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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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35話 にぎわう街、行き交う人 -2-

「ごちゃごちゃ考えてないで、あんたもこれ食べなさい。美味しいわよ」


 ボクたちの間にぐいっと体を割り込ませてきたキッカさんが、手に持った魔獣の肉の燻製をアイナさんへ渡す。

 キッカさんの足くらいありそうな大きな肉の塊が太い木の棒に突き刺さっている。


「大きいですね」

「でもね、ぺろっと食べられちゃうんだよ。あたし、これ二本目」

「え、もう!?」


 キッカさん、小柄なのに他の誰よりもよく食べる。

 ……どうして栄養が行き渡らないのか。


「え? よく聞こえなかったんだけど?」

「や、やだなぁ……何も言ってないですよ……」


 す、鋭いなんてレベルじゃないですよね、キッカさん。

 この人、魔術師なんじゃないだろうか?


「でも、二本目ということは、キッカさんの両足くらい食べたってことですよね」

「足ぃ? あぁ、なるほど。大きさがね。言われてみれば、あたしの足と同じくらいかも。形も、ちょっと足の裏に似てるしね」


 微かにカーブした肉の塊。

 確かに、足の裏に見えなくもない。


「キッカさん、随分と羽振りがいいですね。お金、結構持ってるんですか?」


 ボクはアイナさんやキッカさんの懐事情を知らない。

【歩くトラットリア】での労働に関しては……今のところ給金を支払ってはいない。

 いや、一ヶ月くらいしたらまとめて払おうかなって思ってるんですよ。本当に。


 なので、現在アイナさんとキッカさんが使えるのは、もともと自分たちが所持していたお金だけだ。


「実はね、臨時収入があったのよ」


 得意げに、そこはかとなくあくどい顔をして、こっそりとボクたちに耳打ちをしてくるキッカさん。

 ボクとアイナさんがそっと顔を近付ける。


「実はさ、余計なことを言ってたお師さんを踏んづけてたでしょ? そしたら、それが怖かったのか、お小遣いを結構くれたのよね」


 踏んづけて……あぁ、確かにそんなこともあったような。


「別にそんなに怒ってはなかったんだけど、くれるって言うからもらっといたの。だから、今日はあたしが奢ってあげるわ。好きな物をじゃんじゃん食べなさい」


 剛胆に笑ってみせるキッカさん。

 でも、キッカさん…………それ、お詫び金じゃなくて、サービスに対する料金です。

 お師さん、満たされちゃってたんですね……キッカさんの精神衛生上よろしくないので黙っておきますけれど。


「では、このキッカの足をもらってもいいだろうか」

「あたしの足じゃないわよ! それくらいのサイズの肉!」

「うむ。足肉だな」

「違うってのに!」

「これは、ぺろぺろ舐めればいいのだろうか?」

「普通に食べなさいよ! がっつりかぶりついて!」

「しかし、キッカの足はぺろぺろするために存在していると、お師さんが……」

「あのカエルっ! 帰ったらまた踏んづけてやる!」


 あぁ、ダメですキッカさん。それ、ご褒美になっちゃいますから!


「正当な労働の対価ですので、キッカさんの好きなように使うことをお勧めします」


 せめて、心を癒すために。


「労働って。あたし、なんもしてないよ」


 ……女性が知らないうちに、変質者は笑うんですよ。


「もしよかったらタマちゃんも――」


 楽しげな声でキッカさんが何かを言いかけた時、アイナさんがボクとキッカさんの間に体を割り込ませた。

 背中をボクに向けて、アイナさんがキッカさんと見つめ合う。


「…………」

「…………」


 たっぷりと十秒ほど見つめ合った後、キッカさんが肩をすくめる。


「……冗談よ」

「…………」

「あと、言いたいことは口で言いなさいよね」


 軽く握った拳でアイナさんの肩を叩くキッカさん。

 ……なんだろう?

 一体何を以心伝心したんだろう?


 アイナさんの顔が見えないので、なんとも言えない。……いや、アイナさんの表情を見てもボクには分からなかったかもしれないけれど。

 アイナさん、最近少し笑うようになってきたけど、基本無表情だからなぁ。

 無表情というか……ぽへ~っとしているというか…………


 最近は、アイナさんの表情をネコのような表情だと思うようになってきた。

 感情は確かにあるし、何かを感じているんだなってことは分かるんだけど、基本真顔なので表情を読みにくい。というか、ほぼ変わらない、というか。


 キッカさんのネコっぽさは、デフォルメされた「ネコっ娘」みたいな感じだけれど、アイナさんはリアルなネコ。

 虎やヒョウのような孤高の格好良さなんかも感じるから、なおのことそう思うのかもしれない。


 アイナさんがヒョウなら……女豹。…………アイナさんの、女豹のポーズ………………


「ごふっ!」

「シェフ!?」

「タマちゃん!?」


 く……ボクの妄想力が……いつの間にかレベルアップしていた…………ハンパない。女豹のポーズ、半端ないっ!


「大丈夫、シェフ?」

「は、はい……自業自得ですので……」

「……大体、何が原因かは分かったような、分かんないような、分かりたくもないような……」


 分からないでください、キッカさん。出来ることなら。






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