33話 深夜の秘め事 -4-
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夜中に目が覚めた。
少し頭がふらふらする。
まるで、以前マルーラフルーツを誤って食べてしまった時のような、世界がゆらゆらと揺れているような感覚に陥る。
おかしい……アルコールなど、摂取していないのに。
「…………キッカ?」
気が付くと、キッカがいなかった。
ベッドには、わたし一人だけが寝ていた。
……どこへ行ったのだろう?
キッカは、わたしが目を覚ますといつも目の前にいてくれるのに……それが、堪らなく安心して、嬉しいのに……
妙な不安に駆られる。
キッカの身に、何かあったのではないか……と。
「キッカ……」
捜しに行こうとベッドから下り……その場にうずくまる。
「…………気持ち悪い」
頭がふらふらする。
唾液が粘り気を帯びてみちゃみちゃしている。
水が、飲みたい。
キッカを捜しに行くのは、まず自分の体調を整えてからにしよう。
そう決意すると、わたしは足早にホールへと向かった。
廊下を進み、ドアを開ける。
ホールに入って右手側にカウンターがある。
カウンターの中には水道という、美味しい水が溢れ出してくる道具があり、その向かいの棚には、いつもシェフが丹精込めて磨いている美しいグラスが並んでいる。
シェフの磨いた曇りのないグラスで飲む水は格段に美味しい、と、わたしは思っている。
まるで、シェフのように透明で曇りのないグラスに、シェフのように清らかで純粋な水を注いで飲む度に、わたしは体の中から浄化されていくような気分になるのだ。
カウンター脇に掛けてあるエプロンを手に取り、さすがに幾分かは慣れた手つきで装着する。
……相変わらず紐の形が無骨だ。どうすればシェフのように可愛くふっくらひらり~んと結べるのだろうか……研鑽が必要だ。
たとえ水一杯を飲むだけだといっても、カウンターの中――厨房に入る時にはエプロンは必須。
この場所は、シェフの聖域なのだから。
完全装備を終え、カウンターの中へ入ると――
「…………え?」
「…………あっ」
――キッカがいた。
厨房の床に寝そべって、お皿に載ったまるでおっぱいのような大きなぷるぷるの何かを自身の胸の上に置いて、驚いた表情でわたしを見上げている。
わたしも、一体何が起こっているのか分からず、思考と動作が停止してしまっている。
あれは……なんだろう?
つるつるぷるんとした、まるでおっぱいのような物体。あれは食べ物だろうか。おそらくそうだと思われる。
ではなぜ、キッカは食べ物を自分の胸の上に載せているのか……自分のおっぱいの上に、食べ物のおっぱいを載せているのか…………まさか、塗る食べ物!?
いや、それでは食べ物ではない。塗り物だ。
…………あ!
わたしは、今日シェフから教えてもらった言葉を思い出す。
「体の悪い部分と同じ部位を食べると良くなるっていう伝承があるんですよ」
つまり――
「キッカ。体の悪い部分を治そうとして、それを……」
「誰のおっぱいが『悪い部分』かっ!?」
結局、キッカが何をしていたのかは分からずじまいだったけれど、翌朝それが『プリン』という名前のとても美味しいデザートだと知った。
大きなプリンはわたしとお師さんの二人で食べた。
キッカとシェフは、なんだか耳まで真っ赤に染めて、今にも死にそうな表情で俯いたまま、プリンがなくなるまで一言も口を開かなかった。
こんなに美味しいものなのに、もったいないな……と、わたしは思った。
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あぁ……冷蔵庫に入れおいたこと、すっかり忘れていた…………もし、「今年一番死にたいと思った瞬間は?」と聞かれたら、ボクは迷わず「今です!」と、答えただろう………………死にたい。
いや、死にませんけども。




