42話 お腹を空かせた -1-
【歩くトラットリア】は、お腹をすかせた人の前に現れる。
そして、偶然【歩くトラットリア】を見つける人もまた、お腹をすかせている。【歩くトラットリア】とは、そういうお店なのだ。
実を言うと、この【歩くトラットリア】に来店するためには、他にもいろいろと条件があり、ドラゴンであるグロリアさんがこの店を覗き込んだ時、ボクは正直とても驚いていた。
空腹な魔獣が勝手に店内に入って来て暴れないのも、山賊のような悪人が大挙して押し寄せてこの店を占拠、強奪できないのも、前オーナーが設定したその条件のおかげなのだ。
でもお師さんが言っていた。
「前オーナーは『縁』というものをとても大切にする、そういう国の人間だった」のだと。
きっとグロリアさんは、アイナさんとの縁によって、この【歩くトラットリア】に引き寄せられたのだろう。
このお店は、不思議な『縁』によって人々を結びつける。
そういう場所でもあるのだ。
ブギーマントに誘拐されたセナちゃんのご両親しかり、ナンパ騎士にこの店の視察を命じた宝石を支配しているとか言っていたマダムたちしかり。
それでもやはり、ここは【歩くトラットリア】。
一番の入店条件は、お腹を空かせていること。
この扉を発見し、ドアを開けて入店してくる人はみんなお腹を空かせている。
ということで。
この店を見つけたグロリアさんは、現在空腹であるはずだ。
「グロリアさん、お腹すいてますよね?」
「う…………まぁ、すいて、なくは、ない……」
素直にお腹がすいたと認めると、何かペナルティでもあるのだろうか?
ある程度会話をして、ボクたちの間には、とりあえず友好的なムードが漂い始めていた。
まぁ、まだボクに対しては少し険があったりするけども。
「何か食べなよ。タマちゃんの作るご飯、ホント美味しいから」
「う……うん……じゃあ、もらおう、かな」
キッカさんの言うことは素直に聞いたりもする。
それにしても…………にへら。
「な、なにっ!? なんか、笑って、いるけれど、なに、あれ? ねぇ、キッカ!?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。美味しいって褒められるのが好きなのよ、タマちゃん」
「えへへ~……」
キッカさん。ボクの料理を美味しいって思ってくれてるんだなぁ。嬉しいなぁ。
「実は、仕込みの途中でして。すぐに用意出来ますよ」
「………………」
う~ん、この警戒心。
すっごいじっと見られてる。
「アイナも、何か、食べる?」
「わたしは、店員だから」
ふわふわのドレスの上にエプロンを着けて、アイナさんはカウンターの中にいる。
キッカさんとグロリアさんはカウンター席に座っている。
グロリアさんは、アイナさんがこちらにいることが不服なようだ。分かりやすく頬を膨らませている。
「アイナさんも、一緒に何か食べませんか?」
「しかし、お客様がいる時は……」
「グロリアさんは、アイナさんのお友達じゃないですか。アイナさんのお友達は、もうファミリーみたいなものですよ」
【歩くトラットリア】ファミリー。
うん。そんなものがあってもいいと思う。
「一人で、食べる、のは……寂しい……」
「でしたら、ちょうどいいかもしれませんよ」
うな垂れたグロリアさんに元気が出るように、明るい声で言う。
いや、本当にタイミングがよかった。
「今、収穫祭の準備をしていたんです。グロリアさん、アイナさんやキッカさんと一緒にご飯を食べましょう。ね?」
「アイナと、キッカと、一緒、に?」
「はい」
【ファーム・フィールド】で収穫祭をしようと思っていたところだ。
そこに一人増えても、なんの問題もない。
むしろ、賑やかになることは大歓迎だ。
お腹を空かせた人が、「美味しい」って料理を食べてくれるのは、ボクにとって最高に幸せなことだから。




