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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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37話 鎧を見て -3-

「じゃあ、まずは胸当てだ!」


 腰当てと一体になった鎧が肩に掛けられる。

 ずしりとのし掛かってくる重量感。それだけで肩の骨が外れそうになる。

 こんなの着けて歩くとか、不可能だ。


「お次は、兜だな」

「どぅ……っ!」


 棚の上に置かれていた大鍋みたいな巨大さの兜がボクの頭に被せられる。

 顔をすべて覆うフルフェイスタイプなせいで圧迫感がある。

 身動きも取れず、閉じ込められたような心細さを覚える。


「おぉ! 強そうじゃねぇか!」

「まったくだ! こりゃあ、将来は聖騎士様だな! はっはっはっ!」

「よぉし! なら、将来の聖騎士様に鎧を恵んでもらおうぜ!」

「えっ、聖騎士様、鎧買ってくれるのか!? やっさしぃ~!」


 ……え?


「そりゃあいい! 聖騎士様に鎧をいただいたとなりゃあ、俺らも一層魔獣退治に精が出るってもんだ!」

「だが、これじゃあまるでカツアゲみたいじゃねぇか?」

「ならこうしようぜ! 今から全員で競争するんだ。最後にカウンターに着いたヤツが全員分の金を払う、どうだ?」

「乗ったぜ! じゃあ、反対のヤツは片足上げろ! あははは!」


 こ、こんな重たい鎧を着て片足とか……無理!

 そして、身動きも取れないボクじゃ、オジサンたちより早くカウンターへ行くことも不可能だ。


「いくぜぇ? よぉ~い……!」


 はぁ……しょうがないなぁ…………

 あんまり騒ぎを起こしたくはないんだけど……


「ドン!」


 声を合図に、ヘビーアーマーを着たオジサンたちが走り出そうとする。

 が――ドン! と、先ほどの声とは別の、でもよく似た音がした。


「痛ってぇな、こら!」


 狭い店内で走り出すから、他の人にぶつかったらしい。

 一人が声を荒らげると、他の三人が加勢するように集結する。

 なんて無駄なチームワーク。もっと他のことに活かせばいいのに……


 そんな酔っ払い四天王に絡まれている新たな犠牲者は……


「何をしているのだ、そなたらは」


 白銀の鎧を身に纏った赤髪の、息を飲むような美人――アイナさんだった。


「何してるじゃねぇんだよ! テメェ、俺たちの鎧を見て分からねぇのか!?」

「まさか、俺ら『重装カルテット』を知らねぇってこたぁねぇよな!?」

「女だからって優しくしてもらえる世界じゃねぇんだよ、冒険者ってのはな!」

「顔、鎧、武器を見て、ケンカ売っていい相手かどうか瞬時に見極め……ろ…………って…………………………ぇ?」


 酔っ払い四天王――重装カルテットとかいうらしいオジサンの中の四人目の声が後半で急に小さくなっていく。

 声量が小さくなるにつれ、噴き出す汗の量が夥しくなっていく。


 そして――


「けっ…………剣鬼だぁっ!?」

「なっ!?」

「げっ!?」

「ひぃっ!?」


 悲鳴にも似た絶叫を上げ、オジサンたちは飛び退き、後ずさり、逃げ惑い、棚にぶつかっては陳列されていたヘビーアーマーを落下させ、蹴散らかす。

 金属同士がぶつかり合うけたたましい音が店内に響く。


「殺されるぅぅぅうう!」


 集まってきていた野次馬を押しのけ、かき分けて、オジサンたちは脱兎のごとく逃げ出した。

 ドタバタという足音が遠ざかっていき、数十秒間時間が止まったかのような空気が流れて、店内に静寂が訪れる。

 もうもうとほこりが舞い、差し込む光の中で踊っている。


 ……なんだったんだ?


「アイナさん。大丈夫ですか?」

「…………」

「アイナさん」

「……はっ!?」


 少しの間ぼーっとしていたアイナさん。

 声をかけるとこちらに顔を向けてくれた。


「大丈夫ですか?」

「それは、こちらこそが聞きたい。無事だったろうか? どこか痛むところはないか?」

「はい。殴られたりしたわけじゃないですから」

「しかし、あんな重たい鎧を………………あれ?」


 アイナさんはボクの後方へと目をやる。

 棚から落ちた鎧に混ざって、ボクの脱ぎ捨てた鎧が転がっている。


「……自分で脱いだ、のか?」

「え? あ、……あぁ、まぁ。はい。あはは、アレですかね、火事場の馬鹿力的な?」

「そ、そう……いう、ものなのか」

「それよりも。棚、壊れちゃったので店員さんを呼んでこないと」


 ボクがカウンターへ向かおうとすると、集まっていた野次馬がザザッと道をあけた。

 モーゼが割ったという海のように。


 ……え? なに?


 筋骨隆々で、高価そうな鎧を身に纏った熟練の冒険者たちが、みんな顔を引き攣らせてボクを避ける。

 近くを通るだけで「ひっ!?」と、声を漏らす人までいる。


 ……なんだろう。感じ、悪いな。


「あの、店員さん」

「ひゃっ、ひゃいっ!」


 カウンターまで行き、店員さんに声をかけると、店員さんは背筋をピンと伸ばして汗をだらだら流して、絶対に視線を合わせまいと明後日の方向を向いたまま返事を寄越してきた。

 お~い、接客業。


「あの。ヘビーアーマーのコーナーなんですけど、棚が壊れて……」

「はい! 申し訳ありません! こちらで修繕しておきますので、どうかお気になさらずにお引き取りを!」

「いや、でも。ボクも片付け手伝いますから……」

「大丈夫ですので、どうかお引き取りをっ!」

「あの、店員さん……」

「お引き取りをぉぉお!」


 ……なんなんだ?

 これは、あまりに失礼過ぎるんじゃ……


「タマちゃん」


 背後から声がして、振り返るまでもなくそれはキッカさんで……


「行こう」


 短い言葉の中に、すごくたくさんの思いを込めて、ボクに伝えてくる。

 これ以上関わるな――と。


 そっと視線を向けると、アイナさんは無表情で立っていた。

 静かに。何も言わずに。


「……はい。行きましょう」


 こんな店、二度と来るか――そんな言葉を言うのも、きっと違う。

 結局、ボクたちは何も言わずにその店を後にした。



 収穫祭に行きたいと言ったボクの言葉は、間違っていたのかもしれない。

 そんな思いが、ずっと取れなかった。






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