奴隷としての生活:家庭教師編その2 破壊の女神セクメトの神話と天然痘
さて今日は、家庭教師の日だ。
俺はネフェルウラー王女のところへ行ってエジプトの神話を教えることにした。
「さて、ネフゥルウラー王女。
ずっとずっとずっとはるか昔のことです。
その頃は神々が肉体を持ちまだオシリス神とセト神の争いが起きる前で、太陽神ラーが北の方のエジプトを直接統治していました。
しかし長い年月がたってラーも歳を取って暴君となっていったのです。
そんなラーに人間は、引退を勧めゲブとヌトの子供のオシリスに王の座を譲ることを提案しました。
しかしラーはそれを拒み引退を勧めた人間を信仰を失った愚かな存在と考えました。」
「そうなのですか?」
「そうだと言われています。
ラーは大地の神ゲブのもとに相談に行き、ゲブはラーの命令で引き離されてしまった天の神ヌトと再びくっついてイチャイチャしたいがために神を崇めない愚かな人間など全部滅ぼしてしまえばいいとラーを焚き付けました。
その言葉にラーは頷いて、自らの右目を取り出し、ライオンの頭を持つセクメト女神を生み出しました。
セクメト女神はラーに生みだされた人類皆殺しという目的を遂行するために、
ラーより与えられた鋭い爪と牙、そして熱い吐息と疫病で人間を大量に殺してゆきます。
最強の死の女神に立ち向かえるような人間は一人もおらず、土やレンガは血によって赤く染まりました。
赤土やそれによってできたレンガはもとは白かったが、セクメトによって殺された人間たちの血によって赤くなったと言われます」
「そうだったのですか、恐ろしいことですね」
「はい、大勢の人間が殺されて、あっとういうまに人間は滅びの危機に晒されました。
そしてこれによって困ったのは誰でもない神々でした。
人間がいないと神々を敬うものも捧げ物もなくなってしまうからです。
困窮した神々は、ラーにいいかげんセクメトを止めさせるように言いました。
今や人間セクメトに怯えて逃げ回りは神殿にお供え物をできず、神々に祈りを捧げるものもいなくなったがあなたは、これでいいのですか? と。
実際にはラー自身も、捧げ物がなくなり困っていましたのでセクメトにもう辞めるうように言いました」
「それでセクメト女神はおとなしくなったのですね」
「いえ、セクメトはラーの言うことを聞きませんでした。
彼女は人間を皆殺しにするために生まれたのですから、やめさせられてはやることがなくなってしまいます。
それに彼女は人間を食らうのが大好きでした。
まあ、人間が全滅してもやることがなくなってしまうのですけどね。
これに困ったラーは、今更ながら他の神々と話し合って、セクメトを止めるための力を借りようとしました。
作り出したラーよりセクメトは強く殺すことに特化して作られたセクメトに
力で叶う神は一人もいません。
実際にこれまで捧げ物がなくなって困った神々の一部がセクメトを止めようとして返り討ちにあって何人も殺されているのです。
何しろセクメトというのは”強力な女性”の意味ですからね。
そこで戦わずにセクメトを抑える知恵を出したのはトートでした」
「トート様ですか、一体どのような知恵ですか?
「トートはセクメトに酒を飲ませて彼女を泥酔させて無力化しようと考えたのです。
神しか知らなかった酒の作り方を彼は人間に教えたのです。
人間の娘たちを集め、畑に麦を作らせ穂が実ったらそれを鎌でかりあつめ
麦を踏んで麦汁をツボに入れさせ、薬草をしぼって、ビールを血の色にして
人間の生き血をすすることが大好きなセクメトに、色がそっくりな酒を飲ませようとしました。
その数は大きなツボで7000もの数だったそうです」
「そんなにですか」
「はい、酒を作り終わった人間の娘達は物陰に隠れてなんとか、セクメトをやり過ごします。
セクメトは血の色のビールの入ったツボを見つけると、それを捧げ物だと勘違いして彼女は次々に飲み干していきました。
そして酒の旨さに飲みすぎてフラフラになったセクメトは最後にはいい気分で
酔っ払ってグーグーと寝てしまいました」
「そうだったのですね、お酒の飲み過ぎには注意しないといけませんね」
「はい、そのとおりです。
お酒は怖いのですよ。
さてラーは大急ぎで泥酔しているセクメトに与えた命令を人間を殺すというものから鼠を狩ると言うものに入れ替えました。
こうして恐ろしい人間を狩りまくっていたライオンの女神セクメトは美しくて可愛らしいネズミを狩る猫の女神バステト女神になったのです。
だからバステト女神の祭りでは毎年ビールを沢山飲ませるのですね」
「なるほどそうだったのですね」
「しかしながら、セクメト女神を生み出して人間を大量に殺させたラーは神々の長にふさわしくないと他の神々に責任を取らされて神々の王の座を追われて
地上の人間世界を治めることはできなくなりました。
彼は天で太陽を回させることに専念させられました。
そこに力を貸したのがこの地方のアメン神です。
ラーはアメンと一つになって天から陶芸の神クヌム神に自分の子供である王の一族を作らせるようにしました。
クヌム神は手先がとても器用でろくろを使い粘土を人の形にすると妻である誕生の女神ヘケトに魂を吹き入れさせ人間を作り出すのです。
しかし、人が増えすぎて作るのが面倒くさくなって来たとき、彼は女の体の中に最初からろくろを入れ、人間が自分で人間を作れるようにしたそうです。
しかし、王族や貴族などの一部の人々はアメンラーがクヌムに依頼して直接クヌム神に子供を作らせるそうですよ」
「なるほど、そうだったのですね」
「こうして、ラーが地上から追放され天で太陽を回す仕事にかかりきりになった後はまずオシリスがその座を継いで人間界を治めるようになりましたがこれが弟であるセトとの争いになるのです……。
さて時間も来ましたし今日はこのくらいにしておきましょう」
「はい、ありがとうございました」
エジプトは寒暖の差が激しく湿度も低いので疫病の大流行は少い。
しかし、気にかかることがある。
古代から人類に甚大な被害を出し続けてきたしてきた天然痘は原産地は北東アフリカであるらしく、エジプトのミイラが天然痘の最も古い証拠であるらしい。
実際には天然痘はインドのほうが風土病であると思われているが、明確にはわかっていないし、 天然痘ウイルスの遺伝子の比較からアフリ カのガベルのウイルスやラクダのウイルスに近いこ とはわかっているらしいけどな。
で、プントはかなり湿潤な気候だから天然痘ウィルスがいてもおかしくない。
今のところ俺は大丈夫だが……。
「王女様、王宮や神殿で疫病にかかってるものの話などは聞きませんか?」
「疫病ですか。
いえ、聞いていませんが」
エジプトではもっと古くから天然痘や牛痘が流行っていたから、抗体ができてる人間が多いのかもな。
貿易を再開したら疫病が大流行なんてのはシャレにならないからそうならなくてよかったぜ。




