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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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36話 おへそと頬と -1-

★★★★★★★★★★



 シェフが、キッカの言うところの『悪い男』というものに絡まれてすぐ、わたしたちは人混みを避けるように移動を開始した。

 シェフの頬を無断で触るのは悪い男。うむ。その通りだと思う。

 触るなら、まずは許可を取るべきだ。うん。


 大通りの喧噪が少し遠のく。

 服屋の並ぶ布屋小路という通りへ入っていく。

 道の両側に服屋や防具屋、装飾品を扱う店が軒を連ねている。


「あっ!」


 突然、キッカが声を上げた。

 何事かとそちらを見ると……


「……おへそ」


 おへそを出して歩いている女性がいた。年の頃は二十代前半。ぱっきりと腹筋が割れた逞しい女戦士だ。

 おへそは出ているのだが、胸と腰に軽装鎧を装備している。防御力よりも機動性を重視した戦士用の鎧。

 そうか、あれが――


「ビキニアーマー」


 これが、シェフの言っていた鎧か。

 初めて見た。

 なるほど。実物を見てみると、あながちあり得ない装備ではないかもしれない。

 どんな攻撃であれ、当たらなければ防御力など関係ないのだし、それに、あれだけ鍛え上げられた腹筋なら多少の打撃は鎧なしでもこらえられるのだろう。


 ビキニアーマー……有りかもしれない。


 だが……


「…………ごくり」


 シェフの視線が、おへそに注がれている。

 ……むぅ。


「シェフ」

「あっ!? はい! すみません!」


 ビクッと体を震わせて、慌てて女戦士のおへそから視線を逸らすシェフ。

 すごく動揺している。徒手格闘術の型のように両手をくうにさまよわせている。


「……なに、あぁいうのが好みなわけ?」

「い、いえ! 決してそのようなことは!」


 キッカの問いに、シェフは慌てて否定の言葉を述べる。


「ただ、もしあの鎧をアイナさんが着……いえ、なんでもないですすみませんその冷たい目で睨むのをやめてくださいお願いします」


 こちらに背が向いているので、キッカがどんな目をしていたのかは分からないが、シェフの表情を見るにきっと怖い顔をしているのだろう。

 しかし、今ふとわたしの名前が出てきたような……しかしまぁ、シェフが「なんでもない」と言っているのだからなんでもないのだろう。気にしないでおこう。


 しかし、そうか……シェフは割れた腹筋が好きなのか……ふむ。

 そっと自分の腹筋を触ってみる。

 鎧越しなので分からないが、おそらく、まだまだ鍛える余地はあると思う。


 ――と、目の前を別の女性が通っていく。

 顔の下半分を、薄く向こうが透けて見える布で覆った、蠱惑的な踊り子だ。

 肩や腰を覆う布地はどれも透けており、透けていないのは胸と股関節を覆う一部分だけ。布が透けている分、腕や足がより扇情的に見える。

 そして、お腹周りだけは一切の布が巻かれていない。おへそ丸出しだ。


 祭りだから、旅芸人の一座がやって来ているのだろう。


 ……で。

 またシェフがおへそをじっと見つめている。

 …………むぅ。


「割れてない腹筋も好きみたいね」

「はぅっ!? あ、いえ! 別にそういうわけでは!」


 ……割ればいいというわけでもないらしい。

 なだらかで、触るとすべすべしていそうなお腹。きゅっと締まったウエストは、やはり男性には魅力的に見えるのだろうか。

 くびれ…………あっただろうか?


 コンコン――鎧の上からだと、やはり分からない。


 とかなんとか思っていると、目の前を快活そうな獣人が駆け抜けていく。

 ホットパンツに、チューブトップとかいう胸だけを覆う衣服。

 おへそは丸出しで、ネコのような耳と尻尾を揺らしながら走り去っていく。


 その後ろ姿を、シェフはまたじっと見つめていた。

 ………………むぅ。


 シェフは、おへそが好き過ぎると思う。


「あたし、腹巻き買おうかな。夜寝る時不安だし」

「ち、違うんです! 決してへそフェチなのではなく、もしアイナさんが着……なんでもないです重ね重ねすみませんもう二度とこのようなことは……ですので何卒」


 キッカとシェフの会話は、端から見ているととてもスムーズなように思える。

 きっと、キッカもシェフも頭がいいので一から十まですべて言われなくても相手の本意を理解してしまうからだ。

 わたしには到底マネの出来ないことだ。


 ……………………むぅ。


「……わたしも買う。腹巻き」

「えっ、アイナさんまで!? どうして!?」


 どうしてかは……分からない。けれど、なんとなく、買いたくなった。


「く……おへそ率が……おへその可能性が………………あぁ、でも待てよ。腹巻き……………………くっ! それはそれで『有り』なのか、ボク!?」


 わたしたちから距離を取り、一人で頭を抱えるシェフ。

 なんだか、『おへそ』とか『有り』とか聞こえた。

 やはり好きなのだろう、おへそが………………むぅ。


「腹巻きを四つ巻く」

「胃、潰れるわよ?」


 キッカが冷ややかな目で見てくる。

 けれど、なんとなく……わたしは自分のおへそが許せない気分になっていた。

 こんな…………一切興味を示されないようなおへそなど。


「わたしを見る時のシェフの視線は、いつもおへそよりも上の方をさまよっている気がする」

「……そりゃ、あいつが見てるのはあんたの顔かアレだしね」

「……『アレ』?」

「絶対口にしない。してたまるものか」


 ……教えてくれないらしい。

 わたしの背後に何かが見えているのだろうか?

 どちらにせよ、面白みのないわたしのおへそには興味がない、その事実は変わりなさそうだ。






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