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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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37話 鎧を見て -2-

「どうやら、収穫祭に合わせてバーゲンをやってるみたいね」

「バーゲンですか?」

「うん。鍛冶師連中もこの日に合わせていい防具を作ってきてるのよ。だから、売れ残ってた鎧は売っちゃって、新しいのを店に置くの」

「それでバーゲン、ですか?」

「そうそう。あたしたち冒険者にとってはありがたい話なのよ。鎧のランクは上げたいけど、いい装備は高いからさ」

「だから今日は人が多いんですね」

「だね」


 などと話している間も、ボクたちのそばを何人もの冒険者たちが通り過ぎていく。

 これは、ゆっくり見るのは無理そうだ。


「あ、あっちの方空いてますね」


 大柄な男たちで溢れかえる店内において、ある一角だけが比較的空いていた。

 とりあえずそちらへ行ってみよう――と思ったのだが、その通路の前にアイナさんが立ち塞がった。


「シェフは、こちらへ来てはいけない」

「え?」


 腕を広げて通せんぼをするアイナさん。

 一体なぜ?


「その先には何があるんですか?」

「それは……言えない」


 き、気になるっ。

 ボクには言えない何かが、あの向こうに!?


「ちょ、ちょっとだけ見せていただくわけには……?」

「……そんなに、見たい、だろうか?」

「え、えぇ、それは、まぁ……」

「…………やはりか……」

「やはり?」


 と、アゴに手を添えて深く考え込むアイナさんの隣を一人の冒険者がすり抜けてきた。

 あの立ち入り禁止の一角から商品を持って出てきたその女性は、ビキニアーマーを身に纏っていた。

 おへそ丸出しで。


「シェフは、おへそ好き……」

「ちょっ!? 誤解です!」


 ボクは別に女性のおへそが好きなのではなく、ただ、アイナさんがあぁいう格好をしたらどうなるかなぁ~と妄想したら止まらなくなってしまって、鍛えているからウェストはきゅっとしてそうだなとか、腹筋は割れていても割れずになだらかであってもそれはそれでどちらにもそれぞれの楽しみや趣があっていいなとか、おへそとかただのくぼみでしかないのにアイナさんのおへそならすごく可愛いのだと確信していたりする自分がいて、もし神様に「願いを三つ叶えてやろう」とか言われたら、アイナさんのお腹を人差し指で「つつ~……」ってなぞらせてもらって、おへそのところにきたら「ひゃんっ」って可愛い声とか思わず出ちゃったみたいな感じで聞きたいですって願いを続けて三回叶えてもらうのに、とか考えていただけで、だからボクは……ボクはっ!


 ……おへそ好き、ですね、完璧に。あれぇ……?


「と、とにかく、ボクは、そんな、おへそのことなんて、ぜんぜん、そう、ぜんぜん、まったく、かんがえていませんでした、よ? あはは。もう、アイナさんってば、まったく、かんちがいしちゃって、もう、あははは」


 とりあえず誤魔化しておこう。

 そもそも、ボクはアイナさんのおへそにちょっと一般の方々がどん引きするくらいの興味を抱いているだけであって、『女性のおへそ』というものに対して無尽蔵に興味を抱いているわけではない。なので、ボクの今の言葉は決して偽りではなく、で、あるならば、その言葉は真実としてすべての人に伝わる以外にないわけだ。

 ボクは、嘘など吐いていない!


「嘘吐き」


 バッサリだ!?

 キッカさんがボクの真実の訴えを真っ向否定してきた!?


「うそじゃ、ない、ですよ~、あはは、ぜんぜん、ほら、ほんと、ほんと。ほんとですから」

「もし神様が目の前に現れて『願いを三つ叶えてやろう』って言ったら、何を願う?」

「おへ………………や、を、可愛く模様替えしたい」

「女子か。部屋を可愛くしたいとか」


 く……完全に信用していない目で見られている。


「とりあえずタマちゃん。こっちにはまだお客さんがいるからさ、立ち入り禁止ね」


 と、アイナさんの隣、ビキニアーマー売り場への通路の前にキッカさんが立つ。

 アイナさんとキッカさん、二人の門番によってビキニアーマー売り場は完全なる密室と化した。どんな要塞よりも強固な砦だ。


「もし、ちょっとでも中を覗こうとしたら――」


 ふらりと、キッカさんが通路の向こうへと姿を消し、すぐに戻ってくる。

 手には、それはそれは際どいビキニアーマーを持って。


「――これを着て収穫祭に参加してもらうから」

「ボクちょっと、あっちのヘビーアーマー見てきます! 重量級鎧は男子の憧れですからね!」


 逃げるように、女性のいないヘビーアーマー売り場へと踏み込んでいく。

 ……冗談でなく、後一度でも女性のおへそに視線が向いたら、ビキニアーマーを着せられていたに違いない。怖い……おへそ、怖い…………


 ヘビーアーマーは、その重量から装備しようという人は限られているのだろう。

 売り場が他のところよりも比較的空いていた。まぁ、見ただけで重そうだし。

 こんな物を着込んで、本当に魔獣と戦えるのだろうか? ボクなら身動きも取れずにエサにされてしまいそうだ。……中途半端に防御力が高いから結構長い時間「ガジガジッ!」ってされたりして…………恐ろしい。


 なんにせよ、ボクに扱える代物ではないな、と、その場を立ち去ろうとした時、大きな手に肩を掴まれた。がっしりと。


「おぉい、見ろよ! 頼もしいアーマーナイト様が鎧を選んでらっしゃるぞ!」

「……へ?」


 振り返ると、ヘビーアーマーを着込んだ、顔の怖いオジサンがそこにいた。

 当然面識はないし、ボクはアーマーナイトではない。

 アーマーナイトは、王国騎士団の中でも守りを重視した鎧騎士たちのことだ。


 勘違いかと思ったのだが、このオジサン、顔が真っ赤でかなりお酒臭い。

 相当酔っ払っているようだ。

 要するにボク、絡まれているんだな、これ。


「あ、あの。ボクはそういうのではなくて……」

「あぁん!? 買いもしないのにヘビーアーマー売り場をウロついてたのか!? 営業妨害か? それとも、俺たちの買い物を邪魔してぇってのか!? なら決闘だな! 外出ろや、おい!」

「い、いえ、決して邪魔をしようなんてことは……」

「だよなぁ! じゃあ、買うんだよな? どれにする? 俺たちが選んでやるぜ。なぁ?」


 気が付くと、オジサンが三人増えていた。

 彼らは全員ヘビーアーマーを身に着け、たった一人の例外もなく酷く酔っ払っていた。酔っ払い四天王……


 にやにやと、不気味な笑みを浮かべながらボクを取り囲む重装備のオジサン四人。

 あ~ぁ、これ、完全にターゲットにされてしまってるなぁ。

 近くを通る人は、みんな見て見ぬふりをするか、興味なさげに通り過ぎるか。


 う~む。

 これはちょっと、面倒くさいことになりそうだなぁ。






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