48話 お届け物 -1-
「スパッツは、人に見せるものではありません。もう見せません。申し訳ありませんでした」
と、アイナさんがボクたちの前で言う。いや、言わされている。
「よし。今言ったこと、忘れないように」
「……はい」
腕組みをするキッカさんの視線から逃れるように、アイナさんが顔を逸らせる。
完全に、母親に怒られている少女だ。
今回はキッカさんに加えてグロリアさんも参加していたから、二倍怒られたんだろうな。
アイナさん。ドンマイです。
「さて、次は、被告への、刑の、執行を」
「ちょっと待ってください、グロリアさん!? 執行ってなんですか? いつの間に刑が確定したんですか!? ボク、裁判受けた記憶がないんですけど!?」
「なにか、言いたい、こと、でも?」
「ありますよ! そもそも、アレは不可抗力というか、ボクにも予想外の出来事でしたし、ですのでボクは別に何か悪事を働いたというわけでは……」
「反省の、色、無し。死刑」
「極刑じゃないですか!?」
人生はまるでゆりかご。
いいことがあれば同じだけ悪いことが起こり、天国の後には地獄が訪れる……そんな伝承を伝える民族がいたっけ。
でも、ボクはそうは思わない。
いいことと悪いことが同じ量だなんて、ボクは信じない。
人生は、たくさんの幸せに出会うために存在しているんだ。
だから、いいことの後には、もっといいことが訪れる。ボクはそう信じたい!
「『ぽかり』、『ぐさり』、『ぼきり』、『ぽろり』、好きなのを、選べ」
「『ぽろり』ってなんですか!? 首的なものが取れるんですか? それとも、ここでは言えないようなものが『こんにちは☆』するんですか!?」
どっちにしても死ぬ。
生命の死と精神の死。免れられない。
「グロリア。シェフは悪くない。だから、シェフを責めないでほしい」
「しかし……この、男は、汚らわしい、目で、少女の、あどけない、つぼみを……」
「表現、気を付けましょうグロリアさん!」
言葉を濁すことで卑猥さが増すこともあるんです、世の中というものは!
「とにかく、シェフに罰が必要だというのであれば、わたしが代わりに受ける」
「アイナさん……」
「わたしが、シェフの代わりに『ぽろり』する!」
「アイナさんっ!?」
「剣姫、お説教するからちょっと来て」
「またなのか!?」
いや、まぁ、それは仕方ないというか…………『ぽろり』しちゃったら、大惨事ですよ。
しかし、よくない空気だ。
折角アイナさんが鎧を着けずに、ドレスでいようと思ってくれたのに。
仮装までして楽しい雰囲気なのに…………仮装?
「あっ、そうでした!」
お師さんからグロリアさんへのプレゼントのこと、すっかり忘れていた。
あれは確か……あ、カウンターの上に置いてある。
「これ、グロリアさんに着てもらおうと思いまして」
「…………なに、それ?」
グロリアさん。そこまで露骨に嫌な顔されると、さすがのボクもちょっと傷付きますよ。
「仮装パーティーの衣装です」
「なぜ、わたしが、そんな、ものを? お断り、する。誰が、貴様のような薄汚れた豚やろうの触った服など……」
「アイナさんやキッカさんとお揃いになれますよ」
「着る! 寄越せ! さっさとしろ!」
ボクから布袋をぶんどり、グロリアさんは少し嬉しそうな顔をした。
やっぱりお揃いって嬉しいんだなぁ。
「アイナ、と、お揃い。キッカ、も、お揃い」
「よかったではないか、グロリア。シェフに感謝するのだ」
「アイナ、と、お揃い。キッカ、も、お揃い」
「わたしの話はスルーか、グロリア!?」
嬉しそうに袋を開けるグロリアさん。
さて、どんな衣装が入っているんだろうか?
お師さんのことだから、アイナさんやキッカさんの衣装に合わせたものにしているだろう。そういうところ細かくこだわる人だし。……いや、カエルだけども。
それに、お師さんが女の子に着せようという服なら可愛くないわけがない。
女の子には可愛い服を。
あのお師さんだもん。それ以外の服なんてあり得ない。
「あれ、どんな衣装なのよ、タマちゃん」
「グロリアさんに似合う衣装ですよ」
ボクの隣でキッカさんも興味深そうにしている。
そんなボクたちの視線を受け、グロリアさんが取り出した衣装は――
「……つるつる、ぴかぴか…………黒い」
どっからどう見ても、合皮レザーのボンテージ衣装だった。
おぉうっふ……世界の温度が10度下がった。




