」
不意に、背後から聞こえたアイナさんの声に、ボクの脳は条件反射を越えた速度で弁明を発していた。
そんな勘違いをされたら困ります。
「全然、微塵も、そんなことなぅぐゎぁあああああ!」
「…………否定が、力強過ぎ、では、ないか?」
グ、グロリアさん……こめかみを、帽子越しにこれでもかと圧迫するのは、やめてください。痛過ぎて、「やめて」の一言すら声に出来ません……っ!
「あそび、か?」
なんか、不穏なことを言い始めましたよ!?
「真に受けた、わたし、が……バカ、か?」
心なしか、グロリアさんの声が寂しそうに聞こえた。
「…………本当は、…………嫌い、か?」
「そ、それは、ない……です!」
これだけははっきりと言わなければいけない。
そう思って、懸命に声を絞り出した。
グロリアさんが嫌いだなんて、そんなことはあり得ない。あるはずがない。
だって、グロリアさんはアイナさんの大切な人ですし、キッカさんとも打ち解けて仲良しになりましたし、何より……
「グロリアさんが、美味しそうにボクの料理を食べてくれて、すごく嬉しかったですよ」
ボクは、グロリアさんのことを気に入っている。
誤解を恐れずに言うならば『好き』という部類に入っている。
ただ、それが恋ではないだけで。
「仲良く、したいです。ボクは、グロリアさんと」
帽子に視界を塞がれて、周りは見えないけれど、グロリアさんがいるであろう方向に向かってきちんと言葉を届ける。
仲良く、なりたいですよ。ボクは。本当に。
「……仲、良く………………」
「はい。お友達に、なってくれませんか?」
何か思うところがあったのか、ボクのその一言を聞いてグロリアさんの体が一瞬反応を示した。
指先が震え、一瞬、力が籠る。…………痛いんですけどもっ。常時痛い上に、一瞬力籠って一層痛いんですけどもっ。…………でも、我慢。
「そ……そこまで、言う、なら…………アイナの、知り合い、でも、あるし」
……知り合い、かぁ。
関係薄いなぁ、ボクとアイナさん。そんな印象なのかなぁ。
「と、友達、から、……はじめる、のに、やぶさか、では、ない」
「はい。では、お友達から」
…………ん?
『から』?
ま、まぁ。これでお友達なわけで、きっとこれまで以上に友好的な関係が築けるだろう。
……きっと。




