奴隷としての生活:何気ない日常編
さて、地震や台風、火山の噴火などが多い日本やギリシャに比べればエジプトはそういった天災が少ない。
だから基本的にはまったりとした生活が延々と続くわけだ。
「ふぁーあ、もう朝か、さて起きるとするかね」
基本的には朝日が登ったら起きてまずは歯を磨いて食事だ。
因みに古代エジプトでは既にベッドはあるし、床板の部分は植物のつるをメッシュのように編みこんだものだ、ベットの利用はエジプトが世界で一番古いらしいぜ。
これは暑いエジプトならではの通気性を考慮したもので木の四角い枠にハンモックをベッドのようにしつらえたものと考えてもいいかもな。
因みにエジプトは夏最高気温が35度くらいで最低気温が20度位。
冬は最高気温が20度位で最低気温が10度位だ。
今は初夏なので熱すぎも寒すぎもしないちょうどいい季節だ。
因みに蚊の対策に蚊帳のようなものも使われてるぜ。
寝るときは夏は全裸だ。
冬の夜は案外寒いから動物の革や畳んだ衣類を敷いてたり被ったりして毛布代わりにしてる。
ちなみに枕もあるし古代エジプトって言うのは寝具に関してはかなり進んでるんだなこれが。
亜麻のシーツやタオルもあるが、これは流石に平民や奴隷じゃ使えないな、そういうのは王族や貴族が使ってる。
木綿はまだ、小アジアから入ってきたばかりだから、栽培もまだあんまり大々的なものじゃない。
大体3500年前と言うのはちょうど急速に寒冷化していた時期だからな、原因の一つは紀元前1627年の工ーゲ海サントリー二島の噴火があるらしい。
なのでこの時期のヒッタイトやアッシリアは寒冷化と塩害に苦しんで国家の崩壊の危機にあった。
エジプトは其の点ではまだだいぶマシだったな。
で、まあ起きたら顔を洗って歯を磨いて、服を着て朝食だ。
「既に歯磨き粉があるってのがすごいよな……」
歯ブラシはチュースティックと呼ばれる、木の一端を歯で噛んで平たく柔らかくしたもので、柔らかくなった部分に歯磨き粉を盛って歯に当てて磨く。
この歯磨き粉も、エジプトが世界最古と言われてるらしい。
色々進みすぎだろ。
因みに歯磨き粉の中身はビンロウジュと呼ばれるタンニンを含んだ植物の実を細かく粉にしたものに粘土・燧石・緑錆などを加えてある。
王族や貴族だとさらに蜂蜜や乳香も混ぜるようだが、蜂蜜混ぜたら意味なくないかな?
実際王族などは虫歯の歯の痛みや歯槽膿漏、糖尿病などで苦しんでるようだし、俺はさらに塩水でうがいもしてるけどな。
因みにさっきも言ったが古代エジプトは常夏の国じゃないので普通に冬もある。
なので暖房器具もある。
日本で言う囲炉裏みたいなもので調理と暖房の両方に使えるものだ。
家の広間に炉辺の跡があったりする。
まあ、平民の場合燃料となる木材をそんなに使う訳にはいかないから、あくまでも調理のついでレベルだけどな。
んで服を着るわけだがさっきも言ったようにエジプトにも冬はある。
なので、古代エジプト人の男も年がら年中腰布一丁で暮らしているわけじゃないぞ。
冬はちゃんと上着を着る、長袖シャツとか毛織の上着とかもちゃんとある。
毛皮は穢れたものとしてあんまり歓迎されない。
単純にシラミやダニの問題もあるし、エジプトの神様はだいたい動物だからというのもあるな。
例外はヒョウの毛皮やダチョウの羽なんかだろう。
因みに肌が透けるほど薄い木綿でできたカラシリスと呼ばれる衣服は、書記や地主など社会的地位が高く裕福な人々や踊り子なような特殊な身分の人だけが着ることができたものだ。
さて朝のご飯だが主食は小麦のパン、ただこれは酵母で膨らませたものではなくてなんやピタのような無発酵のパン、後はマメや野菜、川魚を入れたスープ。
野菜をナマで食うことはあんまりしない。
理由は理由は野菜や豆に含まれる蛋白毒の無害化と寄生虫対策のようだ。
「さて頂きます」
食事が終われば平日なら仕事だ。
単純労働は農繁期なら農作業、農閑期なら建築作業がメインだが、それ以外にもやらされることは結構ある。
家庭教師とか船のオールこぎとか狩猟の手伝いとか、家畜の乳搾りや養蜂など、なんか便利屋扱いされてるんだがなんでかね。
で、今日は休みなのでミウと一緒にお出かけだ。
「んじゃまあ、ミウ一緒に行こうか」
「うん」
彼女の服装は細身のワンピースは胸から足首までを覆うしとやかな印象のワンピース。
胸の間から両肩に掛けて一本ないし二本の紐で釣るタイプの女性用の衣装としては一般的なものだ。
因みに俺もミウも履物は履いていない。
パピルスで編んだサンダルは王族や貴族などは履いてるがな。
古代エジプトでは首飾り、腕輪、足輪、イヤリング、飾り櫛などの装飾品は女性であればどんな貧しい者でもひとつは金細工を持っていたが、今日はプレゼントとして買おうと思ってる。
奴隷なのに金持ってるのかと思われるだろうが、家庭教師をできる人間は少いので結構な給料をもらってるのだ。
「ここでいいかな?」
「うん」
俺達は装飾品を売っている、商店に入った。
中では派手な化粧をした女性が店員をしているようだ。
「いらっしゃませ、あらあら、今日は何をお探しかしら?」
店の中には陶器ビーズのネックレスや、宝石、金や銀の腕輪や足輪、ネックレス、ガラスや七宝焼きのペンダントなどもある。
俺は思わず唸った、思っていたよりもだいぶ高くつきそうな気がする。
「彼女への贈り物を考えてるんだけど、思ってたより数があるもんだな、何がいいかな?」
俺の返事に店員はにこやかに聞いた
「そちらのお嬢さんへの贈り物?」
「ああ、そうなんだが、手頃で似合いそうなものを選んでもらえるかな。
とりあえずこれで足りる程度に」
俺は革袋に入った銀を適当に取り出しながら言った。
「あら、それだけあれば十分よ。
貴方お金持ちなのね」
彼女はミウをみてからニコリと笑ってミウを呼び寄せた。
「じゃあ、こっちに来てもらえるかしら?」
「あ、はい」
そして二人はあーでもないこうでもないと、2時間ほどとっかえひっかえ、色々なアクセサリーや衣服を身につけては外してを繰り返していた。
試着室はないから着替えは丸見えだが、エジプトでは裸になることにあまり忌避感はないらしい。
まあ、ふんどしのような下着はあるから全部見えるということはないが。
2時間後バッチリとアイシャドウをして新品の白いワンピースに落ち着いた印象の金の腕輪と足輪を身につけたミウがニコニコしながら俺の方に来て聞いた。
「どうかな?」
「うん、シンプルにかわいくていいんじゃないかな。
ミウらしくていいと思うぜ」
「そっか、ありがとね」
上機嫌になったミウはそれらを買った、まあ、喜んでくれるなら袋いっぱいの銀なんて安いもんだ。
というか銀を使う機会なんて奴隷の男には殆ど無いんだが。
仕事が忙しくてカネを使う機会がないというより、衣服は労働の報酬で支給される時があるし、住宅は奴隷用の宿舎が有って金を取られるわけじゃない。
となると娯楽もカネがかかるようなものはあまりないから金の使い使いみちは特にないわけだ。
買い物の後は今夜のおかずを釣るための釣りだ。
「さて、じゃあ始めようぜ、せっかく新しく買った服だから針とかひっかけないようにしような」
「うん、大事に着るよ」
「まあ、洗濯したら結構痛むけどな」
「まあ、しょうがないよね」
エジプトの夏は暑い、なので汗をかくからこまめに川で洗濯をすることになる。
服を踏んで洗うのが基本だから結構すぐ痛むのだ、まあ仕方ないな。
さて、古代エジプトには毛針がもう有った。
竿を振って毛針を投げると魚が結構簡単に釣れる。
釣った魚は青銅のナイフでさばいて木の枝に網を吊るし干物にして保存が効くようにしておく。
そうやってまた明日の朝のスープになったりするわけだな。
やがて日が傾いてきた。
「さて、日が涼む前に帰らないとな」
「うん、いっぱい釣れてよかったね」
「ああ、今日は楽しかったな。
また一緒に来ようぜ」
「うん」
俺達は魚の入ったかごを担いで家に帰る。
後は夕ごはんを食べたら寝るだけだ。
「今日は楽しい一日だったな、おやすみ」
こうして俺の何事もない穏やかな一日が終わった。




