40話 コスプレしてみよう -2-
「ボク……どうせならカッコいい格好がしたいです」
「カッコいいって……タマちゃんにセンスとかあるとは思えないんだけど」
バニースーツを握りしめて男を追いかけ回すような人に言われたくありません。センスというか、趣味を疑います。
「たとえば、どういう格好がカッコいいわけ?」
「そうですね………………バラを、咥えてみたり?」
「横から『サッ!』と引き抜きたい」
「唇血だらけになりますからね!? やめてくださいね!?」
おかしい。
バラを咥えたりしたら、女の子はみんなきゅんきゅんするものだと思っていたのに。
「……キッカさん、女子力低いからなぁ」
「おぉい、そこの聞き捨てならないボーイ! あたしの女子力舐めんじゃないわよ!」
「どこにあるんですか、キッカさんの女子力?」
「なっ…………生足!」
「それに食いつくのはお師さんくらいですよ……」
「タマちゃんだって食いついてたでしょう!? す……素敵だ、とか言っちゃってさ」
……はて?
言っただろうか?
「ほっほ~ぅ…………とんと記憶にないって顔よねぇ、それは」
キッカさんの瞳が、みるみるうちに荒んでいく。
まるで、早回しで一国の栄枯盛衰を見せられているようだ。ついさっきまで、あんなに楽しそうな目をしていたのに……今ではスラムのような危険な香りが漂っている。
「ねぇ、剣姫…………あたし、ちょっとこれ着てくるわ」
えっ!?
バニースーツを!? キッカさんが!?
生着替え!? ……は、ないですよねぇ、ですよねぇ。
いやしかし、キッカさんのバニーガール………………ご、ごくり。
……はっ!?
今ボクは何を!?
確かに、キッカさんは足がすらっとしていて綺麗ですけども!
太ももとか、適度にむちっとしていて堪りませんけども!
でも、ボクには心に決めた人が!
そんな目の前のエロスに視線を奪われるような、そんな男では決してないんです、ボクは!
「この衣装……網タイツもセットで入っていたから、覚悟するのね!」
グーラグラグラッ!
あぁっ!?
ボクの心がヘビメタにドはまりしたヤジロベエのようにぐらぐらと揺れ動いている! 足下がぐらついているぅぅううっ!
だ、だって、キッカさんのあの足に、太ももに、網タイツなんか装着されたら…………白と黒のコントラストが…………ごくりっ。
「ふふん……嬉しそうな顔してんじゃん」
「はっ!? い、いえ! 決してそんなことは!」
「なんだかんだ、男ってこういう衣装好きだもんねぇ~?」
「そ、それはあくまで一般論であって、ボクが大多数の意見と迎合しているという証拠はどこにもないわけで、つまりボクが『網タイツの編み目に指突っ込んでぷしぷししてみたいなぁ~』と思っているという証明は公明正大な裁判官であっても不可能なわけで……っ!」
「シェフは……あぁいう服が、好き?」
……はっ!?
しまった。
盛大に取り乱して、なおかつちょっとにやけた顔をさらして、あまつさえそれをアイナさんに見られてしまった……っ!
軽蔑されたら、もう生きていけないっ!
『網タイツ五郎』とかいう謎のあだ名とか付けられたら、明日からどうやって生きていけばいいのか……っ!?
「わたしも……着て…………みよう、かな」
ごりごりごりごっきゅんっ!
あはぁっ! なんだか生唾がこの世界最大といわれる『ゼクシュールの大滝』のごとき水量で食道を流れ落ちていくぅぅう!
見たいっ!
見ーたーいーぞーぉぉぉおおおおっ!
「タマちゃんってさぁ……ホンット正直な顔してるよね。はは……殺意覚えるわ」
可愛いウサギさんの耳が、人食い魔獣の角に見えてしまいそうな殺気を放つキッカさん。
しかしっ!
アイナさんのバニーガールが見られるのであれば、ボクは今、ここで、死んでもいい! 悔いはなぁいっ!
「剣姫。思い直しなさい」
「で、でも……」
「タマちゃん、死ぬ気よ?」
「えっ!? し、死ぬのはよくない! 困る!」
「あんたがバニーを着るには、まだまだレベルが足りないの」
「レベル……そういえば、以前もシェフに『レベルが足りないから』と言われた装備品があった…………防具は、奥が深いのだな」
た、確かに……スク水に続き、バニーに対しても、レベルが足りていないかもしれない……ボクの。主に、耐性レベルが。
「ア、アイナさんは、そのドレスで、どうですか?」
「わたしが、これを?」
「はい。きっと似合うと思いますよ」
そして、ドレスなら、きっとボクは死なない。……きっと。
「……けれど、これは…………ふわふわしている」
「はい。ふわふわですね」
「ひらひらもしている」
「ひらひらしてますね」
「こ、このドレスは、以上のことから、とても可愛いと思われるのだが!?」
「可愛いドレスだと、ボクも思いますよ」
「…………わたしなどが、着てもいいのだろうか?」
「いや、少なくとも、ボクが着るよりかはアイナさんが着た方が喜ぶと思いますよ、そのドレスを作った人も、ドレス自身も」
その服飾人も、まさか男に着せようとデザインしたわけではないだろう。
ドレスが泣きますよ、ボクなんかが着たら。
「剣姫、着てみたら?」
「し、しかし……」
「一歩、踏み出してみなさいよ」
「…………一歩」
俯いて、身に纏っている鎧をそっと撫でるアイナさん。
鎧を脱ぐことに不安でもあるのだろうか?
…………
…………
…………
…………
…………
…………まさか、ボクという変質者の前で軽装になるのを危惧している、とか?
そうでないことを切に願う。
「…………」
ちらりと、アイナさんがボクを見た。
やっぱりかぁー!
ボクの内なる変質者オーラが、気付かないうちに漏れ出しちゃってたのかー!
「あの……もし、どうしても耐えられないようでしたら、別に鎧のままでも……」
「……着る」
それはとても小さな声でともすれば聞き逃しそうな呟きで。
でも、とても意思のこもった言葉だった。
「着て、みる。…………似合うかどうか、自信は、ないけれど」
絶対似合いますってば!
鼻血かよだれのどちらかを盛大に噴き出す自信がありますから!
「そ、その代わりっ、シェフに着てほしい装備があるっ!」
…………拘束具、でしょうか?
アイアンメイデンじゃなきゃいいなぁ……あ、あれは装備じゃなくて拷問具か。
「じゃあ、各々着替えて、二十分後に集合ね」
「うむ!」
「え…………ボクも、ですか?」
ただ一人、何を着るのか分からないこの不安。
まぁ、アイナさんなので、救いようがないほどおかしな衣装ではないと思…………い、たい、のだが…………ドレスを着せようとした人だから、イマイチ、安心は出来ない…………
そして、二十分の時が流れ――ボクたちは再びフロアへと集結した。




