45話 身近に潜む危険 -2-
「でも、それじゃあ……」
あんなひらひらふわふわしたドレスなんか着ていたら、いつ肌が露出するか…………肌ってどこからを指すんだろう? 手や顔は出ているし、やっぱり、チラッと見えて「おぉぅっふ……」ってなるような場所だろうか。
太ももは……アウトっぽい。
じゃあ、スカートとかダメじゃないか!
誰だ、あんなドレスをアイナさんに勧めたのは!?
「ボクだぁー!」
そもそも、仮装とか言い出したのもボクだ!
むぁぁああ! なんてことをしてしまったんだ!?
ど、どど、どうすれば……どうすれば………………
『普段なら、そのような事態には……』
ふと、アイナさんの言葉が浮かぶ。
普段なら…………そう、普段のアイナさんならそんなことは起こらない。
なぜなら…………
「鎧っ! そうだ! 鎧を着ていれば肌の露出が防げる!」
天啓がひらめいたかのように、脳みそに電流が走る。
アイナさんには、鎧を着ていてもらえばいいんだ!
そうと決まれば、今すぐ着替えるように言いに行こう!
「お~い、ボーヤ。邪魔するぶじょうっ」
……なんか踏んだ。
「………ボーヤよ……歩く時は、前をしっかり見るのじゃ」
「お師さん、何やってるんですか人の部屋で。床を汚さないでください」
「他に言うことがあるじゃろうが……」
「おっしゃる通り歩く時は前を見るべきですが、今は走っていたのでセーフです」
「どうしてそーゆー風に育っちゃったんじゃ?」
あなたの素晴らしい教育の賜物ですよ。
もう長い付き合いですからね。
「それで、なんなんですか? ボク今、ちょっと急いでるんです」
「お嬢ちゃんも太ももちゃんも可愛いのぅ」
「なんですか、今さら。そんなの、とっくに知ってますよ」
あの二人は可愛い。
特にアイナさんがずば抜けて可愛い。
他の追随を許さない、『美』という観点から見て神の域にまで到達し得る唯一無二の存在だ。
世界中の女性を二つのグループに分けるとするならば、『アイナさん』と『それ以外』にボクは分けるだろう。
それほどまでに絶対的に可愛い存在、それがアイナさんだ。
……いや、まぁでも。
キッカさんも、アイナさんに負けず劣らず可愛いですけども。バニーとか……網タイツとか…………卑怯なほどに。
いや、でもやっぱり……アイナさんが一枚上手かなぁ。
「それに、あの娘もなかなか可愛かったのぅ、ドラゴンの、基本全裸ちゃん」
また、すごいあだ名を付けたな!?
「基本全裸ちゃんにも、あーゆー衣装を用意したのじゃ。ほぅれ、これをプレゼントして、親睦を深めてこい」
「いや、その衣装のことでいろいろ言わなきゃいけないことがある……っていうか、『基本全裸ちゃん』は、さすがにぶち切れられますよ、グロリアさんに」
そりゃ、ドラゴンの時は基本全裸なんでしょうけども。
そんなボクの忠告も聞かず、お師さんはのん気にぬめっとした表情で言う
「お嬢ちゃんの衣装は替えさせんことじゃ。ワシはアレが気に入っとるからの」
「……まさか、スカートを覗いてお嫁さんにもらおうって魂胆じゃ…………?」
だとしたら、本気で滅ぼしますよ。細胞レベルで。
ボクの中の黒い感情が膨れ上がっていく。
だが、そんなボクの変化など意に介さず、お師さんは穏やかな、少し寂しそうな、そして激しくぬめぬめした顔で語り始める。
「ワシの愛はもう、ある一人の女に捧げてもうたからの……。新たな相手は必要ないわぃ」
「お師さん……」
遠い目をしたお師さんに、ボクは、思わずこんな言葉をかけた。
「……カエルは、『一匹』ですよ?」
「ワシの相手を、両生類に限定せんでくれんかのぅ……」
人間に恋していたというのだろうか……厚かましい。
捧げられた人もさぞ扱いに困っただろうなぁ、その愛。
「まぁ、ボーヤが心配しておるようなことは起こらんよ。むしろ、暴走すれば後悔することになるぞ」
またそういう予言めいたことを言う…………けれど、お師さんの予言は、当たる。
暴走……しないように気を付けよう。
お師さんの予言は、真剣に聞いておいた方が身のためなのだ。
「そしてもう一つ……」
真剣な瞳がボクを見つめる。
こんな真剣な目をしたお師さんは久しぶりに見た……
この次に来る言葉は、しっかりと心に刻みつけよう。
「ボーヤは、また一つ、新たなフェチに目覚めるじゃろう」
「なに言ってんですかぬめぬめした顔で。塩をかけますよ?」
「ナメクジ扱いは酷いじゃろうが……」
前言撤回。
カエルの戯言など聞く気にもなれない。
というか、さっきのキッカさんたちの会話のせいで、カエルを見るとちょっとムラムラしてきつつあるんですよ! あんまりぬめっとした顔でこっちを見ないでください。新たなフェチに目覚めたらどうするんですか!? 嫌ですよ、カエルフェチとか!
――と、声には出さずに言っておく。
「はぁ……とにかく、厨房に戻りましょう」
「すまんがワシは行けんのじゃ。一人で頼む」
「行けないって……何か悪巧みでもしているんですか?」
「まぁの。『扉の素』をちょっとの~」
謎の言葉を残して、お師さんは部屋を出て行った。
残されたのはボクと大きな布袋。
お師さん曰く『基本全裸ちゃん』用の仮装衣装のようだ。
……ボクが渡すと、間違いなく罵声が飛んでくるんだけどなぁ…………
変な緊張のせいで摩耗した心臓に、新たなる憂鬱の種がのしかかってきて……ため息が漏れる。
アイナさん…………鎧、着てくれないかなぁ……
重たい足を引きずるようにして、ボクは厨房へと向かった。




