35話 にぎわう街、行き交う人 -3-
「よぉっし! 食べ歩きはこれくらいにして、服屋に行こっか?」
結構な大きさの肉の塊をぺろりと平らげ、キッカさんが腰に手を当てて言う。
服屋。先代オーナーの故郷で行われるお祭りのマナー。それに則った服を調達しようということらしい。
「でも、周りの人を見る限り、特に変わった格好をしている人はいそうにないですね」
コスプレをしている人は、一人もいなかった。
見た感じ、大通りを行き交う人は冒険者や商人、旅行者のような出で立ちの人ばかりだった。
「さっき、お揃いの白装束を着た女性の集団を見かけた」
「え、どこで?」
「えっと…………あっちの方」
「その時言いなさいよ」
「う……すまない」
「まぁまぁ。それはこの町の人かもしれませんね。お祭りをやる方は衣装があって、見る方は普段着っていうのが普通ですからね」
見る方が着替えるっていうのは、あまり一般的ではないのかもしれない。
「そこを、あえて着替えるのがあたしたちよ!」
「どういうジャンルに分類されているんですか、ボクたちは?」
「それはきっと、そういった使命を負った者たち……わたしたちの運命。キッカはそう言いたいのだと思う」
「コスプレが運命なんですか……?」
どんな運命なんだろうか。
「とりあえず、この辺の人の服見て参考にしてみない? 服屋に行く前にさ」
「うむ。わたしは服という物がよく分からないので、参考にさせてもらえると助かる」
「じゃあ、ちょっと端によけて、道を歩く人を観察してみましょうか」
そういうわけで、ボクたちはお店とお店の間、行き交う人の邪魔にならないような場所に陣取り、大通りを眺めることにした。
ガシャコン、ガシャコン、ガシャコン、ガシャコン。
物凄く重装備な騎士が歩いていく。
フルプレートアーマーを重ね着したかのような重厚な鎧だ。
肌はおろか、髪の毛一本すら見えていない。
「あんな鎧着てて、よく動けますね」
「すっごい遅いけどね」
「動けるだけの筋力はあるということ。でも、それだけ。攻撃をよけることは出来ないだろう」
「でも、よけられなくてもあの鎧ならダメージ受けそうにないですよね」
「「いや?」」
わぉ。
この人たち、あの重厚な鎧相手にダメージ与えられるんだ。そしてきっと余裕なんだろうな。
「鎧の隙間から毒流し込んでやれば一発じゃない?」
「外から炎で熱すれば、中の人間はもたない」
「あたし、ナイフ二本あれば、あの鎧外せると思う」
「うむ。外すことに重きを置くのであば、留め具を狙えば胸当てと腰当てが落とせる。わたしも気走り二発でいけるだろう」
なんだろう……この二人、あの鎧の人に何か恨みでもあるのかな? 目が狩人のそれになっているような……
逃げて、鎧の人! 狩られますよ!
「あ、あっちの人! あの人は身軽そうですね」
ボクの指差す先にいたのは、軽装鎧を身に着けた若い男性だった。背に大きな弓を携えている。
「弓かぁ……相性悪いんだよね」
「アーチャーは大抵前衛職と行動を供にしている。なので、前衛ありという前提で作戦を練るべき」
「でも、だからこそ、エンカウント直後は油断してるんだよね、アーチャーって」
「うむ。わたしも、最初に気走りでアーチャーを仕留め、動揺している隙に前衛を崩すのが得策だと思う」
「じゃあもし、前衛が鉄壁で、アーチャーも油断しないタイプなら?」
「その時は…………こちらは一人だろうか?」
「あたしと組む?」
「なら、わたしが鉄壁を崩すので、キッカにアーチャーを任せたい」
「まぁ、そうなるかなぁ」
「あっ! あの人はなんだか魔法使いっぽいですね!」
罪なきアーチャーが血祭りに上げられそうになっていたので、別の人に話題を移す。
その人は、濃紺のローブを頭からすっぽりと被っている女の人だった。
「シェフ。あれは薬師」
「くすし? あぁ、薬屋さんですか」
「魔法使いはね、自分の魔力を具現化するための魔道具を持っているのよ。それにほら、あの人のローブに白い粉がついてるでしょ? きっとどこかに出来たばかりの薬を届けに行くところなんだよ」
「へぇ、そうなんですか。すごいですねお二人とも。服だけでよくそこまで分かりますね」
「すごい……だろうか?」
「まぁ、相手の情報を瞬時に読み取る能力がないと、戦闘の時に不利になるからね。職業病だよね、これって」
あははと、キッカさんは笑う。
なるほど。
確かに、何者か分からない相手と戦うのは危険だろう。
だから、体格や服装、持ち物なんかで可能な限り情報を得ようとしているのか。
やっぱりすごいな、冒険者って。
「で、あの薬師はどう攻略する?」
「薬は厄介なので背後から……」
「倒すのやめませんか!?」
あんな大人しそうな薬師の人は、こちらからちょっかいをかけない限り敵となって立ちはだかることはないですから、きっと!




