表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

157/227

47話 新たなるF -2-

 一体、何が起こっているのか……それを理解するには、ボクの脳は少し容量不足だ。


 脇腹の痛みなどとうに消え、ボクはこの世の幸福を独り占めしているかのような、恐怖にも似た高ぶる感情に身を震わせた。

 ボク、幸運過ぎて、死ぬかも……



 ――トン。



 と、軽い音がして、世界の音が一気に戻ってくる。

 割と静かなはずの店内が、とても騒がしく感じる。


「シェフ! 怪我はないだろうか!?」


 真っ先に聞こえたのは、アイナさんの声だった。

 ボクを心配してくれる優しい声。


 そして、ボクの肩に触れる、温かい手の感触。


 床にうずくまったまま、首だけを回して振り返ると、すぐそこにアイナさんの顔があって、視線がぶつかって…………吐血した。


「ごふっ!」

「シェフッ!?」


 ……鼻ごときでは、この大量に集まった血液を噴出仕切れなかったのだろう。


「だ、大丈夫か、シェフ!?」

「むしろ幸せですっ!」

「……は?」


 アイナさんが戸惑っている。

 だが、ボクは、叫ばずにはいられないっ、神の名を!


「OH! GOD!」

「シェフ、どうしたのだ!? み、みんな! シェフが変だ!」

「大丈夫、いつものことだから」

「滅べばいいのだ、邪なる魔の化身め」


 あぁ、足りない!

 こんなものでは、ボクの内からあふれ出る感謝の気持ちを表現しきれない!


「OH! DOG!」

「イヌになってるよ、タマちゃん」

「アイナ、離れた、方が、いい。その汚物は、危険」

「い、いやしかし、シェフが血を……」

「心配、無用。ただの、鼻血」

「口から出たのに!?」


 キッカさんがアイナさんを、そしてグロリアさんがボクを掴んで、強制的にボクとアイナさんを引きはがす。

 あぁ、アイナさんが遠ざかっていく。


「剣姫……ごめん。今回のは、あたしの責任も重大だわ……ホントにごめん」

「な、何を謝っているのだ?」


 キッカさんが深く頭を下げる。

 立ったまま土下座をしそうな勢いだ。

 いや、アレは立位体前屈というのか。


「もう、見るな。アイナが、減る!」


 一方、ボクの腕をぐいぐいと引っ張るグロリアさん。

 そうだ。

 ボクはグロリアさんに言わなければいけないことがあるんだ。


「グロリアさん!」


 ボクの腕を掴むグロリアさんの手を振り解き、両手で、その小さな手を包み込み、握りしめる。ボクの思いの大きさを全握力に載せて。

 あふれ出す気持ちのすべてを言葉に載せて、グロリアさんに伝える。


「ありがとうございますっ!」

「……イラッてするな、お前は」


 グロリアさんがさらりと毒を吐く。

 なんだろう、ボクと話す時だけ言葉がすらすら出てくる――そう考えると、素晴らしいことのようにすら思える。これが、感謝の気持ち!


 グロリアさんのおかげで、ボクは今、とても幸福です!


「それで、その……あんたさ………………大丈夫、なの?」

「ん?」


 キッカさんが、チラチラとボクを見ながらアイナさんに耳打ちをする。


「……スカートの中、めっちゃ見られてけど。タマちゃんに」

「えっ!?」

「いや……『えっ!?』って…………」


 キッカさんの背後に『ないわー。この娘、ないわー』という文字が浮かんでいる。太字で。ゴシック体で。大きい文字で。そんな気がする。


「しかし、大丈夫だ」


 スカートを払い、両手を腰へと添えて、大きく胸を反らす。

 ぷるんっ!


 オブリガード! 


 小さな幸せが、生きる喜びを教えてくれる。

 幸せって、すぐ隣にあるものなんですね。


「タマちゃんへの処罰はあとでするとして……」


 あとで何かされるらしい……


「何が、どう大丈夫なのよ? ……(スカートであんな無茶して!)」


 小声で怒鳴るという器用な技を披露し、アイナさんの耳にお説教を流し込むキッカさん。

 しかし、アイナさんは悠然と構え、一切怯む様子はない。

 その自信の出所は……


「スカートも、もう怖くない。なぜなら――」


 そして、自信満々に、スカートを…………捲り上げた!?


「お師さんに新しい装備をもらったのだ!」


 ドレスのスカートの下から、ぱっつぱつのスパッツが姿を現す。

 白く締まった足首からスネ、そしてヒザが露出し、その上に黒いスパッツ。

 柔らかそうな太ももをきゅっと締めつけている感じが堪らない!


 しかも!

 アイナさん自身が、自分でスカートを捲り上げているというこの奇跡のような光景!



 神よ!

 世界はこうして生まれたんですねっ!(意味とかどうでもいいから、そう叫びたかった)



 そこには、神秘があった。


「膝から下、ヒジから先は戦闘や移動の際に露出してしまうことが多く、そこは問題ないと言われていた。だから、これさえ穿いていれば、仮にスカートが捲れ上がろうが燃え尽きようが、一切問題ないっ!」

「大有りだわっ!」


 電光石火の一撃が、アイナさんの後頭部に炸裂する。

 ……人間の視覚で捉えられる速度では……なかった。


「……キッカ、痛ひ……」


 両手で後頭部を押さえ――軽く煙が上がっている――涙目で訴えるアイナさん。

 両手が頭にいったせいで、スカートはすとんと、ふわっと元通り。


 けれど、ボクのまぶたにはしっかりと神秘のスパッツが焼きついているっ!


「剣姫……再教育」

「えっ!? ま、またなのか!?」

「いいからちょっと来なさい!」

「わたしも、参加する、その、教育に! アイナには、教える、ことが、たくさん、ある! あと……お前はあとで八つ裂きにする」


 さらっと怖い言葉を残して、グロリアさん及び、アイナさんとキッカさんは従業員用のドアをくぐった。ドアが閉まる。……静寂。

 この後、またしばらく自分たちの部屋でお説教タイムなんだろうな……



「しかし……まいったな…………」



 誰もいなくなったホールで一人、ボクはため息交じりに呟いた。


「お師さんの予言って、やっぱり当たるんだなぁ…………」



 ボクは、ボクの中に芽生えた新たなるフェティシズム……スパッツ萌えと、これからどう向き合っていけばいいのか、それについて熟考することにした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ